Sexual photography film3


 

 「ここなら、多少明るいから平気かな?」

 健介は脇に寄せてある暗幕を奥へと引き軽く縛った。
 取り払った暗幕の向こうから、月明かりが淡く差し込み青白い光が部屋を包んでいた。
 部屋に入った時に見つけたバスタブの側へ寄った健介は、ふぅと一度大きく息を吐き、須賀へ向かって真っ直ぐな視線を向けた。
細身の身体に良く似合うそのシャツは、無地で白色だが、水面が写って所々が青い影になって見える。健介は、右手を自分の胸に押し当てると、「勇人…」と一度呟き、上のボタンからひとつづつゆっくりと外していく。
004

 須賀は息をのんで、カメラを構えた。ファインダー越しに覗く世界が広さを取り戻しているのを感じる。見えない部分の世界まで、全てを写せるような気さえする。
 健介のシャツのボタンが全て外され、抜かれた袖からシャツがふわりと床へと落下する。その様子はまるでスローモーションのように見えた。

「何だか少し……恥ずかしいな。久しぶりだからかな……」

 健介はそう言って、照れたように微笑む。カシャッというシャッターを切る音が部屋に響き渡る。露わになった白い躯は、月明かりに照らされて艶やかに須賀 を誘惑し、シャッターを押したまま時間が止まったような錯覚に陥りそうになる。見えないのだと諦めていたファインダー越しの世界は、今はっきりと須賀の目 の前に写っていた。

――髪を掻き上げる指先。
――指先からこぼれ落ちる髪の毛の一本一本まで。

 その瞬間を追いかけるようにシャッターを押し続ける。カメラ越しに合った視線は僅かに潤み、須賀の全てを刺激する。
瞬く間にフィルムは終わりを告げ、自動で巻き上げる機械音だけが部屋に響く。

「……健介…」

 須賀は、カメラを静かに床へと降ろすと健介の元へと一歩を踏み出した。
半年間、伝えたかった事。
それはたった一言で、だけどそれを言う勇気がなかったのだ。

「……俺の側へ……もう一度戻ってきてくれ…」
「……うん」

 軽く頷いた健介が、心から安心したように笑みを零す。須賀の伸ばした指先は、今度は確実に健介に触れた。もう離すことのないように健介を掴む。
引き寄せると同時に、腕に抱き込むと須賀はそのまま健介の薄い唇へと自分の唇を重ねる。
 込み上げる愛しさは、他の全ての感情を浸食し、頑なに閉ざしていた須賀の心をゆっくりと溶かす。少し開いた唇の隙間に舌を差し込み蹂躙するように犯せば、健介の鼻から抜ける息づかいは、どこまでも甘く続く。目を閉じても見える景色。
それはもう、消えることはない。

「勇人………んっ‥……ふっ」

 吐息と共に呼ばれる名前は、須賀の熱い口付けですぐに掻き消される。

「健介っ……」

 離れていた時間を取り戻すかのように、繰り返す口付けは互いの躯の芯を疼かせ、籠もっていく熱が行き場を失っていく。下肢にまで容易く辿り着いた快感は、ゆっくりと焦らすように躯全部を支配し始めていった。

 側にある粗末なベッドへと健介を引っ張り、ゆっくりと組み敷く。
ギシリと音を立てて沈む健介の躯を確かめるように辿れば愛しさが溢れてきて、抑えきれない欲情が須賀を急かす。着衣を脱ぐのさえもどかしく感じ、須賀は乱暴にシャツを脱ぎ去ると床へと落とした。
重なる肌から、健介の体温と、早くなった鼓動が伝わってくる。

「勇人……もっと……もっと俺に触れて……」

 隠微な熱を孕んだ健介の言葉を塞ぐように何度も深く口づける。
口角からこぼれ落ちる唾液までも絡め取るように須賀は唇を離さない。酸素を求めて合間に吐息を漏らす健介は今までで一番扇情的に見えた。整った顔立ちを愉悦で歪め、誘うように視線をむける健介の全てを自分だけの物にしたくなる。
 項にかかる健介の柔らかな髪を指で梳き、白い首筋に唇を寄せる。跡が残るように、須賀はきつく吸って自身の証を刻み込む。そのまま耳朶を甘噛みし、舌でなぞれば健介の喉がゴクリと上下する。

「…ぁ……はや…とっ……」

 須賀は自身のファスナーをおろし、次に健介の下衣に手を掛けた。まだ直接触れていないのに、すっかり硬く立ち上がった屹立からは先走りの滲みが広がっている。優しく包むように握り、須賀が上下に扱けば健介の腰が僅かに浮く。

「気持ちいいか?」

声をあげそうになるのを我慢し押し殺す健介は、小さく頷き見下ろす須賀と視線を合わせる。
 再びゆっくりと動かす須賀の手を健介がふいに掴んだ。

「やばい……俺、すぐイっちゃいそう…っ…」

頬を染めて健介が困ったように微笑む。須賀は健介の腕を外すと囁いた。

「いいよ。何度でも…イかせてやるよ…」

鈴口から溢れ出る蜜を指に絡め、緩急を付けて扱けば健介は忙しなく喘ぐ。脈打つ健介の屹立がどんどん張り詰めていく。

「…んんっ……で……るっ…っぁぁ」

健介の躯が一瞬ビクンと強ばり、白濁した欲望を解き放つ。力を緩め絞り出すように上へと指を動かすと白濁した残滓は次々に須賀の掌を濡らした。漸くそれがおさまると健介の躯が弛緩するのがわかる。
汗で乱れた前髪を掻き上げ荒い息を吐く健介に軽く啄むように口づける。

「いっぱい出たな」

 からかうように優しく言うと、健介は益々頬を赤く染めて、睨み返した。そんな表情でさえ須賀を煽っている事に本人は気付いていなかった。
濡れた指を健介の蕾へと差し入れ内壁をぐるりとなぞれば、イったばかりの健介の屹立はすぐに硬さを取り戻す。

「…っ……ん……んんっ…」

 抱き慣れた健介の躯は、どこを弄れば気持ちよくさせられるかを須賀は知っている。締め付けてくる内壁を移動し、ゆっくりと指を増やす。ほぐすように動か しながら一カ所をつけば、健介はもう声を抑えきれなくなる。感じやすい健介の屹立は、既に達しそうな程にそそり勃っていた。

「はや…と……次は…一緒に……イきたい」
「……久しぶりだが、もう大丈夫か?」
「……うん…平気……早く、勇人が……欲しい」

 ねだるような視線で見つめられ、須賀は息をのむ。痛いほどに猛った自分自身に手を添え、ゆっくりと健介の蕾へとあてがう。
ひとつになる瞬間、繋がった感覚に軽く目眩がする程の快感が全身を駆け抜ける。すっかり収めた自身を健介がきつく締め付ける。
その瞬間、須賀は低く声を漏らし眉根を寄せると動きを止めた。

「……っん…勇、人…?」
「わりぃ……」

挿れただけで達してしまったのは初めてで、須賀も苦笑する。

「俺で…感じてくれてる……嬉しい」

須賀をみつめて優しい笑みでそう囁く健介に、一度口付けをする。イったばかりとは思えないほど未だに硬さを保ったままの自身を再びゆっくりと動かす。ドロドロに溶け合った中は、焼けるように熱くお互いに絡みつく。
 部屋に響く濡れた音が卑猥さを増幅して、二人を刺激する。

揺する腰の動きに合わせるように健介の肢体が動き、快楽にどんどん溺れていく。
お互いを遮る物は何もなかった。欲しいままに欲しいだけ、互いを求め続ける。健介の最奥を突けば、どこまでも飲み込むように健介は受け入れた。
 ベッドが軋む音すら互いの心音に混ざり、心地よい響きに変わる。

「健介っ……愛してる……」
「お、れも……っ…ん…愛して、る……勇人」

 激しく揺れる健介の腰を引き寄せ、奥へ奥へと突き上げる。

「……もう何処にも行かないでくれ…」

切なげに告げた須賀の言葉に健介は「うん」と小さく呟き、双眼にうっすらと涙を浮かべた。

「もう……イきそ……」

健介は苦悶の表情を浮かべ、何度も須賀を咥えた蕾をひくつかせる。

「……あぁ、俺もだ」

 小さく痙攣して健介が放ったのと同時に須賀も絶頂をむかえた。
あがった呼吸が忙しなく吐き出され、額から汗がひとすじ伝うと健介の躯へポタリと落ちる。ゆっくりと抜き去る瞬間でさえ、敏感に快楽を感じ取り、先からは残った白濁が溢れてはこぼれ落ちる。ぐったりと健介に重なった須賀の頭を、健介は愛しそうに撫でると額に軽く口づけた。



 暫くして漸く汗も引き、躯の熱が冷めてくる。
須賀は起き上がると脱ぎ捨てたズボンのポケットから煙草を取り出した。一緒に入っていたマッチをこするとジュッと音を立てて辺りがオレンジ色に小さく染まる。後ろで起き上がった健介は、腰に擦りながら、久々の痛みに苦笑いしていた。

「勇人、俺にも一本」

健介は普段は煙草を吸わないが、こうして抱いた後は、須賀と一緒にいつも一本だけ煙草を吸う。
 箱から一本を取りだし、隣にいる健介へと渡し、咥えた自分の煙草から火を移す。ベッドに腰掛けて二人で煙草を吸う。昔は当たり前だった光景でさえ、今はとても大切に感じる。
健介の腰を引き寄せると須賀は肩に回した腕に力を込めた。

自分の腕の中に健介がいて、その温もりを肌で感じることが出来る。それは今の須賀にはかけがえのない幸せだった。

「勇人、ごめん」

健介は細く紫煙を吐き出すと小さく呟く。謝る意味がわからず、須賀は「ん?」と健介の顔を振り向く。

「迎えに行くのが遅くなっちゃったからさ……」
「……何で、お前が謝るんだ?俺のほうこそ、すまなかったと思ってる。……自分の事しか考えてなかった……」

 後悔しかない過去の自分の行動を恥じる須賀に健介はだまって首を振り、甘えるように腕の中から須賀を見上げた。出会った時と同じ悪戯な笑顔で。

「俺がいなくて、寂しかった?」
「あぁ、毎晩泣いてた」

少し笑ってそう言うと、健介は「嘘つけ」と言って須賀の胸に軽く拳を当てて笑った。

――もう一度、始めればいい。

 それに、気付くのに随分遠回りした気がする。
だけど、健介のおかげでわかったのだ。
須賀は健介に軽く口付けをしたあと腕をとくと、徐に立ち上がり、床へと置いていたカメラを拾い上げる。吸い殻を灰皿で揉み消すと、水を湛えたバスタブの前に行き立ち止まった。

 水面に映る自分の顔が青白く反射する。それを掻き消すように須賀はバスタブの中へとカメラを沈めた。
気泡を発しながら沈んでいくカメラは、バスタブの底で静かにその身を横たわせる。驚いたように見ている健介に振り返ると須賀は言う。
「いいんだ。また最初から、お前と始める事にするから……」
須賀は、揺らぐ水面から視線を外し、柔らかな笑みを零す。過ぎ去る苦い過去を抱いてカメラはただ静かに幕を閉じていく。

今日の写真を、互いの一番深い場所に刻んだまま……。

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この作品は、何処サヘキサ艶サン様でのweb雑誌企画「Boy’sクリック」に参加させて頂いた時の作品です。
サイト再開にあたり、大幅に加筆修正を加えました。
表紙並びに、挿絵は金色マグロ様につけて頂きました。
WILDな須賀と格好いい健介を描いて下さり、本当に有り難うございましたv

2015 聖樹 紫音