俺の男に手を出すな 3-15


 

 
 

――手術当日

 外は穏やかな天候で柔らかく差し込む日差しが、澪の病室の空気を徐々に温めている。結局外泊をした一昨日は椎堂の家に泊まり朝になって病院へ戻って来たのだ。
 早くに目が覚めた澪は、時々椎堂の事を考えては一昨日の事を思いだしていた……。
 
 
 
 
 椎堂の家に泊まった夜、寝るまでの間二人で他愛もない会話をして過ごした。互いに知っている事と言えば、病気の事や世間を騒がせた大きなニュースぐらいで、共通の話題など一つもない。
 それでも、話す度に聞きたい事も知りたい事も自然と湧き上がってきて、話が尽きる事はなかった。夜の世界でずっと生きてきた澪と、医者としてずっと生きてきた椎堂。それは真逆の世界であり、互いに今までの世界を教え合うように色々な事を話した。

 椎堂は澪が話す事に驚いたり感心したりと忙しなく表情を変え、だけど、どの話題もとても嬉しそうに聞いては目を細めた。椎堂も、学生だった頃からの夢や、この先の自分がやりたい事等を澪に話して聞かせた。穏やかで優しい椎堂らしい考え方に、澪は共感すると共に、しっかりと自分の考えを持つ椎堂に凜とした美しさを感じていた。尊敬にも似たその感情は、今まで付き合ってきたどの相手にも抱いたことのない物であり、澪のこの先の生き方に光を射す物でもある。

 あっという間に時間は過ぎ、「このままだと朝まで話しちゃうね」と椎堂が笑って言う。
 確かにこのままだとそうなる可能性は高く、澪の体調を気遣って椎堂が「そろそろ寝ようか」と腰を上げる。

 一度ベッドから出て寝る支度を調える為に洗面所に向かうと、先に歯を磨いていた椎堂が慌てた様子で背中を向ける。何か見られるとまずい事でもあるのかと不思議に思いつつ、澪も持参した歯ブラシを手に取る。そこで歯磨き粉を持って来なかった事に気付いた。

「なぁ、歯磨き粉貸して、持って来なかったみたいだから」

 洗面所の壁に寄りかかって椎堂の背中に声をかけると、椎堂は何故か慌てた様子でポケットに手を入れた。

「は、歯磨き粉!?ちょっと待って。すぐ探すから」
――探す?
 目の前で、すでに歯磨き粉をつけて磨いている椎堂のおかしな言動に疑問が湧いた。
「ん?誠二の今使ってるのでいいよ」
「……いや、それはちょっと……。新しい試供品が……確かあったから」

 一緒の歯ブラシを使わせてと言っているわけでもないのに、椎堂は案外潔癖症なのかと知らない一面を見た気になっていたが、どうもそういう意味でもなさそうである。椎堂が洗面所の下の棚に屈んで新しい歯磨き粉を探しているその時、慌ててしゃがんだ椎堂のパジャマのポケットから何かが落ちた。

 澪が屈んで拾い上げると、それは子供用の歯磨き粉だった。動物のキャラクターが描かれているピンク色の可愛いパッケージには『歯磨きが苦手なお子様にも』と書かれている。澪はその下に書かれている文字を読みあげる。

「――みんな大好きいちご味?」

 その声に気付いた椎堂がびっくりして立ち上がり、澪の手からその歯磨き粉を奪うと背中へとそれを隠した。
「…………」
 歯ブラシを咥えたまま俯いた椎堂が言い訳を呟く。

「……ミントが辛いのは、苦手なんだ」

 そう言った椎堂がみるみるうちに顔を赤く染める。確かに一般の歯磨き粉は爽快さを売りにしていてだいぶ辛い物もあるにはあるが……。そんな椎堂が可愛くて、澪は思わず苦笑する。

「俺にも貸してよ、みんな大好きいちご味」

 笑いながらあえて名称を読む澪の手に椎堂は仕方なく無言で歯磨き粉を渡すと澪を睨むように少し視線をあげた。椎堂に多少睨まれたとしても、それはただ可愛さが増すだけというのを本人は多分気付いていないのだろう。
 知られたくない事を知られたショックで椎堂はもはや溜息しか出てこなかった。

「大丈夫だって、誰にも言わないから」
「……絶対だよ?」
「はいはい」

 椎堂が渋々納得し洗面台で口を濯ぐ。
 うがいを終えて椎堂が部屋へ戻った後、澪は苺味の歯磨き粉を付けて歯ブラシを咥える。まるでキャンディーを舐めているような甘いその味は思ったより悪くなかった。
 


 先に戻った椎堂の後にベッドへ戻ると、澪に気を遣っているのか椎堂はぎりぎり床へ落ちないような場所に身体を置いていて澪との間には少しの距離が出来ていた。ベッドへ入り引き寄せるように後ろからそっと抱きしめると、澪の腕の中で椎堂の心音が澪に伝わる。
 それはとても早くて、緊張しているのか椎堂の身体はぴくりとも動かない。

「誠二、もう寝てる?」

 背後から小声で尋ねると、椎堂は「……起きてるよ」とくぐもった声で返してくる。
 「寝ないの?」と続けて聞くと、椎堂は顔を隠すように半分潜ったまま口を開いた。

「……澪は?」
「俺は、寝ようと思えば眠れるけど?」
「僕は……まだ眠くないから、先に寝ていいよ」

 時間はまだ12時より少し前でそう遅い時間でもない。いつも夜勤等で遅くに就寝する癖がついているのだろうと思い、澪が納得しかけた所で、椎堂が言葉をつなげる。

「……だって、寝たら、朝になっちゃうだろう?」
「まぁ、そうなるけど」

 それは至って当然の事である。澪が布団に隠れる椎堂から上掛けを引き離して顔を見ようとすると、椎堂は慌ててまた布団を引きあげた。

「勿体ないから、ね……」

 背中を向けたまま椎堂はそう言った。椎堂の着ているパジャマの襟足から白い項が見え、ほんのり赤く染まっている。こんなに純情なまま大人になっている男はそういないんじゃないかと思うと僅かに悪戯心が芽生え、澪はわざと接近して椎堂の項を唇で啄んだ。

「なんで、そっち向いてんだよ」
「澪が……顔を見ようとするから……」
「わかった。見ないからこっち向けって、ベッドから落ちそうになってるじゃん」
「大丈夫だよ、落ちないように気をつけてるから」
「結構強情……」

 背中を向ける椎堂をぐっと再び近くへ引き寄せ、視線をどこへと逸らそうかと落ち着かない様子の椎堂の顔に近づく。鼻が触れあうほどに迫れば、もう逸らせる場所もなくなってくる。ずっとしていた眼鏡のせいで椎堂の鼻の所に少し跡が残っている。その部分を指でなぞり、至近距離で見つめる澪に椎堂が「見ないっていったくせに」と小さな声で不満を漏らす。

「気が変わったんだ。いいだろ?」

 澪はそう言って聞きながらも返事を待たず。仰向きになった椎堂に覆い被さるようにして唇へと口付けを落とす。今しがた使った甘い歯磨き粉のせいで互いのキスはとても甘い。澪は椎堂の手に指を絡ませて枕へと押しつける。澪の唇が触れる度に、柔らかな枕へ沈む椎堂の指先は澪の手の中で小さく動き、綻びた唇の隙間から湿った吐息が漏れた。

「……ん、……っふ……」
「誠二、苺の味がする。すごく甘い」
 言いながら椎堂の濡れた唇を指でなぞると椎堂も少し笑って言葉を返す。
「……澪だって、苺の味だよ」
「……そう?」

 澪は唇を離して、椎堂の伏せ気味な睫の隙間から見える潤んだ瞳を真っ直ぐ見下ろす。
 椎堂の柔らかな髪に指を潜らせ、体温が伝わる地肌を辿る。指を髪に絡めたまま、額や鼻先に口付けを降らせると、椎堂がくすぐったそうに身を竦めた。ゆっくり視線を合わせた椎堂は何度か瞬きをして澪を見上げると交差する澪の視線に穏やかな笑みを浮かべた。

「……澪は、綺麗な目をしてるよね。最初にあった日から、そう思ってたんだ……」
「普通だと思うけど?」
「ううん、僕にとってはね、……すごく特別」

 椎堂は愛しそうに澪の頬に手を伸ばしてそのまま優しく髪を指で梳いていく。

「澪……好きだよ……大好き」

 椎堂の指の隙間から澪の髪がさらさらとこぼれおちる。真っ直ぐ届く椎堂の言葉と、その指先から伝わる温かな愛情に、感じた事のない胸の苦しさを感じ、澪はその手を掴むと椎堂の身体に手を回してきつく抱きしめ、椎堂の首筋へ顔をうずめた。

「……誠二」

 今すぐ椎堂を抱きたくても、自分の今の身体じゃそれさえも出来ない。好きな相手を満足させる事も出来ないのがもどかしくて、悔しくて、誰のせいでもない身体の中の病魔を恨んでしまいそうになる。
 自分だけ時間が止まって、周りの時間はどんどん過ぎていく。取り残されていく怖さ。入院してから常にそれは感じていた。振り向いたら掴まってもう逃げられなくなる気がして、何度もその現実を見ないように目を背けてきたのだ。

 この先、運良くやっと普通の日常が戻ったとしても、もうその頃には追いつけないほどの距離が出来てしまうのではないか。そう思うと気持ちは焦るばかりだった。
 椎堂の側にいると、安堵と同じくらい、置いて行かれる事への不安が募る。いつ治るか、治るかどうかさえわからない病に確実な物は何もなかった。

 何年も先になった場合、椎堂はそれでも自分を好きでいてくれるのか……。今と同じように、好きだよ、と微笑んでくれるのか……。椎堂を信じていないわけではないが、急に込み上げてくる不安感に苛まれ、澪は椎堂を抱く腕に力を込める。

 椎堂は、痛い程に自分を抱きしめてくる澪の腕の中でその少しの変化を感じ取っていた。

「……澪?……どうか、した?」

 小さな声で窺うように椎堂が名を呼ぶと、抱きしめた腕を緩めないまま澪が声を漏らす。

「待ってて……。俺が、ちゃんと誠二を抱けるようになるまで……」
「…………澪」
「……治るように、頑張るから。だから……置いていくなよ……」

 いつも強気で弱みを見せない澪のその台詞に椎堂の胸が同じように締め付けられる。それと同時にこうして澪が素直な気持ちを打ち明けてくれるのが酷く嬉しくて、椎堂は澪の腕から僅かに身じろぎして離れると逆に澪の身体を抱きしめ、自分よりずっと大きな背中に腕を回しゆっくりと撫でた。守りたい存在がこうして腕の中に居る事は、椎堂にとって何よりも大きな自分の存在理由に繋がっていく。

 澪の名を優しく呼んで、安心させるように掌をあててさする。
 ちょっと生意気な所が可愛くて、誰よりも格好よくて、優しくて……5つも年が下だけど結構強引で、だけど頼もしい所も沢山あって……、そんな澪が見せる全てが眩しくて、椎堂にとって何よりも大切だった。澪が言葉にしない不安も全部、代わってあげられたらといつも願うのはそればかりだった。

「ずっと待ってるから……。5年経っても、10年経っても……」
「…………」
「それにね……、澪。僕は、抱いてくれなくても……構わないよ。澪の一番傍にいるのが許されるなら、それだけでもう、僕は幸せなんだ」
「…………誠二」

 椎堂は眉を下げて優しく微笑んで澪の顔を見上げ、頬に手を添え輪郭をなぞる。
「10年後は、僕はもう40になっちゃうけど……。澪こそ、僕の事、愛想尽かさないでいてくれる?」
 少し心配げにそう聞いてくる椎堂の手を取り、澪はその指先に口付けて、椎堂の瞳を捉える。

「……あぁ、約束する」
「……良かった……。ねぇ、澪?」
「……ん?」
「10年後の今日、二人でお祝いしようか……。その日は、いっぱいキスをして、澪に甘えさせて」

 椎堂がそういって微笑む。椎堂のそんな姿をみていると、いつのまにか不安感が薄れていく。10年先の椎堂が、自分の腕の中にいるのを想像すると、それは本当に叶う現実のように思えた。

「……わかったよ。誠二がもういいって言うまでキスするから、覚悟しといて」
「うん、楽しみにしてる……」

 灯りを消した部屋の中、椎堂は澪に寄り添うようにして目を閉じる。澪もまた目を閉じると、布団の中で椎堂が澪の手を握る。温かなその椎堂の手に澪は指を絡ませ、繋いだまま眠りについた。
 
 
 
 
 もうそろそろ朝の回診に椎堂が病室にくるはずだ。澪はあの日朝まで繋いだままでいた左手を見てその温かさを自分が今も覚えていることに安堵し、手を握りしめた。こうして記憶が重なっていく度、失いたくない思い出が増えていく。それはとても幸せな事だった。
 澪がぼんやりそう考えていると、病室のドアが控えめにノックされた。

「どうぞ」

 返事をすると開いたドアから椎堂が入ってくる。迷わず向けられるレンズ越しの優しげな瞳は医者のそれだけではない。ほんの少しだけ照れたような椎堂がずれてもいない眼鏡を押しあげる仕草をした。

「おはよう、玖珂くん。今日の具合はどうかな?」
「だいぶいいよ」
「そう、良かった。昨日はよく眠れたかい?」
「……まぁね」

 椎堂は澪のベッドサイドに腰掛けると窓の外へと視線を向け、眩しそうに目を細める。

「今日はね、外も結構暖かいみたいだよ」

 椎堂の髪が射し込む朝日に透けて、亜麻色の影を顔に落としている。澪も椎堂の視線の先へと同じように目を向けながら口を開く。

「……みたいって??」
「あぁ、僕は昨日から当直だったから外へは出てないんだ」
「……そうなんだ。先生も大変だな」
「そうでもないよ。ここにいればこうしていつでも玖珂くんに会えるし」
 椎堂がにっこり笑って澪へと振り向く。
「それってさ……、医者の立場利用してない?」
「…………、そうかもしれないね」

 椎堂は無邪気に笑って肩を竦めた。そんな仕草も以前は見せなかったもので、互いの関係が前と違うことを感じさせる。聴診器を掌で暫く暖めてから椎堂は澪のパジャマの前を開く。くすぐったいような微妙な指使いで胸に聴診器をあてる椎堂は目を伏せて澪の鼓動を聞いていた。見慣れた朝の光景である。

「あのさ」
 澪の声に椎堂が目を開け、聴診器を耳から外すと首にかけた。

「ん?どうかした?」
「……ちゃんと、覚えておけよな」
「……え?」

 澪は椎堂の手を掴んで胸にぎゅっと押し当てる。澪の胸から体温が伝わり、椎堂の指が迷うように少しだけ動いた。

「……玖珂くん?」
「ほら、手術したら……傷跡が残るだろ」

 メスが身体へ入るということは少なくとも傷がつく事になる。傷のない身体を見るのはこれで最後になるのだ。

「うん、……覚えておくよ……」

 椎堂はゆっくりと確認するように澪の身体に掌を滑らせた。なめらかな肌が吸い付くように椎堂の掌に馴染んでいく。澪はそんな椎堂の手を目で追い、ずっと見つめていた。椎堂の手がツと止まった後、自分の手を重ねる。
 椎堂は、ちらりと入ってきた扉をみて、誰もいないのを確認し静かに囁いた。

「ちゃんと覚えたよ……、澪」
「……うん」

 触診を終えてカルテに記入した後、それを閉じると椎堂は澪に向き直った。そして、白衣のポケットからこの前澪がやっと返すことが出来た例のマスコットを取りだし、澪の掌を開かせてそっと乗せる。

「これ、……玖珂くんに持っていて欲しいんだ」
「でも……、これ大事な物なんだろ?」
「そう。大事だから……、持っていて欲しい。少しはお守りになると思うから」
 澪は再び戻ってきたマスコットを見てそっと指を閉じる。
「じゃぁ……、預かっとく」
「僕も、手術の時は上からずっと見守っているから」
「……あぁ」

 椎堂が微笑み、澪もまた安心したように息を吐く。窓の外の中庭の木の枝に1羽の小鳥がとまり、小さなくちばしで毛繕いをしているのが見える。その後すぐにもう1羽同じような鳥が飛んできて、隣に並んだ後、高い声で一度囀り、先に居た鳥と共に青空の中へと羽ばたいていった。鳥たちを追うように青空へと目を向けて澪は椎堂へと切り出した。

「……先生」
「うん」
「……俺、この手術が終わって普通の生活が出来るようになったら、……もうホストは辞めようと思ってる」
「……え?」
「酒もきっと飲めなくなるし、それに……他にやりたい事があるから」
「やりたい、事?」
「俺さ、今からでも勉強したら……、医者は無理だけど……。この前、先生が言ってたターミナルケアとかいうやつ。そういうのに関わる場所で働きたいんだ。専門職じゃなくてもいいけど……」
「……玖珂くん」
「やっぱ無理、かな……?」
「ううん、無理じゃない。きっと、玖珂くんなら出来るよ。そういう施設で働く仕事は医者以外にもいっぱいあるし、僕も色々と力になれると思う。でも……いいのかい?ここまで頑張ってきたのに……」
「……いいんだ。それに……」
「……ん?」
「もう、夜だけに縋って生きなくてもいいって、今はそう思えるようになったから」

 澪は優しい表情で椎堂を見つめる。椎堂はそんな澪の姿を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。そして、フと前から迷っていた話を切り出そうかと思ったが、今はまだ言わないでおこうと口を噤んだ。澪の手術が成功したらゆっくりと話せばいいのだから、焦ることもないと考える。

 しかし、いつからそんな事を考えていたのか、前向きに先のことを考える澪には病に臆しない力強さが見え、椎堂の中にある、決して澪の前では出さない手術への少しの不安も薄らいでいくようだった。

「そろそろ行かないとまずいんじゃない?椎堂先生?」

 澪がわざとふざけた調子で話す。我に返った椎堂は慌ててカルテを手にとる。
「あぁ、いけない。そうだね、手術の前にはまた来るけど、それまでゆっくりしてて。何処か体調で気になる所があったらすぐに呼んでね」
「わかった」
 椎堂は少し名残惜しそうに一度振り返りつつ、澪の病室を出ていった。  
 
 
 椎堂が出ていった後、澪は先程渡されたマスコットを握ったままだったのに気付き、改めてそれを見てみる。あんなに大切にしていた物を自分に渡してくれた事がとても嬉しかった。
 そして、裏返してみて、ある事に気付く。この前気付いた『しどうせんせいへ』と書かれていた部分の上に、椎堂の字で『澪へ』と書かれてあったのだ。

 それはちゃんと見ないと気付かないくらいの小さな文字。折角書いたのに、もし気がつかなかったらどうしたのだろうと思い澪は一人苦笑した。さりげない椎堂の気遣いに温かい気持ちになる。

 澪は側においてある時計を取り上げて時刻を確認する。

――後、4時間か……。

 長いようできっとあっという間に時間は過ぎるに違いない。澪は身体を休めるように横になると、そっと深呼吸をして晴れ渡る青空に目を向けた。