GAME -3-


 

 
――あれから二週間が経った。 
 
 二週間前の夜、楠原と二人きりで交わした会話。冷たい彼の手を温めることに必死だった事。思い出すと急に恥ずかしくなって、信二はその夜一人で頭を抱えた。 
 ノリがかなり良い方なのは自覚している。だけど、後になって色々反省する事もその分多いのだ。 
 
 冷静になって考えると、やはり男相手にアレはおかしかったと思う。楠原だって「相手が男でもですか?」と聞いてきたぐらいなのだから、その時に気付くべきだった。 
 晶に対してでさえ、普段そんな行動に出ることはないというのに、あの時はああする以外考えられなくなっていた。 
 
 相手のせいにはしたくないけれど……。理由1・楠原の容姿が美しすぎるから。理由2・寂しい人を放っておけないから。理由3・楠原が気になる存在だから。きっとどれも正解で、どれも完全な正解ではない。酷く複雑な心境で、信二は目の前を歩く楠原の背中に視線を向けていた。 
 美しいと言っても、別に女性っぽいわけでもなく、華奢ではあるが身長も高い。こうして後ろから見ていても男以外の何者でも無かった。 
 
 顔に出さぬよう気を張っているため、神妙な表情で眉根を寄せ背中を凝視する信二に気付き、楠原が足をゆっくりと止めた。 
 
「信二君? どうかしましたか?」 
「へ?」 
 
 間抜けな返事をしてすぐに我に返る。 
 おかしそうに笑いを堪えて口元に手をやる楠原が、店とは違った顔を見せた。 
 
「えっ、……あ、いや。どうもしないっす!」 
「そうですか? 背後から凄く視線を感じたのですが……」 
「す、すみません。目力の修行してたっていうか」 
 
――なんて理由だ……。 
 
 自分の下手な言い訳に呆れる。楠原も苦笑しているし、きっと馬鹿だなと思われているに違いない。信二は頭を掻くと恥ずかしそうに視線を別の場所へと向けた。 
 
「信二君」 
「は、はい?」 
 
 楠原が至近距離に何故か近づいてきて、信二の方へ腕を伸ばす。 
 
――また、この香り……。 
 
 楠原自身が纏う香りは香水だけの物とは思えない程いい匂いだ。あの夜の記憶と簡単に結びついて足が動かなくなる。 
 これがNo1ホストのパワーなのか!? 信二が呆然とし、迫ってくる楠原を見つめていると、伸ばされた指先が、前髪をちょこっとだけつまんですぐに離れた。 
 
「髪の毛に、ゴミがつていましたよ」 
「……ゴミ……?」 
 
 焦りまくった信二は『ゴミ』という単語でさえ、まるで聞き慣れないとでもいうように、その言葉を繰り返した。楠原が様子を窺うように視線の角度を変える。 
 
「……? はい」 
 ああ、そうか。それをとってくれたんだなと漸く理解する。 
「あ、……気付かなかった。有難うございます」 
「今日の信二君は、少しおかしいですね。何か、悩み事でも? 僕で良かったら、聞きますけど」 
「いや、別に何も悩みとか無いっす……。ちょっとぼーっとしてただけで」 
「そうですか?」 
 
 自分でさえ整理出来ていないのに、本人に言える訳がない。貴方が何故か気になります。どうしたらいいですか? とは……。百歩譲って聞けたところで、引かれるだけのような気もするし。本人の口から「すみません。意味が分かりません……」と遠巻きにされたら絶対に落ち込む自信がある。 
 信二は頭の中で氷のような冷たい視線を自分に向ける楠原を想像して、ちょっと強めに何でもないアピールを繰り返した。 
 
「マジで、何もないっす! オフで気が抜けてるせいっすかね……はは……」 
「それならいいのですが……。では、行きましょうか」 
「……そうっすね」 
 
 そう、あの夜の出来事は反省を残すような悪いことばかりでも無かったのだ。 
 さほど密に交流してこなかった楠原との距離は、あの日から確実に縮まった。……気がする。 
 何がどう変わったかなんて、……説明は出来ないけれど。少なくとも、隣に居る楠原への印象は、信二の中で大きく変化している。 
 
 いつもビシッと三つ揃いのスーツで店に出ている楠原は、今日はラフな格好である。といっても雰囲気はそれほど変わらず。焦げ茶色のタイトなチェスターコートの中は濃い色のシャツ。それに色味を合わせたテーラードジャケット、キレイめのコーディネートは細身の楠原には似合っていて、そのすらりと伸びた手足が余計に長く見える。 
 
 今日はオフの日なのだ。 
 しかし、別にプライベートで遊びに来ているわけではない。今度店の連中と親睦会をすることになっており、その幹事を楠原と二人で任されているだけである。 
 今日は店の下見をし、大丈夫そうなら予約を入れることになっている。店に出る日には、終わる頃には飲食店は閉まっているし、昼は昼で互いに同伴等があるので時間もあわず、結局オフの日を重ねて使うしかない状態だった。 
 
 夕方に駅の改札で待ち合わせをし、先程いい感じの店を見つけて予約を入れてきた。そして丁度良いので今から二次会のカラオケルームへも向かう予定だった。何せ人数が十五人超えなので、行き当たりばったりで入れるような店はない。 
 ネットで予約しても良かったが、晶の伝達で店の近くにホストクラブがない場所で、という条件があったので直接下見をした方が早いと楠原と話し合ったのだ。 
 
 何故そんなに大人数なのかというと、新宿店の全員+玖珂やマネージャー+麻布店や六本木店からも希望者は参加可能となっているからだ。近場に同業がいない事を晶が条件にだしたのは、そんな大人数で別の店のホストが騒いでいたら相手の店の営業妨害になりかねないからという理由らしい。揉め事は起こらないに越したことはない。 
 先程きめた店からそんなに移動距離のない場所でカラオケルームを発見し、信二は隣の楠原の肩を叩いた。 
 
「あそこにある店、丁度いいんじゃないっすか? 予約できるか聞いてみます?」 
「ああ、本当に。場所も近くていいですね。行ってみましょう」 
 
 店が入っているビルへ向かう途中、信号待ちをしていると聞き慣れた声が耳に届いた。 
 
「し~んじ!」 
 
 振り向くと信二の指名客の中でも結構古い、麻布店から着いてきてくれた女性客とその友人が立っていた。歳は二つ上でアパレル関係の会社でOLをやっている可愛い女性だ。 
 
「あれ!? 美來ちゃんじゃん。偶然だね。なに、新宿でショッピング??」 
 
 隣に居る友人にも笑顔で自己紹介を付け加える。自分から声をかけてきたぐらいだから、ホストクラブへ通っていることを隠しているわけではないと判断したからだ。 
 
「うん、そうだよ~! 信二は何してんの? ――あれ……? 蒼、さん?」 
 
 少し背後にいた楠原を見つけ、美來は目を丸くした。 
 
「こんにちは、美來さん。お友達の方は、初めましてですね。蒼と言います。実は、僕達もデート中なんですよ」 
「えっ!?」 
 
 楠原の冗談を真に受けた美來が再び驚いて、見てはいけない物を見てしまったかのように口を押さえる。信二は苦笑し、顔の前で否定の意味を込めて「ないない」とでもいうように手を振った。 
 
「いやいや、冗談だからね? 美來ちゃん、なに本気にしてんの。俺らは、店の用事」 
「だよね?? ビックリした!! 信二が蒼さんの恋人になれるわけないもんね~」 
「そうそう、って、何かそれビミョーに俺下げられてる気がすんだけど?」 
「あはは、バレた? でも、会えて嬉しい! だってね、結構遠くから信二の事すぐわかったもん私。目立ってるイケメンいるしー! って思ったら信二だった」 
「マジで? 俺、真に受けちゃうよ?」 
「うん、だって私が指名してんだよ? 私、面食いだもん」 
 
 隣の友人にそう言って笑う美來に「そうそう、社内でも美來のイケメン好き有名だもんね」とノリがよさそうな友人も返して楽しそうにじゃれ合っている。やはり女の子は可愛い。もう随分前から買い物をしていたのか、様々な店のショッパーが肩にかかっている。 
 知っているブランドの物があったので、そこで買い物をしたのか訊ねると、これを買ったのだと中を少し見せてくれた。春に向けた爽やかな色のマルチストライプのワンピース。 
 
「それ、流行の柄じゃん。この前雑誌で同じようなの見たよ。美來ちゃんに、似合いそうだなってそん時も思ったし。今度、店来るとき着て来てよ」 
「えー、どうしよっかなぁ~。そんなに見たい?」 
「うん、めっちゃ見たい」 
「じゃぁいいよ、今度着ていくね」 
「やった。楽しみにしてるわ」 
 
 信二と美來が会話している隣で、楠原は静かに笑みを浮かべている。他のホストの客にちょっかいを出すのは禁じられているので、その行動はNo1だとしても正しいあり方である。 
 友人に肩を叩かれた美來が「ん?」と振り向くと、友人が美來に何やら耳打ちしている。「あー」とか「聞いてあげよっか?」とか所々会話が聞こえ、美來が再び信二の方へと振り向いた。 
 
「あのね、この子が今度一緒に店行きたいって」 
「マジで!? 来てくれんの、大歓迎だよ」 
「うん、信二名刺持ってる? 一枚この子にもあげてよ」 
 
 ――名刺……。 
 いつもなら持ち歩いているが、今日はプライベートなので持っていないのだ。 
 
「やばい……俺今日オフでさ、持ってないんだよ、マジごめん」 
 
 折角店に来てくれるというのに失敗したと思っていると、楠原が鞄から自分の名刺とボールペンを取り出した。オフでも名刺を持っているとは流石である。 
 
「店は同じですから、僕のでも構いませんか?」 
「えっ、蒼さんの名刺頂けるんですか?」 
「貰って頂けるのなら、いくらでも」 
 
 楠原はそう言ってにっこり笑う。そしてその後、予想も付かない行動に出た。 
 No1の名刺は特別で、信二や他のホストと色も違い箔押しの加工がしてある。しかも、キャッチで配る物はまた別で、楠原のは自分を指名してくれた上客に配る特別な物なのだ。 
 そこに書いてある自分の名前をあろうことかボールペンで線を引いて消し、その横に『信二』と名前を書いたのだ。 
 
「信二君、電話の番号を言って下さい」 
「えっ? あ、えっと、090の――」 
 
 信二が営業用の番号を口頭で伝えると、楠原はそれも自分の名刺に書き加えた。 
 ホストの名刺は、そのホストのプライドでもあり、自分の名前や番号を消して他のホストの名前を書くなど聞いた事も無いし、中々出来る事でも無い。呆気にとられている信二をよそに、楠原は信二の番号を書き終えると、その名刺を美來の友人へと丁寧に両手で手渡した。 
 
「是非、店にいらして、信二君と楽しい時間を過ごして下さいね。お待ちしております」 
「は、はい! ありがとうございます~」 
 
 ボールペンで消したとはいえ、楠原の特別名刺をもらった事を羨ましそうにしている美來をみて、楠原が微笑む。 
 
「美來さんさえ、宜しければ。僕の名刺も受け取って頂けますか?」 
「はい!」 
 
 今度は、そのままの名刺を美來へと手渡す。 
 
「良かったじゃん。蒼先輩の特別名刺、貴重だからな~! 俺も持ってないけど」 
「うん、嬉しい! 二人とも有難う!」 
 
 嬉しそうな美來達と、その後四人で少しだけ話してその場で別れる。駅の方へ戻っていく美來に手を振り、信二達は点滅している信号を少し駆け足で渡った。 
 
 
 それだけ余裕があるという事なのかもしれないが、先程の楠原の行動はやはり同じホストとして感心する物で、信二はその行動に感動していた。 
 
「蒼先輩、さっきの名刺。あんなコトしてマジで良かったんっすか? 何か、すみません……」 
「どうして信二君が謝る必要があるんですか?」 
「いや、だって……蒼先輩の名刺に、俺みたいな下っ端の名前書くとか……」 
「先程は、ああするのがベストだったでしょう? 信二君の大切なお客様のご友人です。それに、名刺なんてただの紙ですよ。たとえ折れても破れても、自分自身が積み上げてきた物には何の影響もありません」 
「…………何か、蒼先輩が言うとかっこいいっすね。ってか、ちょっと感動しました」 
「そんな事はないですよ。ああ……、あと、信二君?」 
「はい?」 
「自分の事を、下っ端等と言うのは良くないですね」 
 
 楠原はそういって店の前で一度足を止めると、信二の顔を見つめた。 
 
「信二君も立派なホストでしょう?」 
「あ、……あの」 
 
 楠原にこうしてまっすぐ見入られると、冗談ではなく魔法にかかったように目がそらせなくなる。レンズ越しの楠原の瞳に小さく自分が写り込んでいる。 
 弱い風が二人の間をすり抜けて、楠原の長い髪の毛先を揺らす。背後の車道で行き交う車の音、周りの人々の話し声、並びの店舗から流れている音楽。 
 全ての音が一瞬して遠ざかり、何もない空間にただいるような錯覚に陥る。 
 
「僕が女性で、店へ行ったとしたら。信二君のような明るくて楽しい方を指名します。信二君は、自分が思っているよりずっと魅力的な男性です。僕が保証します」 
「…………」 
 
 徐々に戻ってくる感覚。楠原の穏やかな笑み、信二は前髪を掻き上げると、自身の首の後ろに手を当てた。 
 
「あー、その。そんなに褒められる事とかないんで、すげぇ恥ずかしいんですけど……。でも、有難うございます。マジ嬉しいっす」 
 
 ふふっと微笑んだ楠原は、そのまま目の前のカラオケルームへと入っていく。 
 後を追うように中へ入ってカウンターへと向かうと、平日の夜ともあってスーツ姿の会社員が多く目に付く。幾つかのグループが部屋の空き待ちをしていた。店はどうやら、カラオケ専門店というわけでなく、一階はダーツバーになっているようだ。ついでにカラオケも出来る仕様の店なのかも知れない。 
 
 信二と楠原は予約の確認をしながら、店員が空き情報を調べる間、カウンターへ置かれているメニューを見ていた。酒だけでなく、料理も美味しそうである。若い奴らが多いし、それぞれが皆それなりに酒も強いので相当量飲むはずである。 
 人数を告げて飲み放題のコースを指定し、とりあえず幹事としての仕事は終了した。 
 
 店を出た後、念の為周辺を歩いてホストクラブがないかを見て回る。周りは飲食店やキャバクラがメインでどうやら同業店はなさそうだった。 
 
 すっかり日も暮れて、時刻は七時半を過ぎている。 
 休憩なしで歩き回ったので少し疲れたのと、微妙な時間に起きたことで朝と昼兼用で早めに食事をしたのでかなり腹も減っている。 
 当初の予定では用事が済んだら別れるつもりだったが、夕飯ぐらいは一緒にと誘ってもいいかと思い直し、信二は楠原へと声をかけた。 
 
「蒼先輩、今日はこれからの予定とかあるんっすか?」 
「僕は、特にありませんね。信二君は?」 
「俺も予定無いんで、良かったら夕めし一緒に食って行きません? 俺、腹減っちゃって」 
「いいですね。僕もお腹が空きました。歩きっぱなしで疲れましたしね。じゃぁ、食べてから帰りましょうか」 
「はい!」 
 
 先程、楠原が「僕達もデートなんです」と冗談で言ったときは「ないない」と否定して笑っていたが、今こうしているとこれはデートと呼べなくもないのではないかと思う。仕事も関係なく、楠原と二人で夕飯を食べに行くなんて初めての事だからだ。そう思ってしまうと、急に意識してしまう。 
 信二は楠原との距離を少しだけ詰めて、口を開いた。 
 
「蒼先輩は、何が食いたいっすか? 苦手な物とかあります?」 
「うーん……そうですね。好き嫌いはないですよ。信二君のお勧めのお店があればそこへ行ってみたいですね」 
「じゃぁ、俺が勝手に決めますね」 
「はい、お願いします」 
 
 勝手に決めますね、と言ってはみたが、お勧めできる店を思い浮かべるとどうも楠原と二人でいくような店ではない場所ばかりが浮かんだ。 
 一時期晶と共に塩ラーメンにはまっていて、この辺りの店は食べ尽くしたが。一番美味しいと晶と二人で絶賛した店は酷く汚くて、サービスでつけてくれた炒飯の皿にはひびが入っていたし、味は最高だがそこへ連れて行くというのもどうかと思った。晶にも勿論大先輩として気を遣うが、楠原にはまた別の意味で気を遣う。 
 
 楠原と汚いラーメン屋をイコール出来ず、信二はとりあえず選択肢からラーメン屋は外した。記憶をかき集めながらブラブラと歩いていると、夜になったからか時々吹く風がとても冷たく感じる。 
 楠原も寒いのかマフラーに少しだけ顎を埋めて、真っ白な息を吐いていた。 
 
「寒いし、……あったかい物の店にしますね。すぐそこなんで」 
「ええ、楽しみです」 
 
 以前一度同伴で行った事のある店を思い出したのだ。 
 オイルフォンデュが有名な店で、美味しかったのを覚えている。夕飯時なので時間的に少し待つことになりそうだが、それは致し方ないだろう。 
 言葉通り少し行くと、こぢんまりとしたスイス料理の店があった。記憶は正しかったようである。 
 店内へと入ると、丁度二組の客が食事を終えて出て来た所であり、待機していた一組と、信二達は同時に席に着けることになった。 
 店内は火を扱った料理なのも相まって、着込んでいると汗ばんできそうである。楠原の着ていた物を受け取り、自分の着ていたモッズコートとマフラーと共に、コート掛けにかけてから腰を下ろす。 
 
 ディナーのコースを頼んで、料理が来るまでに二人でワインを飲んだ。さすがに外がこう寒いとビールをのむ気も失せる。 
 軽く乾杯をして白ワインを口に運ぶと、だいぶ果実感の強い爽やかなワインだった。飲みやすいのでついつい量も増えてしまいそうな気がする。信二はラベルを自分に向けてみたが、英語でもなさそうで読めない。 
 イタリア語かフランス語……いや、ドイツ語か? そう思っていると、ワインを口に含んだ楠原が「料理と同じくスイスのワインなんですね。珍しいですね」と信二へ視線を向ける。 
 
「そうなんっすか? いや、俺そんなに詳しくないんで。この店も、女の子に教えて貰ったんっすよ」 
「そうですか。アルテス種のワインだと思いますよ。スイス料理のお店だから扱いがあるんでしょう。僕も、お目にかかるのは二回目です」 
「へぇ、覚えておきます。蒼先輩も流石っすね。晶先輩もかなりワインに詳しいんですよ。今度聞いてみようかな」 
「多分、僕よりオーナーの方が色々と詳しいと思いますよ。僕もいつも勉強させて貰っているので。オーナーは格好いいし物知りで憧れますね」 
「はは……、見た目を裏切る努力家っすからね。俺も晶先輩にはめちゃくちゃ世話になってて、今も昔も憧れのホストなんっすよ」 
 
 楠原でも憧れるホストがいるという事に、信二は心の中で驚いた。 
 そして晶の話題を出したことで気付く。そういえば、最近は晶が多忙で店にいない事が多いというのもあるが、晶の事を考えている時間が減っていることに。依然として大好きではあるし、憧れては居るけれど……。 
 そう思うと、自分の中で何かが少しずつ変化していることに気付かざるを得ない。それはほんの少しだけ信二の胸の中をざわつかせた。