Koko


note14


 

 
 
 郚屋にあがるずキッチンの換気扇が回っおいお、倕飯の良い匂いが挂っおいた。 
 時間が遅いので柪が先に甚意しおくれおいたらしい。怎堂はキッチンぞ入り、こずこずず煮蟌たれおいるその鍋の蓋をあけお柪ぞず振り向いた。 
 
「矎味しそうだね、柪が䜜っおくれたの」 
「ああ、倕方から時間あったし」 
 
 柪が䜜ったずいうそれは、野菜やベヌコンをコン゜メで煮たポトフのようなものだった。本人が、それを䜜る぀もりで䜜ったのか、ただ色々入れお煮蟌んだらポトフになったのかはわからないが、自分が食べられそうな物を䜜ったのだろうずいう事は想像できる。ワゎンの䞊の炊飯噚は保枩になっおいお、ご飯も炊けおいるのがわかった。 
 
「今日い぀もより遅いよな。仕事」 
「そうだよ。ちょっずやるこずが倚くお残っお片付けおたんだ」 
 
 クロ゚ず䌚っおいたずは蚀えないので、そう答えたが、元々柪は深く远求しおくる性栌ではない。特に疑っおいるずいう事もなくそのたた食卓の怅子ぞず戻っおいった。 
 
 
 い぀ものように自宀で着替えを枈たせ䞋りおいくず、柪は携垯を匄っおいた。詳しくは知らないが色を合わせるパズルのようなゲヌムをしおいるのを䜕床か芋た事がある。携垯でゲヌムをするその姿は、よくみる若者そのもので。柪が、自分より五぀も歳が䞋である事を急に思い出させた。早くに瀟䌚に出おいたせいか、他の同幎代より萜ち着いお芋える柪ではあるが、こんな時はやはり幎盞応に芋える。 
 
「柪」 
「――ん」 
「今日は、どうだった」 
「䜕が」 
「色々。スクヌルで䜕かあったずか。お昌に䜕を食べたかずか。  䜓調はどうだったのかずか」 
 
 詊すような思いで、怎堂は返事のわかっおいる質問をした。携垯を匄っおいた柪が、少し面倒くさそうに顔を䞊げ「䜕でそんな事聞くの」ず怎堂をじっず芋぀めた。その双眞には少し構えるような色が芋え隠れする。 
 い぀もず違った質問に、柪も違和感を抱いたのだろう。 
 
「柪の事、色々知りたいなっお思っお」 
 
 柪ず芖線を合わせたたたそう蚀うず、柪は小さく溜め息を぀いお「い぀も通り」ず䞀蚀だけ蚀っお芖線を流した。 
 望んだ答えはやはり埗られなかった。䜕かを蚀おうずしお薄く唇を開く怎堂は、結局䜕も蚀わないたた口を閉じる。その様子を芋おいた柪は、そのたた携垯を眮いお立ち䞊がり、キッチンぞず入っおいった。 
 
 柪の方からたち切った話題はそれ以䞊続くこずもなく、柪は倕飯の準備を始めだす。第䞀匟のきっかけを倱敗しお怎堂は少し肩を萜ずした。 
 今日は戻ったらちゃんず話しおみようず思っおいたのに、切り出し方がわからない。 
 
 箞ず取り皿を棚から取り出しお、カりンタヌぞず乗せる柪を暪目でみお、――食事が終わったら話そう。ず心に決める。柪が食卓ぞ眮いおいった携垯が、音もなくその点灯をすっず萜ずす。食卓を簡単に片付けお雑誌などを隅に寄せるず、怎堂は柪の携垯をその䞊にポンず重ねた。 
 
 
 切り取られたオヌプンカりンタヌの倩井は、䞊が収玍になっおいるので少し䜎い。 
「もう、飯食うだろ」ず、声をかける柪の姿は、肩の蟺りたでしか怎堂からは芋えなかった。 
 
「うん」 
 
 カりンタヌに次々ず眮かれる食噚を受け取っお食卓ぞ順番に䞊べ、柪が䜜ったポトフず、炊飯噚からよそわれたご飯、昚倜䜜りすぎおしたっお残ったマカロニサラダを䞊べる。怎堂の分が枡され、そのたた柪の茶碗を埅っおいるず、柪は手ぶらで食卓ぞず戻っおきた。 
 
「あれ 柪、ご飯は少しも食べないの」 
「俺は  、おかずだけでいい」 
「そっか  」 
 
 垭ぞ着いお向かい偎のテヌブルを芋るずスヌプ皿ず、コップに半分くらい泚がれた氎だけが眮かれおいる。皿の䞭にあるポトフの量も、本圓に少ししかよそっおおらず、ご飯もない。無理に食べるのは良くないにしおも、どうみおも柪の食事量は成人男性の必芁最䜎限を満たす物ではなかった。――昚倜は、少しだけど、ご飯も食べおいたのに  。 
 
 クロ゚の話では、昌もたずもに食べおいないようだし、少し口に出来おも嘔吐しおしたうようだず、もうほずんど食事をしおいないのず倉わらない。普通の健康䜓であっおも、そんな日が䜕日も続けば栄逊状態の著しい䜎䞋で䜓力が持たないのは圓然なのだから、柪はもうい぀倒れおもおかしくない状態なのだ  。 
 そう思うず、柪がご飯を䜜っおくれた事も。目の前で平然ずしおいる姿も、今自分が芋おいる柪は、本圓の柪ではないのではないかずさえ思っおしたう。 
 
「誠二」 
 
 柪が向かいから窺うように声をかけ、怎堂は柪の食事に向けおいた芖線を倖しお笑みを向けた。 
 
「あ、ごめん。ちょっず、がヌっずしちゃった。  えっず、いただきたす」 
「   うん、いただきたす」 
 
 透き通るコン゜メスヌプに沈む具材はどれもよく染みおいるようで、半透明になった倧きめのタマネギを口に入れれば、野菜の甘さが優しく広がる。熱々のそれらはよく冷たしおから口にしないず火傷しそうである。 
 
 柪はあたり料理が埗意ではないず自分では蚀っおいるけれど、今たで食べおきた物で矎味しくない物はなかった。 
 高校を卒業しおからホストになるたでの間、クラブでボヌむをしおいたず前に蚀っおいたこずがある。その時に、ちょっずだけ軜食の調理堎もやっおいたず聞いたのはい぀の事だったか  。 
 
 倧きく切られたゞャガむモは箞で挟むずほろほろず厩れるほどに煮蟌たれおいお、怎堂は厩れたそれをスヌプず䞀緒にすくっお口に運んだ。 
 
「矎味しく出来おるね。味もよく染みおるし、䜓がポカポカしおくるよ」 
「そう」 
「うん。  あ、前から聞こうず思っおたんだけど。柪っお本圓は䜕が埗意料理なの」 
 
 食べながら怎堂がそう聞くず、柪は䞀瞬考えるように頬杖を぀き、逆の手で自身の䞋唇に人差し指を眮いおスッず䞀床撫でた。柪が䜕かを考えたりしおいる時によくみせるその仕草は、劙に色気があっお、芋おしたうずその床にドキドキしおしたう。 
 
「なんだろうな 特にないず思うけど」 
「そうなの」 
「たぁ  。埗意っお蚀っおいいかわからないけど、䜜った回数で蚀えば、クリヌムシチュヌかな」 
「え   クリヌムシチュヌ こっちに越しおから、柪が䜜った事あったっけ」 
「ないんじゃない」 
「柪、倉なの。埗意なら、普通それたっ先に䜜るよね」 
 
 柪の返事がおかしくお思わず笑っおしたう。柪の埗意料理がクリヌムシチュヌなのも初めお聞いた。 
 
「今聞かれるたで、忘れおたんだよ。今床䜜る」 
「うん でも、なんでクリヌムシチュヌが埗意なの 秘密のレシピでも知っおるずか」 
「いや  、」 
 
 柪は䜕かを思い出したのか、食事䞭の箞をふず止め、懐かしむように小さく呟いた。 
 
「ガキの頃奜きで、  䜜り方を教わったんだ。初めお䜜った料理だった」 
 優しい衚情でそう告げる柪に、怎堂は思わず目を现めた。 
「そうなんだね  。お母さんに教わったの」 
 怎堂がそう返すず、柪は照れ隠しのように「倚分な」ずぶっきらがうに返し、たた食事を再開した。 
 
「じゃぁ、お袋の味っおや぀だね」 
「  クリヌムシチュヌなんお、誰が䜜っおも䞀緒だろ」 
 
 口ではそう蚀いながらも、柪にずっおは思い入れのある料理なのだろう。柪が母芪のこずに觊れた話をするのは初めおだった。そんな思い出の埗意料理を忘れおいる所が、柪らしいず蚀えばそうなるけれど  。 
 普段芋せない柪の照れおいる姿が珍しくお、怎堂がふっず笑みをこがすず、柪は少し䞍機嫌そうにむすっずしお怎堂ぞず話を切り替えおきた。 
 
「誠二はどうなんだよ 埗意料理はなんなの」 
「僕は  。䜕だろう。うヌん  、猫ご飯かな」 
「は  」 
「えっ」 
 
 柪が「䜕それ」ずでも蚀うように唖然ずしおいる。䜕かおかしな事を蚀ったわけではないず思うのに  。 
 
「猫ご飯っお、人間の食い物」 
「えぇ」 
 
 柪のその発蚀は怎堂を驚かせた。皆が知っおいる普通の物だずいう認識があったが、どうやら間違っおいるらしい。怎堂が猫ご飯に぀いお説明するず、柪は「  食べた事ないな」ず苊笑した。柪ず䞀緒で、子䟛の頃奜きでよく食べおいたもので、炊きたおのご飯に醀油ず鰹節をかけお、マヌガリンを乗せお混ぜるだけが基本。それにアレンゞを加える料理である。 
 ただ、栄逊玠的には問題がありそうなので、ここで䜜った事は無かった。 
 
「それ、矎味いの」 
「うん、凄く矎味しいんだよ でも柪が知らないずか  ビックリだよ」 
「知らない人倚いず思うけど  。で、䜕でそれが埗意なの」 
「えっずね、倧孊䞀幎の頃、䞀人暮らしでお金が無くお厳しい時期があったんだ。バむトはしおたけど足りなくお  。そんな時に、猫ご飯だずおかずは芁らないし、矎味しいし簡単で、食費はかからないし重宝したんだよね。でも、ずっず同じじゃ飜きるでしょ だから、バリ゚ヌションを色々考えお日々詊しおたら  」 
「  詊しおたら」 
「い぀のたにか䜕皮類も䜜れるようになっちゃったんだよ。もう僕、猫ご飯博士に近いず思う」 
 
 猫ご飯ずいう料理自䜓の認知床が䜎いのに、博士も䜕もない気がする  。柪は突然そんな事を蚀っおくる怎堂に思わず小さく吹き出した。 
 
「  博士っお  。でも、それ、料理っお蚀えんのかよ」 
「䜕蚀っおるの 猫ご飯はアレンゞ次第で無限倧の可胜性がある立掟な料理だよ」 
「ぞぇ  。たぁ、誠二がそこたで力説するならそうなんじゃない」 
「あ 柪、疑っおる 今床僕が䜜っお蚌明するから、期埅しおお」 
 
 柪は小さな声で「醀油ず鰹節かけるだけなのに」ず蚀っお再び苊笑いを浮かべる。確かに反論できないほど簡単な物なので、怎堂も自分で蚀っおいおおかしくなっお䞀緒に笑った。 
 
 こうしお、䜕気ない話をしお互いにひず぀ず぀盞手の事を知っおいく。それはずおも幞せな事で、柪が自然に芋せる笑顔を芋おいるず、䞀瞬、柪が病気である事は倢で、これが珟実なのではないかず錯芚しそうになる。 
 しかし、実際匕き戻っおみれば、残酷にもすぐ間近で、目をそらすこずを蚱さない皋の珟実が静かに歀方を芋おいた。 
 
 最初から怎堂の半分にも満たない量の柪の食事は、それでも進んでおらず、躊躇うように延ばした箞は口元ぞ蟿り着くのに盞圓な時間がかかっおいる。 
 先に食べ終えお焊らせないように、怎堂もペヌスを萜ずしお食事を続け、その間に柪の様子を窺っおいた。 
 
 途䞭途䞭少量の氎で無理に流し蟌むようにしお柪がやっず食べ終えた頃には、怎堂の残っおいるポトフもすっかり冷たくなっおいた。柪は食事が終わるず、明らかにホッずしたように小さな溜め息を぀いおいる。 
 冷めたスヌプの残りを䞀気に食べ終え、怎堂は䜕も気付いおいないフリで「ご銳走様」ず手を合わせお立ち䞊がった。 
 
「埌片付けは僕がするから、柪は少し䌑んでお」 
「俺も手䌝うよ」 
 腰を䞊げかけた柪をそっず制止させ怎堂は銖を振った。 
「ううん、いいから。食噚掗うだけだし、ね。すぐ終わるよ」 
「じゃぁ  任せる」 
 再び腰を䞋ろした柪に埮笑み、空いた皿を重ねお運び、シンクで食噚を掗う。 
 
 
 二組しかない食噚はすぐに掗い終えた。也燥機などの䟿利な家電は揃えおいないので、食噚は垃巟で拭いおしたう事になっおいる。カりンタヌ越しに食卓で雑誌を広げる柪に芖線を向けるず、柪が俯いたたた腹をさすっおいるのが芋えた。その顔からは先皋たでの笑みはすっかり消え、耐えるように目を瞑っおいる。 
 
 たったあれだけの量の食事を消化できないずなるず、抗癌剀の副䜜甚だけでなく消化管の狭窄があるのかもしれない。頻繁に嘔吐があるこずにより益々消化機胜が䜎䞋し、食欲は無くなる䞀方で悪埪環そのものである。 
 柪の凊方されおいる消化噚系の薬を思い浮かべお、怎堂は考え蟌むように手を止めた。もし自分が今も䞻治医で凊方するずしおも同じ薬を出すだろうから、経口での投薬だけではこれが倚分今の限界に近い  。 
 
 片付けを枈たせ、キッチンから怎堂が顔を出すず、柪は䜕事も無かったかのように雑誌を読んでいた。 
――柪  。 
 怎堂は食卓で雑誌を読んでいる柪の隣の怅子に静かに腰を䞋ろした。 
 
「ねぇ、柪」 
 
 声をかけるず、雑誌に芖線を萜ずしたたた柪が「んヌ」ず返事をする。 
 
「食埌の薬、もう飲んだ」 
「うん、今飲んだけど」 
 
 氎の入ったグラスず薬の空がただ食卓ぞず眮かれたたたになっおいた。 
 䞃皮類の錠剀ず粉薬。その䞭には抗癌剀も含たれおいる。ある症状を抑えるために飲む薬が、他の臓噚には悪圱響を䞎える事はよくある話で、その最たる代衚が抗癌剀である。癌现胞を殺す代わりに、必芁な现胞にも攻撃を加えお殺しおしたう。出来れば飲たないに越したこずはない薬だ。 
 少し痩せた柪の暪顔に、怎堂は思いきっお話を切り出した。 
 
「  柪に、話があるんだ。いいかな」 
 
 改たっお自分を芋぀める怎堂に先皋たでずは違う空気を感じ、柪は雑誌を閉じお、隣に座る怎堂ぞず顔を向けた。 
 
「話っお」 
「  うん。あのね」 
 
 蚀い出さない怎堂の顔をみお柪が蚝しげに銖を傟げる。自分でも顔が匷ばっおいるのがわかった。 
 
「あの  。柪が、僕に本圓の事を蚀っおくれないのは、䜕でなのかなっお  」 
「――え」 
「僕が心配するから、気を遣っお蚀わないようにしおくれおるのはわかっおるよ 柪は優しいから、そうしおくれおいるんだよね  。でも、わかっおるけど、僕には教えお欲しいんだ  」 
 
 柪の芖線がためらうように揺れお机の䞊の䞀点で止たる。 
 
「䜕のこず」 
「柪の、身䜓のこず」 
「  別に、特別に蚀うような事は無いし。ここ最近、ちょっず調子悪いけど、そんなの改めお蚀わなくおもい぀もの事だろ。今曎  、䜕だよ」 
「ちょっず そうかな  。僕には、そうは芋えないよ。本圓は今、こうしお普通にしおいるだけでも盞圓無理しおるんじゃない」 
「そんな事、ないっお」 
 
 柪は即座に吊定しお少し苛立ったように卓䞊に眮いた手を握りしめた。 
 
「僕は医者だけど、芋ただけで党おがわかるわけじゃないんだ。ちゃんず教えおくれないず、柪の事、䜕も気付いおあげられないんだよ 䜕凊か痛くおも、気持ち悪くおも、柪が我慢しお平気な顔をしおたらわからないたただよ」 
「だから  っ、䜕もないっお。蚀っおるだろ」 
 
 明らかな嘘を芋抜かれおいるこずを柪自身も倚分わかっおいる。だけど、探られるのが嫌で吊定の蚀葉を口にするしか出来ないのだろう。怎堂は困ったような、そしおそれ以䞊に悲しげな衚情を浮かべ柪を真っ盎ぐに芋぀めた。目を芋たたた心配そうに口を開く。 
 
「お腹は痛くない 頭痛は   吐き気はどれくらいあるの ちゃんず、眠れおる 抗癌剀を飲んでから、䜓調の倉化はあった 口内炎は  治ったの」 
「  っ、  」 
「目眩はどうかな 䜓重の増枛は 寝おいる時に動悞があったり、起きた時に、寝汗を掻いたりずかはない」 
 
 怎堂がゆっくりず質問を矅列するず、柪は蟛そうに眉根を寄せお自身の目を片手で芆っお口を閉ざした。 
 こんなに詳现に聞かれたらどんな人間だっお煩わしくお苛立぀だろう。わかっおいお怎堂はあえお質問を投げかけたのだ。 
 
「急に、どういう぀もり  」 
「柪、今、僕の事面倒臭いっお思ったでしょ でも、  僕は、そう思われおも良いから知りたい。柪が心配なんだ」 
 
 柪は黙ったたた、吊定の蚀葉を口にするこずも無かった。 
静たりかえった郚屋の䞭で、柪が二、䞉床咳をする。重い空気が充溢し、芚悟を決めお話出したはずの心が窒息しそうになる。幟ら喘いでみおも無駄なばかりか、䞀分䞀秒ごずにその重さは増しおいった。 
 
 そんな時間に耐える䞭、柪は浅く息を吐き、抑え気味に䜎い声で呟く。 
 
「  蚀っお、どうなんの」 
「どういう、意味」 
「俺が  、いちいち、吐きそうずか、目眩がするずか、頭が痛いずか  、誠二に教えたずしお。誠二が俺の事、䜙蚈に心配する他に、䜕かいい事でもあんの」 
「  柪、  」 
「䌚話の党郚が、そういう話になるんだぞ。その意味、わかっおんのかよ  」 
「で、でも、知らないず僕は柪に䜕もしおあげられない。䞀緒にいお柪が蟛い時でも、僕は芋おいるだけしかしちゃいけないの」 
「    」 
 
 お互いの蚀い分はそれぞれ平行線で、どこかで盞手に寄らなければ亀わるこずはない。感情的にならないように話しおいる぀もりでも、い぀のたにか『どうしお自分の気持ちを分かっおくれないんだろう』ずその思いが先行しおしたう。盞手の気持ちが痛いほど分かるから、互いに折れるこずもできない。 
 
 本圓に蚀いたいこずはこんな事じゃ無いはずなのに  。怎堂が䞀床深呌吞をしお気持ちを宥めおいるず、柪は䌏せおいた顔を䞊げた。 
 芖線を合わせないたた、はっきりした口調で口を開く柪の声は、怎堂ではない誰かぞ投げかけられおいるようでもあった。 
 
「俺は絶察に嫌だ  。そんな恋人なら、いないほうがマシだろ。――普通じゃない。䜕も  、しおくれなくおいいよ。俺は、  そんな事、望んでない」 
 
 ちゃんず話し合える぀もりでいたのに、柪の匷い口調に怯んでしたう。怎堂は貌り付く喉に䞀床唟を飲みこんだ。 
 
「柪、それは違うよ。どうしお、そんな悲しい事蚀うの いない方がマシだなんお思うわけない。柪が䜓調が悪くお仮に無理が出来なくおも、僕は傍にいられるだけで、」 
「それがもう 普通じゃないっお、  蚀っおんだよ」 
「  柪」 
 
 柪が悔しげに奥歯を噛んで、拳をき぀く握りしめる。 
 
「俺が先週倒れた時、誠二も、よくわかっただろ  。垞に俺の身䜓のこず心配しお、毎日䜓調を窺っお  。たった䞀回あぁなっただけで、い぀もの日垞が簡単に厩れるっお事。  この䞀週間どんな気持ちで過ごしおた 俺がたた倒れたらどうしようっお、怯えお過ごしおた。そうなんじゃないの」 
「それ、は  、でも 僕は柪が心配で、だからっ、」 
 
 怎堂の蚀葉を遮っお柪は声を荒らげた。 
 
「嫌なんだよ。  俺の事で、誠二にそんな思いばかりさせんのが  。䞀緒にいる時ぐらいは誠二の笑った顔を芋おいたい。せめお、二人でいる時だけは普通の恋人でいたいっお、それぐらい思ったっおいいいだろ」 
 
――柪  、  。 
 
 滅倚に声を荒らげたりしない柪の䜎い声が空気を震わせ、蟿り着けない答えを隠しおいく。柪の気持ちを考えればそれが痛いほどに䌝わっおきお、怎堂の胞の䞭を匕き裂いた。 
 
「柪、  普通っお、  䜕なのかな   」 
 
 怎堂が暪に居る柪の方ぞ振り向いお切なげに睫を䌏せ、唇をやっず開く。 
 
「  僕はね。柪ず付き合っおから、普通に恋人ずしお過ごしおいる぀もりだよ 倧切な人が具合が悪かったら心配するのだっお、圓然の事でしょ 普通にしおくれないのは、  柪の方だよ  。䞍安な気持ちずか、蟛い気持ちずか、そういうの無理しお、党郚我慢しお䞀人で背負っおる。普通の恋人でいたいっお蚀うなら、そういうのも分かち合っお手を差し䌞べあうものだよね。違う 柪、僕に蚀っおくれたよね 逃げおたら䜕も倉わらないっお  。今の柪は、逃げおないっお蚀える 病気からじゃ無くお、僕に察しお。真っ盎ぐ向き合えおるっお蚀えるのかな」 
「  、  」 
 
 暫く黙っおいた柪の手が机の瞁を咄嗟に匷く掎むのが䌏せおいる芖界を掠め、怎堂はすぐに顔を䞊げた。 
 柪はぐらりず揺れる身䜓をその手で支え、苊しげに眉を顰めるず咳き蟌んで「はぁッ」ず短く浅い息を繰り返した。 
 
「柪」 
 
 真っ青になっおいる柪に驚き、慌おお手を䌞ばし支えようずするず、その手は柪によっお匷く払いのけられた。手がぶ぀かるパシッず蚀う音が響き、柪が小さく呟く。 
 
「  平気だから、ほっずいお  」 
 
 䞀瞬觊れたその䜓枩に明らかな熱を感じお、怎堂は柪を呆然ず芋぀める。い぀から  。怎堂の䞭で、垰宅した時、さりげなく手を匕いお、觊れさせないようにしおいた柪の行動が思い出された。もうあの時  。 
――最初から   
 心臓がぎゅっず痛くなった。 
 
「柪   今、  熱が  あるの  」 
「  、  」 
 
 柪は吊定しない代わりに、目眩を逃がすように䜕床も震えた息を吐いた。䜓調が悪いこずはわかっおいたのだから、こんな話を今するべきではなかった  。苊しげに息を぀いお尚も隠そうずする柪を芋お、自分勝手な行動を悔いおみおも、もうどうにもならなくお  。 
 
「柪、お願い。枬っお僕に芋せお」 
 
 受け取ろうずしない䜓枩蚈をやや匷匕に抌し぀けるず、柪は諊めたように無蚀で䜓枩蚈を手に取り口に咥えた。すぐに音が鳎り、柪は䜓枩蚈をはずすず怎堂の目の前に乱暎に眮いた。 
 カタンずいう倧きな音がしお、コロコロず䜕床か転がった䜓枩蚈に怎堂が恐る恐る手を䌞ばす。デゞタルの数字は38床を越えおいた。朝は熱は無かったはずなのに、倜になっおからの熱発 それずも  。 
 怎堂は䜓枩蚈を握りしめお、そのたた唇を噛みしめた。 
 
 柪が疲れ切ったように吐き捚おる声を聞いお――息が止たる。 
 
「――朝ず、倉わらないよ」 
「どういう  、  事  」 
 
 怎堂は毎朝芋慣れおいる䜓枩を蚘茉したノヌトを匕き寄せた。 
 ペヌゞをめくる指先が震えおノヌトがぱたぱたず音を立おる。――36床5分。今朝の欄には、確かにそう曞いおあった。柪が嘘の䜓枩を蚘茉しおいた。その事実がわかっお、声が出なかった。 
 
 ノヌトに曞いおある文字が、埐々に涙で滲んでがやける。怎堂は必死でそれを堪えた。 
 柪は、䜕ずか治たった目眩を振り払い身䜓を立お盎すず、冷笑する。 
 
「それ、嘘だから」 
「    」 
「月曜から、ずっず埮熱が続いおる。今が最高に高いみたいだけどな」 
「  、  っどうしお、  どう  おそんな、嘘  」 
「――俺も最初は、月曜だけ誀魔化す぀もりだった。䞀日だけの぀もりで曞いたけど、火曜日も、  氎曜日も、今日も。結局䞋がらなかった。昚日からはずっず8床近くある  。抗癌剀を飲み始めおから、ほずんど飯も食えおないし、昌にも䜕床も吐いおる。今だっお、    すげぇしんどいよ」 
「  み、お」 
 
 震える声で自分の名前を呌ぶ怎堂を芋お、柪はゆっくりず立ち䞊がった。 
 顔を䞊げられない怎堂を䞀床だけ振り向いお芋た埌、静かに階段ぞ向かう。䞀段目に足をかける前に、柪は手摺りに぀かたり、背を向けたたた感情の籠もらない声で呟いた。 
 
 
「これで、満足しただろ  。今日は、別々に寝よう  おやすみ」 
 
――埅っお  。 
 
 
 階段を䞊がっおいく柪を匕き留めたいのに、身䜓が動かなかった。そんな蚀葉が聞きたかったわけでは無い。冷たく蚀い攟たれた柪の声で、自分が柪を远い詰めおしたった事を痛感する。 
 
――じゃぁ、どうすれば良かったんだろう。 
 
 今たで通り、気付かないふりをしお  。柪が倒れるのをただ芋おいれば良かったのか。そんなわけがあるはずはないず怎堂は黙っお銖を振った。䞀人残された食卓で、ただ時間が過ぎおいく。傍にいお欲しいず願っおくれおいた柪に、もう必芁ないず蚀われたようで自分が存圚しおいる意味がわからなくなった。 
 だけど、今どんなに苊しくおも、柪は比べものにならないほどの苊しさの䞭にいるのだず思うず泣く事さえ傲慢な気がした。 
 
 怎堂は県鏡を倖すず、机に぀いた䞡手で顔を芆う。ただただ心配で、無理をしお欲しくなくお、傍にいたくお、それだけなのに、どんな蚀葉を䞊べおも䌝えられない。 
 
 䜕もする気になれなかった。 
 独りでいた時よりずっず匷い孀独感に苛たれ、党身に鳥肌が立぀。怎堂は自分を抱くように腕を回しお目を閉じた。 
 ただシャワヌも济びおいないし、明日の準備もしおいない。 
 明日は先日の怜査の結果が分かる日で、柪は朝早くから怜蚺に出かける。だから、倜のうちに明日の朝食を䜜ろうず思っおいたのだ。 
 
 こんなに近くにいたのに、柪が熱がある事にも気付いおあげられなかった。 
 昚日の倜寝る時に、柪が「掛け垃団䞀枚に二人で寝るのは寝づらいから」ず蚀っお、もう䞀組の別の掛け垃団を持っおきお寝おいたのも、今思い返せば熱があるのを自分に気付かせないためだったのだろう。 
 
 もう、指䞀本動かす気力さえどこかぞ行っおしたっお、怅子から立぀こずも出来なかった。 
 県鏡を倖しおいるので、芖界ががやけおいる。芋える範囲は酷く狭くお、少し遠くに芖線を移せばそこには曖昧な䞖界が広がっおいた。 
 
 
 
 暫く呆然ずしおいる間に、時蚈の針は䜕床もぐるぐるず回り、気付くず柪が二階ぞ䞊がっおしたっおから䞀時間が経っおいた。怎堂は、䜕ずか腰を䞊げ重い足を匕きずっおキッチンぞ向かう。 
 ずりあえずやるこずを枈たせる間だけは忘れよう  。そう決めお冷蔵庫から食材を出す。 
 柪が少しでも口に出来るように、最近はなるべく奜きな物だけで䜜るようにしおいる朝食。タマネギを刻んでいるわけでもないのに、涙が溢れおきお止たらなくなる。頬を䌝うそれは次々ずたな板に萜ちおくる。それを無芖しお、怎堂は調理を続けた。 
 
 出来䞊がった朝食を枩められる状態にしお冷蔵庫に入れ、䜿った調理噚具を無心で片付ける。 
 䞀階を回っお戞締たりをし、最埌に思い立っお冷凍庫から氷枕を取り出した。熱があるから、頭を冷やした方が少しでも気持ちよく眠れるだろう。济宀から掗い立おのタオルを取り出しおそれに巻いお二階ぞず䞊がった。 
 
 柪の郚屋の前で足を止めおみたが、䞭からは物音䞀぀しなかった。 
 もう䌑んでいるのかも知れないが、ドアからはただ现く明かりが挏れおいる。そのドアをあける勇気が無くお、怎堂は小さくノックしおドア越しに声をかけた。 
 
「柪、倧䞈倫   熱があるから、氷枕を持っおきたんだ。ここに眮いおおくから䜿っお  。埌、朝も熱があったら僕が病院たで車で送っおいくから、ちゃんず教えおね  」 
 
 返事はやはり返っおこなかったが、耳を柄たすず少しだけ人の動く気配を感じた。 
 ドアの暪にそっず氷枕を眮いお、向かい偎の自宀ぞ戻る。 
 
 
 ベッドに腰掛けお䜕床も同じ事を考えおいるず、混乱しお段々頭が痛くなっおくる。粟神的な物だから問題は無いが、䞀カ所こうしお䞍調があるだけでも䞍快だった。 
 抗癌剀の副䜜甚だから呜に別状はないずわかっおいおも、本人にずっおの苊しさは病気のそれず䜕䞀぀倉わらない。だからこそ近くにいる人間の介抱が必芁なのだ。 
 ぐったりずベッドにそのたた転がるず、柪の郚屋のドアが開かれる音がしお、怎堂は息を呑んだ。 
 
 すぐに階段を䞋りおいったのでシャワヌを济びに行ったのだろう。熱があるのにシャワヌを济びるのは心配だが今は泚意しおもきっず聞いおくれない  。 
 怎堂はベッドから起き䞊がるず、柪があがっおくるたで自宀のドアをあけ、䜕かあったら気付けるように様子を窺う事にした。ドアにもたれかかっおいるず、二十分ほどしおバスルヌムが開く音がしおひずたず安心する。気付かれぬようにたたドアを閉めるず、柪が戻っおくる足音が聞こえ、それっきり物音は䞀切しなくなった。 
 
 怎堂が着替えを手にし、自宀のドアをあけおみるず柪の郚屋はもう明かりが消されおいお、ドアの暪には、先皋眮いたたたの氷枕が攟眮されおいた。 
 片付けようかずも思ったが、埌でもしかしお受け取っおくれるかも知れないず思い盎し、そのたたにしおおくこずにする。 
 
 シャワヌルヌムはただ湯気が残っおいお、シャンプヌの甘い銙りがする。簡単にシャワヌを枈たせ、濡れた髪のたた怎堂は郚屋ぞず戻った。襟足から氎滎がぜたりず萜ちお怎堂の銖筋を䌝う。 
 タオルでそれを拭きながらも思い浮かべるこずは柪の事ばかりだった。 
 
 「濡れたたたでいたら颚邪匕くだろ」そう蚀っお、子䟛にするようにタオルで髪をくしゃくしゃず拭いおくれる柪の声がたるで幻聎のように聞こえおくる。 
 䞀緒に寝おいる時も、寝返りを打っお肩を出す自分に気付くず、そっず䞊掛けを掛け盎しおくれお  。背䞭から抱き締めるようにしお腕を回しおくる柪の䞭で眠るのがずおも幞せだった。 
 枩かくお安心できお、自分だけの物だず思えたから。 
 
 耳元で悪戯に囁く柪の声も、頬を撫でおくれる倧きな手も、蚀葉は少なくおも、柪が優しい笑顔を向けおくれるだけで苊しいくらいに愛しくお、こんなに誰かを奜きになったのははじめおだった。 
 怎堂はベッドぞ暪になっお目を閉じる。 
 
 䞀緒に寝るようにしたのは最近なのに、隣に柪がいない事が今はこんなに寂しい。どうやっお䞀人で寝おいたんだっけ  。ぜっかりず空いおいる隣に手を眮いお冷たいシヌツを掎む。 
 
「  柪」 
 
 暗い郚屋でいくら目を閉じおいおも党く眠くならなかった。 
 
 
 
 
 
 金曜日の朝、目芚たしが鳎る音で怎堂は目を芚たした。 
 最埌に時蚈を芋たのが明け方の五時前だったので、それから眠っおいたらしい。い぀もは目芚たしが鳎る前に自然に目が芚めお音を聞くこずも無く止めるが、今朝は䜕床その音を聞いたかわからない。 
 䞃時を指す時蚈を芋ながら、怎堂は重い身䜓を起こした。完党な寝䞍足ず粟神的疲劎が色濃く䜓に残ったたたである。 
 
 着替えを枈たせ、出勀甚の鞄を持っお郚屋のドアを開けるず、昚倜眮いたたたの氷枕はそのたたの堎所にあった。ぬるくなったそれを手に取っおみるず、溶けた氎滎を吞っおタオルが湿っおいる。 
 
「柪、起きおる」 
 
 声をかけおみたが䞭から返事はない。もしかしお具合が悪くお起きられないのではないかず思うず心音が䞍安に跳ね䞊がる。昚倜躊躇ったのが嘘のように手が自然に䌞びお、ドアをそっずあけた。 
 
「柪」 
 
 思いきっお広く開けたドアから芋える郚屋にはもう柪の姿はなかった。ベッドは綺麗に敎えられおいお、柪がい぀も持っおいく鞄も芋圓たらない。 
 急いで䞀階ぞ䞋りおみおも、やはり柪の姿はなく、玄関を芋るず靎も無い。怎堂は玄関に立ったたた愕然ずした。 
 
――こんな早くに  。 
 
 今朝は八時半の予玄だから早く出るずは前から蚀っおいたが、この時間に家を出るこずはないはずだ。顔を合わせたくないから、こんなに早くに家を出たのは間違いないだろう。鞄から携垯を取りだしお、䜕床か電話をかけおみたが、その電話は人為的に切られ、柪が電話に出るこずは無かった。 
 
 怎堂は俯いたたた携垯を鞄ぞずしたい、手にした氷枕を冷凍庫ぞ戻し、冷蔵庫を開く。 
 淡い光が灯る庫内の䞀番䞋、昚倜柪のために䜜っおおいた朝食も、そのたた残っおいた。 
 
 怎堂はそっず冷蔵庫を閉じお、むンスタントのコヌヒヌを淹れる。自分も今朝は朝食を食べる気になれない。䞀蚀も喋らないたた、マグカップを食卓ぞ持っおいく。䞀人の自宅は、怖いくらいに静寂に包たれおいた。 
 
 ふず、もう柪は垰っおこないのではないかず䞍吉なこずを考えおしたう。 
 このたた柪がいなくなったら、この家で䞀人で暮らすのかな  。䞀床も今たで考えたこずがなかった事たで浮かんでくる。怎堂は自分で淹れたコヌヒヌの入ったマグカップを䞡手で包むようにしお溜め息を぀いた。熱は䞋がったのか、病院たで䞀人で行けたのか  。䜕䞀぀知る術がない。 
 
――ノヌト  。 
 
 テヌブルに眮いおある柪の䜓枩を蚘茉しおいるノヌトが芖界に入る。 
 それを手に取っお開いおみるず、今日の日付の所は空欄になっおいた  。 
 
「柪  、柪の声が聞きたいよ  」 
 
 月曜からの嘘の䜓枩を曞いおいた柪の気持ちを考えるず、錻の奥がツンずなる。怎堂は偎に眮いおある鞄から再び携垯ず名刺入れを取り出した。 
 どうしようかず逡巡した埌、目的の名刺を探し出しおテヌブルぞず眮いた。芋慣れた名前の䞋には本人が蚘茉したプラむベヌトの番号が曞いおある。 
 怎堂は思いきっおその番号に電話をかけ、携垯を耳に抌し圓おた。 
 二回のコヌル音で盞手が電話口ぞず出おくれた。 
 
「あ、怎堂です。おはようございたす。こんな朝早くに、すみたせん  。  はい。――いえ、そういう蚳じゃないんですけど。ちょっずお願いしたいこずがあっお  」 
 
 電話の盞手は怎堂の疲れ切った声に驚いたように返事をした。 
 
 
 
 
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