昨日で薬が切れた
こんな事はしょっちゅうある
その度にどっかで調達してくるんだが
今日は生憎
……それもねぇ
俺は後、何回息を吸ったらレターが帰ってくるか真剣に考えてる

30秒で10回

60秒で20回

5分で100回

10分で200回

気が遠くなりそうだぜ……。



赤い血




俺は考える
前はどうだったのかを
だけどいくら考えてもわからねぇ
今までどうやってここまで生きてきたんだ?
それさえわからねぇ
完全にイかれてやがる

今は一人だ レターは薬局に仕事に行ってる
あいつはあれで真面目なとこがあるから
薬だってたまにしか手をださねぇ

俺は考える
レターは何で俺といるのか
あいつはいつも笑ってるけど本当に楽しいのか?
薬の切れた俺はいつもめちゃくちゃBLUEだ
くだらねぇ事がとめどもなく溢れてきていやになっちまう



レターは薬局にいる
本当は会いにいけば会いに行ける距離だ
何メートルか先の趣味の悪いピンク色の犬小屋がある家をまがって
ふたつ角を抜ければあいつに会える
だけど俺はこうして時計とにらめっこだ

足は鉛みてぇに重いし
頭は吐き気がするほどいてぇし
指は震えがとまらねぇ
highになった代償はいつもかなりでかい


――レター……、早く戻ってこい。でないと俺は死んじまうぜ


雨が降ってる
俺は考える
ガキの頃履いてた黄色い雨靴は何処にいったのかを
結局あの雨靴は履く事があったのかを
やけに綺麗でビニールがすべすべしてて
鼻をつけるとゴムの匂いがした黄色い雨靴

雨は嫌いだ
気分が滅入る
そうでなくても薬が切れてやってらんねぇのに
雨が降るなんて、最近の俺は全くついてねぇ


――レター……、早く戻ってこい。でないと俺は死んじまうぜ


昨日のpartyの残骸をかきわけて俺はその中のクラッカーを拾い集める
近くで覗くと硝煙の匂いがした
悪くない 死ぬときはこの匂いの中で死にたい
真剣にそう思ってる

クラッカーは儚い
一瞬派手な色で着飾るけど
ウィンクした瞬間にはもうゴミになっちまう
何だか自分を見ている気がしてぞっとしねぇ

クラッカーの死骸をゴミ箱に投げると見当はずれな方へとんでいった
……ちくしょう
俺はそれを拾ってもう一度投げる

今度もしストライクを決めたらレターはちょっとだけ早く帰ってくるかもしれねぇ
今度はちゃんと狙いを定めて投げる
クラッカーは俺を馬鹿にしたみてぇに縁を一回転したあとカーペットに転がった


――レター……、早く戻ってこい。でないと俺は死んじまうぜ


外を見てみる
ぼんやりしか見えねぇのは俺の目がラリってるからなのか
それとも窓ガラスが曇ってるのか

俺はいつもレターが使ってる鋏を取り出すとそれを握ってみた
レターは手先が器用だ
鋏でなんでも切っちまう
オレンジでもシャツでも、何もかもだ
一度俺が前にレターの使ってた鋏をなくしたら
あいつ、一週間口をきいてくれなかった
新しい鋏をかってきてやっと元通りになった

だけど前の鋏は実は俺がもっている
これは俺だけの秘密さ

レターの持ってるものは俺は何でも欲しい
あいつが握ったカップもあいつが触った歯ブラシも何もかも……
だから鋏を盗んだ



本当に盗みてぇのは鋏じゃねぇのに……


――レター……、早く戻ってこい。でないと俺は死んじまうぜ



指に鋏をあててみる
さすがに切れ味が抜群なだけあってステンレスは見事に錆びひとつねぇ
俺はその鋏に自分の匂いを染みこませたくて
切っ先を腕にあててみた
つぅーっと皮膚が裂けてぷっくりと真っ赤な血がたまった
血のあまりの赤さに俺は見とれた

少し力を入れてみた
もっとたくさんの赤が欲しくて
鋏は不器用な俺でも言うことをきく
腕からはどくどくと血が溢れた
痛いのかどうか俺にはわからねぇ
ただ、血は赤かったんだって事を再確認しただけだ



――レター……、早く戻ってこい。



俺は急に眠くなって身をまかせるように眠りについた
夢の中だけは雨が降らない
……、多分
……、それだけ


「ニック! おい!」


レターが帰ってきた夢を見ている
そんなに心配そうな顔で俺を見るなよレター
そう言って俺は笑ってる
ニックは何やら大きな声で俺を怒鳴りつける
俺の恋人は説教がましいったらありゃしねぇ



ふいにレターが俺にキスをした
何だかとてもあたたけぇ
夢にしては上出来だ
俺は混濁した意識の中で
夢の中のあいつにキスを返した




何故かキスは懐かしい味がしたんだ……。


レター……、もう一回キスをしてくれよ





END