scene3


 

 
 病院からタクシーで戻った晶達は、すっかり静まっているビルの前で立ち止まり、何だか現実感のないまま一度ビルを見上げていた。 
 
「なんか、あのまま治まったっぽいっすね」 
「うん、そうみたい」 
 
ビルの外観は階段の窓硝子が数カ所割れている以外は特に損傷が無いように見える。ビルの前の通りも何事もなかったかのようになっており、時々ビルの前を 歩いて通る人々は火事のことさえ知らない風で通り過ぎている。さっきまでの騒ぎが現実の事だと思い知らせるのは、ビルの入口に『関係者以外立入禁止』の テープが貼られている事だけだった。 
 
火元となった店の現場検証の為に数人の警察官が出入りしている中、晶達は店の従業員である事をその場にいた警察官へと告げテープをくぐる。中へ入るとさ すがに焼けたような匂いが残っていたし、階段も荒れたままだったが大きな火災ではなかった事に胸をなで下ろす。茜も自分の店へと顔を出すという事で、店の 前で茜とは別れ、晶も店に顔を出した。 
 
幸い『LISK DRUG』は店内に被害は少なく、火が回るのを防ぐために放水されたせいで水浸しにはなっていたものの再起不能な状態ではなかった。 
かといって、どうみても暫くは営業ができる状態ってわけでもなかったが……。 
晶は落下している入口の壁付近の額縁を拾って掛け直し、店内を真っ直ぐ進む。パーテーションを抜け、中を見渡すと、連絡のついたホスト達数人が顔を出していて店内で片づけをしている最中であった。 
 
「お疲れーっす」 
 
軽く声をかけると一番近くにいた坂下が晶に気付き、目を丸くする。何か作業をしていたようだが、それを放って慌てた様子で駆け寄ってきた。 
 
「晶!何処行ってたんだ!?連絡が付かないから心配してたんだぞ」 
「すみません、ちょっと外出てて……」 
 
坂下の勢いに驚いて曖昧な笑みを浮かべそう返した晶に坂下はすっと眉を顰めた。『心配』という言葉が顔面に張りついているような表情に、晶も少し言葉に詰まる。 
 
「って……お前。……どうしたその腕、まさか騒動の時まだ店にいたのか!?」 
「あー……えぇっと、あの後、ちょっとうたた寝してたら巻き込まれちゃって」 
「…………晶、お前」 
 
坂下は何か言おうとした言葉を飲み込み、一度溜息をつき肩を落とした。少しして気を取り直すと安心したように眉を下げる。飲み込んだ言葉はきっと――また、家に帰ってないのか――だとわかっている。 
坂下は晶の帰宅嫌いをよく知っているのだ。帰って一人になるのが嫌で遅くまで店に残っている事も……。 
 
「……まぁ、無事だったならいいけど……。連絡ぐらいいれてくれよ。皆心配してたんだ」 
「すみません……。慌ててたんで、携帯を店に置いて行っちゃったみたいで」 
 
言いながら、カウンターへと向かい、座っていたカウンター席にそのまま置かれている自分の携帯を手に取る。サイレントにしていたそれをONにして着信履 歴をみると坂下や店の仲間からの着信で埋まっていた。本気で心配していた坂下や仲間の気持ちが、いつまでスクロールしても続くそれに現れている。「心配か けてすみません」もう一度頭を下げて伝えると坂下は父親のような表情で何度か黙って頷いた。そんなやりとりをしていると、片付けをしている後輩達も晶に気 付き、手を止め駆け寄ってきた。 
 
「晶先輩、大丈夫ですか!?」 
「腕、やけど??」 
「晶先輩行方不明って聞いてマジ心配しましたよ!」 
何人かが同時に話しかけてくるのを晶は苦笑いして頭を掻く。 
「ちょっとお前ら落ち着けって、行方不明とか大袈裟だっての。まぁ……でも、心配かけてわりぃ。俺は見ての通り元気だからさ」 
いつもの調子に安心した後輩達が納得仕掛けたが、『見ての通り元気』というのは少しおかしい事に気付き小さくつっこまれる。確かに、どうみても怪我人である。 
「いや、ちょっと落ちてきた硝子で切っただけ。たいしたことないから」 
少し照れたように頬を掻く晶の様子に、後輩達もやっと納得したようである。怪我人扱いをされるのもどうにも居心地が悪いので、晶はわざと勢いよく立ち上がった。 
 
「さて、んじゃ。俺も手伝うかな」 
 
皆が片付けをしているのを見ているだけというのも嫌だったので腰をあげ、足元に落ちていた灰皿を拾ってテーブルへと乗せる。 
そのまま後輩達の中へ入ろうとしたが、すぐにその場にいる全員に止められた。背中越し坂下には「馬鹿言うな」と怒られる始末だ。「大丈夫だから」という晶の言葉は誰にも届かず、強引にカウンターに押しやられてしまった。 
仕方無く手伝いを諦め、カウンターに腰掛ける。片手でも何か手伝えるのにと不満に思う気持ちもあるが、今は皆の優しさに甘えて大人しくしていた方がよさそうである。 
 
手持ちぶさたなので、胸ポケットから煙草を取り出すとソフトパッケージのそれは潰れていて、中の煙草が数本折れていた。吸えそうな煙草を探して抜き出し、火を付けると長く吐き出す。今頃になってドッと疲れが押し寄せてきて晶は小さく溜息をついた。 
カウンターの中で割れたグラスを始末している坂下が晶へと声をかける。 
 
「腕の怪我、さっき言ってたけど硝子で切ったんだって?硝子ってどこで?」 
「あぁ、階下に降りる時、廊下の窓が割れて破片が落下してきたんですよ。こうキラキラ~ってさ。あ、でも傷は浅かったんでどうって事ないっすよ?」 
ジェスチャー付で説明する晶に坂下は少し呆れたように肩をすくめる。 
「キラキラってお前なぁ……。それに、そんなに包帯巻かれて、『どうって事ないっすよ』とか言われても、誰も信じないけどな」 
「いや、これ大袈裟にやられてるだけだから。すぐ治るし」 
「まぁ、そういう事にしておいてやるよ」 
「あー、でも店終ってからで良かったっすよねー。客がいたら大騒ぎだっただろうし。女の子に怪我とかさせちゃったらやばいし。怪我したの俺だけで運が良かった。うん、マジ良かった」 
「まぁそこは不幸中の幸いだったな。……にしても、お前もほんとお人好しだな。自分の怪我より客の心配か?」 
坂下が苦笑して、集めたグラスの欠片をゴミ袋へとうつす。硝子が袋の底の床にあたって耳障りな音を立てた。 
「そういうわけじゃないけどさ……。あ、マネージャー、それよりうち……このぶんだと何週間かはやっぱり休業?」 
「まぁ、ここは片付くまでは営業出来ないからな」 
「ですよねー……俺どうしよっかなぁ……」 
 
晶はがっくりと肩を落とす。仕事が暫くないとなると比例して空き時間が増えると言う事である。そんな晶の心配を見越したように坂下は優しく微笑んだ。 
 
「店の事は安心していいぞ。さっき他の連中にも話したが、お前達は全員2号店の方でその間働けるように連絡してあるから。暫くは玖珂に面倒みてもらえ」 
「え!マジっすか。久しぶりだなぁ~。新入りの頃、玖珂さんには世話になったから恩返し出来るチャンス到来!的な」 
「はは、精々沢山客を呼んで売り上げで貢献する事だな」 
「俺ちょっと頑張っちゃおうかな!」 
 
玖珂がオーナーをつとめる六本木の二号店には何度か助っ人等で行った事はあるが、長期で働いた事はまだない。ホスト業界に無知だった晶に一から全てを叩 き込み、育ててくれた玖珂とまた一緒の店で働けるという事が嬉しかった。店がこんな状態になって暫く休業なのは覚悟していたが、意外な展開に晶の気持ちは 途端に軽くなる。 
 
暫くして坂下が別の場所の片付けに行って一人になった所で、晶はライターを探そうとポケットへ手を入れ、何かを思い出す。――財布はずっとポケットにい れてある。外してたアクセサリーもまとめて持ってきたし……――そこまで考えて、店を出るときに持って出たノートがなくなっている事に気付いた。 
――どこかで置いてきた!?俺、いつまであのノート持ってたっけ……。 
行動を振り返ってみる。茜とビルから出た時に丸めて持っていたのは覚えている。救急車の中でも、確かに持っていた。待合室で邪魔だったので背中の後ろへ 置いておいて……。診察室に呼ばれた時にはもう持っていなかった。どうやら待合室の椅子へ置いてきたらしい事がわかり、わずかに焦る。 
客の個人情報と言っても、名前はほぼ偽名なので見られてもそこは大丈夫だろう。 
ただ、ノートに自分の名前を書いているわけじゃないので、誰の物かわからず破棄されている可能性は十分にあった。ずっと大切にしてきた物なのだ。そんな 事になったら大変である。後で病院へ電話して聞いてみよう……。一人で結論に落ち着いた晶の脳裏にフと嫌な予感がよぎる。 
 
あの佐伯とか言う医者に拾われている可能性……。中を見るかはわからないが、もしそれが現実になっていたら、次の診察時に絶対何か言ってくるに違いな い。例えば字が汚いとか、男のくせに小さい文字だとか……。まだそうと決まったわけでもないのに晶の頭の中ではその光景が余裕で再生されていた。晶は益々 疲れてもう一本煙草を取り出した。考えるだけで次の診察が別の意味で憂鬱になってくる。 
 
カウンターへと頬杖をつき佐伯の姿を思い出す。普段病院に掛かることは滅多にない。風邪を引いても市販の薬を飲んでそのまま治るまで酒を控える程度だし、大人になってからは手術が必要な病気をした事もない。なので医者と接する機会は覚えている限りなかった。 
次の予約は何時だったか……晶は作ったばかりの診察券を取り出して眺め、『敬愛会総合病院』と書かれたプラスチック製カードの裏面に記載されている日付 を確認する。忘れないようにアラームでも鳴らすかと思い、徐に携帯を手に取ってスケジュール画面を出す。丁度今日の日付の所をみて晶は小さく「あ、」と声 を漏らした。 
火事騒ぎでバタバタしていて気付くのが遅くなったが、今日は七海と同伴の約束をしていたのだ。 
店が営業しない以上、断りの連絡を入れておかないといけない。同伴は無しにして夕飯だけ付き合ってもいいが、腕に包帯を巻かれているこんな姿で行っても心配をかけに行くような物だろう。 
晶は急いで立ち上がると店の外の廊下へ出て、七海へと電話をかけた。すぐに電話に出た七海に心配しないように手短に状況だけを伝え、約束は次回にという事で納得して貰う。 
 
「ごめんね。折角デートできると思ってたのに、めっちゃ残念だよ。またさ、今度は俺から誘うから。待ってて欲しいな」 
『うん、わかった。お店大変だろうけど無理しないでね。晶、張り切りすぎな所あるじゃない?』 
「そうかな?七海さん相手だと張り切っちゃうのは認めるけど」 
 
電話口で七海が笑う声が聞こえ、晶も携帯を肩で挟んで優しい笑みを浮かべる。「じゃぁまた連絡するよ」最後にそう告げて会話を終える。 
 
七海は晶がこの店にきて初めて指名してくれた客だった。その頃からもう何年もずっと指名を変えずに通って来てくれている。大切な客の一人だ。誰かを特別 扱いしないようには心がけているが、何年も付き合っているとやはり気持ち的には少し特別な存在として見てしまうようになる。七海は晶より2つ歳が上で、明 るい性格の子ではあるが、根っこは寂しがり屋で、そんな所が自分と似ているから余計にそう感じるのかもしれない。 
 
通話を終えて店に戻り、暇になった晶は店内を見渡し片付けが大まかに終わっているのを見て側にいる後輩へと声をかけた。 
 
「信二~、キャッチ行くけど一緒にいかね?」 
「キャッチっすか?いいですよ。片付けももうそろそろ終わるし、ご一緒させてもらいます!」 
 
店にいても自分がやれる事はないわけだし……。グダグダしているなら、少しでも動いていた方がいいし。そう考えて晶は準備をするために裏口へと回った。この店に客を呼んでくる事は出来ないが、玖珂の店へ来てくれるように新規開拓するのもいいかなと思ったのだ。 
ロッカーへ置いてある替えのシャツに着替える際、腕が片腕ほぼ使えないことにやっと不便さを痛感する。ボタンひとつかけるのにもいつもの倍の時間が必要 だった。綺麗に巻かれた包帯を見て、その白さと佐伯の白衣の姿が重なる。ちょっと自分も言いすぎたかな……、そう考え、少し反省した。 
 
先程誘った信二は店ではまだ新米ホストではあるが、晶に懐いており、晶もまた後輩として可愛がっている一人である。見た目はクールに見える正統派のイケ メンだが、性格は全くクールではなく、話し好きで愛嬌もある。そのギャップがいいと最近は結構人気もあり指名もそこそこ取れるようになってきたのを晶も嬉 しく思っていた。 
 
先に店を出た晶の後を、少し遅れて信二が走って追いかけてくる。ビルを出て西麻布の駅近辺の人通りが多い場所へ向かいながら、やっと隣に追いついた信二が晶の腕をマジマジとみて眉を顰めた。 
 
「やっぱり、……痛そうですよね、腕。完治するまで相当かかるんじゃ?」 
「あぁー、どうだろうな。そうでもないと思うけど。まっ!そのうち治るっしょ」 
「先輩、相変わらず、楽観的ですね。凄いなぁ」 
「今の別に感心するようなとこじゃないだろ」 
 
隣の信二が妙な所で感心しているのを見て晶も思わず苦笑する。信二はちょっと心配なぐらい素直な性格なのだ。いい客ばかりではないので、いつか客に騙さ れてしまったりするんじゃないかと時々ひやひやする事もあるくらいだ。気さくな性格なのは良い事だが、誰にでもすぐ気を許すのはホストとして少し危険であ る。 
そんな事を考えていると、信二が突然真面目な顔をして歩きながら晶の顔を覗き込んだ。 
 
「あの、晶先輩。ひとつ聞いてもいいですか?」 
「んー?何?」 
「晶先輩くらいのホストになっても、やっぱキャッチとかってするもんなんですかね?」 
「どうしたんだよ、急に」 
晶は笑いながら隣に歩く信二を見る。 
「いや、だって。他の店だと普通キャッチって新入りがするもんなんでしょう?」 
「まぁ、そういう店もあるかな」 
「ですよね?」 
 
確かに信二の言っている事は間違ってはいない。他のホストクラブではNo1ホスト自らが出向いてキャッチをする事はあまりないし、そういうのは新人が勉強の為にやる事が多いのだ。晶は歩く速度を少し緩めると口を開く。 
 
「なぁ、信二。俺はさ、今は運良くNO1はってっけど……こんなのって脆いもんじゃん、だろ?」 
「はぁ……まぁ……そう、なんですかね」 
「やっぱさ、ホストになったからには辞めるまでトップにいてぇじゃん。その為には現状で満足してちゃダメだなって思うわけ」 
「……なるほど」 
「No1だからしなくていいなんて事はひとつもなくてさ、何でもやった方がいいに決まってる。だから俺はキャッチもする。そういう基本的な事って大事な事だからさ。何もしないで後で後悔するの嫌じゃね?」 
なんて、ちょっと説教くさかったかな。と晶が付け足すと、信二は急に立ち止まって何度も頷いた。 
「やっぱり……晶先輩はすごいっすよ!俺も晶先輩みたいになれるように頑張ります!」 
 
敬礼しそうな勢いで返事を返す信二の声の大きさに、隣を通り過ぎる人が怪訝な顔で振り返る。晶は訝しむ通行人に愛想笑いを返して信二の背中を小さくはたいた。 
 
「信二、声でかすぎ」 
「うわ、すみません」 
 
恥ずかしそうに小声に変える信二が可愛くて晶はその肩に手をまわし内緒話のように耳元で囁く。 
 
「頑張るのは良いけどさ、NO1狙うのは俺が辞めてからにしてくれよな」 
「えぇ?じゃぁ、いつまで経ってもNO1にはなれないじゃないですか」 
信二がわざと困ったように肩を落とす。 
「まっ、そういう事になるかな」 
 
晶は信二の背中をポンポンと叩くと、おかしそうに笑い歩くスピードをまた早める。自分がNo1をはっていられる時間は年齢的にもきっとそう長くはないだ ろう。自分が現役から退いた後は、自分が育てたホストに何の心配も無く受け継いで貰いたい。そう願っていた。今は後輩達を育てるのも重要な自分の役目なの だ。 
 
いつものキャッチをする場所に到着すると、晶と信二は早速街ゆく女性に声をかけていた。会話の途中、怪我をしている事に触れられれば、それもネタにして店へと誘う。 
「君みたいな可愛い子と一緒に遊ぶと怪我も早く治るって医者に言われててさ」 
晶の言う冗談に笑いながら突っ込んでくれる女の子達に携帯の番号をさりげなく聞き出し、名刺を渡す。勿論名刺の裏にちゃんと二号店の住所も書いてある。 「少し歩くけど、場所わかんなかったら俺駅まで迎えに行くしさ。また会いたいから電話していいよね?」晶が最後にそういって微笑めば何人かの女の子は満更 でもないようにOKサインを出してくれた。 
 
暫くして信二に声をかけ、成功数を聞き出す。 
今日は運が良く、二人で結構な数のキャッチに成功していた。大成功とも言える今日のキャッチをそろそろ切り上げようとしたその時、晶は前方に見える人影に一瞬顔を曇らせた。 
その変化は小さな物だったのだが、信二が目ざとく気付いて声をかける。 
 
「先輩?どうかしましたか?」 
 
不思議そうに晶の見ている方へと視線を向けた信二の視界には、何も変わった様子のないいつもと同じ駅前の街並みが映っているだけだった。 
 
「いや……何でもねぇよ……」 
 
晶の視線のずっと先には佐伯が歩いていた。スラリとした長身にあの髪の長さは遠目でも十分に目を引く。見間違うはずもなかった。白衣を脱いだ佐伯はスー ツ姿だったせいもあり、とても医者には見えない。何か聞かれているのか時々口を開き、面倒そうに眼鏡を押し上げているその指先の動きから何故か目が離せな かった。それはほんの数秒の出来事。すぐに佐伯もこちらに気付いた様子で、一瞬視線が交わる。晶はゆっくり視線を外すとくるりと背を向けた。 
 
「……さて!そろそろ店に戻って一度家に帰るとするかな!」 
 
向いていた方向とは逆方向に晶が歩き出す。店の方向とも違う方向に進む晶に信二も慌てて後を追う。 
 
「晶先輩、遠回りして帰るんですか?」 
「そ、たまには散歩もいいっしょ」 
 
佐伯は女性と腕を組んで歩いていた。厳密に言えば、腕を組んでいると言うよりポケットに手を突っ込んでいる佐伯に、女性が勝手に腕を回しているといった 体。とても、恋人同士の楽しそうなデートとは言い難い雰囲気である。何となく見てはいけない物を見てしまった後味の悪さを感じ、晶は自分の視力がいい事を 後悔していた。