「お前さ、大学ん時、何かサークルとか入ってた?」
「俺?入ってたよ。天文同好会」
「はぁ?天文同好会?そりゃまた随分と地味だな……、おい」
 
 
 

★ 夏の星座 ★


 
 
畳に転がって天井を見ながら吉井の意外な過去に安藤は隣にいる吉井をみて苦笑する
二人ともあまりの暑さにさっきからなるべく動かないでじっとしているのだ
冷房が壊れたという安藤のアパートは西向きで
安藤達が帰る頃には待ってましたとばかりに西日の暑さをため込んで南国化しているのだ
しょうがないからと押し入れの奥から埃を被った扇風機を出したはいいが
こう室内が暑いと扇風機の風も生暖かく、吹き付ける風は微塵も心地よくはない
しかし、ないよりはマシなのでさっきから取りあえずつけている
首をふってカタカタと音を立てる扇風機のプロペラが通り過ぎる瞬間だけ部屋の空気が動く
 
 
「窓……、あいてんだよな?」
「あぁ、一応な」
「あちぃよ……、マジで……、俺らヤバくねぇ?脱水症状とかで死んだりしねーだろーな」
「ばーか……、これくらいで死ぬか。 っていうか安藤」
「んー?」
「頼む。一生のお願いだから……、冷房修理頼んでくれ」
「無理無理。給料日前で金ねぇんだよ」
「……、……、なんか俺腹立ってきた……」
 
 
吉井がムッとした顔でゆっくりと上半身を起こす
転がっている安藤の目の前に腕を突き出すと軽く頭をはたいた
 
 
「いてっ!何だよ急にっ」
「そうだよ……。全部、お前のせいだよ……。お前が酒ばっか飲んでるから、金なくてクーラー修理出来ないんだろ。酒禁止!!安藤お前に一ヶ月間禁酒命令だ」
「何ソレ!!あちぃからって俺に八つ当たりかよ!」
 
 
安藤もムッとして起きあがり吉井を睨む
 
 
「何だよ!本当の事だろ」
「俺から酒をとったら人生の半分が暗闇に包まれちまうんだよ。吉井、お前俺の人生を台無しにするつもりか?」
「何だその人生論は、そんな人生だったら暗闇に全部包まれちまえ!」
 
 
吐き捨てるようにそういう吉井に安藤がフゥとため息をついて首を振った
 
 
「あーストップストップ……。やめとこうぜ、余計に暑くなる……」
「………だな」
 
 
さっき風呂に入ったばかりだというのにこうして少し動いただけでもう汗が滲んでくる
暑さに耐えかねて安藤が立ち上がった
冷蔵庫に何か飲み物を探しに行き扉をあけた所で急に思い出したように吉井に振り向いた
 
 
「あ、じゃぁさ……!!星でも見に行くか。週末になったら、どっか涼しいところによ」
「星??」
 
 
安藤が急に思い立った日帰り旅行はこうして先週の月曜日に決まった
決まったと言うより、勝手に安藤が決めたのだ
 
 
 
 
水曜日にはどこにいくかも決まり
 
 
 
 
そして、土曜日
安藤達は東名自動車道で渋滞にはまっていた
盆の帰省ラッシュを考えずに日程を決めた為 まんまと巻き込まれてしまったのだ
午前中にアパートを出たというのに
3時近い今になっても車はまだ厚木のインターチェンジあたりだった
積んできたCDが今日4度目の同じ曲を演奏し、安藤はサイドブレーキを引き上げて
いっこうに進まない車のブレーキから足をはずした
フロント硝子から見えるのは、前も横も車だらけだ
 
吉井は案外短気な所がある
そろそろまたイライラしているのではないかと安藤は横目で助手席の吉井をチラリと見る
さっきから吉井は口数が妙に少なく表情も不機嫌そうなのだ
渋滞は安藤のせいではないにしろ
盆のこの時期に、しかも土曜日に出かける予定を立てたのは安藤なのだ
 
まだ恋人として付き合いだしてから2ヶ月しか経っていないが、安藤達には甘い空気はあまりない
長年、友人としてやってきたわけだから恋人同士になったからといって変わるわけはないのだ
小綺麗に整った吉井の横顔を見て
もうちょっと可愛い性格ならいいのに
などと思っているとその視線に気付いた吉井が安藤に振り向いた
 
 
「何?」
「あー、いや別に。お前何か静かだなと思ってよ。もしかして……怒ってんのか?」
「別に……」
 
 
それは怒っているという言葉を「別に」に置き換えただけのような言いぐさで
安藤はやっぱりと少し肩をおとす
安藤も、そう気が長い方ではないが
吉井といると先に吉井が怒ってしまうので自分は結構大丈夫なのだ
宥めるように安藤が吉井に話しかける
 
 
「まっ。夜までに目的地につけばいいよな。そうイライラすんなって!な?」
「別に本当に怒ってないって……」
 
 
そう言ったあと、吉井は深くため息をついた
ミラー越しに目を向けると吉井は眉間に皺を寄せて目を閉じている
何となく元気がないようでもある
怒っているわけではないというのは本当なのかもしれない
安藤はそんな吉井が少し心配になり車が進まないのを確認したあと吉井の額に手をあててみた
急なその行動に吉井が閉じていた目をあける
 
 
「熱はない……、よな?どっか調子わりぃのか?」
「いや、大丈夫だ……、でも、俺ちょっと寝るわ」
「お、おう……。そりゃいいけどさ、何かあったら言えよ?」
「あぁ」
 
 
吉井が再び目を閉じて少しすると車は少しづつ流れ出した
何処まで流れているかはわからなかったが、とりあえずは順調に進み
漸く大きめのサービスエリアが目前となった
こうも渋滞しているといっせいに皆がサービスエリアに寄るのはわかっているのだが
ここを逃すとまた何時間かは休憩できなくなってしまう
安藤はウィンカーを出すとサービスエリアへと向かう斜線へと車を走らせた
サービスエリア内に入ると、案の定 駐車場はほぼ埋まっており
店舗のある場所よりだいぶ遠い場所しか空いていない
少し面倒だが仕方がないのではずれの場所に停車すると、安藤は助手席の吉井を起こした
 
 
「とりあえずサービスエリアまできたぜ?吉井?」
 
 
眠っていたと言うよりは目を閉じていただけなのか吉井は「気付いてる」と言って目をあけた
何だか目元が少し潤んでいる
 
──か、可愛い……。
 
安藤は場違いにも吉井のそんな表情に胸が高鳴るのをおさえて顔を覗き込んだ
 
 
「大丈夫か?」
「…………安藤」
 
吉井が気だるげに腕をあげて安藤を手招きする
 
「ど、どうした?」
 
 
潤んだ目で見上げる吉井の視線に安藤はツバを飲み込んだ
誘っているようにもとれるその視線を安藤にむけたまま
吉井は吐息と一緒に呟いた
 
 
「………吐きそう」
「えぇ!?」
 
 
何と、吉井は車に酔ったらしい
言われてみれば、もともと色の白い吉井の顔が真っ青になっている
厚木で話しかけた時からすでに気分が悪かったのだろう
可愛いなどと思っている場合ではないのだ
体をシートに寄りかからせてぐったりしている吉井に
安藤は慌てて手近にあるゴミ袋を引っ張り出して吉井に差し出した
 
 
「我慢しないで吐いちまってもいいぞ!
その方がスッキリすんだろ?」
 
 
背中に手を当て、さすろうとする安藤の手を吉井が掴んで放す
 
 
「いや、吐けないと思うから。平気……、悪いな、酔ったりして……」
「何言ってんだよ。そんな事きにすんな。っていうか本当に大丈夫か?」
「あぁ、少し休めば治ると思う」
「あ、そうだ。俺なんか冷たい物買ってきてやるよ。ちょっと待ってろ」
 
 
安藤は小銭をコインケースから取り出すとポケットに入れて車を出た
自販機に向かいながら車に待たせている吉井の顔を思い浮かべる
何でもっと早くに気付いてやれなかったのか
そう思うと自分で自分に腹が立った
ずっと車内にいたせいで体が冷えているので外気の暑さがやけに暑く感じる
ちりちりと照りつける日差しの中、安藤はコーラとお茶をかって足早に車に戻った
シートに背を預けてまぶしさを避けるように手を目元に翳している吉井に買ってきた飲み物を差し出す
吉井はお茶の方を選ぶとプルトップをあけて少しだけ口に含んだ
停車しているのでいくらかおさまってきたのか吉井は薄く微笑んだ
 
 
「車酔いなんて初めてだよ。参ったな」
「なぁ、吉井」
「ん?」
「何でもっと早く言わねーんだよ……。早くに気付いてたら引き返したり出来ただろ?宿をとってるわけでもねぇんだからさ」
「だからだよ」
「え?」
「お前今日のこと楽しみにしてただろ?こんな事で水さすの嫌だし」
「……吉井」
「それに……」
「………?」
「安藤の3倍は俺も楽しみにしてたから、引き返されるなんてごめんだしな」
 
 
そう言ってニッと笑った吉井に安藤はたまらずキスをした
 
 
「オイ……、昼から、ヤバ……って、人が見て……」
「いいじゃねぇか、社内じゃねぇんだから」
「……んっ………」
 
 
安藤の貪るような口付けは飲んでいるコーラの味がする
観念した吉井も舌をかえしお茶の味とコーラの味が混ざり合った
スモークがかかっている窓なので、そうまわりに見えるとも思えなかったが
こんな場所で昼間から口付けをかわすことはあまりない
漸く離れた唇から唾液が透明な糸を二人の間に引いている
それを手の甲で拭うと安藤は唇を舐めた
 
 
「新種の飲料の味だな……、こりゃ」
「コーラ茶、企画部に売り出してみるか?」
 
 
絶対売れない。そういって互いに笑ったあと、安藤がどかっと運転席へと背を預けた
吉井もだいぶ復活し、自分が運転をした方が酔わないのではないかという安藤の案にのり
先は吉井が運転をすることになった
サービスエリアを出てみるとピークが過ぎたのかそれなりに車は流れており
吉井の運転する車はスピードをあげて高速道路を走り続けた
 
 
 
 
 
      *         *         *
 
 
 
 
 
流れていたとはいえ早めの夕飯を途中で食べ目的地周辺に着いたのは、もう7時半を回っていた
星座観察に向いているというその場所はキャンプ場も兼ねており
遠くに家族連れなどがテントを張っているのが見える
都会から少しこうして足を運べばすでに空の色は全然いつもと違って見える
山の方だからなのかまだ7時過ぎだが、夜空には一面に星が光っていた
少し離れた場所に車を停車して安藤達は車から降り立った
ガードレールをまたいで砂利をすすめば前をさえぎるもののない景色が広がっている
涼しい風も吹いており、吉井はゆっくりと深呼吸をした
 
 
「星座博士。うんちくを聞いてやってもいいぜ?」
 
 
安藤が吉井の肩を引き寄せて空を見上げる
誰も見ていない二人だけの空間に吉井も安心したように安藤に体を傾けた
 
 
「言っておくけどさ。俺、全然星座とか詳しくないから」
「はぁ?お前天文同好会だったんじゃねぇの?」
「あぁ、一年の時ちょっと在籍してただけ」
「何だ、そうなのかよ。俺はてっきり何時間が講釈がきけんのかと思ってたぜ」
「残念でした」
 
 
ひときわ輝く星をみつけると安藤が自信ありげに咳払いをした
 
 
「あー。ではでは、俺がひとつ教えてやるとするかな!あのすげぇ光ってるのあんだろ?」
「あぁ」
「あれな、一番星って言うんだぜ」
 
 
吉井は安藤の額を指ではじくと苦笑する
 
 
「ばーか。一番星じゃなくて一等星だろ。ちなみにはくちょう座のアルビレオな」
 
 
苦笑する吉井に安藤は「やっぱりばれた?」
と言って笑う
時々背後の車道を車が通りすぎるだけであたりには物音が聞こえない
ひやっとする風が夏とは思えないほどに涼しい
しばらく星空をながめていると安藤がぽつりと呟いた
 
 
「こっから見るとよ。星って綺麗だけど降り立ったら、別に光ってる訳じゃねぇんだよな」
「まぁ、そうだろうな」
「俺はさ」
「ん?」
 
 
吉井の額にかかった前髪を安藤が指で梳く
そしてそのまま少し屈むと覆うように唇を塞いだ
 
 
「俺は間近でも綺麗なお前の方が……、星よりずっといいぜ」
「台詞が気障はいって……、んん…」
 
 
背中にある柵を片手で掴んで体勢を保たないと後ろへ倒れそうになるほど安藤の口付けは強く
吉井は息をつげないまま酸素をもとめるように顔をそらして息を吸う
唾液で濡れた唇が風に当たって冷たい
 
 
「……吉井」
 
 
吉井の名前を呼びながら安藤は逃れる隙をあたえないままに角度を変えては繰り返す
戯れでは終われないギリギリの所で安藤がスッと身を引いた
このまま口付けを続けていたらどちらも抑えが効かなくなる
しかし、容易くついた火はすでに消せないところまできてしまっていた
無言で腕を引っ張って車へと戻る安藤に引きずられるかたちで吉井も車へと乗り込む
 
 
「いい……、よな?」
「……ここでか?」
「外よりはいいだろ」
「嫌だっていったら、お前我慢できんの?」
「……無理」
 
 
安藤は笑って吉井のシャツのボタンへと手をかけた
シートをせいいっぱい倒してもかなりせまい車内では体のあちこちがぶつかってしまう
車高が高いのがせめてもの救いで安藤が大きな体を吉井に重ねても上の空間は問題ないようだ
 
 
「安藤、足……、いたいって」
「ちょっと我慢してろよ。すぐに広くしてやるからさ」
「……どうやって…」
 
 
こうやって、安藤が吉井の片足を腕で掴むと肩へと乗せる
股間が露わになって吉井は羞恥に赤くなりながら安藤を軽く睨む
しかし、安藤はそんな吉井の視線を気にもしないで冗談っぽく笑った
 
 
「な?ちょっとはコンパクトになったろ?」
 
 
安藤は吉井の茂みに顔を埋めすでに先走りの雫が零れる鈴口を静かに舌でわる
片手を添えて親指で裏筋をこすれば吉井の腰がわずかにシートから浮き上がる
 
 
「ちょっ……、んどう……、まずい……って」
「何がまずいんだ?」
「シートが…よご……る」
「大丈夫だ」
 
 
下から見上げる体勢で吉井の躯をみればしなやかなそれは綺麗な曲線を描いて上へとのぼっている
首筋の喉仏は吉井が感じるたびにわずかに上下しその光景はやけに艶めかしい
あがってくる息をおさえるように吉井が深く息を吸う
安藤は漏れる吐息と重ねるように口の中に吉井の屹立を含んでは包むように唇で扱いていく
敏感な吉井の躯は安藤が動かす些細な舌の動きにも反応し快感を享受していく
濡れた音が車内に響いていた
 
 
「っ……もうっ……。るっ……」
 
 
腰を捩って逃れようとする吉井の腰を安藤は片手で掴み引き寄せる
吉井は苦しげに声を漏らし、安藤の口の中で勢いよく射精した
ビクビクと脈打つ屹立にさらに刺激をくわえれば、口の中で更に吐精が続く
安藤はゴクリともらさずに吉井のそれを飲み込みそっと口から離した
 
 
「……吉井……、すげぇ色っぽい……」
 
 
口元を拭いながら吉井の紅潮した顔へと近づく
せわしなく吐き出される甘い吐息を吸うように口付ければ吉井が少し眉を顰めた
 
 
「……ハァ……、ば、かお前……今、キス…んなよ……」
「気にすんな」
 
 
自分の精液の味を知ることになるとは吉井も思わず
苦々しい顔をしている
冷房をきかせてあるとはいえ狭い車内では二人の熱気がそれにまさり
安藤の首筋からは汗がたまになってツゥーッと一筋伝っている
吉井は腕を回して安藤の首筋にキスをすると汗の辿った後を舌で追う
首筋を濡れた舌が辿る感触が安藤に快感をもたらした
 
 
「……、安藤の躯、しょっぱい……」
「何してんだよ……汚ねぇだろ。やめとけって」
「汚くないだろ。お前のなんだから……」
「吉井、お前なぁ……」
 
 
クスッと笑う吉井を再び組み敷き指を口に含んで濡らすと吉井の後孔のまわりをなぞる
吉井が力を抜くといくらか柔らかくなった後孔にすっと一本差し入れる
吉井の中は焼けるように熱い
再び頭をもたげて張りつめる吉井の鈴口からも雫を絡め取り後ろへとのばせば
すべるように指が吸い込まれる
襞をひらくように揉んで柔らかくなったのを確かめると安藤は指を引き抜き
変わりに自らの猛った欲望をあてがった
吉井の中に入る前から、その中の感触をすでに躯が覚えており想像をしただけで疼いてくる
 
 
「……挿れるぞ」
「……あぁ」
 
 
ならしたとはいえ狭いそこに入る瞬間、安藤が眉根を寄せる
押し入ってくる安藤の欲望は吉井の中で息苦しいほどの存在感を掲示し
吉井も思わず息を止めた
大丈夫か?とでも言うように、全部をおさめてから安藤が動かずに吉井の顔を見る
吉井が頷くのを見ると、そのままゆっくりと腰を動かす
最初に安藤とSEXをした時は、自分の中は安藤を受け入れるだけの奥があるものなのかと思っていたが
今、こうして安藤を受け入れながら吉井は思う
 
 
「……ハァ…………、ァ……、もっと……もっと奥まで…っ……ん」
 
 
安藤が抜くギリギリまで離れては最奥へと叩きつける欲望に背筋へとぞくぞくする快感が一気に伝う
内蔵を貫くような激しい律動におさえているはずの声もしだいに漏れていく
うまく息が出来ずに繰り返す浅い呼吸のせいで
こめかみの脈打つ音までが五月蠅いほどに響いて聞こえる
 
 
「よ…しい……、届いてるか?……」
「…ん……ぁ、あぁ……」
 
 
壊れそうな躯を安藤が力強く引き寄せ吉井は二度目の射精感にきつく目を瞑った
 
 
「あん…どうっ……アァッ……」
 
 
首筋まで飛んだ欲望が白い精液をまき散らす
ギュッとしまった吉井の中で安藤も奥へと精を注ぎ込んだ
吉井を抱いたまま首筋に軽くキスを落とすと安藤は大袈裟に息を吐いた
 
 
「あちぃ……、ハァ……、これじゃ…俺ん家と変わんねぇよ……」
 
 
安藤が躯を離し運転席へと戻る
吉井もシートを起こすと汗と精液で汚れた躯をティッシュで拭ってあがった息を整えた
 
 
「……、どう……、する?」
「しばらく休憩……、だな」
 
 
吉井が車の窓から外を見れば、すでに真っ暗になっている
さっきよりも星が眩しく見えるのは暗くなったからなのだろうか
そんな事を考えながら窓をあける
心地よい風が籠もっていた空気を掻き出していく
吉井は腰をさすりながら呟いた
 
 
「帰りは俺、もう運転無理かも。お前に任せる」
 
 
そう言って笑うとダッシュボードから煙草を取り出し口にくわえる
安藤も同じようにくわえると吉井の腰に腕をのばして悪戯に掴んだ
 
 
「俺が体力あるやつで良かったって。今、思ったろ」
「まぁな」
 
 
安藤が窓の外の空を見上げて紫煙をゆっくりと吐き出した
煙が星を繋ぐようになびいては消えていく
吉井も一緒に覗き込むと隣で安藤が空に向かって一言言った
 
 
 
「綺麗だな、俺の一番星は」
 
「だーかーら、一等星だって」
 
 
 
安藤が、夜空の星のことを言ったのかそれとも自分の事を言ったのか
とりあえず吉井は考えないことにした
安藤の言った一番星は本当は間違いじゃないのかも知れない
少しだけそう思いながら安藤の肩へと頭を預けた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
end