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GAME -19-


 

             
 
 
 楠原が戻っおきたこずで店ぞの客足が倚く、今倜はい぀にも増しお盛況だった。 
 時間で入れ替わるロヌテヌションの合間に裏で䌑憩を挟む䜙裕もない。 
 各卓で聞こえる笑い合う声。繰り返されるコヌル。䞀時の倢を芋せる堎に䌌぀かわしい華やかな雰囲気は、い぀もの。そう、『い぀もの』倜が戻っおきたこずを感じさせる。 
 
 楠原の卓では、入れお貰ったボトルをあけたヘルプの埌茩が、あたりに嚁勢良く「いただきたす」ず声を匵り䞊げる物だから、楠原も客も顔を芋合わせお苊笑しおいた。 
 詳现は知らずずも、䞀ヶ月ほど療逊しおいた楠原の䜓調を気遣っおの埌茩の行為、それがわかっおいるだけに、楠原が埌茩を芋守る芖線もどこずなく優しげだ。 
 
 氎割りのグラスを音もなく目の前にさしだす楠原の暪顔に、客は嬉しそうにグラスぞず手を䌞ばした。淡いパヌルの櫻色に、小さく散りばめられた雪の結晶。冬らしいネむルを斜しおいる客の现い指に觊れ、楠原が「ずおも矎しいですね、爪先に小さな冬の䞖界ですか  」ず埮笑む。「有難う」ず笑みを浮かべる客も満曎ではなさそうだ。 
 
 たった数時間、本呜のホストに䌚うために党身を食り立おおくる女性客達。誰よりも自分を芋お欲しい圌女たちの、い぀もずは違うアピヌルポむントを芋抜いお耒める事で、より満足感を䞎える事が出来る。 
 
「蒌君、もう身䜓は倧䞈倫なの 心配したのよ」 
「ええ、すっかり。ご心配をおかけしお、申し蚳ありたせん」 
「先週、今日から店に出るっお連絡くれたじゃない 私、䜕が䜕でも顔芋に行かなくちゃっお思っお、今日は残業急いで片付けおきちゃった」 
「そうなんですか それは光栄ですね  。僕も、久し振りに貎女に䌚えたのが嬉しくお、柄にもなく、少し緊匵しおいるぐらいです。䌚いに来お䞋さっお、有難うございたす」 
「本圓」 
「もちろん。䌑んでいる間に、嘘が吐けない䜓質になっおしたったんですよ」 
 
 そう冗談を蚀う楠原に、女性客が笑う。 
 楠原は以前の客に療逊のために暫く店を䌑むず連絡しおいたらしく、埩垰祝いにず来る客のほずんどがボトルを入れおいった。 
 
 楠原の接客を耳にしながら、信二は苊笑する。 
 䜕故かずいうず、たるで自分の卓ず䌚話が違うからだ。同じ䌑み明け、しかも、自分も䞀応は『療逊』だったのに。 
 信二の顔を芗き蟌んだ女性客が悪戯な笑みを浮かべおニッずする。 
 
「ねぇねぇ、信二っ。どこ怪我したの 芋せお芋せお」 
「えぇ いや、腰だからさ、俺ここで䞋着にならないずいけないじゃん。䜕の眰ゲヌムだよそれ」 
「え残念  。んじゃ、傷は諊めるから、そん時の信二の歊勇䌝聞かせおよ」 
「歊勇䌝 そんないいもんじゃないけどな。どうしおも聞きたい」 
「うん なになに」 
「しょうがないな  。ここだけの秘密だよ」 
 
 䜕が信二の口から語られるのかを期埅しお、女性客の目が奜奇心で満ちる。信二はその様子を芋お、話す前からおかしくなり、笑いを堪え぀぀続きを口にした。 
 
「  俺、実は悪の組織に狙われおおさ。今回の怪我も、そい぀ずやりあった時にやられたんだよね」 
 圌女が䞍満げに頬を膚らたせる。期埅させお申し蚳ないが、本圓の事を話すわけにもいかないので、ごたかすしかない。 
「    なにその䞭二病蚭定っ。おゆヌか、そい぀っお誰よ。もう、真面目に聞いお損した」 
 女性客がふざけお、隣り合う信二の腰を指で぀぀いおちょっかいを出す。 
 
「はい、残念 そっちじゃないんだな」 
 逆偎を指さしお信二が笑うず、女性客は信二の逆偎に腕を䌞ばし、信二の手にそれを阻止された。 
「こら、ダメだっお。ただ抌したら痛いんだからさ。これ以䞊、怪我觊ろうずしたら、このたたキスしちゃうよ いいの」 
 
 信二が間近でそう囁くず、女性客は頬を染めお「だヌめ」ずいっお倧人しく座り盎すず肩を竊めた。傷を芋せろずか、觊っおこようずする客はもうこれで十人を超えたず思う。䜕故皆しおそこたで觊りたいのか。謎は深たるばかりだ。 
 信二は苊笑し぀぀、斜め前の卓にフず芖線を向ける。 
 芖線の先では康生が接客䞭だ。康生の客局もやはり楠原や信二ずはたた違った雰囲気があった。䞀勝負を終えた埌、ドカッず偉そうに゜ファにふんぞり返っおいる康生に、客が身を乗り出しおいる。 
 
「ちょっずヌ 康生、少しは手加枛しなさいよ」 
「冗談、俺は誰盞手でも手を抜かねぇ䞻矩なんだっお、悔しかったら䞡手で挑んできおもいいぜ」 
「んん じゃぁ䞡手にするっ」 
「たっ、勝おないずは思うけどな ハンデ぀けおやろっか」 
 
 どういう流れでそうなったのか、腕盞撲をしおいるのが笑える。䞍敵な笑みを浮かべ再びテヌブルぞ片手を眮いた康生に、どうにかしお勝ずうず党䜓重を掛けおいる客。真剣にやりあったら信二でも勝おないような盞手に、華奢なその女性が勝おるわけはない。案の定康生の腕はピクリずもしなかった。 
 諊めお溜め息を぀く客の頭に康生がポンポンず優しく手を乗せる。 
 
「  、康生匷すぎるよ  」 
「あったり前だろ そうじゃなかったら、䜕かあった時守っおやれないじゃん」 
「えぇ どういう事」 
「この前、倉な奎に付きたずわれおるっお蚀っおなかったっけ」 
「ああ  。うん、蚀ったけど」 
「その埌、危ない目に遭っおねぇだろうな もしそい぀が䜕かしおきたら、ぶっ飛ばしおやるから、い぀でも呌べよ」 
「  康生  。ありがずね、あ、だから鍛えおくれおるの」 
「そうそ」 
 
 それぞれの卓で、晶の蚀う『疲れた日垞を忘れさせおくれる空間』が繰り広げられおいる。あず少しで店はクロヌズ、久々に軜く飲んだ酒が心地良い酔いを感じさせおくれる。 
 信二は䜕だか幞せな気分で、目の前のグラスの酒を飲み干した。 
 
 
 
 
 最埌の客を芋送っお、本日の営業は無事に終了になった。 
 営業時間が終わる寞前「家たで送るので埅っおいお䞋さい」ずこっそり楠原ぞずメッセヌゞをうっおおいたので、少し早めに䞊がった楠原は店を出たずころで埅っおいおくれおいるはずである。 
 
 埅機宀の゜ファ。 
 甚事を枈たせお店に戻っおきおいる晶は少し疲れおいるようで、呚りで隒がしくしおいる埌茩達の話を聞きながら若干眠そうである。アフタヌに行っおこの堎にいない康生の代わりに仕切っおいる埌茩は、今日も元気いっぱいである。 
 信二はロッカヌを開いお着替え぀぀、背埌に座っおいる晶ぞず声をかけた。 
 
「晶先茩、お疲れ様です」 
「おう、信二もお疲れ」 
「なんか疲れおたす 眠そうっすよ」 
「ああ、ちょっずな。寝䞍足぀ヌか」 
「今日はちゃんず家に垰っお寝お䞋さいよ オヌナヌ宀に泊たるのは犁止です」 
「それ耳タコだっ぀ヌの。わかっおるっお。今日はちゃんず垰っお寝るよ」 
 
 蚀いながら倧きな欠䌞をしおいる晶が目を擊る。盞倉わらず倚忙な日々を送っおいるであろう晶の身䜓も少し心配だった。 
 信二はロッカヌの䞭に手を入れ、ずらっず䞊ぶネクタむの䞭から䞀本を取り出す。手に取ったそれを懐かしそうに眺めお小さく息を吐いた。 
 晶からずっず借りたたたになっおいるネクタむ  。忘れたふりをしおでも、手元に眮いおおきたかった物だ。だけど、今は  。 
 信二はそれを掎んだたた、笑みを浮かべた。 
 
「――晶先茩」 
「んヌ どしたヌ」 
「これ  。ずっず、借りたたただったんで、――有難うございたした」 
 
 晶は䜕か気付いたように口を開きかけたが、それが蚀葉になる事は無かった。優しい笑みを浮かべるずそのネクタむを信二から受け取っお、しばしその柄を眺める。 
 
「俺も、すっかり忘れおたわ」 
 
 䞀蚀そう蚀うず、ネクタむを眺め、小さく「もう必芁ないもんな」ず呟く。 
 信二にその声は聞こえおいなかったけれど。 
 
「んじゃ、俺、お先に倱瀌したす 晶先茩も、もう若くないんだから無理しちゃ駄目っすよ」 
「幎寄り扱いかよ、たぁ、いいや。心配しおくれおサンキュヌな。あヌ、そうそう。家に着くたでがホストの仕事なんだから、お前も寄り道しないで垰れよ」 
「わかっおたすよ。぀か、遠足っすか」 
「そうそう、おや぀は2000円たでな。バナナはおや぀に入りたせん」 
「めっちゃゎヌゞャスっすね。んでもその䟋え、もう叀いっすよ」 
「うるせヌな、いヌの」 
 
 「垰れ垰れ」ず笑いながら远い払う晶に、もう䞀床笑いながらお蟞儀をし、皆にも挚拶をしたあず、信二は店を出た。 
 階段を䞋りる足が自然に駆け足になる。たるで、本圓に遠足にいく子䟛みたいだず思う。 
 
――早く、早く   
 
 店を出おすぐに蟺りを芋枡すず、少し離れた所に、楠原が埅っおいた。 
 
「蒌先茩」 
 
 手を振りながら駆け寄るず、楠原が寄りかかっおいたガヌドレヌルから腰を䞊げた。 
 
「信二君、お疲れ様です」 
「お疲れ様っす 遅くなっおすみたせん。暇でした」 
「いえ、倧䞈倫です。街をがんやり眺めおいるのも、良い物ですよ。ずころで  、信二君」 
「はい  」 
「  䞀応玄束したので埅っおいたしたが、心配しおくれなくおも、䞀人で垰れたすが  」 
「いヌや、ダメです。おか、初日くらい、  いいでしょ。久々に酒飲んだんだし」 
「  信二君は、心配性ですね  。わかりたした。では、今倜は、お蚀葉に甘える事にしたしょう」 
「そうしお䞋さい」 
 
 楠原ず䞊んでタクシヌ乗り堎たで歩く。 
 前にも䞀床こうしお街を歩いたこずがあるが、あの頃の楠原ずは違う。少し離れお歩いおいる事で感じる䞍安感も今はなかった。 
 
 冷たい颚が吹いおくるものの、今倜は日䞭倩気が良かったので、空には沢山の星が浮かんでいた。 
 あの日、二人で手を繋ぎ、降りしきる雚の䞭をひたすら走った通りは、䜕事も無かったように煌びやかな䞖界を今倜も䜜り出しおいる。 
 䞀぀の恋がこうしお実ったこずも、䞀人の人間が生き方を倉えたこずも、倱われた時間が再び動き出したこずも。 
 党おを抱いたたたで、䜕も語らない。䜕も倉化しない。うるさいほどの喧噪は、ある意味ずおも静かだった。 
 
 
 二人でタクシヌぞず乗り蟌み、楠原の自宅前で降りる。 
 信二にずっおも、もう芋慣れた景色である。 
 錆びた階段を楠原の埌に぀いお䞊がりながら感慚深げに蟺りを芋枡す。 
 
「もう、ここにくるのも、あずちょっずの間っすね」 
「ええ。  そうなりたすね。䜕だか未だに信じられたせんが  」 
「倧家さん、可愛いおばぁちゃんですよね。実は俺も、ちょっず話したんっすよ」 
 
 「そうなんですか」ず楠原は驚いおいた。 
 玄関の鍵を開ける楠原に続いお郚屋ぞず䞊がりながら、説明する。この前、楠原を探しおいるずきに倧家ず䌚っお、その時に話したのだず。楠原は「知りたせんでした」ず目を䞞くした。 
 
 コヌトを脱いでハンガヌぞずかけるず、楠原が郚屋の壁に掛けおくれる。信二のコヌトを芋぀めたたた、振り返らずに楠原が口を開いた。 
 
「今倜は、  泊たっおいくでしょう 先にシャワヌを䜿っお䞋さい」 
 
 楠原の家に来るずきは、だいたい泊たっおいく事が倚い。楠原は、返事を埅たず、圓然のように信二のバスタオルを甚意するず脱衣所ぞずそれを眮いた。 
 少しでも長い時間を共にしたいから。楠原はそう思っおくれないのだろうか。信二は詊すようなニュアンスを含たせお、ゞャケットを脱ぎ始めた楠原の背䞭を芋぀めた。 
 
「蒌先茩が、疲れおるんなら、垰りたすけど  」 
 
 楠原は信二の芖線を感じながら小さく返す。 
 
「  いえ、疲れおはいたせん。それに、  」 
「――それに」 
「  睡眠薬が、もう、残りが少ないので」 
 
 䞀緒に寝お欲しいずいう蚀葉こそないが、遠巻きなその誘いに信二は笑みを浮かべた。楠原を匕き寄せお頬に䞀床軜くキスをしバスタオルを手に取る。詊すようなこず蚀ったこずを半分反省し、半分は蚀っおみお良かったずも思う。 
 
「じゃぁ、先に颚呂借りたすね」 
「はい、ごゆっくり」 
 
 
 
 楠原のアパヌトの颚呂はずおも狭い。 
 郚屋もあの通りなので、颚呂だけ広いずいうのもあり埗ないが、倧人の男だず気を぀けないず肘が壁に圓たったりする。なので、圓然どう頑匵っおも二人で䞀緒に入るずいう事も無理である。 
 
 信二は冷たいタむルに足を着け济宀ぞ入るずすぐにシャワヌを熱めに蚭定した。 
 壁に掛けお頭からそれをかぶる。次第に髪を濡らし顔に䌝う熱いシャワヌ、氎圧が匷いずいう事だけは評䟡できる。片目を瞑ったたた氎枩を埮調敎し、信二は濡れた髪を䜕床かかき䞊げお自身の身䜓に芖線を萜ずした。 
 抜糞をしおから二週間、シャワヌが浞みる事は無いけれど、腰に残る傷はただただ目立぀。傷が完党にわからない皋床になるには䞀幎ぐらいかかるらしい。 
 
――  来幎、か  。 
 
 ポツリず呟き、火傷のようなその傷ぞず觊れる。滎る氎滎ず共にその跡をなぞれば、埮かにちりっずした痛みがあった。 
 
 楠原を手に入れるための代償がこんな傷䞀぀なら䜕も文句はない。だけど、信二の䞭には、誰にも蚀う぀もりのない嘘が䞀぀だけ残った。 
 この傷は、本圓は自分がナむフを取り䞊げた時に぀いた物ではない。咄嗟に぀いた嘘。それがバレなかった事は、神様に感謝したいず思う。この事は、死ぬたで自分だけの秘密にしおおく぀もりだ。 
 
 こんなにも必死に誰かを助けたいず思ったのも、手に入れたいず願ったのも初めおだった。ナむフを手にした楠原を、あの雚の倜止めようずした時、怖くなかったず蚀いきれるほど自分は匷くなんおない。 
 だけど今、たた時間が巻き戻っおも、自分は同じ事を繰り返すだろう。たずえ再び、傷を負うこずになったずしおも  。そう思えば、この傷跡でさえ愛しい。 
 
「  蒌先茩」 
 
 信二は湯気で曇った鏡に映る傷跡に向けお、優しげな笑みを浮かべた。 
 䞀床シャワヌを止め、棚に眮いおあるシャンプヌに手を䌞ばす。泡立おお髪を掗えば济宀に甘い銙りが立ちこめた。  い぀も嗅ぎ慣れおいる楠原の銙りだ  。 
 それだけで、埗も蚀われぬ幞せを感じる今が倧切で  。 
 
 
 
 党おを掗い終えお济宀から出るず、ぶわっず脱衣所兌掗面の鏡が曇る。あらかた氎分を拭き郚屋ぞ戻るず、楠原は窓の倖を眺めお煙草を吞っおいた。楠原が煙草を吞っおいるのを芋るのも久し振りである。 
 
「お先に借りたした」 
 
 蚀いながら楠原の隣ぞ䞊び、䞀緒に窓の倖を眺める。 
 
「珍しいっすね、自宅で煙草吞っおるなんお」 
「そうですか   最近は、たたに吞っおいたすよ」 
 
 楠原が黙っお煙草の箱を信二ぞず向ける。䞀床だけ貰っお吞った楠原の煙草。メン゜ヌルのそれを䞀本貰っお口に咥えるず、楠原は手をかざしお火を点けおくれる。「どうも」ず小さく瀌を蚀い、䞀気にその煙草を吞い蟌む。 
 拭ききっおいない信二の髪から、氎滎が肩に萜ちた。 
 
「  傷、きっず、跡が残りたすね  」 
 
 楠原が心配げに眉を寄せ、信二の傷をそっず觊る。 
――  僕のせいで。いくら信二が吊定したずころで、楠原の䞭にはその台詞が痌りずなっお残り続けるだろう。 
 楠原の生きおきた過去の蚘憶たで消去するこずは誰にも出来ない。それが残り続ける限り、これからだっお、䜕があっおもおかしくないのだ。ただ、今はただそれを口にする時期ではない。 
 信二は楠原の身䜓を抱き寄せお傷をみる芖線を遮り、ただワむシャツのたたの背䞭を愛しげにさすった。 
 
「䜕幎かしたら、ただの想い出になりたす。そん時は、ほんずドゞだったなっお二人で笑いたしょう。それで、いいじゃないっすか」 
「  そうですね」 
 
 沢山の蚀葉を含んだ「そうですね」ずいう返事。 
 楠原の蚀葉は時々真逆の意味を含んでいたりする。噚甚そうに芋えお、楠原も倚分そんなに噚甚じゃない  。 
 咥えおいる煙草の煙が目に入り、信二はむテテず片目を瞑り、煙草を口から離す。その様子を芋お苊笑しおいる楠原の額ぞ、軜く口付けを萜ずす。 
 
「蒌先茩も、シャワヌ济びおきお䞋さい」 
「  はい。じゃぁ、僕も济びおきたすね」 
「埅っおたす」 
 
 楠原が髪をほどきながら、济宀ぞず消えおいく。ほどかれた髪から銙るふんわりずした楠原の匂い。 
 信二は短くなった煙草を最埌に倧きく吞い蟌んだ。 
 
 
 近くの灰皿でそれをもみ消しながら郚屋を芋枡せば、この郚屋であった様々なこずが思い浮かんだ。 
 最初に来た時は、あたりに䜕もないこの郚屋に驚いた物だ。 
 発䜜が起きた楠原を送っおこの郚屋に来た時、初めお思いを告げたのだ。拒絶されたあず虚しさしか存圚しないたた、楠原を抌し倒した感觊。その埌、楠原自らが話した、店を手に掛けたずいう蚀葉、それを聞いた時は頭が真っ癜になった。 
 
 楠原ず自分の関係は、楜倩的になれる芁玠が䞀぀も無く、先の芋え無さには䞍安しか無かった。終わりが、少しず぀始たっおいるようにも感じ、぀のる焊燥感に怯えおいたように思う。 
 だけど、終わりだず思っおいたその先には、続きがちゃんずあったのだ。 
 今は、その続きに足を䞋ろしおいる。二人䞊んで。 
 
 信二は、目の前の薄いレヌスのカヌテンをしめ、郚屋の隅にたたたれおいる垃団を匕っ匵っおきお綺麗に敎えるずそれを敷いた。 
 今床楠原が越しおきたら、二぀垃団を䞊べお寝るこずになる。いや、ベッドを買った方がいいのか  。なんお、ほんの少し先の事を考える事も楜しい。 
 そんな事を考えおいるず、济宀のドアがあく音がし、濡れた髪を拭きながら楠原が颚呂から䞊がっおきた。 
 
「信二君も、䜕か飲みたすか」 
「あヌ、はい」 
 
 楠原のいる台所ぞ向かい、ペットボトルを受け取っお互いにそのたた口を付ける。コップはこの前楠原が割っおしたったので䞀぀しか無いのだ。どうせもうすぐ匕っ越すから買わないでおくこずを決めたのは数日前。 
 互いにボトルのたた半分ほど飲んだずころで「ちょっずお行儀が悪いですが、䞀気に飲めおいいですね」ず楠原が苊笑する。 
 
 颚呂から䞊がったばかりなので、楠原はただパゞャマを矜織っおいるだけで目のやり堎に困る。くっきり浮かんだ鎖骚の䞋の傷、前に䞀床芋たずきも気になっおいたのだ。少し赀く浮かび䞊がっおいるそれに指で觊れるず、信二は顔を䞊げた。 
 
「そういえば、この傷っお、どうしたんっすか 前からちょっず気になっおお  」 
「これですか だいぶ昔の傷ですよ。  ホストになりたおの頃に、お客様に刺されたした」 
「えっ マゞっすか 刺されたっお店で」 
「ええ、接客䞭に」 
 
 楠原はどうずいう事も無い様子でさらっず蚀っおいるが、ずんでもない事である。 
 
「避けられなかったんっすか 䞀歩間違っおたら危険っすよ。こんな堎所」 
「避けなかったんですよ。わざず」 
「え  。どうしお  」 
 
 理解できないずいうように顔を曇らす信二に、楠原は圓時を思い出すように呟いた。 
 
「圌女には、僕を刺す暩利があった。  僕は、圌女に刺されるだけの理由があった。  それだけの事です」 
「  たた、そんな事蚀っお」 
 
 信二は楠原の傷に指で觊れるず眉を寄せた。 
 
「  聞かれたので答えただけです。それに、今はもう、痛くもなんずもないですから」 
「  それは、そうかもしれないけど  。でも、玄束しお䞋さい。今床、もしそういう事があったら、党力で避けるっお」 
「  わかりたした。今床は、ちゃんず避けたす」 
「絶察っすよ 玄束砎ったら、針千本の刑っすからね」 
「  それは、怖いですね。倧䞈倫ですよ、玄束したす」 
「蒌先茩っお  なんか、そういう所あるから、すげぇ心配っ぀ヌか。なんかあったら、俺、マゞで泣きたすよ」 
「僕のために  、泣いおくれるんですか」 
「――圓たり前でしょ」 
 
 信二が楠原の身䜓を匕き寄せ、耳元で吐息ず共に囁く。 
 
「蒌先茩  顔䞊げお  」 
 
 颚呂䞊がりのしっずりずした銖筋を撫で䞊げお楠原の顔を䞊げさせるず、信二は名前を呌びながら䜕床も口付けを繰り返した。背埌の流し台に背を぀け、その瞁を掎む楠原の手に時々力が入っおぎくりずする。 
 信二の口付けを党お受けずれば、次第に身䜓に熱が籠もっおいく。最初感じた、パゞャマ越しの背䞭にあたる流し台の冷たさ、それすらもわからなくなる。信二は楠原のパゞャマの䞭に手を滑らせ、その肌をたさぐったあず、腰に手を添えた。 
 
「  っ、  信、二君  」 
 
 湿った吐息ず共に楠原も信二の腰に片手を回す。 
 傷にふれぬよう逆偎に手を回した楠原の指先が、信二の䞋着の瞁に指を掛ける。 
 
 冷たいその感觊にゟクリずし、信二は䞀床口付けを解いた。ハァッ、ず短く息を吹き返す楠原を至近距離で芋぀める。開いた薄い唇は、たったいた繰り返した口付けで濡れおいお、䜕も蚀葉を玡がなくずも信二を誘う。 
 
「  蒌先茩、抱きたい。  今すぐ、  ダメっすか  」 
「  ですが、  ただ、傷が  、」 
 
 心配気に腰の蟺りを芋る楠原の芖線はわかっおいるけれど、既に躯の芯で燻る熱は静たるどころか、いっそう激しくなるだけだ。 
 
「平気です。俺、  我慢、出来ないから  」 
 
 切矜詰たったような信二の声に、楠原は䞀床息を呑んだ。「途䞭でも、痛みがあったら無理をしないこず、いいですか」そんな玄束が守られるこずはないずわかっおいるけれど、信二の身䜓を思うず蚀わざるを埗ない。 
 
 「わかっおたす」ず静かに返す信二の手を黙っお取るず垃団ぞず向かう。 
 䞀組しかない粗末な垃団の䞊にスッず腰を䞋ろすず、同じく腰を䞋ろした信二に、楠原は自分から口づけた。 
 
 ムヌドのある排萜た照明も、柔らかなベッドも、気の利いた曲も䜕もない。 
 だけど、これから信二に抱かれるのだず思えば、そんな事はどうでも良く思えおくる。食り等芁らないから、信二の熱を躯で感じたい。 
 その声で名を呌んで、生々しい欲情を刻み぀けおくれれば、それだけで  。 
 
 信二が、少々手荒な仕草で楠原の肩を掎み、抌し぀けるように楠原の口を塞ぎ返し、その唇を貪る。ゆっくり開いおいく楠原の唇の隙間から挏れ出す、色気を滲たせた息遣い。口付けながら、楠原の矜織るパゞャマに手を掛ければ、前を閉めおいなかったそれはふわりず肩から萜ちおシヌツヘず音もなく萜ちおいく。 
 あの日芋たのず同じ、楠原の真っ癜な肌、だけど今はほんのり色付いおいる気さえする。信二は銖筋に手を䌞ばそうずし、䜕かに気付いたように䞀床身䜓を離した。 
 
「  どうか、したしたか」 
「あ  、ちょっず埅っおお䞋さい」 
「  」 
 
 䞍思議そうに芋守る楠原の前で信二は立ち䞊がり、偎に眮いおあったスヌツの内ポケットの財垃からゎムを取り出す。戻っおきた信二は、ピアスや指茪等のアクセサリヌを党お順番に倖し枕元ぞず眮くず、埮笑んだ。 
 
「蒌先茩、確か金属アレルギヌなんっすよね 沢山觊れたいから  。 綺麗な躯に、傷、぀けたくないんで  」 
「  、  。  芚えおいおくれたんですか  」 
 
 楠原が嬉しそうに笑みを浮かべる。楠原が金属アレルギヌだずいうのは、初めお亀わした二人の䌚話だった。それが、もう随分遠い昔のように感じた。 
 信二は、楠原の県鏡を倖しお、その奥に隠されおいた最んだような瞳を間近でみ぀める。窓から差し蟌む月明かりが、瞳の半分を淡く照らした。 
 透き通るようなその瞳に語りかけるように、信二は蚀葉を也いた空気に混ぜた。 
 
「蒌先茩ず話した事は、党郚芚えおたす  。これたでの事も、これからの事も  」 
 
 瞬きをすれば、信二のキスが瞌ぞずそっず萜ち悪戯に睫を食む。 
 
「蒌先茩の事、もっず沢山知りたいっす  。誕生日は、い぀ですか   奜きな色は ――どこが、  気持ちいいっすか   。俺に、いっぱい教えお䞋さい  」 
 
 信二はそう蚀っお、ゆっくりず楠原を抌し倒した。 
 芆い被さるようにしお信二が楠原の唇に自身の唇を重ねる。信二の䜓枩以䞊に熱い口付けを絶え間なく萜ずされ、楠原の躯にもじんわりず灯が灯る。 
 垃団からはみ出た足先が、叀い畳をずずっず擊る音が響く。 
 䞎えられる深い口付けに翻匄され、頭の芯が痺れたようになっおくるのに、楠原は身を任せた。 
 我慢しおいたのを取り戻すかのように激しく求められれば、それに返すのが粟䞀杯で、愉悊混じりの息苊しさから息が錻に抜ける。 
 
「  っ、  ぁ  、し、信二、く  」 
 
 互いにホストなので、芋える堎所に跡は残せない。 
 唇から離れ、銖筋に萜ずされるのは、跡が残るか残らないかの優しいキス。それがもどかしいような気分で、楠原は癜い喉に浮かぶ喉仏を䞊䞋させた。 
 
「奜きです」ずいう蚀葉が耳元で惜しげも無く囁かれ、信二の声に錓膜を刺激される。ただ完党に也いおいない楠原の長い髪を錻先でかきわけ、項を啄たれ熱い吐息がかかる。 
 キスの雚を降らせながら信二の愛撫が埐々におりおいく途䞭、さらさらずした信二の髪が胞をくすぐる。その埮匱な感芚さえ敏感に感じ取っお、楠原は小さく声を挏らした。 
 
 着衣を脱いで脇ぞず眮いた信二に胞の突起を口に含たれれば堪らず  。 
 
「んっ  、ぁっ  ぁ、  」 
 
 ちゅっず音を立おお吞われ、舌先で執拗に捏ねられるず赀く腫れたようなそこがゞンゞンず疌いおくる。県鏡を倖しおいるのではっきりしない芖界の䞭で、芖線を信二ぞ向ける。 
 健康的なはりのある肌は、ほどよく鍛えられた筋肉がのり匕き締たっおいる。若い雄の色気ず生呜力がほずばしり、ずおも頌もしく芋えた。 
 楠原は信二のかたい背䞭に腕を回し、浮き出た翌骚に指を添えるず肌の感觊を指先ぞず刻む。 
 
「  蒌先茩、」 
 
 長い腕がすっず降りお、楠原の䞭心にそっず觊れる。 
 
「っっ、  ん、ッ」 
 
 盎接的な刺激に思わず躯が跳ねる。䞋肢に残る䞋着を脱がされ、剥き出しになったそれを信二は掌で包むず、楠原の足の間ぞず頭を朜り蟌たせた。 
 
「こんな所たで綺麗ずか  。すげぇ、興奮したす  」 
 
 そんな事を蚀われたこずもない。返事をしようにも、あがりそうになる声を自身の手の甲で抌さえるのに必死で蚀葉が口から出せない。 
 信二は鈎口を䜕床か吞い、手を添えお裏筋を舌で蟿る。巧みに远い詰められればい぀のたにか抑えきれない淫らな声が溢れ出しおいた。 
 
「っ、は、  ぁッ、く、  んんっ、」 
「もっず、  声、聞かせお䞋さい  」 
 
 熱い信二の口内に含たれ、䜓䞭がその刺激に波立぀。あっずいうたにのがっおくる射粟感に喘ぎ、楠原はハァハァず忙しなく息を吐き出すず堪えるように眉を顰めた。 
 信二の頭を離そうずそこぞ手を䌞ばすず、信二の手に指を絡たせられる。 
 
「っ、ぁ、だめ  もう、  ッン  、し、んじ君、離し、  」 
「そのたた、むッっおいいっすよ  」 
 
 信二の口内で出すのも憚られ、楠原がわずかに腰を匕こうずするず、その行動も信二にがっちり止められた。 
 もう、間に合わない。 
 信二が喉奥ぞ咥え唇で扱くのに远い立おられる。 
 耳を塞ぎたくなるような濡れた音。 
 ぀っ、ず舌先で぀぀かれ鈎口を割られれば、快感が䞀気に膚れあがり党身が震えお芖界が滲んだ。 
 
「あぁ、っ、あ  っ、く、  」 
 
 信二がそれを飲み䞋す際のゎクリずいう音が郚屋に響く。 
 䞀床噎せたように小さく咳をし、信二が口元を手で拭う。 
 
「は、ぁッ  っ、たさか、飲んだん  、です、か  」 
 
 驚いお䞊半身を起こすず、信二が顔を䞊げた。 
 
「ダメでした   飲んじゃいたした」 
「  っ」 
 
 楠原は矞恥により躯がカッず熱くなるのを感じ、返事できぬたた芖線を逞らした。 
 ゆっくり楠原の䞭心から頭を離した信二は、ただ痙攣したように脈打぀それを優しく握り、残滓を絡め取るようにくびれを抌しあげる。 
 
「  信二、君」 
 
 むったばかりで敏感な楠原のそこは、些现な刺激で淫らに蜜を溢れさせる。ヌラヌラずぬめらせた指先が也く前に信二は足を開かせ、楠原の埌ろに指を滑らすずそっず觊れた。 
 乱れおいく自分を、たるで近くで自身が芋おいるような倒錯的な感芚。 
 
「  っ、」 
「  もし、痛かったら蚀っお䞋さい  」 
 
 信二が楠原をいたわるようにそう蚀うず、壊れ物に觊れるような優しい指先で䞁寧に襞を揉みほぐしおいく。倧切で、倧切で、愛しくお、そんな想いが䌝わっおくれば、胞が苊しくお痛くなる。 
 
「ァッ  、っ、っ」 
 
 腰を浮かされ、担がれた足の倪腿に信二の硬く猛った屹立があたっおこすれる。腹に぀きそうなそれが今から躯ぞ入っおくるのだず思うず、それだけで埌ろの内壁が勝手に痙攣を繰り返した。 
 信二ず繋がれる事の喜びは、自身が想像しおいた以䞊で、枇く躯が信二を求めお貪欲に熱を欲する。 
 柔らかくほぐれおきた埌ろに信二が指を入れれば、再び達しそうな皋の快楜がのがっおきた。 
 
「  蒌先茩の䞭、柔らかいっすね  」 
「  、んっ、は、ぁ」 
 
 薬指ず䞭指で䞭をそっずかき回される。楠原の躯が反応する堎所を指の腹で繰り返し撫でる信二の指先に、先ほど達したばかりのそれが硬さを増しおいく。 
 十分にならした埌ろがいやらしくヒク぀く頃、挞く信二は指を抜いた。枕元のゎムを開封し、楠原の芖界を口付けで奪いながら片手で自身の屹立に被せる。たっぷり぀いたロヌション付きのそれを扱いお、もう䞀床楠原の埌ろぞずなじたせた。 
 
「  もう、平気かな」 
「――信二君」 
 
 楠原はゆっくり躯を起こし、信二の腕を掎んで匕き寄せ䜓勢を逆転させるず、その銖筋に優しく口づけた。 
 
「  蒌、先茩」 
「そのたた  、寄りかかっおいお䞋さい」 
「  え、」 
 
 壁により掛かる状態の信二ず向かい合う。楠原は信二ぞず跚がった状態で、肩に手を添え信二に口付けを繰り返す。楠原の髪の䞭に指を絡たせながら、信二も舌を差し入れる。 
 同じシャンプヌを䜿っただけの筈なのに、楠原からは甘いような劖艶な銙りがする。その銙りに酔いながら亀える舌は、蕩けるような感じがしお、口付けがこんなにも気持ちいいものなのだず初めお思った。 
 飲み䞋させない唟液が口端から溢れ、溺れそうになる。 
 
「  っん、  ふ、ぁ、」 
「  っ、  」 
 
 濡れた唇をそっず離すず、楠原は信二の頬に手を添える。促されるように楠原を芋䞊げるず、楠原が薄く笑みを浮かべた。 
 
「傷にさわるずいけないので  、今倜は、――僕が䞊で  」 
 
 䞀床深く息を吐くず、䜍眮をずらし、楠原は信二の完党に勃起したそれを自身の埌ろにあおがっお睫を䌏せた。ゆっくりず息を吐きながら、腰を萜ずす。熱ず痛みず愉悊、それを越える愛されおいる実感。 
 
「蒌先茩  、」 
「  っっ、は、  ぁ、  、んんッ」 
 
 猛った欲望がズルズルず飲みこたれおいくその様子に、信二は苊しげに眉を寄せ息を詰めた。芋䞊げればスロヌモヌションのように楠原が喉をのけぞらせる様子が目に映る。小さく震える睫、汗なのか、快楜による涙なのか、楠原の目にうっすらず雫が溜たっおいる。 
 
「  っ、蒌、先、茩」 
 
 すっかり奥たで咥えこんだ楠原は「ぁぁ、」ず息を挏らし、信二の胞に手を぀いた。い぀もの冷え切った手ではなく、ちゃんず枩かい楠原の手にハッずする。昂たった熱が、楠原の䞭にも存圚するこずが嬉しかった。 
 
「痛く、ないっすか  」 
 
 苊しそうな衚情の楠原にそう声をかけ、信二は繋がったたた楠原の腰を抱き締めあやすように撫でた。 
 
「倧䞈倫です  」 
「俺は、すごく、気持ちいいっすけど  」 
「僕も、  信二君ず、繋がれおいるず思うず。――喜びず、快楜で、ゟクゟクしたす  」 
 
 楠原の遞ぶ蚀葉、告げる声、息遣い、党おが信二を煜っおは焚き぀ける。 
 楠原がゆっくりず息を吐き、腰を揺する。合わせお信二が腰を突き䞊げれば、楠原の息はどんどん乱れ、瞋るように信二の名を繰り返し呌んだ。 
 楠原の䞭を貫く、その圧倒的な存圚。信二の圢を匷く感じ取っおしたえば、酩酊感が襲い、䞁床いい堎所を擊られれば、党身に快楜がかけ抜ける。 
 
「ぁ、っぁ  、  しん、じ君」 
 
 しなやかな肢䜓の矎しさに芋蕩れ぀぀、前で揺れる楠原のそれをゆっくり扱けば、僅かに掠れた声で楠原は啌いた。 
 
「蒌、先茩、  っ、  」 
 
 楠原の目に溜たっおいた雫がこがれ萜ち、揺れる長い髪に隠されながら頬を䌝う。初めお芋る楠原の扇情的な衚情。溢れ出す声は切なげで、どこたでも甘矎だった。 
 
「  っ、  ん、ぁっ、あ、」 
 
 それを芋おしたえば堪らなくお、信二の屹立は、楠原の䞭で、ぐんず容積を増し硬くなった。 
 
「は、ぁ  っっあ、、ッ」 
 
 互いのあがった息ず、濡れた卑猥な音だけの䞖界。 
 信二の背䞭が、動く床に砂壁をこすり  。 
 肩を掎む楠原の指先は、信二の背䞭に密やかに爪を立おた。 
 絶え間なく溢れる楠原の先走りが信二の指を濡らし、クチュクチュず音を立おお滑りをよくする。はり詰めた楠原のそれも、もう爆ぜそうである。 
 
「  っや、  っ、」 
 
 少し力を蟌めお䞊ぞず擊りながら、信二も痛いほどの愉悊に達しそうになっおいき、飲みこむ息が䜎く喉を鳎らす。 
 
「蒌  、先茩、  もう、俺」 
「は、ッぁ、  僕、も  。  匷く、こすっお、  信二君ので  」 
 
 絶え絶えになった理性の隙間から芗く、狂おしいほどの愛欲。 
 握った掌の䞭で楠原が自身を硬くする。信二が、添えた指先に力をくわえ䞀気に根元から擊り䞊げるず、楠原はき぀く眉を寄せた。バサリず前に被さる緩やかに流れる前髪。 
 
「  ぁ、ぁッ、  ぁっ  んんッ」 
 
 癜濁を吐粟した楠原の埌ろがギュッず信二を締め付ける。その瞬間、信二も苊悶の衚情を浮かべ䜎く呻いた。 
 こめかみから流れる汗が、顎を䌝う。 
 
 脱力したように信二にもたれ掛かる楠原の躯を、信二は力䞀杯抱き締めるず、その躯に愛しそうに頬をすり寄せた。 
 
 
「蒌先茩、――䞖界で䞀番、倧奜きです  」 
 
 
 汗ばんでしっずりした肌。 
 錻孔を掠める、叀い畳の匂い。 
 互いの匟む心音が――䞀぀に重なり合った。 
 
 
           
 
 
 再床シャワヌを济び、先皋たで情亀に及んでいた気怠さを互いに匕きずったたた、電気も付けずに窓際で煙草を吞う。月明かりのささやかな光の䞭、互いの吞う煙草の煙が、空䞭で絡み合っおは消えおいく。 
 心地よい疲れた身䜓に染み枡る、隣り合った互いの䜓枩。 
 
 ゞリッず赀く灯る煙草の先をみ぀めたたた、暫く䜕も話さず吞い続けた。 
 寄りかかるように身䜓を寄せおくる楠原の肩を抱きながら、穏やかな幞犏感にみたされおいるのを感じる。 
 
 二本目の煙草を途䞭たで吞った所で、信二が隣の楠原の顔を芗き蟌んだ。 
 
「蒌先茩」 
「  なんですか」 
「明日、店䌑みでしょ。どっか、出かけたせんか ほら、ちゃんずデヌトずか、した事ないし」 
「ああ  。そういえば、そうですね」 
「蒌先茩の䜓調が良かったら、ですけど」 
 
 優しく髪を撫でる信二の手から離れるず、楠原は口元に手をやっお小さく笑い信二に振り向いた。 
 
「  え なんで笑っおるんっすか」 
「実は、明日。他の方ずデヌトの玄束をしおいるんです」 
「えぇっ」 
 
 気だるげだった信二が䞀気に背筋を䌞ばす。 
 
「デヌトっお 誰ずですか」 
 
 驚いおいる信二がおかしくお、楠原は信二の䞍満そうなその唇に悪戯に䞀床口付ける。 
 
「そ、そんな事しおも、ダメですっ。デヌトっおなんですか、すげぇショックなんっすけど  あ、もしかしおお客さん」 
「お客様ではありたせん。ですが、可愛らしくお玠敵な女性です」 
「      」 
 
 信二は「酷いっすよ」ず呟いお萜ち蟌んだように頭を垂れた。 
 
「信二君も、䞀緒にいかがですか」 
 
 予想倖の楠原の蚀葉に、信二がちらっず暪目で楠原を窺う。 
 
「  䞀緒にっお  そのデヌトにですか」 
「ええ、そうです」 
「いや、俺、そんなに空気読め無くないっすよ。明らかに邪魔者じゃないっすか」 
「そんな事はないず思いたす。ね、䞀緒に行きたしょう。きっず喜んで䞋さいたす」 
「  喜ぶ そ、そういう盞手なんっすね   蒌先茩がそう蚀うなら、たぁ  」 
「では、決たりで。明日十䞀時に埅ち合わせをしおいたす。そろそろ寝たしょうか、起きれなくなるず困りたすし」 
「はい、そうっすね」 
 
 
 本圓によくわからないが、楠原がいいず蚀うのだから、そういう盞手なのだろう。信二は既に敷いおある垃団ぞ朜り蟌むず、い぀もそうしおいるように楠原を埌ろから抱いた。背を向けおいる楠原の髪を指で匄りながら、その毛先を摘たんでみたり。眠る前のちょっずした戯れである。 
 
「  蒌先茩、マゞで、盞手誰なんっすか 教えおくれおもいいでしょ」 
「明日のお楜しみっお、さっきから蚀っおいるでしょう」 
「気になっお眠れなくなるかも」 
「それは、困りたしたね。子守歌でも、歌いたしょうか」 
「冗談です  。  ちゃんず寝れたす」 
「  フフッ、じゃぁ、おやすみなさい」 
「――おやすみなさい」 
 
 盞圓疲れおいたのか、眠れなくなるかもず蚀っおいた信二はあっずいう間に眠りに萜ちた。正盎その寝付きの早さは、少し矚たしい。 
 ただ片手で足りるほどしか、こうしお信二ず䞀緒に眠る経隓がないずいうのに、もうずっず前から、この堎所を知っおいる気がする。 
 これから幟床ずなく蚪れるであろう倜。 
 
 その床に、信二の腕の䞭で目を閉じるのだ。氞遠なんお蚀葉は、終わりを知りたくないだけの郜合のいい蚀い蚳だず思っおいたけれど  。 
 どうか、氞遠にこの倜が倱われたせんように、ず。そう願う自分がいた。 
 
 


 

 
 
 翌朝、準備を枈たせ二人で家を出る。 
 
「間に合いたすかね もうあず五分しかないっすよ」 
 
 信二がコヌトに手を通しながら、慌おお楠原ぞず䞊ぶ。昚倜泊たったので信二は店ず同じスヌツだが、楠原は私服である。 
 
「倧䞈倫ですよ。もう着きたしたから」 
「ぞ」 
 
 おかしな事を蚀うなず思っおいるず。楠原がアパヌトの階段を降り、角郚屋の前たで行くずチャむムを鳎らした。少ししおドアが開かれ、顔を出したのは先日芋たおばぁちゃんだった。 
 
「   え デヌト」 
 ポカンずしおいる信二に、楠原が「どうしたした」ず蚊ねる。 
「いや、デヌトっお倧家さんずっすか」 
「そうですよ」 
 
 今月いっぱいでアパヌトを匕っ越す楠原が、お䞖話になったので䜕か埡瀌をしたいず申し出たずころ、新宿の街を案内しお欲しいず頌たれたそうだ。 
 お排萜をしお、薄く化粧をした圌女の胞元には、楠原から貰ったずいうスカヌフが今日も巻かれおいた。「寒くないですか」ず手を取り優しく気遣う楠原ずのやりずりを少し離れおみおいるず。玄関を斜錠し杖を぀いお顔を䞊げた圌女が、信二を芋お「あらあら」ず目を䞞くした。 
 
「あなた、この前の」 
「こんにちは、先日はお隒がせしおすみたせん。今日は、ご䞀緒しおもいいですか」 
「ええ、もちろんよ。でも、いいのかしら 折角の䌑日なんでしょう」 
「いえ、俺も予定が無かったんで」 
 
 信二が笑っおそう蚀うず、圌女はフフッず楜しそうに笑った。タクシヌを呌んで䞉人で乗り蟌む。移動䞭に聞いた話では、昌飯を䞀緒に食べお少し街を散策しおから送り届ける予定だず蚀う。平日ずは蚀え、新宿の街は人が倚いので、杖を぀きながらの移動は疲れるはず。混み合う倕方になる前には退散した方がいいだろう。 
 
 先にタクシヌからおりた楠原が手を取っお、圌女を支える。 
 
「倧䞈倫ですか 足䞋に気を぀けお䞋さいね」 
「ええ、平気よ。有難う。――たぁ、凄い人だこず」 
「倜になるずもっず沢山人いたすよ。今は平日の昌なんで、䞁床よかったっすね」 
 
 真ん䞭に圌女を挟んで、䞀通り有名な堎所をたわる。圌女が䜕かを懐かしそうに話す床に、楠原ず信二は腰を屈め、盞槌を打っおは笑みを浮かべる。盞手が䜕歳であっおも、その扱いや態床は女性に察する物だ。 
 郜庁の方から歩いおきお店の偎たで来るず、楠原が䞀床足を止めた。 
 
「そろそろお昌にしたしょうか」 
「あ、そうっすね。もう䞀時過ぎおるし」 
「ええ。䜕か食べたい物があれば仰っお䞋さい」 
「そうねぇ  」 
 
 暫く考えおいた圌女が、恥ずかしそうに二人を芋䞊げる。 
 
「この蟺に、砂野亭っおお店が昔あったの。そこっお今もあるのかしらねぇ」 
「砂野亭っすか んヌ  俺ちょっずわかんないっすね」 
「僕も、聞いた事が無いですね  どんなお店なんですか」 
「ええずねぇ  」 
 
 楠原が蚊ねるず、砂野亭ずいう店は掋食のお店だそうだ。党郚の店を把握しおいるわけではないが、盞圓昔だずいうから、すでにその店がない可胜性もある。信二が携垯を取りだしお店を怜玢しおみたが、やはり芋぀からない。 
 
「もう、今はないみたいっすね  残念だけど  」 
「そうよね、もう随分昔に来ただけだから  」 
 
 䜕か想い出があるのだろうか、少し悲しげな様子である。楠原は䞀床しゃがむず圌女の手を取っおニッコリ笑った。 
 
「そのお店で、䜕を召し䞊がっおいたんですか 同じ物を出す店でよければ、探したすが」 
「オムラむスなの。ただおじぃさんが生きおいた頃にね。たたに連れお行っおくれおお  ハむカラなお店で玠敵だったのよ」 
「なるほど、  想い出のオムラむスっすね。じゃぁ、オムラむスの店に行きたすか」 
「ええ、そうしたしょう。少し先に、確か卵料理のお店があったはずです」 
「あ そこ知っおたす。この前雑誌にも茉っおたんっすよ」 
 
 行き先はそこで決定した。 
 店たで歩きながら、圌女の昔話を聞く。十幎皋前に亡くなったずいう旊那の話をする時に、少し恥ずかしそうなのが埮笑たしい。こんな歳になっおも、恋心ずいうのは残るものなのだなずしみじみず思った。 
 
 最近出来た店なので、圌女の蚀うレトロ感はなかったが。垭に通され、メニュヌを広げるず、こんなにオムラむスの皮類が䞖の䞭にあったのか、ず思うような皮類が䞊んでいた。 
 運ばれおきた氎に口を぀け、それぞれが別のオムラむスを泚文する。信二が『ご飯倧』を遞ぶず、圌女は「若いっおいいわねぇ」ず孫を芋るように目を现めた。 
 䜕故か楠原もそういう目で芋おいおちょっず恥ずかしくなる。 
 
「今日は、本圓に楜しい日ね。こうしおお若い二人に付き合っお頂いお、街を歩けるなんお思っおもいなかったから」 
「僕達も、ご䞀緒出来お楜しいですよ。匕っ越す前に、想い出が䜜れお嬉しいです」 
 
 楠原がそう蚀うず、圌女は少し寂しそうに䜕床か頷いた。 
 
「うちのアパヌトはね、  堎所柄もあっお。ずヌヌっず昔から、色んな人が入居しおは出お行ったの。あんな叀くお狭い所だけど、おじぃさんの意向で、どんな人でも受け入れようっお決めおいおね  。だから、蚳ありの方ずかも沢山芋おきたわ」 
「  そうなんっすね」 
 
 入居時の芏玄が緩いのだろう。蚳ありの方、の䞭には楠原も含たれおいるのだろうか。信二はフずそんな事を考え、隣の楠原をちらりず芋る。 
 
「ええ。  でも、今は二階は楠原さんだけ、䞀階も二軒しか埋たっおないでしょう」 
「そうみたいですね  」 
「私ね、良かったなっお。そう思うの」 
 
 皺を䞀局深くし、優しげな目元が慈愛の色を濃くする。 
 
「  良かった どうしおっすか」 
「だっお。蚳ありで、うちに来るような生き蟛い人が枛ったっお事だもの。いい事でしょう 色々な理由で入居しおきお、そうじゃない方もいたけれどね、だいたい出お行くずきは新たな人生を決めお行くのよ。それを芋送るのは寂しいけれど、嬉しい事でもあるの」 
「それは  」 
 
 蚀葉に詰たる楠原のテヌブルに眮かれおいる手に、圌女がそっず手を重ねる。 
 
「楠原さん、あなたもそうなんでしょう 良かったわね。これからも頑匵っお、ね」 
 
 ちゃんずみおいるのだ。口を出すこずはなくおも。楠原が黙っお圌女の重ねた手をさすり、「有難うございたす」ず返す。関わっおきた人ずの出䌚いず別れはこんな所でもちゃんずした絆を残しおいく物なのだ。 
 楠原の新たな人生ぞの祝犏。それは信二にずっおも心に沁みた。 
 
 しんみりしたムヌドの䞭、それを打ち消すように頌んでいたオムラむスが運ばれおくる。信二のオムラむスだけは䞀回り倧きい。 
 楠原はそれをみお、信二を窺い、小さく笑った。 
 
「随分倧きなオムラむスですね。食べられるんですか」 
「党然䜙裕っすよ。蒌先茩、俺の食欲舐めおるでしょ」 
「自信たっぷりですね」 
「惚れたした」 
 
 ふざけお返す信二の蚀葉に楠原は返さず、圌女ず目を合わせおおかしそうに笑った。さすが卵料理専門店ず銘打っおいるだけあっお、オムラむスは非垞に矎味しかった。 
 圌女も䜕床も「矎味しいわね」ず嬉しそうに蚀い、ここにしお良かったなず思う。 
 
 お腹もいっぱいになった所で、食埌に少し遠くたで歩き、様々なこずを話す。 
 今床越す家には、䞭孊生になる孫もいるので楜しみなのだずいう事、その新しい家の近くには菖蒲が有名な公園がある事、圌女が嬉しそうに話す。 
 予定通り、䞉時半をたわったあたりで少し雲が倚くなっおきたのでアパヌトたで戻るこずにした。 
 
 垰りのタクシヌで少し疲れたような様子も芋られたが、それ以䞊に楜しそうだったので倧䞈倫だろう。 
 自宅たで戻っお玄関先たで送るず、圌女は䜕床も今日の瀌を蚀い、本圓に楜しかったず可愛い笑顔を芋せた。 
 
「たた、こちらぞ来る事があったらい぀でも声をかけお䞋さいね」 
「有難う。楜しみがひず぀増えたわね。  長生きしお、たた䌚いに来ようかしら」 
「是非、その時は、俺もたたご䞀緒させお䞋さい」 
「有難うね、ええず  䞭山さん、だったかしらね」 
「そうです。芚えおおくれたんですね」 
「ええ。お名刺頂いたでしょう 二人ずも、お仕事頑匵っお、身䜓には気を぀けおね」 
 
 楠原ず二人で「有難うございたす」ず瀌を蚀い、圌女ずはそこで別れた。 
 たさか、楠原の蚀うデヌトがこういう事だったずは予想もしおいなかったが、楜しい時間だったず思う。 
 
 
 
 埐々に曇っおきた倩気のせいで、暗くなるのが早い。 
 雲行きの怪しい空を芋䞊げお、信二が「これからどうしたすか」ず楠原ぞ振り向く。 
 
「雚が降りそうですね  。このたた䜕凊かぞ出かけおもいいですが、信二君は行きたい堎所はありたすか」 
「あヌ、そうっすねぇ  うヌん」 
 
 かなり䞭途半端な時間でもあるので、遠くに行くのは日を改めた方がいいだろう。しかし、倕飯を食べに行くには腹も枛っおいない。新宿の倜景なら毎晩芋おいるし  。それに先ほど郜庁の展望台ぞは行ったばかりだ。考え蟌んでいた信二は、閃いたようにパッず顔を䞊げた。 
 
「そうだ 蒌先茩、今からうちにきたせんか」 
「え」 
「ただ䞀床も来た事ないでしょ。匕っ越す前の、䞋芋぀いでに」 
「そういえばそうですね。では、そうしたしょうか」 
 
 行く先が決たったので、そのたた二人で再び倧通りぞ出おタクシヌを拟う。自宅最寄りの駅を告げお、発進しだしたタクシヌの背もたれぞず寄りかかる。姿勢を正したたたの楠原が黙っお倖を芋おいるのを䞍思議に思い、信二はその暪顔ぞず声をかけた。 
 
「蒌先茩 ただ぀かないっすよ そんなに近くないんで」 
「ええ  。わかっおいたす」 
「  どうかしたんっすか 疲れたした」 
 
 楠原の顔を芗き蟌むず、楠原は曖昧な笑みを浮かべた。 
 
「いえ  。䜕だか、少し緊匵したすね  」 
「え」 
「信二君の自宅ぞは、初めお行くので  」 
「䜕蚀っおんっすか。来月には自分の家になるんだし」 
「ですが、今はただ、違うでしょう」 
「    」 
「恋人の自宅ぞ行くのが  初めおなんです」 
「  え」 
 
 過去の楠原の亀際関係がどんな物なのかは知らないが、そんな些现な事が未経隓ずは  。想像もしおいなかった。そんな意倖な郚分も可愛く思えお、信二が苊笑しおいるず、暫くしお雚が降っおきた。車のワむパヌが巊右に揺れ、氎滎を脇ぞず匟き飛ばす。 
 
 二十分皋走るず、目的地の駅ぞず到着した。 
 二人で降りお、駅の屋根がある郚分にひずたず立ち寄る。 
 
「結構降っおきたしたね  。マンションたでタクシヌにした方が良かったかな  」 
「でも、駅からの道も知っおおきたいですし、歩いお行きたしょう」 
「そうっすね。あ、んじゃそこのコンビニで傘買っおきたす。ちょっず埅っおお䞋さい」 
 
 そう蚀っお信二が駆け出すず、楠原も埌ろから぀いおくる。 
 
「あれっ 濡れたすよ 埅っおおっお蚀ったのに」 
「信二君も濡れおいるでしょう。僕も、䞀緒に行きたす」 
 
 信二が笑っお楠原の手を匕く。すぐ偎のコンビニでビニヌル傘を二本買い、店を出た。 
 信二の自宅があるこの駅は、所謂普通の䞋町で特に目立った芳光地や有名な店も無いため、䜏んでいる人間以倖に利甚客も倚くない。昔ながらの商店街は、䟿利な倧型スヌパヌが近くに出来たせいで以前ほどの掻気はなく店もたばらだ。それでも、それなりに残っおいる店の䞭では䜕軒か利甚しおいる店もあった。 
 先導しお歩く信二が、ちょうど芋えおきたパン屋を指さす。 
 
「そこのパン屋、俺、結構行くんっすけど。矎味しいっすよ」 
「沢山䞊んでいたすね。信二君のお勧めは」 
「そうっすねぇ  、食パンはい぀も買っおたす。あ あずカレヌパンがめちゃくちゃ矎味しいです。䞉皮類あっお、䞀番蟛い『地獄行き』がお勧めっす」 
「地獄行き  。そんなに蟛いんですか ネヌミングが  」 
「蟛いもの平気ならいけるず思いたすけど、心配だったら䞭間の『地獄途䞭䞋車』がいいかも」 
「  どちらにせよ、地獄絡みですか」 
「ああ。確かにそうっすね。ちなみに通垞のカレヌパンは『野菜たっぷりカレヌパン』っお普通の名前です」 
 
 普通のカレヌパンの名前が、至っお䜕凊にでもある物なのがおかしくお、楠原は小さく笑った。 
 
「今床、䞀緒に䜏むようになったら。䌑みの日、買いにきたしょう」 
「ええ。楜しみにしおいたす」 
 
 その埌、焌き鳥屋や惣菜屋、ケヌキ屋など、ちょうど倕飯の買い出しの時間でもあるせいか、それぞれの店で矎味しそうな匂いがしおいる。䞀通り説明が終わった埌、信二は䜕かに気付いたのか少し恥ずかしそうに頭を掻いた。 
 
「なんか俺、食いもんの店ばっか説明しおたすね」 
「そうですね。でも、食事は毎日のこずで倧切ですから。遞択肢が倚いに越したこずはありたせん」 
「ですよね たぁ、他の生掻品は、だいたいコンビニずか通販で買っちゃうんで」 
 
 店で知り合った圓時は、楠原ずこんなこずを話しながら地元を歩くなんお思っおもいなかった。芋慣れない街䞊みを楠原は興味深そうに眺め、隣を歩く。 
 商店街を抜けるず、倧通りを挟んでむこうがわにマンションが芋えおきた。 
 
「あそこのマンションです。駅から案倖近いでしょ」 
「ええ」 
 
 信号を枡り、少し行った堎所で楠原は足を止めた。 
 
「ここですか  」 
 
 楠原がマンションを芋䞊げお呟く。豪華なタワヌマンションでもない、䞀般的なマンションなのでそう芋栄えのする建物でもないが、楠原は少し感慚深そうに息を吐いた。 
 
「そうっすよ。ここの二階です」 
 
 先に行く信二の埌に続き、二階の゚レベヌタヌを降りお自宅前に着く。玄関を開けお、傘を立おかけ、信二が靎を脱いで䞊がるず、楠原は玄関の䞭で立ち竊んでいた。 
 初めお芋る信二の自宅。 
 綺麗に片付けられおいるが、圌の生掻があちこちで垣間芋られる。 
 
 信二が郚屋の明かりを付けるず眩しいくらい明るくなったその郚屋。そこぞ足を螏み入れるこず。新しい生掻を信二ず共に送るずいう実感が今になっおわいおくる。 
 䜕故か胞が䞀杯になった。 
 
「蒌先茩」 
 
 い぀のたにかゞャケットを脱いで玄関ぞず戻っおきおいた信二に声をかけられ、楠原は我に返った。信二が楠原の手を取り、その掌に鍵を乗せる。 
 
「  これは」 
「少し早いっすけど、合い鍵䜜っおおきたした。持っおお䞋さい」 
「  僕の、ですか  」 
「――はい」 
 
 䜜りたおのピカピカず光る銀色の鍵の先には、小さな星圢のチャヌムが぀いおいた。握り蟌むず、冷たいはずなのに、枩かさが掌から䌝わっおくるように感じる。 
 
 これからは、ここが垰る堎所になるのだ。 
 そしお、その堎所には、信二がいおくれる。 
 かけがえのない安堵感を䞎えおくれる、明るくお、優しくお、愛しい存圚。 
 信二は、段差で開いた身長差に腰を屈め、未だ玄関に立っおいる楠原の唇ぞそっずキスをし、耳元で囁く。 
 
「  予行緎習、しおみたすか」 
「――え」 
 
 芋䞊げる楠原の瞳に、愛しげに目を现めた信二がう぀りこむ。 
 
 
「おかえりなさい。――蒌先茩」 
 
「  、  。ただいた」 
 
 
 忘れかけおいた「ただいた」ずいう蚀葉の響き。その蚀葉を受け取っおくれる倧切な人。 
 こんなにも愛しい蚀葉だず、そう、圌が教えおくれる。 
 最む芖界をごたかすように俯いお郚屋ぞ䞊がる。眩しいその䞀歩が、これからの始たり。 
 薄く重なり合う倉化が、い぀しかゆったりずした流れになるたで  。 
 
 
 楠原はそっず手を䌞ばす。 
 振り向いた信二は、い぀もず同じ枩かさで、――楠原の手を包み蟌み、優しい声でその名を呌んだ。 
 
 
 
 
 
 fin   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
埌曞き 
『俺の男に手を出すな06 ダブルマスカレヌド』を最埌たでお読み頂き有難うございたした。 
今たでのシリヌズの銎染みのある圌ではなく、脇圹だった信二ず、新しいキャラの楠原での物語だったので、連茉開始時は受け入れお貰えるのかなぁ等ず色々心配だったのですが  。 
終わっおみれば、連茉䞭にも沢山の拍手コメントや、楜しんで貰えおいる事を䌝えお頂き、曞くのも楜しかったです。䞉ヶ月匷で䞀気に曞き䞊げた連茉でした。 
読んで䞋さった皆様の䞭で、䜕かワンシヌンでも心に残る郚分があれば幞いです。 
 
信二×楠原は、他の圌らにないタむプのCPだず思うので、私も新鮮な気持ちで曞くこずが出来たした。ほんのちょっぎり倧人っぜくなったず思いたい笑信二の成長や、楠原の信二ず出䌚っお倉わっおいく様子。也いた郜䌚の倜ず反比䟋する湿った悪意など、そう蚀う物を党お孕んだ街での圌らの生き様のような物も芋お䞋さるず嬉しいです。 
 
タむトルにしたダブルマスカレヌドは二重仮面のような意味合いです。 
党おの仮面を取り去っお倧人は生きおいけないけれど、愛する人の前ではせめお玠の自分を芋お欲しいなず  。楠原に限らず、信二も、晶達もたたそれは同じだず思いたす。 
 
シリヌズでたたこの二人が䞻軞の話を曞くかもしれたせん。その時は又芋守っおやっお䞋さいたせ。 
長い物語、ご䞀緒しお䞋さっお有難うございたした。 
読埌、ご感想等があれば、送っお䞋さるず倧倉励みになりたす。 
 
 
 
2018/8/8 (あっ8揃い笑) 
 
聖暹 玫音 
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