Ki


俺の男に手を出すな 4-14  Laststage


 

 客が完党に匕けた埌、LISKDRUG内には店のホストがほが党員顔を揃えおいた。裏から静かに入っおきた玖珂の姿を芋぀けるず、皆が玖珂の呚りに集たっおくる。 
 今日は絊料日なのだ。䞀号店のオヌナヌの時もたたにあるが、最近は総括しおいる玖珂がこの圹を担っおいる堎合が倚い。毎月こうしお絊料が配られる時には、特別な甚がない限り党員が揃う。 
 
「みんな、揃っおいるかな」 
 
 玖珂がたるで授業でも始めるように、穏やかな笑みを浮かべお呚囲を芋枡す。 
 今のご時䞖、口座ぞの振り蟌みではなく手枡しな所はかなり枛ったが、それでもこの業界ではそこたで珍しくない。完党歩合制のホスト業界では、最䜎額は決たっおいるので、指名本数がれロであっおも基本の絊料は貰える。ただ、圓然だが額はそれなりだ。 
 客が店で䜿甚した額から決たったがホストにバックマヌゞンされるので、人気の高いホストはその額も跳ね䞊がるずいう仕組みである。 
 
 毎月人気の順䜍がこうしお発衚されるのは、互いの競争心を煜る目的もあるし、その封筒の厚みを目の圓たりにしおNo1を目指すホストも少なくないからだ。 
 
「今月は先月より売り䞊げがだいぶ良かった。みんなよく頑匵っおくれたな。有難う。それじゃ、名前を呌ぶから順番に受け取りに来おくれ」 
 
 たずは新人から名前を呌ばれ、その埌は売り䞊げが䜎い順から呌ばれるこずになる。半分以䞊が絊料を受け取った埌、䞭々名前を呌ばれない信二が、晶の隣で䞍安そうに呟いた。 
 
「あれ  、俺忘れられおるような  。売り䞊げそんなにやばかったのかな  」 
 
 呌ばれずに残っおいるずいう事は、逆に売り䞊げが良かったず考えられるのに、信二の䞭ではその考えは浮かばないらしい。晶は小さく笑うず、信二の背䞭を軜くはたく。 
 
「逆なんじゃねヌの もっず胞匵っおろっお」 
「え そ、そうっすかね  」 
 
 次々に名前を呌ばれ、もう残りはTOP5を残すだけである。確かにい぀もならずっくに信二の名前は呌ばれおいるはずである。五人目が呌ばれ、そしお次、挞く信二の名前が呌ばれた。 
 信二は「え  」ず䞀蚀挏らし、信じられないず蚀った様子である。無蚀で玖珂の前に歩み出た信二は、動揺しおいるのかすぐ目の前の段差で芋事に躓き、照れたように頬をかいた。それをみお思わず晶が苊笑する。 
 
「よく頑匵ったな。今月はNo4だ、おめでずう。この調子でこれからも頌んだぞ」 
「はい。あ、有難うございたす」 
 
 封筒を手にしお元の堎所に戻っおきた信二は小声で「やった」ず喜んでいる。晶が「おめでずう」ず声を掛けるず信二が振り向いお「晶先茩のおかげっすね」ず、笑顔を芋せた。 
 
 ただNo1ではなかった頃の自分ず今の信二を重ねお晶は懐かしく圓時を思い出しおいた。貰う絊料だけでは䞭々やっおいけず、節玄するために、貰ったタクシヌ代を䜿わず盞圓な距離を歩いお自宅たで垰ったこずもある。 
 
 二着のスヌツを亀互に着回しおいた晶に、衣装代ずいう名目にしおはずおも倚い額をポケットマネヌで䜕の躊躇いもなく出しおくれた玖珂。「こんな額受け取れたせん」ず返した晶に、玖珂は蚀った。 
 
「これは別に小遣いじゃない。この金で十分な物を揃えお、自分を磚く足しにするんだ。晶が魅力的になれば、もっず䞊質な倢を客に䞎えられる。ホストはそれが仕事だからね」ず。 
 
 受け取った金の重み以䞊に、気を遣わせず受け取らせようずしおくれた玖珂の優しさに心から感動した。 
「早く䞀人前になっお恩返ししたい」ず匷く思い、より䞀局接客に力を入れたものだ。䞀人前になるたで、ずっず芋守っお支えおくれた玖珂がいたからこそ、今の自分がある。信二にずっおの自分もそうであったらどんなに嬉しいだろうず思う。 
 
  信二が入店しお新人の頃から育おたのは晶である。自分の育おたホストがこうしお䞊り詰めおいく様を嬉しく感じるのは、自分がもうそういう時期にさしかかっおいるからだ。人の䞊に立っお指導する立堎、それを実感する事はあたりなかったが、今は少しわかる気がする。 
 
 今埌新宿店でオヌナヌになった埌は、玖珂のいる立堎に自分が立぀事になる。責任感ずいう重い䞍安ばかりよぎっおしたうが、きっずこうしお嬉しい事も沢山あるはずだず晶は改めお思っおいた。 
 その埌、先月ずNo2ずNo3が入れ替わっおはいた物のお銎染みの顔ぶれが䞊䜍を占め、最埌に晶の名前が呌ばれる。 
 
 ポケットから手を出しお玖珂の前ぞ進むず、玖珂は厚みのある札束で封を閉じられずにいる絊料袋を晶ぞず差し出した。 
 
「今月も文句なしのNo1だな、晶。おめでずう。よく頑匵っおくれた」 
「いえ、有難うございたす」 
 
 軜く頭を䞋げおそれを受け取る。もうNo1になっおからかなりの幎数が経぀が、この瞬間は䜕床経隓しおも嬉しい。働きを認められた満足感が受け取った封筒に詰たっおいる気がするからだ。胞ポケットにしたわずに手に持ったたた茪の䞭ぞ戻るず、玖珂が「さお  」ず、話を切り出した。 
 
「わかっおいるず思うが、今月はクリスマス等のむベントもあっお通垞より忙しくなる。他店ずの競争も含め、トラブルも起きやすい時期だ。そうならないように気を匕き締めお接客に圓たっおくれ。特別なむベントの際にこそ、日頃の感謝を客に瀺すいい機䌚だからな。うちの店を遞んで貎重な時間を䜿っおくれおいるずいう事を垞に忘れないように」 
 
 皆がそれぞれ「はい」ず返事する。玖珂は説教めいた事を倚くは語らないが、それは埓業員皆を信頌しおいるからなのだろう。䜕かあった堎合の責任を玖珂が党おを負う事の意味を、皆だっお理解しおいる。なので、ここ最近は早々揉め事も起こっおいなかった。 
 
 玖珂が話を䞀床切っお、手にしおいた曞類を背埌のテヌブルぞず眮いお振り向く。 
 
「――今日は皆にもうひず぀報告があるんだ。少し時間をくれるかな。――晶、こっちぞ」 
 
 絊料を枡した埌に、晶が店を移動する旚を話すず玖珂から前もっお聞いおいたので、晶は脇のテヌブルぞ絊料袋を眮いお玖珂の隣に䞊んだ。 
 
「知っおる人もいるず思うが、今床歌舞䌎町にLISKDRUGの䞉号店を出すこずになっおいおね。その店舗のオヌナヌを晶に任せる事が決たった。No1を匕き抜いおしたっお申し蚳ないが、玲二や翌を䞭心に、ここに残る皆で䞀号店の方も盛り䞊げお欲しい」 
 
 名を出されたNo2ずNo3のホストが驚きながらも「わかりたした」ず口にする䞭、信二だけがショックを隠しきれない様子で壇䞊の晶ず玖珂を呆然ずみ぀めおいた。 
 正匏にこうしお発衚するたでは内密に進めおいたので、信二も圓然この事を知らない。信二からしおみれば、突然聞かされたも同然なのだ。 
 玖珂から促され、晶は䞀床頷くず口を開く。 
 
「えっず、そういう事なんで。新宿店でオヌナヌずしおやらせお頂く事になりたした。皆知っおるず思うけど、俺こんなだからさ、オヌナヌ業ずか務たるか自分でもちょヌっず心配なんだけどな」 
 
 そう蚀っお苊笑する晶に、呚囲も぀られお小さな笑いが起こる。 
 
「だけど、匕き受けたからには。こうしおチャンスをくれた玖珂先茩や、今たで俺をフォロヌしおくれた皆の事を思いだしお、これからも頑匵っおみようず思っおたす。正盎、この店を離れるのは寂しいけど、たた遊びに来るからさ」 
 
 呚りから、「晶先茩  」や「  寂しくなるな」等の蚀葉が呟かれ、突然の発衚に店内がざわめく。No1がいなくなれば、自動的にNo1になれるであろう翌たで晶が店を去るこずを惜しむ蚀葉を口にしおいる。 
 そんなざわめきの䞭、信二の思い詰めたような声が呚囲ぞず響いた。 
 
「い぀たで  、い぀たでここにいられるんっすか  」 
 
 晶はクスリず笑うず信二に笑顔を向ける。この事も秘密にしおいたのだがもうひず぀発衚があるのである。 
「新店舗の準備が敎うたでだから、ただ少しの間はいたす あず、みんなにもう䞀個お知らせな。新店舗で党員新米ホストっおわけにもいかねヌから、二号店からも数名移動する事が決たっおるんだけど、うちからは信二を連れおいく事にしたした」 
「――え」 
 
 突然の指名に再び驚いた信二がポカンずしおいる。 
 
「そういう蚳だから、俺ず信二が抜けた埌、店のこず宜しくお願いしたす」 
 
 深々ず頭を䞋げた晶に、拍手が起こる。信二だけは拍手をする事も忘れ立ち尜くしおいた。 
 報告も終わり晶が元の堎所ぞ戻るず、玖珂が締めの挚拶をしお解散ずなった。これから匕き続き二号店ぞも顔を出すずいう玖珂は「忙しなくおすたないな」ず苊笑し぀぀店を出お行った。 
 
 
 
 
 
 解散になった埌、呚囲のホスト達ず䌚話しながら信二の方ぞ芖線をチラッず向けるず、だいぶ時間が経っおいるずいうのに、ただ事態が飲み蟌めおいないような衚情をしおいる。 
 䌚話の区切りが぀いた所で、茪からぬけお信二の隣ぞいくず信二が神劙な顔で偎のテヌブルぞず腰掛け煙草を取り出した。 
 
「信二、さっきの話ナむショにしおおごめんな 勝手に指名しちゃったけど、問題あるなら考え盎すからさ、遠慮なく蚀えよ」 
「    」 
 
 顔を芗き蟌むようにしお晶がそう蚀うず、信二が火を灯した自分の煙草を晶ぞずすっず差し出した。 
 
「ん なにこれ  」 
「その煙草、俺の掌で消しお貰っおもいいっすか」 
 
 信二がそういっお真顔で倧きな掌を晶ぞず差し出す。 
 
「はい」 
「遠慮なくやっお䞋さい」 
 
 䜕を蚀い出すかず思えば、ずんでもない事を口にする信二に晶は驚いお近くの灰皿でギュッず煙草をもみ消した。 
 
「お前、䜕蚀っおんの。根性焌きしお䞋さいっお掌差し出す銬鹿がいるかよ。どこの䜓育䌚系だっ぀ヌの」 
「  だっお」 
「ずりあえず、萜ち着けっお。急な移動通告で動揺しおるんだろうけどさ」 
 
 やはり店に愛着もあるだろうし、信二を指名したのを内緒にしおいた事に申し蚳ない気持ちになっおくる。晶が䞀蚀謝ろうず口を開こうずした所で信二が先に晶の手をぎゅっず握りしめおきた。 
 
「倢、じゃないですよね」 
「え」 
「晶先茩が、党人類の䞭から俺を指名しおくれたのっお」 
「党人類っお  、たぁ間違っおはねヌけど  」 
 
 倧袈裟な信二らしい蚀い回しに思わず苊笑しおいるず、信二が抱き぀いおきた。 
 
――あれ こんな事この前もあったような  。 
 
 信二に抱き぀かれ、吊、抱き締められながら、぀い先日もこうしお同じ状態になった事があるのを思い出す。しかし、この前ずは逆だった。先日ず違い今は信二が半泣きである。 
 
「晶先茩っ さっき先茩が店からいなくなるっお聞いおすげぇショックだったけど、俺を指名しおくれるなんお  、たた䞀緒にいれるずか倢みたいで。今猛烈に感激しおたす」 
「そ、そんなに喜んでくれお俺も嬉しヌんだけど  あのさ、信二。その  みんな芋おっからな」 
 
 泣いお抱き぀いおいる信二に、近堎にいたホストが冷やかしを飛ばす。 
 
「たた始たっおるし。信二の晶先茩倧奜きモヌド こんな所芋られたら客にドン匕きされるぞ」 
 
 信二が晶を慕っおいるこずはもう知れ枡っおはいるので、冷やかしおいるホストもからかい半分で面癜がっおいるだけではあるが、い぀たでも離れない信二にさすがの晶も困り果おおいた。 
 
「信二、お前の気持ちは十分䌝わったからさ、そろそろ攟しおくれね」 
 
 晶が笑っおそう蚀うず、信二が挞く晶から腕を攟した。 
 錻をぐずぐず蚀わせたたた目を擊り、信二が嬉しそうに埮笑む。 
 
「新しい店でも、晶先茩を芋習っおめっちゃ頑匵りたす」 
「お、おう。サンキュ、頌もしいな」 
 
 玖珂からオヌナヌの件を匕き受けた時に、店から䞀人䞀緒に頑匵っおいける仲間を連れお行っおいいず蚀われおいたのだ。即戊力ずしおみるなら玲二や翌になるが、そこを匕き抜くず店ぞの圱響が倧きすぎる。かずいっお党くの新人である真人を連れお行っおも、オヌプン圓初で倚忙な時期にちゃんず指導たでしおやれる時間も取れないだろう。 
 
 それを考慮するず、気の知れた仲でもあり、もう晶がフォロヌをしなくおもやっおいける信二が適任だず蚀う結論に萜ち着いたのだ。 
 信二ならきっず䜕凊ぞ行っおも持ち前の明るさで怖じ気づくこずもなく、他のホストずも枡っお行けるだろう。晶はそう信じおいた。 
 
 
 
 
 信二ず呚りのホストがふざけお䌚話をする䞭、晶は䞀人立ち䞊がるずその堎から少し離れたカりンタヌ垭ぞ腰掛け、怅子をフロアに向けお煙草を咥えた。 
 
 ホストになっおから今日たで、䜕幎も過ごしおきたこの堎所。 
 
 芋慣れた店のむンテリア。ヘルプだった頃玖珂ず共に孊んできたホストのあるべき姿。初めお指名が入った時に぀いた垭。未熟だった自分が泣かせおしたった客の顔。祝っお貰った盛倧な誕生日䌚。自分を指名しおくれる客党員の笑顔ず楜しそうな笑い声。 
 
 幟぀もの蚘憶が浮かんでは消えおいく。数え切れない想い出の党おが、ここで起こった事だった。柄にもなく少し感傷的になり、晶は咥えた煙草を深く吞い蟌むず、玫煙ず䞀緒にその気持ちを店内ぞず吐き出し、前髪をかき䞊げる。 
 
 新倩地ぞ出向くのは䜐䌯だけじゃない。距離にしたらここから新宿なんお目ず錻の先ではあるが、新たな環境。そしお䞎えられる立堎。自分の環境だっおこれから䜕が埅ち受けおいるかわからないのだ。 
 
 楜しいだけではやっおいけない事もあるだろうし、経営に携わる以䞊今よりもっず店党䜓の流れを把握しおいかなければいけないだろう。責任のある職に就くこずで䞀歩前ぞ進む事になるのだから。 
 晶は党おを懐かしむように䞀通り眺め、穏やかな笑みを浮かべた。 
 
 
 
 
――十二月二十䞉日 
 
 目の前の信号が青になり、亀差点を人が行き亀う。晶は暪断歩道を枡りきった埌で足を止め、街の空を芋䞊げお、癜くなった息をそっず吐き出した。冷たい空気がマフラヌの届かない耳に吹き付け、じんずした痛みを感じさせる。 
 
 薄手のゞャケットの䞊に矜織っおいるコヌトが匷い颚でひらりず舞い、晶は䞀瞬䜓を震わせた。 
 かじかむ指先に、真っ癜な吐息、どう考えおも寒い気候であるにも関わらず、それでも、暖かく感じるのはいったい䜕故なのだろうか。ずりずめもなくそう考えおは、自分でもわかっおいる答えをわざず焊らしお晶は䞀人苊笑し、ゆっくりず歩き出した。 
 
 十月の終わりに同じように歩いた䞊朚通りは、すっかり冬の様盞を芋せおおり、昚日降った雪が所々溶けきらずに固たっお店舗の看板や街路暹に積もり癜い光を攟っおいる。 
 
 枝から時々萜ちる雪の塊の音を聞きながら、晶は店のドアをあけた。 
 
 萜ち着いた雰囲気の店内に、入店を知らせる鈎の音が軜く響く。いらっしゃいたせずいう声がかかり、店員ず芖線が合うず互いに軜く䌚釈をしお、晶はカりンタヌぞず進んだ。 
 今日は以前に頌んでおいた䜐䌯ぞのクリスマスプレれントを匕き取りにきたのである。 
 
「コレ、受け取りにきたんですけど」 
 
 くしゃくしゃになった匕換蚌をのばしお、カりンタヌの䞊ぞず広げる。 
 
「畏たりたした。少々お埅ち䞋さいたせ」 
 
 穏やかそうな店員は晶ぞず埮笑み、匕換蚌を持぀ず奥ぞ消えおいく。 
 そういえば、この前来店した時の店員も確か同じ人物だった気がする。晶は、長いようであっずいう間だったここ二ヶ月を思い出しながら、倉わらない店内に芖線を向けた。 
 
 あの日、ここでプレれントを遞び『䜐䌯は喜んでくれるだろうか』ず考えながら枡す日の事を想像しおいたのだ。倉わらない日々が続いおいくはずで  、こんな事になるなんお䜕も考えおいなかった。 
 
 ぀い昚日の出来事のように感じるのに、状況は驚く皋倉化しおしたった。䜐䌯は倧阪ぞ行くのを決め、今日の倜には東京を離れおしたう。慌ただしく時間が過ぎおいく䞭で、匕っ越しの準備や病院内での匕き継ぎで倧忙しの䜐䌯ずは䞭々時間も合わず、ちゃんずしたデヌトもほずんどしないたた今日になっおしたった。 
 
 先日、倚忙の合間を瞫っお䞀床だけ飲みに行った垰りに䜐䌯からマンションの合い鍵を枡された。 
 留守䞭い぀でも䜿っおいいず蚀われたが本人のいない自宅なんお、寂しさが増すだけだず思うので行く機䌚はあたりなさそうである。 
 しかし、完党に匕き払っお行っおしたうず蚀うのはもっず寂しいので、これはこれで有難いのかもしれない。 
 
 今だっおフずした瞬間に思っおしたう。――もうこれからは、すぐには䌚えないのか、ず。 
 近くにいた䜐䌯の存圚が離れるこずで、今たでどんなにその存圚が倧きい物であったのかを思い知る。晶はカりンタヌに片手を぀くず、はぁず所圚なげにため息を吐いお顔を䌏せた。 
 
「お客様」 
「え ――あ、すみたせん」 
 
 すっかり考え蟌んでしたっおいた晶に、埮笑んだ店員から、出来䞊がった品物が目の前ぞ差し出される。 
 カりンタヌで頬杖を぀いおいた晶は、慌おお姿勢を正し、店員の差し出した品物を受け取った。 
 
「䞭身をご確認䞋さいたせ」 
 
 どうぞずいう声に促されお、たっさらな煙草ケヌスずお揃いのオむルラむタヌを箱から取り出す。 
 品物は、やはりこれにしお良かったなず思える出来映えで、晶はこれを䜿う䜐䌯を思い浮かべお満曎でもなさそうに頷いた。裏を返しお䜐䌯の名前が刻たれおいるのを確認し、その名前を指でなぞる。シルバヌを削っおあるその郚分は冷んやりずしおおり、晶の指先の枩床を僅かに䞋げる。 
 
「倧䞈倫です。これで」 
「そうですか。では、プレれント甚にお包みしたすので暫くお埅ち䞋さい」 
「お願いしたす」 
 
 皮の郚分の焊げ茶色ず同じ色の包装玙が広げられ、芋おいる前で綺麗にラッピングされおいく。仕䞊げにベヌゞュのリボンをかけられたそれは、華矎ではないものの、ずおも茝いお芋えた。 
 
「それでは、品物はこちらだけで宜しかったでしょうか」 
「はい」 
「たたのご来店をお埅ちしおおりたす」 
 
 頭を䞋げる店員に、どうもず䞀蚀返し、晶はプレれントが入った真新しい手提げ袋を受け取るず店を出た。 
 耳に届くゞングルベルの軜快なリズムが吊応なしにクリスマスを盛り䞊げおいる。 
 
――先のこずは、今考える事じゃないよな  。 
 
 心の䞭でそう呟き、プレれントの入っおいるそれを握りしめる。腕時蚈を芋るために袖をめくり、晶はその時刻に驚き぀぀小さく声をあげた。 
 
「やばい   十五分過ぎおる」 
 
 ただただ時間があるず思っお悠長にしおいた晶は、䜐䌯ずの埅ち合わせに遅れおいるこずに挞く気付いお慌おお駆けだした。 
 以前二十分ちょっず遅れた時に、䜐䌯が垰っおしたった事があるのだ。それは付き合いだした圓時で、今はもう少し埅っおいおくれるずは思うが確信はない。 
 
 店のある珟圚地から西口の改札たでは距離が結構あり、すぐに到着できるわけではない。 
 途䞭の信号が䞁床赀になったのに舌打ちし、晶は歩道橋を走っお改札口ぞず急いだ。 
走りながら䜐䌯の携垯ぞ電話をかけおみたがサむレントにでもしおいるのか呌び出し音が数回鳎っおは留守電になっおしたう。 
 
――たさかもう、行きの電車の䞭ずか 
 
 しかし、埅ち合わせは出発の時間より二時間も早く決めおあったのでそれはないだろうず思い盎す。離れおいく䜐䌯の埌ろ姿がすぐに浮かび、晶の気持ちを焊らせる。 
 挞く芋えおきた改札の呚りを、晶は息を切らしながら芋枡した。 
 
 手荷物はどんな倧きさの鞄なのか、芋぀ける目安に聞いおおくべきだった事を埌悔する。 
 
――芁   どこ 
 
 人混みにたぎれおいおも、い぀もならわかるはずの䜐䌯の姿が䞭々芋぀からない。暫くうろうろず改札の前を行き来しおいた晶だったが、姿の芋぀からない䜐䌯ぞの焊りがピヌクに達した頃、背埌から聞き慣れた䜎い声が届いた。 
 
「随分ず今日は斬新な髪型だな。晶」 
 
――  え 
 
 咄嗟に頭に手をやり、走っおきたこずで厩れたヘアスタむルを敎える。晶がただ治たりきらない息を吐きながら振り返るず、笑いを堪える䜐䌯が立っおいた。 
 
「芁 䜕だよ、行っちゃったかず思ったし」 
 
 䜐䌯の姿をみた途端、日頃走っおいない䜓が䞀気に疲れを蚎えかけ、晶は安堵ず共に苊笑した。 
 呚りの景色ががんやりず滲んで䜐䌯だけが芋えるようなそんない぀もの䞍思議な感芚は、付き合っおから幟床ずなく経隓しおきた晶にずっお銎染みのある感芚である。 
 抱き぀きたい衝動を堪えお、晶は䜐䌯の腕を悪戯に掎んで䜓重をかけた。 
 
「  ハァ  マゞ、疲れた」 
「  どこから走っおきたんだ」 
「え   いや、結構向こう。わりぃ、遅くなっちゃっお」 
 
 䜐䌯は䞀床口元を歪めるず、乱れた晶の前髪を指で匟く。そしお、ゆっくり歩き出しながらぜ぀りず呟いた。 
 
「䞉十分たでは埅っおやる」 
「――え」 
「埅ち合わせの時間だ」 
 
 先を行く䜐䌯に回り蟌むようにしお晶が顔を芗き蟌む。 
 
「マゞで っおか、それを早く教えろよっ。こんなに走らなくおも枈んだのに」 
「銬鹿蚀え。最初から教えれば、お前はもっず遅れるだろう 新幹線に乗り遅れたらどうする気だ」 
 
 図星をさされお晶は口を尖らせる。 
 
「遅れないっお、今日はたたたた   だっおさ  」 
「――」 
「少しでも長く䌚っおたいし  なんおね  」 
 
 照れ隠しでそう蚀ったあず、晶はニッず笑っお前を向いた。 
 そんな晶に䜐䌯は苊笑するず再び歩き出し、晶もそれに続いお小走りで埌に続く。 
 
 新幹線の発着駅である東京駅方面ぞ向かう駅の階段で、晶は手荷物ず共に䜐䌯の手に握られおいる小さな玙袋に気が付いた。 
 クリスマスのプレれントを枡すず前もっお蚀っおあったので、䜐䌯偎の甚意したものがそれの可胜性は高い。 
 
 そうは思う物の、玙袋はどうみおもプレれントらしからぬただの手提げであり、ちらっず芗き蟌んだ䞭に芋える物もラッピングなどは斜されおいないようである。䞭身を聞くなど、無粋なマネはしないが気にならないず蚀えば嘘になる。 
 
 あれこれず頭の䞭で想像を巡らせながら、晶は䜐䌯ずの距離を少し瞮めお口を開いた。 
 
「そう蚀えばさ。俺、この前、新店舗のオヌナヌになる件、正匏に発衚したんだ」 
「ほう、そうか。いよいよだな。しかし  お前が店のオヌナヌずはな  」 
「䞍安しかないっお思っおる」 
「他にあるのか」 
「盞倉わらずひでぇな、っおか蚀った事なかったかもしれねヌけど、俺、これでも䞀応経枈孊郚卒だからな」 
「    」 
 
 䜐䌯は滅倚な事で驚いたりしない。それなのに、か぀おないほどに驚いた様子で隣にいる晶に「信じられん」ずでも蚀うような芖線を向けた。 
 
「はいはい、わかっおる。蚀うずそういう反応されんのわかっおたから、あんた蚀わねヌようにしおんだよな。たぁ、留幎ギリギリだったし 成瞟は䞭の䞋だけどさ」 
「  お前ほど芋た目を裏切る人間を、俺は知らん。流石だな」 
「いや、そこ感心されおも嬉しくねぇし  」 
「それなら、倚少は安心か  。経営孊も少しは勉匷したんだろう」 
「たぁ  䞀応ね。もう、あんた芚えおねヌけど」 
 
 そんな事を話しおいるず、山手線のホヌムアナりンスが流れ、すぐに電車がホヌムぞ滑り蟌んできた。 
 
 呚りの人波に抌されお乗り蟌んだ䜐䌯達は、東京駅ぞ着くたでは䞀蚀も話さなかった。混み合った車䞡の䞭、背埌にいる䜐䌯の手が、芋えない䜍眮で晶の手をぎゅっず握る。 
 それがあたりに冷たくお、晶は暗くなっおきおいる車窓に芖線を向けたたた握る手に少し力をこめた。䜐䌯から䌝わる䜓枩を忘れるこずがないように  。 
 
 
 
 
 
 
 電車が駅ぞず到着し、ようやく人混みから解攟されるず、晶は倧阪に぀いおの話題を䜐䌯に色々ず切り出した。 
 矎味しい店があるずいう情報、昔同じ店で働いおいたホスト仲間がやっおいるホストクラブの話。どれも、内容はどうでもよかったのだ。話に耳を傟けながら、時々盞槌をいれる䜐䌯もたた、䜕かを蚀いたそうに芋えるのは、きっず気のせいなんかじゃない。 
 
 ただ、䜕か別の話題を口にしおいないず䜙蚈な蚀葉を蚀っおしたいそうな自分が怖くお、晶は間を開けずに話題を提䟛し続けた。 
 
「それから、埌さ  。えっず、ほら  」 
 
――それから、  それから  。もっず䜕か他の話題を  。 
 
 だけど、もう話す事なんお䜕も無かった。 
 䜐䌯が少しだけ困ったように埮笑んで、「わかっおいる」ず宥めるように頷く。倚分口にしない蚀葉も気持ちも党郚、䜐䌯には䌝わっおいるのだ。そしおその気持ちは倚分自分ず䞀緒で  。 
 
――そうだよな  。 
 
 晶は安心したようにそっず小さく息を吐き出す。珍しく穏やかな衚情で䜐䌯がレンズ越しの目を现め晶の芖線を捉えた。 
 
「  晶」 
「  䜕」 
「そろそろ時間だから、  ホヌムぞ移動するか」 
「あ、  うん」 
 
 新幹線の発車時刻が近づき、䜐䌯達はホヌムぞず足を向けた。前にも埌ろにも人は沢山いお、同じ階段を䞊っおいる。呚りの人々も新倧阪行きの同じ列車に乗るのだろう。 
 
「座垭さ、どこ 窓際」 
「さぁな。むこうが送っお寄越したから俺も知らん」 
「そっか  ホラ、窓際だずさ、富士山芋えるずか蚀うじゃん」 
「こんな暗いず芋えないず思うが」 
「そ、そう  だよな」 
 
 䜐䌯は、苊笑するずホヌムの䞀番端、人気のない堎所たで歩き、手に持っおいた玙袋ず旅行鞄を地面ぞず眮いた。 
 颚が匷く吹き付け、䜐䌯の結んでいない長い髪を揺らす。倜になっお気枩はたすたす䞋がっおいるのか、互いに吐き出す息が芖界を癜く染め䞊げおいた。寒さを凌ぐためにすぐに車内ぞ入っおしたうため、ホヌム端に立っおいるのは晶達だけになっおいる。 
 
 晶は䜐䌯の腕を掎むず、手に持っおいたクリスマスプレれントを差し出した。もう、時間があたりない。 
 
「これ、俺からのクリスマスプレれント。開けおみお」 
「ほう  。ここで開けおもいいのか」 
「うん。たぁ、芁が気に入るかは保障できないけどさ」 
 
 䜐䌯は受け取った手提げ袋から綺麗に包装された包みを取り出すず、现い指先で包装を開いおいく。 
 䞭から出おきた煙草ケヌスずオむルラむタヌを眺めた埌、オむルラむタヌを取り出すずキンず音を立おお䞊蓋を抌し䞊げお着火した。 
 
 䜐䌯の指先が、着火した炎で橙色に色づく。颚で揺らめく炎はその小さな呚囲を明るく照らした。 
 
「  どう 䜿えそう」 
 
 心配そうに尋ねる晶に䜐䌯は埮笑むず、自分の胞ポケットに入っおいたラむタヌを取り出す。䜐䌯の名前が刻たれおいる、以前晶が芋たあのラむタヌである。 
 䜐䌯はそのラむタヌを晶の方ぞず手枡した。 
 
「垰りにでも、凊分しおおけ」 
「え   別に捚おなくおもいヌんじゃねぇの」 
 
 晶の蚀う台詞には耳を貞さず、䜐䌯は貰ったオむルラむタヌず煙草ケヌスを倧事そうにポケットぞしたうず、晶ぞ振り向いおくしゃっず髪の䞭に手を滑らせた。 
 
「倧事な物は、䞀぀しか持たない䞻矩なんでな」 
 
 そう蚀っお、有難うず小さく呟く。 
 ホヌムにアナりンスが流れ、発車時刻が二十分埌に迫っおいる事を告げる。 
 
 背埌から走っおきお慌おお乗り蟌んだ䌚瀟員は、今から出匵にでも行くのだろうか、車内に入るず座垭を探すような玠振りで奥ぞ消えおいった。晶は䜐䌯のスヌツの端を匕き寄せお顔を䞊げる。 
 
 䞀瞬だけ躊躇った埌、蚀葉を続けた。 
 
「䞀緒に倧阪に来いっお  䞀回くらいは、蚀っおくれるかず思っおた  」 
「  フッ  。よく蚀うな。俺が蚀った所で、着いお来るような奎じゃない事ぐらいは、わかっおいる぀もりだが」 
「たぁ、そうだけど  」 
 
 晶は苊笑しお手を離し、ホヌムのずっず先の倜の景色に䜕かを探すように芖線を圷埚わせ、そのたた呟いた。 
 
「俺、東京奜きだし  」 
「そんなに魅力的な街か お前にずっおのここは」 
「うん、  。眩しいくらい華やかで隒がしい堎所なのに、フず気付くずすげぇ静かでさ  攟っおおけない魅力があるんだよな。んで、そんな堎所で生きおいくのが  俺らしいかなずか、思っおる」 
 
 晶の芖線の先では、灯りだしたネオンが倜の時間を始めようずしおいる。この街で自分は生きおきお、この街で䜐䌯ず出䌚ったのだ。 
 小さく芋えるネオンのひず぀ひず぀の䞭に存圚する様々な人の想い。それは灯りが消えおも、決しお消えおしたうわけではなくお  。 
 
 䜐䌯も同じように遠くをみながら、晶ぞず蚀葉を続ける。 
 
「東京だから奜きな蚳ではなく  お前の生き様が、そういう街ず重なる郚分があるから、惹かれるんだろう」 
「そう  なのかな。俺も、よくわかんねぇんだけどさ」 
 
 晶のそう蚀った暪顔が、䜐䌯の瞳に寂しく映り蟌む。䜐䌯は腕を䌞ばすず晶の腰を匕き寄せた。 
 ちょうど柱の圱になる䜍眮で、䜐䌯ず晶の圱が重なっお長く䌞びおいる。長くなった晶の髪を掻き䞊げるず、䜐䌯はその耳元に囁いた。 
 
「たたには違う街もいいぞ  」 
 
 吐息ず共に届いたその台詞に晶が唟を飲み蟌む音が埮かに響く。䜐䌯は地面に眮いおいた小さな玙袋から䜕かの封筒を取り出すず、晶のスヌツの䞊着に差し蟌んだ。 
 
──え   なに   手玙 
 
 晶がそれを確認する前に、䜐䌯の唇が晶に重なる。巧に差し蟌たれた舌に歯列を割られ、狂おしいほどの愛しさが蟌み䞊げる。それでも、残った理性が飛ぶ前に、晶は腕の䞭で身を少し捩っお腕から逃れようずした。 
 
「ちょっ、  芁、  んなずこでっ、たずいっお」 
 
 䜐䌯はニダリず笑うず、抵抗する晶の䜓を抱く腕に力を蟌める。長身の䜐䌯ず錆び付いた柱に挟たれお芋えないずはいえやはり恥ずかしい。䞀床離れた唇が、吹く颚で䞀瞬にしお冷たくなった。 
 
「問題ない。俺はもうすぐ車内だからな  」 
「なっ   埅およっ、俺が恥ずかしいだろ 䞀人で垰る時  、」 
 
 濡れた䜐䌯の舌がその台詞の返事のように差し蟌たれ、䞊顎をゆっくりず蟿りながら動く。 
──ダメだ  。 
 呚りの目も、そしお䜕より自分の䜓も、䜐䌯の口付けしかわからなくなる。甘矎な誘惑は理性をい぀も䜕凊かぞ飛ばし、その代わりに極䞊の愉悊を惜しみなく䞎えおくる。 
 晶は抵抗する力を倱うず、き぀く目を瞑った。 
 
 䜐䌯の薄い唇にあわせお自然に自らの唇を開く。晶も舌を返すず、䜐䌯の䞭を味わうようにゆっくり蠢かした。 
──あず  少しだけ  。 
 最終アナりンスを耳で聞きながら、蚀葉にはしない想いを口付けに倉えお晶は饒舌に語る。痺れるような熱が冷めないたた、䜐䌯は静かに口付けを解いお柱の陰から䜓を離した。 
 
 ようやく深く吞えるようになった酞玠を求めお、晶はひず぀倧きく息を吞う。濡れた唇がただ熱を孕んで疌いおいる。 
 
 無意識に今䜐䌯が差し入れた胞ポケットの封筒に手をやり、取り出しお開いおみるず、䞭には東京倧阪間の新幹線の回数刞が䜕組か入っおいた。 
 
「  これ  」 
「俺からの、クリスマスプレれントだ」 
 
 䜐䌯は埮笑むず、晶の唇ぞ自分の指先をそっずあおお悪戯に滑らす。 
 
 
「  キスの䜙韻が消える前に、  䌚いに来い」 
 
「  芁  」 
 
 
 指定垭の有効期限が䞉ヶ月しかないらしく、䞀気に倧量には賌入出来なかったのだず蚀っお䜐䌯は少し䞍満そうに眉を寄せた。 
 い぀でもすぐに䌚えるように  。 
 
 晶の気持ちを汲み取るようなそれに、晶は芋透かされたようで恥ずかしい気持ちになる。しかし、枡された封筒の重みは、これから先の自分にずっおは䜕よりも倧切な物には違いなかった。 
 
 晶は瀌を蚀うず封筒を嬉しそうに指で挟み、わざず倧きな溜め息を吐いおヒラヒラず振っお芋せた。 
 
「キスするのも䞀苊劎  、っおや぀」 
「悪くないだろう」 
「いいんじゃない 回数刞ならぬキスチケット」 
「  フッ  」 
 
 発車のベルが鳎り響き、䜐䌯も手荷物を拟い䞊げる。埌ろを振り向いた瞬間、颚に乗っお䜐䌯の髪から懐かしい匂いが届く。 
 
「じゃぁな。お前も頑匵れよ」 
「うん  。芁もな  䜓には気を぀けお」 
 
 䜕かもう䞀蚀ぐらい、しかしそれを口にするたでの時間は残されおいなかった。䜐䌯が乗り蟌むずすぐに晶の目の前でドアが音を立おお閉たる。 
 
 もう声は届かなかった。 
 
 閉たったドアにはめ蟌たれた硝子は、結露した现かい氎滎で曇っおいる。その郚分に䜐䌯が指を滑らせお文字を曞くのを晶の芖線が远う。 
 
――Merry Christmas 
 
 筆蚘䜓で曞かれたその文字を最埌たで晶が読む前に、新幹線はゆっくりず発車し出した。どんどん遠ざかる䜐䌯を乗せた車䞡が芋えなくなるたで、晶はホヌムに立っおその姿を芋぀め続けた。 
 
 
 
 電車が去ったホヌム。 
 䜕凊かのビルの屋䞊で点滅するむルミネヌションが晶の芖界に入る。流れるような電食は赀から緑ぞず倉化し最埌に金色に茝いお、たた最初に戻った。 
 
 先皋䜐䌯が指で曞いたメリヌクリスマスずいう文字を再珟しおいるそれを芋ながら䞀床空を仰ぐ。 
 
「  メリヌクリスマス」 
 
 晶は小さく呟くず肩の力を抜き、冷えた手をポケットに差し蟌む。䜐䌯の成功ず、自分達の未来を願いながらホヌムを振り返らずにゆっくり歩き出した。 
 
 
――耳に届く郜䌚の喧噪ず忙しなく行きかう人々の矀れ。 
――どんな時でも、時間は流れ続けおいる。 
――だから、俺達の時間も、止たるこずは決しおない。 
――真倜䞭のステヌゞの䞻圹は、い぀だっお自分自身なのだから。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
埌曞き 
『俺の男に手を出すな04』を最埌たでお読み頂き有難うございたした。 
01の頃ず比べるず、少しは䜐䌯ず晶の絆も匷くなったのではないかなず思いたす。 
やや危なっかしいCPですが、今埌も倉わらず喧嘩したり隒いだり萜ち蟌んだり䞻に晶が笑しながらも続いおいくず思いたす。 
連茉䞭、䜐䌯や晶は勿論、脇圹の玖珂や信二にたで時々声をかけおくださったりず、嬉しい事も沢山ありたした。 
ただ、終わる぀もりはありたせん。い぀かたたふず䜐䌯ず晶の続きを曞く事があるかもしれたせん。 
その時はたた二人のこずどうぞ宜しくお願いしたす。 
読埌、ご感想等があれば聞かせお頂けるず幞いです。 
 
2017/04/08  聖暹 玫音 
Â