戀燈籠 最終幕


 

一週間の時が過ぎた
その日は朝から雲一つない青空で、まるで藍色を淡くとゐたやうな色が一面に廣がつてゐた
御樹はあけ放しになつてゐる襖の内側から空を眺めてゐた
もう、自分一人では起きあがることもままならない體に
僅かに力を入れて窓の方へ寢返りを打つ
昨日の晩に、大量の血を吐き昏倒した事を咲坂は酷く心配し
店はしばらくの間、閉める事になつた
御樹は大丈夫だからといつた物の
自分の云ふことを聞かない體は意志とは關係なく咲坂を必要としてゐた

明け方になつて目を覺ました御樹の横には
寢ずに看病をしてゐた咲坂が坐つたまま壁に寄りかかつてゐた
しかし、御樹が目を覺ました途端、氣配で氣附いたのか慌てたやうに顏をあげた


「ああ 鈴音…氣がついて良かつたよ……もう苦しくないかい?」


伺ふやうに小聲で咲坂が顏を覗き込み、額に掌を當てる
御樹は默つて大丈夫といふふうに首を振つて見せた
もうすでに息をするのが苦しいほどに胸が痛い
それでも御樹はにつこりと微笑んだ
その笑みは暗闇で咲坂には見えないかも知れなかつたが
それでも安心させるやうに微笑んだのだ


「青人さんも 寢て下さい……私ならもう大丈夫ですから」
「俺は平氣だよ 氣にしないでいいんだ」
「でも……」
「さあ そんな事はいいから もう少し眠らなきやあいけないよ
 朝にはまだ少し早いからねえ」


御樹は眠くはなかつた
それなのに瞼は自然にゆつくりと降りてくる
熱のある額に咲坂は絞つた手ぬぐひをのせて
冷えた指でまはりにかかつた御樹の髮をそつとなでた
しばらく樣子をみてゐた咲坂も少し安心したやうに坐つたまま目を閉ぢた

──何度かうして咲坂に無理をさせてきたのだらう

御樹は目を閉ぢて考へる
次第に再び眠りに落ち、考へはそこでふつりと途切れた
 
 
そして次に御樹が目覺めたのは隨分遲くになつてからであつた
咲坂は隣にはをらず、遠くで何かしてゐるのか足音が聞こえる
ぼんやりその足音を聞きながら御樹はゆつくりと目を開いた

霞んだやうな視界には見慣れた部屋の天井と窓から見える青空だけ
遠くの青空を眺めて御樹はひとつ息を吐いた
咲坂はあれから少しでも眠つたのだらうか
自分の體の事より咲坂の事を思ひ、御樹は心配になつた
自分のせゐで無理をさせてゐるのは申し譯なくもある
さう考へてゐると盆に何かをのせた咲坂が廊下を歩いてくるのが聞こえた


「鈴音 起きてゐたのかい?」
「ええ」


廊下側に運んできた盆を隣へ置くと
咲坂は半身を起こさうとする御樹の背中に囘つて腕で支へた
腕をさしいれた咲坂は御樹の體のあまりの熱さに一瞬腕を止めた
いつもなら夜や夕方から熱があがつても朝にはいくらか下がつてゐるのだ
それなのに今日は下がつてゐる樣子はなく、體はとても熱かつた
御樹に氣附かれないやうにすぐに腕を動かす
運んできた坐椅子に背を寄りかからせると咲坂はそつと腕を拔ゐた
 
 
「熱はさがつてゐるのでせうか……自分ではわからないのですが……」
 
 
御樹がもう自分で熱があるのかもわからない事を自嘲するやうに薄く微笑む
咲坂はわざと氣附かないフリをして安心したやうに言葉を返した


「まだ少しあるみたいだけど、夜よりは下がつたみたいだねえ
 もうすぐ、良くなるに違ひないよ」
「…さうですか……良かつた……」


本當のことを告げずにゐる咲坂を御樹は信じ、少し笑みを浮かべた
咲坂がさきほどから用意してゐたのは晝食である
ここ何日か御樹の體は食べ物をほとんど何も受け附けなくなつてゐた
藥湯さへも喉を通らない時さへある
それでも少しでも口にしないとと思ひ咲坂は鬻を作つてゐたのだ
水氣を多くしたそれにサジを差し入れ、茶碗を手にしながら咲坂は話しかける


「少し食べられさうかい?」


御樹は僅かにしか食べられなくても、咲坂が作つてくれた物を最初から斷つた事はない
今日もそれは同じで御樹は嬉しさうに咲坂の差し出した茶碗を受け取つた


「いただきます……」
「食べられるだけで構はないから無理はしなくて良いんだよ」
「ええ わかつてます」


茶碗の半分以下の僅かな量の鬻をゆつくりと口に運ぶ
咲坂も隣で自分のぶんの食事を一緒に攝つた
店をあけない日はとてもゆつくりと時間が過ぎるやうになる
ラヂオの曲を耳にしながら御樹がぽつりと呟いた


「空が……とても綺麗ですね」
と。


咲坂も箸をとめて空を見上げ、 さうだね と御樹に返した
御樹は少しの量の鬻も、全部は食べられず咲坂に すみません と何度も謝る
もう、體力は底をついているやうで御樹は食事をしながら握つたサジを何度か疊へ落とした

いつもさうしてゐるやうに食事の後、揃ひの湯飮みにいれた茶を二人で飮んで、一息吐く
御樹は一つ咳をして、息苦しさうに肩を震はせた
少し寒いのか着物の襟を合はせるやうに指でたぐり寄せてゐる
透き通るやうな肌は陽の光のせゐか、益々透明に近くなつてゐた


「寒いのかい?」
「…ええ……少しだけ……」


咲坂は上に羽織る着物を御樹の肩にかけ
その上から包むやうに自分の腕を廻して御樹の體を抱き込んだ

──消えてしまふ

瞬間にさう思つた
咲坂は御樹が光にとけてきらりと自分の手から立ち昇つていく幻覺を見た氣がした
少し樣子がをかしい御樹に咲坂は氣附いてゐたがそれを口にはしなかつた


「……暖かいです……青人さん」
「さうかい それぢやあしばらくかうしてゐようか」


咲坂は、あやすやうに背中に廻した腕を動かす
御樹が肩で淺く息を繰り返してゐるのが咲坂の體へと傳はつてきた
何處か痛むのか、御樹の息は時々苦しげに止まる
體温はいくら熱くても御樹の體は冷たく感じ、咲坂は廻した腕に少し力を込めた


「青……人さん」
「ん?」
「一つ…だけ……お願ひ…してもいいでせうか?」
「ああ いいよ 何だい?」
「私の……私の名を…呼んでくださいませんか……」
「……鈴音…」


御樹はさう云つて顏を上げると咲坂の目をみつめた

苦しさうに寄せられた眉

吐く息はもう、微かにしか吐き出されてゐない

色を失つた脣が言葉を綴らうと震へてゐる

咲坂は靜かに覺悟を決めた

御樹の瞳のなかへ自分が映つてゐるのが見え、靜かに御樹の名を呼ぶ


「鈴音……何度でも…鈴音が聞きたいのなら
 聲が出なくなつても鈴音の名を呼んであげるよ……だから安心していいんだよ…」
「青人さん……私は……幸せです……とても……」


御樹は呼ばれる名前を聞きながら、頬に泪を傳はらせた
透明な泪が眞つ白な御樹の頬を音もなく滑り落ち、雫になつてこぼれ落ちた
陽に反射して御樹の泪は硝子のやうに見えた
御樹は、ゆつくりと細くなつた腕を咲坂の頬へと伸ばす
確かめるやうに伸ばされた御樹の腕に自分の腕を添へながら
咲坂は何度も繰り返し御樹の名を呼んだ



──鈴音……鈴音…

「愛してゐるよ」
「私も……愛して……いま…す」



御樹が返した言葉は掠れて途切れ途切れで聞こえないくらゐの微かな聲だつた
愛してゐると囁く御樹の奧まで、誰も屆かないもつと奧まで聲が屆くやうに咲坂は呼び續けた
嬉しさうに目を細めた御樹の體からゆつくりと力が失はれて咲坂の腕のなかへと倒れ込む
部屋の中から御樹の氣配が消えていつた
何も聞こえない部屋で御樹の時間は針をとめたのだ
咲坂は靜かに見てゐた
目の前で長い黒髮が前の方へ流れ、そしてパサリと舞ふのを


「……鈴音」


咲坂は倒れ込んだ御樹の體を搖さぶるやうに動かしたが御樹はもう目を閉ぢてゐた


「す…ずね………眠つてしまつたのかい?」


腕の中の御樹を強く抱きしめると咲坂は堪へるやうに下脣を噛みしめた
おさへきれない泪が次々に溢れ、眠る御樹の顏へポタリと落ちていく
長い睫を伏せた御樹の顏は、苦しさうでもなくとても穩やかであつた
最後に綴つた、幸せです といふ言葉をあらはすやうに微笑んでゐるやうにさへ見えた
窓の外は澄み切つた青空が何事もなかつたかのやうに續ゐてゐる
庭の木に留まつてゐる小鳥がチュンチュンと鳴き
その後すぐに羽を羽ばたかせて青空へと消えていつた
一刻前まで青人さんと名を呼んでゐた鈴音の脣に咲坂は接吻をした
柔らかなその感觸は、御樹がまだ生きてゐるのではないかと錯覺してしまひさうになる
しかし、御樹は解放されたのだ
もう、痛みや苦しみに苛まれることはない
咲坂は泪を着物の袖で拭ふと御樹の體をそつと横たはせた


「鈴音……疲れただらう?……もう苦しくなくなつたんだねえ」


御樹の頬をさするやうになでながら咲坂は何度も御樹に話しかけた
とても靜かであつた
壁に掛けてある時計の進む音がやけに大きく響く
ラヂオからは御樹の好きな曲がかかつてゐたが咲坂には聞こえなかつた
咲坂は眠つてゐるやうな御樹に微笑んだ

──幸せだと御樹が云つた
──それならば、自分も幸せなのだ

漆黒の御樹の髮に差し込む太陽の光が反射してゐる
それはとても鮮やかで、綺麗であつた

──鈴音……

最後に名を呼んで咲坂は御樹を思ひ出すやうに目を閉ぢた
咲坂の瞳の色と同じ色だと嬉しさうに云つた御樹の言葉が浮かびあがる
さつきまで一緒に飮んだその湯飮みからは、いまだ細く湯氣が立ち上つてゐた
 
 
 
 
    *       *       *
 
 
 
 
御樹が眠るやうに去つたその夜は滿月であつた
咲坂は、二人で話した滿月の事を思ひ浮かべながら
先日、御樹が云つてゐた本の事を思ひ出した
何處にあるとは云はなかつたが自分にはわかると云つてゐた
咲坂には一つ思ひ當たる場所がある
その場所へ足を運んでみると周りの骨董品に混じつて一册の本が置かれてゐた

咲坂が御樹と暮らすやうになつた頃、ひとつ珍しいからくりの小物入れが店にあつたのだ
綺麗な彫り物の細工がされてをり、はめられた硝子の缺片がきらきらと輝いてゐた
他の骨董品の中でも、それは目立つてをり御樹に 綺麗だね と咲坂は云つたのである
それは御樹の祖母が店をやつてゐた時からある物らしかつた
しかし、咲坂が暮らすやうになつてから、はめてある硝子の色が變はつたのだ
淡い水色をしてゐたそれはいつのまにか透き通るやうな緑色に變はつてゐた
咲坂が不思議がるのを見て 御樹は
「青人さんに氣に入つてもらつたから嬉しくなつたのでせう」
さう云つて微笑んだ御樹の姿を覺えてゐる
その小物入れは客からほとんど目に入らない場所に隱すやうにおいてあり、
そして、その横に本はそつと置いてあつた


咲坂は本を手に取ると部屋の中へと戻つた
「戀燈籠」と表紙に書かれたその本はとても古さうに見える
裝幀は古い物だつたが御樹が大切にあつかつてゐたのであらふ
中身は意外に綺麗であつた


咲坂は夢中でその本を讀んだ
途中までは御樹の云つてゐた通り、最初から書いてある話しになつてをり
途中からは御樹の綴つた言葉になつてゐた
出會つた日の事から順にかかれてゐるそれを讀みながら
咲坂はひとつひとつの思ひ出を心から取り出してゐた

口にはしなかつた御樹の想ひが克明に綴られてゐる
どんなに咲坂の事を想つてゐるか
胸にしまひきれないほど澤山の言葉でそれは記されてゐた
それはついこの前、二人で行つた旅の日まで續き
そして、それから少し間があゐて最後のペイジの前を開いた時
咲坂の膝に一通の手紙が落ちてきた


咲坂は一度本を疊へと置くと封筒をあけた
中から櫻の花びらが何枚かと手紙がでてくる
旅先から拾つて來たのであらふ櫻の花びらは
色あせずに淡い櫻色のまま咲坂の膝へと舞つた
 
 
──…一枚

──……二枚

──………三枚
 
 
咲坂は指で花びらを拾ひ上げ掌へとのせ眺めてみる
その後、手紙をゆつくりと開いた
 
 
 
 
咲坂 青人樣

約束を守つて下さり、有り難うございます
かういふ形で貴方へ文をしたためるのは
自分の事でありながら、とても不思議な氣持ちが致します

出会った頃に戻ったやうな気がしてしまゐます
ニシキギの葉と共に織り込んだ言葉の數々
私の貴方への氣持ちはまだ、本當はそれでも云ひ表せてゐないのです
私にはあまりに時間がありませんでした
何十年先も貴方とゐられたのならもつと、澤山の話しをして
夏になつたら、共に夏祭りへ出かけたり、秋になつたら紅葉を見に行つたり
さういふ事ができたのだらうかと、今、手紙を書きながら考へてゐます
それでも、共に見た櫻の景色は最期の想ひ出に相應しい物でしたね
とても綺麗でした
青人さんの笑顏の方が私には美しく感じましたが
恥づかしいとおつしやるので、あまり口に出來なかつたのが悔やまれます

私は青人さんと出會ふ前は、あまり感情の搖らぎを感じることもなく過ごしてきました
物にも人にもさう執着を示すこともなかつたやうに思ひます
しかし、青人さん、貴方と出會つてからの私は、變はつたやうに感じてゐます
貴方を取り圍む全ての物を愛しく思つてゐました
貴方の吐く息ひとつまで側に置いておきたい
さう思ふほど貴方が大切でした

私が死んでもどうか悲しまないで下さい
私は、萬の神を信じてゐたわけではありませんが、今はとても感謝をしてゐるのです
病に苦しむのが貴方でなくて本當に良かつた

青人さんへ最後に私からの贈り物があります
本の最後をご覽になつて下さい

私の愛した貴方が幸せに過ごせますやうに願ひを込めて…
いつまでも貴方の側に……

愛してゐます

御樹 鈴音 拜
 
 
 
 
咲坂の中で途中から御樹の聲で讀み上げられる形となつたこの手紙の端には
少し血が付着してゐた
震へる手で、御樹の云つてゐた本の最後のペイジを開いてみる
逹筆な御樹の文字は少し歪んでをり
咲坂はそれをかいた御樹を想像してまた溢れさうになる泪を堪へた

開いたペイジから、淡く光が發光して咲坂は驚いて本を落としさうになる
しかし、それは目の錯覺だつたのだらうか
もう一度本を見ると、さつきと變はらない状態で咲坂の手にあつた
 
 
 
 
最果ての地に降りて月夜に願ふ
最期に思ひ浮かべるは貴方の聲ばかり
 
 
 
 
最後のペイジにはさう書かれた後、咲坂の未來が綴つてあつた
咲坂がこの先、穩やかに過ごせるやうにとの願ひをこめて御樹が綴つたのだ
未來の出來事は決して綴ることの出來ないこの本に
何故、先のことが記せたのか
御樹は途中から氣附いてゐたのであつた
「戀燈籠」といふ本には不思議な力が宿つてゐる
命を削つて願ひを叶へてくれる本だと云ふことを
それでも御樹は少なくなつた自らの命を削つて書き續けてゐたのである
命と引き替へに自分がいなくなつた後の咲坂の未來を願ふために……


咲坂は指で文字をなぞり、壯絶なまでのその最後の筆蹟に嗚咽をもらした
咲坂の嗚咽はいつまでも部屋に響く
窓からは靜かに滿月が見下ろしてゐた


──鈴音……屆ゐてゐるかい?


咲坂はもう一度、月夜に向かひ御樹の名を呼んだ
 
 
 
 
     *          *         *
 
 
 
 
昭和の終はり
この何十年かの間に日本は激動した
骨董品店のある神田界隈も
いつのまにか立ち竝んだ背の高いビルが建ち竝び土は硬質なアスファルトへと變化を見せた
神田川から少し脇に入り、路地を曲がつた場所にひつそりと立つてゐる骨董品屋がある
店の後ろはかなり大きな屋敷になつてをり裏口には初夏の花が綺麗に風に搖れてゐる
入り口は昔ながらの引き戸で、傷んではゐるがはめ込まれた硝子は磨かれてをり
店内が見渡せるやうになつてゐる
古いラムプの下で老眼鏡をかけた初老の男が讀み物をしてゐるのが見えた
店内には所狹しと竝べられた骨董品がひしめき合つて、時代を遡つたやうに時を止めてゐる
一人の男がその引き戸をあけて店内へと足を蹈み入れる
扉に取り附けられた錆びたベルがカランと輕快な音を立て初老の男が本から顏をあげた


「いらつしやゐませ 何かお探しで?」


白髮になる前も淡い色の髮色だつたのを思はせる
薄茶色の髮を上品に後ろへと流した初老の男が
とても優しさうな雰圍氣で店に入つてきた男に微笑んだ


「これを 見せてくれないか」


男が指さしたのはひとつのからくり箱の小物入れであつた
綺麗な硝子がはまつてキラキラと輝いてゐる
初老の男は立ち上がると、小物入れを手にとつて客へと手渡した


「この硝子は變はつた色をしてるな」
「ええ、それは不思議な硝子でねえ 色が變はることもあるんですよ」

さう云つて初老の男は滿足げに頷いた

「女房が骨董を集めてゐてね、贈り物にしようかと思つてゐるんだが
 ぢやあ、これを頂いていくとするか」

有り難うございます わづかばかりの代金を受け取つて、小物入れを男に渡した

「大事にしてやつて下さい」


出て行く男の後ろ姿にさう云つて輕く會釋をする
誰もゐなくなつた店内
客が來る前と同じやうに、またレジスタァの前に腰を下ろすと
初老の男は誰もゐない店内に向かつて幸せさうに一言呟いた
 
 
「今度は…どんな色に變はるのかねえ 鈴音……」


「さうですね私も見てみたいです……青人さん」
 
 
初老の男には確かにさう聲が聞こえたのだ
すきま風が細く入つてきて手にした本のペイジを搖らす
そのまま風は吹き拔け
 
 
 
 
 
手にした本からニシキギの葉がひらりと舞ひ落ちた
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後書き
去年の8月から書き始めた「戀 燈 籠」は丁度一年を越した本日最終章を更新しました
長い間かかってしまいましたが、これで終わりになります
オリジナルを始めるきっかけになった作品だったので私的にも、とても思い入れがあり
終わってしまって不思議な気持ちです
静と動で分けるならば、「戀 燈 籠」は静のお話です
ご存じの通り最初の注意書きにはアンハッピーエンドを匂わせる表記をしてあります
ですが、私の中では御樹と咲坂の物語はこれがハッピーエンドであると思っています
個人的な勝手な思いこみなので、ハッピーエンドではないと思われる方も多数いるとは思いますが
二人の想いは止まらない時間の中で確かに形になり、紡がれていったと思うのです
「死」へ向かう話しですが、逆にそれは残された咲坂の生を象徴している事を書いてきたつもりです
時代を経た今でも、何処かで御樹と咲坂が想い合った物語があった事
満月とあの時代の空気、そして季節の移り変わる色、文字を綴る事で託す恋心
そんな今の時代に忘れられているような些細な事柄や四季のうつろい……そして
二人の気持ちをゆっくりとした流れの中で感じて頂けたら嬉しいなと思っております
最後に作品を更新する中、やはり一般的には、受け入れて頂けない部類のお話ですが、それでも
何人かの方の「戀 燈 籠」を気に入って下さっているとのお言葉に励まされ
最後まで書いてこれました。感謝してもしきれない思いでいっぱいです
最後まで読んでくださった皆様には改めて心よりの感謝を致します
もし、宜しければご感想などきかせて頂けるととても嬉しいです
今までお付き合い下さり、本当に有り難うございました


2005年 9月7日 聖樹 紫音