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check inはPM10:20

ホテルの廊下をゆっくりと歩く
ポケットにはCardkeyとFahrenheitのラストノート
宗司は職務中にはきちんと結んであった少し茶色がかった長い髪を歩きながらほどく
ホテルの廊下を歩く宗司の背中にはらりと髪が靡いてはおちていった

絨毯の敷き詰められた廊下は硬質な革靴のかかとをいくらか埋もれさせ
足音の響かない空間を作り出す
つきあたりまで進んで小さく作られているガラス窓から吹き抜けのロビーを見下ろしてみた
メインロビーの天井にかかる目映いシャンデリアが今は目の前にある
クリスタルのひとつひとつが光を反射して
ガラス越しに宗司のスーツに虹色の光を映りこませていた
宗司は袖から延びた腕にある腕時計をちらりと見
その後、目の前のドアに鍵を滑らせた
赤から緑へと電子ロックが変わり、ドアが抵抗もなく開く
後ろ手で鍵をかけ部屋の中へとすすむと、すでに来ていた颯斗が窓際に立っていた


「遅刻だぜ?」
「……馬鹿いえ、
5分前だろ」


10:30に約束をしていたが時計はまだ30分よりは数分早い
宗司が苦笑してスーツの上着を手近にあるベッドへと置くと
颯斗が意味深な笑いを浮かべて宗司の側へと来た


「髪……、おろしてきたのか?」
「いや……、さっきな。廊下でほどいただけだ」


颯斗の指が宗司の髪を絡めるように弄ぶ
指が髪に絡むたびに微かに香る宗司の香りはまるで媚薬のようだった
部屋の明かりはサイドデスクのorangeだけ
冷房のきいたよく冷えた部屋で
二人は共有の時間を味わう


「どうする?」
「取りあえず。一杯やるか……」


部屋の隅に備え付けられているバーカウンターへと向かうと
ネクタイを緩めて颯斗が腰を下ろした
最初からの決めごとのように宗司はカウンターの中へと入っていき
知り尽くしている颯斗の口に合うカクテルを手早く作る
ステアしてカクテルグラスに注ぐ手付きも慣れたものだった
黒の大理石のカウンターにグラスを置くと
作りたてのカクテルを静かに注ぐ
波だったグラスの酒が凪いで静かになると宗司はすっとグラスを颯斗へと寄せた


「宗司、会社やめてバーテンにでもなれそうだな」
「……冗談」
「何でだ?いいじゃないか」
「俺はお前意外に酒を作る気はないからな」
「……なに?口説いてんの?」
「口説いて欲しいんだろう?」


いつも繰り返す会話は、言葉遊びのように意味をもたない
ぎりぎりまで相手をひきつけて そのままその先はないのだ
颯斗が琥珀色のカクテルに手を伸ばす
GoldenGloryという名前通りライトに反射して光を落とすそれは
オレンジ・ピールの甘い香りを部屋に満たした


宗司も自分で好きなカクテルをさっと作るとグラスを持ち上げた


「それじゃ、乾杯といくか」
「何にだ?」
「昨日までの俺達に」
「フン……、いいだろう」


グラスの触れる軽い音がすぐにかき消される
ラジオから流れているのはwynton kellyのKELLY BLUE
少し音の悪いラジオなだけに時々入るノイズが混じりアナログ盤のような音がしていた
冷えたカクテルを喉に流し込むと胃のあたりまでがすっと冷たくなる
宗司の作るカクテルはアルコール量を多めに作っているらしく
冷たいのに熱いという不思議な感じを味わうことができる
颯斗以外には酒を作る気はないという宗司が、ふと思い出したようにカウンターに体を傾ける


「颯斗 知ってるか?ウィスキーを美味しくさせるのは天使の仕業だそうだ」
「ん?いや、初めてきいた 何だか随分とロマンチックだな でも何でだ?」
「貯蔵庫に寝かせておくあいだに蒸散するウイスキーの事をAngels’ shareというんだが」
「Angels’ share?天使の分け前って事か?」
「あぁ、そうだ。寝かせてるウィスキーを頂く変わりに、酒がうまくなる魔法をかけるって事らしい」
「なるほどな……、魔法、……ね」
「おかしいか?俺がこんな事言うのは」
「いいんじゃないのか?悪くないぜ、じゃぁ……、その天使様とやらに感謝しないとな」
「あぁ」


もう一度高くグラスをあわせる
何気なくすぎていく二人の時間





10000万秒の一瞬…………。





くわえたままの煙草がジジッと音を立てて灰を落とす
互いに煙を出し切ったあと、颯斗が徐に腰をあげた


「そろそろ、始めるか」
「あぁ」


颯斗は置いてあったグラスの中の少し溶けている氷を長い指でひとつ掴んだ
バランスを失った残りの氷がカランと音をたてて沈む
ボタンを自ら外しながら宗司はしまった躯を颯斗の前へとさらけ出した
滑らかな浮き出た鎖骨に颯斗は氷を掴んだまま舌を這わす
そのまま氷を宗司の胸へとつけると愛撫のように動かす
ゆっくりと滴る雫が颯斗の腕をつたって滑り落ち絨毯へと落ちていく

氷は少しづつ胸の熱で溶け出していき
当てられた宗司の乳首は敏感に尖って冷たさに感覚を失っていった
宗司の口から声にならない微かな吐息が溢れる


「……んっ……」
「感じたか?冷たくて気持いいだろ」
「……まぁな」


向かい合って立つ二人の姿が部屋の大きな鏡へと映っていた
宗司は壁に背をもたせながら
思い出したように顔をあげて鏡に写った颯斗を見ながら問いかける


「初めて煙草をすった時の事覚えているか?」
「あぁ、覚えてるぜ。俺は親父が吸ってるのを隠れて吸ったんだ。でもそん時は凄い不味くてな」
「今はこんなに美味しい。何でだと思う?」
「何だろうな。慣れって……やつか?」
「いや、そうじゃない」


そこまで聞いた後、宗司が颯斗の耳元に濡れた口づけをした
颯斗が横目で宗司をちらりと見る
薄く微笑んだまま宗司はこういった


「癖だ……、癖になったから美味く感じるのさ。煙草も……、な……」
「…………お前、誘ってんの?」
「もちろん……」


そう言って宗司は少し顔をあげた
口付けは互いの唇の熱を奪うように続き
颯斗の舌が宗司の歯列を割って押し入ってくる
指で掴んでいた氷は全部溶けきって
宗司の何も身に付けて無い上半身の胸を艶やかに濡らしていた

これからする事を心から楽しむような焦らされた時間
互いの舌に舌を絡ませ唾液で濡れた唇は離れる事はない
鏡にうつる情景はもう一つの欲望にも似ていて
感覚のなくなった宗司の乳首は氷で芯から冷えて疼いた

颯斗が口付けを解いてニードルをつまみ上げる


「じゃぁ……、いいな?宗司」
「あぁ」
「リラックスしとけよ」
「わかってる」


飲みかけの純度の高いアルコールにニードルを浸して消毒する
銀色の針は切っ先を冷たく光らせ卑猥な色をうつした
感覚のなくなった宗司の冷たい乳首を颯斗が指で捻りあげる
なくなったはずの感覚でさえ覚醒するような痛みが宗司を支配していた


「一気にいくぞ。舌かむなよ」


左手で固定しながらニードルを近づける
鋭いニードルの先が宗司の冷たい乳首に食い込む
宗司は一瞬、眉根をよせて苦悶の表情を浮かべ息を詰めた


「…………っ…………ッ」


宗司の喉仏がゴクリと唾を飲みこみ、白い首筋が上下に揺れて長い髪が前へとこぼれ落ちた
一気に貫かれた乳首からうっすらと血が滲む
颯斗は舌先で傷口を舐めて空いた手で銀色のリングを掴んだ
飾り気のないシンプルなそのピアスはわざと輝きを燻してあって鈍い色をしている
開けたばかりのホールにリング状のピアスをぐっと差し込んだ
金属が傷口を擦る痛みが宗司の痛覚をいたぶる
しかし、宗司は満足げに微笑んでいた


「痛かったか?」
「……、あぁ……。死にそうにな」
「イきそうだの間違いだろ?」


颯斗が笑ってそういったので、宗司も笑い返した
痛みよりこの駆け引きの快感の方がまさってしまう自分は
どこかが麻痺しているのではないかと思ってしまう
颯斗からニードルを受け取ると宗司も同じようにアルコールに切っ先を浸した
氷をとろうとグラスに浸した指が颯斗に掴まれる


「冷やさなくていい……、このまま一気にやってくれ」
「……正気か……?」
「あぁ、面倒臭いのは嫌いなんだ」
「……フッ、知らないぞ」
「構わない」


颯斗の熱い乳首に一気にニードルが容赦なく刺さる
普通の大人なら激痛にたえられないほどの痛みにも颯斗は声ひとつたてない
それが少しだけ悔しくて宗司はぐいとニードルの角度を変えた
さすがに颯斗は食いしばった歯をギリッとならし大きく息を吐く
素早くニードルを抜き去ると宗司はもうひとつのリングをはめた


「これで……、お揃いだな、宗司」
「…………あぁ、……趣味の悪いペアルックだ」
「誰にもみせんじゃないぜ」
「お前もな」


互いが繋がっている証が欲しくて揃いのピアスをしようといいだしたのは颯斗だった
あまり会う時間がない代わりに会うと必ずどちらかが気を失うまで繰り返すSEX
言葉の代わりに交わす激情にも似た愛撫は回を重ねるたびに濃厚になっていき
独占欲で狂いそうになる
そんな感情を形で残したいというのが颯斗の希望らしい
宗司は嬉しかった
独占欲を理性でおさえているのは自分だけかとずっと思っていたのだ
だからひとつ返事でOKを出した
ピアスを感じるたびに思い出すだろう颯斗の事が愛しくて堪らない
Yシャツの中で擦られるたびにきっと焦れた快感を求めたくなるだろう
颯斗もまた自分と同じなのだという事が一層宗司を喜ばせた


いつもより感度の高くなったそれは今も窮屈にスラックスの中で容積を増している
颯斗のそれも同じでまだ疼く胸のピアスが触れ合うようにきつく抱き合った
胸のリングが軽い音をたてる
その度に屹立の先から滴が溢れ下着がまとわりついた
整えられたベッドの上に移動するのももどかしく感じるほどに
せわしなく相手のスラックスのベルトに手を伸ばす
かちゃかちゃと金属のなる音がして、その後ファスナーがおろされる
支えのなくなったスラックスはばさりと音を立てて床に落下し
そのまま下着も一気にとりさった
張りつめた屹立が直接擦れあう
熱いそれが擦れる刺激で、声があがりそうになるのを噛み殺して宗司がニヒルな笑みを零す
颯斗のピアスに口付けすると見上げるように顔を上げた




「颯斗……、俺を抱きたいって言ったらどうだ」


「お前こそ……、抱いて欲しいって言えよ……。宗司」




全ては颯斗の物で
全ては宗司の物だった

宗司は、抱いてくれと言う言葉の代わりに颯斗の背中に爪痕を残した
GAMEははじまったばかりなのだから










END