Hal


Halloween★night


 

 
【Halloween】ずは。 
毎幎十月䞉十䞀日に行われる、叀代ケルト人が起源ず考えられおいる祭りのこず。䞭略カボチャの䞭身をくりぬいお「ゞャック・オヌ・ランタン」を䜜っお食ったり、子どもたちが魔女やお化けに仮装しお近くの家々を蚪れおお菓子をもらったりする颚習などがある。 
 
 
「っお、りィキペディアに曞いおあるぜ」 
「知っおたすよっ それは」 
 
 携垯で怜玢した詳现を、滑舌よく読み䞊げた晶に察しお信二が悲痛な叫びを返す。 
 LISKDRUGで毎幎行われるハロりィンパヌティの食り付けをしおいた埌茩は、信二の倧声で食りのミニカボチャをビックリしお萜䞋させた。 
 コロコロず足䞋に転がっおきたカボチャは、意地悪な笑みを象るようにくり抜かれおいお、こんな衣装の自分を嘲笑っおいるみたいだ。 
 晶は、それを拟うず埌茩ぞず攟り投げた。緩やかに匧を描いお宙を舞うカボチャ、それを芖線で远いながら、信二はカボチャにも恚み節を吐きそうになる。 
 
「お ナむスキャッチ、俺っお投球コントロヌル抜矀じゃね」 
 
 自画自賛の晶に「流石です オヌナヌ」ず持ち䞊げる女装の埌茩。たるで孊芞䌚の楜屋裏のような雰囲気が店内を満たしおいた。 
 そんな䞭、オレンゞず黒の掟手な颚船食りの前に立っおいる信二は明らかにふお腐れおいた。 
 
「信二、お前。なヌに、䞍機嫌になっおんだよ。毎幎やっおんだから、慣れおるっしょ」 
 
 晶が衣装を着たたた、宥めるように信二の肩ぞ手を眮く。 
 
「パヌティヌに文句蚀っおる蚳じゃなくお、この衣装っす 玍埗いかないっす」 
「衣装 気に入らねヌの」 
「圓たり前でしょ なんで、俺だけ着ぐるみなんっすか しかもピンクのクマっお」 
「しょヌがねぇだろ。レンタルのハロりィンセットBにそれが入っおたんだからさ。王子コスは楠原がやるこずになったし、康生はゟンビでいいっお蚀っおたし、他は、えぇっず  それず魔女ずナヌスだったか ずにかく、女装はお前、去幎絶察嫌だっお蚀っおたしそれしかなくね」 
「それは、そうっすけど  」 
 
 毎幎同じ仮装だず、客も぀たらないだろうずいう事で、祭り奜きの晶自らが、毎幎この時期になるずレンタル衣装を揃えおくるのが恒䟋ずなっおいるわけだが。どこで取り寄せたのか、某量販店で売られおいる安っぜい物ではなく、その衣装は舞台で䜿われるような本栌的なものだ。 
 昚倜やけに倧荷物が店に届き、嫌な予感がしたがそれは的䞭した。 
 
 去幎のハロりィンは、晶は魔法䜿いで、信二は海賊の衣装だった。海賊のそれは評刀も良く、自分でも結構むケおいたのではないかず思う。珟に客にもカッコむむず倧人気だったのだ。しかし、今幎はそういうわけにはいかない。 
 
 今幎の信二の仮装。それはピンクのクマの着ぐるみだった。しかも、ハロりィンバヌゞョンなので、倧きな口元に血がペむントされおいるホラヌ映画に出お来そうな物である。その口元に穎が空いおいお芖界はそこしかない。尊敬する晶だずしおも、これを借りおきた事に文句の䞀぀も蚀いたくなるのは仕方がないだろう。 
 連続しお溜め息を぀きたくっおいる信二に、晶は小道具の鎌でちょっかいを出し、ピンクの党身姿を芋お苊笑した。 
 
「晶先茩はカッコいいからいいっすよね。自分だけズルくないっすか」 
「䜕蚀っおんだよ。可愛いじゃん、お前のそのクマも。倧䞈倫だっお、安心しろ。䌌合っおっから」 
「䌌合うずか、顔芋えおないのに適圓だなぁ、もう  」 
「あヌあれだ。お前の声ず䌌合っおるっおいうか、うん」 
「  。はぁ  、ハロりィンセットAにしおくれれば良かったのに」 
「セットAは、クマがりサギになっおるだけだったぞ」 
「マゞっすか」 
「うん、マゞ」 
「ぞぇ  。じゃぁたぁ、クマの方がいいのかな」 
 
――っお、危ない 
 
 もっず最悪な䟋を持ち出されお、危うくクマで良かったなんお䞀瞬思っおしたった信二、もずいクマの着ぐるみは、䞀人で頭を振った。もっずこう、普段着れないような栌奜良い衣装が良かった。 
 
「぀か、なんで鎌持っおるんっすか 晶先茩の仮装っおドラキュラでしょ」 
 
 真っ黒なマントの裏地は深玅。い぀もず違い、髪型もサむドを固めお埌ろで結んだスタむルで絶劙にかっこよくキめおいる。晶は信二の蚀葉を受けお、「え」ずいうように銖を傟げた。 
 
「なんでっお、ドラキュラは鎌持っおるっしょ」 
「いや、持っおないでしょ。それっお死に神っすよね ミックスしおたせん」 
「そうなん」 
 
 䜕かの冗談で持っおいるず思っおいたのに、晶は玠でドラキュラは鎌を持っおいるず思い蟌んでいたらしい。 
 
「んじゃ、これお前の小道具なのかな 欲しいなら、やろうか」 
「いやいや、クマが鎌持っおるっお、それも意味䞍明ッすよね っおいうか、俺  手がモコモコなんで、そういうの長時間握れないし」 
「あヌそっか。たぁ、いっか。ドラキュラでも鎌持っおたっおいいよな」 
 
 アルミ箔が貌っおあるような鎌のオモチャを、晶は近くぞの゜ファぞずひょいず眮いた。マントは結構重いらしく、邪魔そうにたくしあげお晶がその暪ぞ腰を䞋ろす。ポケットから煙草を取り出しお咥えるず、ゆっくり玫煙を燻らせた。黙っおいる晶の暪顔は、劖艶ずも蚀っお良いほどの色気が溢れおいる。 
 口元に芗くドラキュラの牙ず、付属しおいた血のペむントがたるで本物のようで、かなり様になっおいた。パヌティヌが始たれば、女性客がこぞっお「私の血を吞っお」ず矀がるのが目に芋えるようだ。自分が客だったら間違いなく蚀う。 
 
 それに比べお自分は  。信二はモコモコの巚倧な手をバフッず頭郚にあおた。片手だけで顔を隠すほどのそれは、あらゆる行動を制限する。 
 もうこうなったら、このモコモコで「信二フワフワじゃん」ず気に入っお貰えるようにゆるキャラ路線に倉曎するしかない。 
 信二もそのたた腰を䞋ろすず、裏で着替えを枈たせた康生がフロアぞず入っおきたのが狭い芖界から芋えた。 
 
――䜕故だ  。 
 
 信二がクマの頭郚の䞭で目を䞞くする。 
 康生の仮装はゟンビだったはずではないのか。 
 
 確かに衣装はボロボロで汚れおいる雰囲気のものだったが、ゟンビずいうにはワむルドすぎる。砎れたネルシャツに、血で汚れたゞヌンズ。その隙間から康生の鍛えられた筋肉質な身䜓が露出しおいた。これでモヒカンだったなら、パンクバンドのメンバヌだず蚀われおも玍埗出来そうな仮装である。 
 顔の傷のペむントも盞たっお、すっかりむケメンゟンビになっおいた。こんなゟンビなら自分が率先しお立候補すれば良かったず思うが埌の祭りである。 
 そんな康生が偎にやっおきお信二の姿を芋぀けるず  。 
 
「  信二  お前、それ  」 
 
 哀れな者をみる目でみ぀め、それだけ呟いた埌、急に腹を抱えお笑い出す。信二は舌打ちするず眉を顰め、着ぐるみの䞭から声を䞊げた。結構倧きな声で話さないず呚囲には聞こえない。元から声の倧きな信二には、䞍䟿さは無かったけれど。 
 
「康生、笑いすぎ」 
「だっお、おたっ。䜕それ、最高にうけるだろっ。え クマかよ しかも、䜕か食ったみおぇな口だし。廃園になった遊園地に居そう」 
「ゟンビに蚀われたくないし。はぁ  、晶先茩のせいで  、俺、今日テンションだださがりっすよ。  もう、垰りたいっす  」 
 
 蚀いたい攟題、笑いたい攟題の康生を軜く睚んで、信二が疲れ切ったように背もたれぞず寄りかかった。重心がずれたこずで思い切り埌ろぞ頭が動き、壁にゎンずいう音を立おおぶ぀かる。危うくむちうちになる所だった。信二は慌おお少し起きあがった。これじゃ、身動きも出来ない。 
 い぀もの五倍は重さがありそうなのだから圓然ではあるが  。 
 パヌティヌが始たる最初だけずはいえ、この栌奜で過ごすなんお頭以䞊に気も重すぎる。 
 
 晶ず康生が栌奜良くキめおいるのを暪目で芋ながら萜胆しおいるず、暫くしお楠原がフロアぞ入っおきた。 
 
「わ  蒌先茩 かっこいいです 男のオレでも抱いお欲しくなりたす」 
 
 信二は聞き捚おならない台詞に反応し、埌茩が手を止めお感嘆の声を挏らす方ぞ鋭く芖線だけを向ける。 
 
「僕は、高いですよ それでも良ければい぀でもお盞手したすが」 
 
 楠原が笑っお冗談で返す。埌茩は芖界の悪い信二からみおも赀くなっおいた。男をも魅了する楠原は、確かに凄い。そしお、抱きたい。 
 本圓に咲いおはいないけれど、これが挫画だったら楠原の呚りにはキラキラの゚フェクトず薔薇が咲き乱れおいるだろう。そう思っおしたうほどに、楠原の王子コスプレは超絶䌌合っおいた。ハロりィンセットに䜕故王子衣装が入っおいたのかは疑問だが、そんな事を蚀ったらクマだっおおかしいのでそこは考えないこずにする。 
 
――『俺の』蒌先茩、綺麗すぎる 
 蚀えない蚀葉を、たずは心の䞭で叫んで心を萜ち着かせる。 
 
「おや  、皆さん、もう着替え終わっおいたのですね。僕が最埌ですか」 
「おっ 楠原。サむズピッタリじゃん。本物の王子みおぇだな。すげぇ䌌合っおる。これはいっぱい写真撮られるず芋たね、俺は」 
「そうですか 少し動きづらいですが、そう仰っお頂けるず仮装した甲斐がありたすね。オヌナヌこそ、よくお䌌合いですよ。倜に盞応しい、闇の王者の貫犄が感じられたす」 
「マゞで よっしゃ たぁ、ホントは闇の王者っおがらじゃねぇんだけどさ、サンキュ」 
 
 先陣を切っお絶賛した埌茩や晶に続きたいのはやたやただが、楠原の方ぞ振り向きたくなかった。いずれ気付かれるずしおも、数分でいい。いや、数秒でも良いからその時間を遅らせたい。穎があったら入りたいずいうのはたさに今の事だろう。 
 しかし、信二の願いは虚しくもたった5秒で消えた。 
 
「  そこにいるのは、  信二君ですよね」 
「  ぅ  」 
 
――気付かれた。䞀番芋られたくない盞手に  。 
 
 信二が俯いたたた、ず蚀っおも着ぐるみなので端から芋たら埮動だにしおいないたた、やや小声で口を開く。 
 
「いや、あの  。晶先茩がこんなの借りお来ちゃっお」 
 
 䞭で口ごもる信二の目の前ぞやっおくるず、楠原はクマの顔を芗き蟌んだ。 
 
「ずおも愛らしいですね。きっずお客様にも、可愛がっお貰えたすよ」 
 
 それを聞いおいた晶が、「その通り」ずでも蚀いたげにうんうんず頷く。 
 楠原に可愛いず蚀われお、ほんの少しだけテンションがあがったが、きっず気を遣っお蚀っおくれたのだろう。しかも、可愛いのはクマであっお信二ではない。そう思うずやっぱり虚しい。 
 
「蒌先茩の王子衣装、凄いカッコいいっすね。マゞ、芋惚れたす」 
「有難うございたす。こういう物は、誰が着おも様になるよう、䜜られおいるのでしょうね」 
 
 晶が埌茩に呌ばれおそちらぞ向かったのを芋届け、近づいおいる楠原の偎で信二が囁く。 
 
「あんたし人に芋せたくないぐらい玠敵っす。俺、お客さんに嫉劬しちゃいそう」 
 
 楠原が小さく笑っお、信二のクマの手を握る。 
 せっかく楠原に手を握っおもらっおいるのに、残念ながら感觊はほがわからない。王子に手を握られるピンクのクマ。䜕ずもシュヌルな光景である。 
 しかも、段々着ぐるみの䞭が暑くなっおきお、汗が滲んできた。倏でもないのに。信二はひずたず頭のかぶり物だけを取るこずにした。 
 身䜓は着るのも倧倉だったのでこのたたでいるしかないが、頭の郚分は今は必芁ない。ズボッず取り倖しお隣ぞ眮くず、包たれおいた頭郚があらわになった事で味わったこずのない開攟感に包たれた。 
 
 楠原の衣装を改めお芋おみるず、本圓によく出来おいる。 
 おずぎ話に出おくるような癜を基調ずしたフロックコヌトずズボンの衣装で、肩や胞の食りには深い緑の品のある食り、现身の楠原の腰蟺りには、きゅっず絞るような倪い玐に金色のタッセルが付いおいた。 
 
「俺も、王子の衣装が良かったっす  」 
「信二君が着たら、僕より䌌合いそうですね。ああ  、でもこれ。ワンサむズしかないそうですよ オヌナヌが着ようずしたら、入らなかったずか」 
「そうなんっすか ああ、じゃぁ、俺もきっず入らないな」 
 
 残念そうに呟く信二に、い぀のたにかたた戻っおきおいた晶が口を挟む。 
 
「信二は俺よりでかいんだから、䞈も足りないんじゃね」 
「かもしんないっすね」 
 
 嬉々ずしお血塗れナヌスコスをしおいる埌茩を暪目に、食り付けたハロりィンずいう文字のプレヌトを晶が指で揺らす。錻歌でも歌い出しそうな晶は楜しげだ。 
 
「晶先茩、さっきから気になっおたんっすけど、その髪食りなんで぀けおるんっすか」 
「んヌ あ、これ」 
 
 サむドの固めた髪に晶が付けおいるのは、ハヌト柄のピン止めだ。せっかくカッコよくキめおいるのに、そこだけ倖しおいるのが䞍思議だった。 
 
「別に深い意味はねヌよ。カワむむっしょ ほら、お客さんの䞭には怖いのずかマゞ苊手な人もいるしさ、かわいい感じもプラスしずかねヌず」 
「なるほど、流石オヌナヌですね。お客様のこずを考えおの食りずは」 
「そうそ」 
 
 楠原は玍埗したようだが、わかるようでわからない。 
 だけど、それをきっかけに客にツッコたれたりしお、話題䜜りにはなりそうである。楜しそうな晶を芋おいるず、䜕だか着ぐるみも別に悪くない気がしお、信二は䞀人笑みを浮かべた。ちょっずしたお遊びなのだから、別にこれでもいいかずいう気分になっおくる。 
 
 しかし、着ぐるみを受け入れるずしおも、煙草が吞えないのは痛い。 
 もう店が開くたで䞉十分皋しかないので、今曎埅機宀ぞ戻っお脱いで䞀服するずいうわけにもいかない。 
 信二は「うヌん」ず神劙な顔をしお店の倩井を仰いだ。 
 
「どうかしたしたか」 
 
 店内の装食をチェックしながら巡回しおいる晶はたたフラフラず䜕凊かぞ行っおしたった。晶を目で远っおいた楠原が、信二ぞず振り向く。 
 
「いや、煙草が吞いたいんっすけど  。これ着おるず煙草持おないんで  」 
「ああ  。確かに、この手では煙草は挟めたせんね」 
「でしょ 倱敗した  これ着る前に、吞っおおけば良かったっす」 
「でしたら、僕が吞わせおあげたしょうか」 
「え」 
 
 ニッコリ笑った楠原が腰を䞊げお信二の腕を掎む。 
 
「どうやっお」 
「簡単ですよ。ちょっず着いおきお䞋さい」 
 
 楠原がフロアを出お非垞階段のある裏口から出る。続いお信二も屋倖ぞ出るず、倖はかなり涌しくお、着ぐるみの身䜓に颚が心地よかった。隣のビルの壁が遮っおいるおかげで人目に付かない螊り堎で、楠原は自分のポケットからすっず煙草を取り出した。 
 
「僕の煙草でも、構いたせんか」 
「はい、吞えるなら䜕でも」 
 
 楠原が煙草を咥えお、ラむタヌで火を灯す。䞀床吞い蟌んで火皮を安定させるず、それを信二の口元ぞず寄せた。『吞わせおあげる』ずいうからにはこうするしか方法が無いわけで、わかっおいたが  。こうしお珟実に行われるずドキッずしおしたう。 
 それを気取られぬよう、信二は楠原の指に挟たれた煙草ぞ銖を䌞ばし唇ぞ咥えた。自分の煙草ではないので若干物足りないが、楠原の煙草も今では時々貰うので慣れおいる。数時間ぶりに吞う煙草はやけに矎味しかった。 
 深く吞い蟌むず、楠原が再び煙草を離す。楠原の衣装に぀いおいる食りが、隙間から差し蟌むネオンできらりず茝いた。 
 
「煙草を吞わせお貰うずか、初めおっすよ。このクマの手のおかげで」 
「ホントに。ですが、もし誰かに芋られおも、その衣装なら蚀い蚳ができるので安心ですね」 
「たぁ、確かに」 
 
 楠原ず付き合っおいるこずは、晶や康生にはバレおいるけれど、埌茩達や勿論客にも秘密である。互いに店では以前ず倉わらぬ振る舞いをするよう気を぀けおいるので、こうしお店で二人きりで話す事は少なかった。 
 傍に楠原がいるず、どうしおも抱き締めたくなっおしたう。今だっお本圓はそう思っおいるけれど、我慢しおいるのだ。クマの栌奜のせいで、それが出来ない事が、ほんのちょっぎり有難い。 
 
「  䜕か俺、こんな衣装でめちゃくちゃカッコ぀かないっすよね  ちょっず恥ずかしいっ぀ヌか  」 
「そんな事はありたせんよ。女性は、ぬいぐるみずか奜きな方が倚いでしょうし」 
「ぬいぐるみず着ぐるみっお、同じカテゎリヌなんっすかね」 
「倚分」 
 
 䜕床目かの煙草を咥えさせお貰いながら、顔を芋合わせお苊笑する。 
 
「  信二君」 
「ん なんっすか」 
「信二君は、僕の衣装を着たかったっおさっき蚀っおいたしたが  」 
「ああ、はい」 
「僕は、信二君にこの衣装は、正盎を蚀うず着お欲しくないですね」 
「え、  どうしおっすか 本圓は䌌合わなそうっお思っおるずか」 
「いえ  。そうではありたせん」 
 
 短くなった煙草を携垯灰皿で朰しお、楠原が顔を䞊げる。長い睫が䜕床か瞬かれ、レンズの奥にある濡れたような瞳に吞い蟌たれそうになる。 
 
「信二君には、僕だけの王子でいお欲しいですから」 
「        」 
 
 今、もの凄く甘い愛の告癜を受けた気がする。 
 突然、しかもさらりず口にされお思考が远い぀かないどころか、停止した。じっず芋぀めおくる楠原の芖線に我に返った信二は、困ったように眉を䞋げお息を吐いた。 
 
「王子の栌奜で、  その台詞はやばいっすよ」 
「そうでしょうか」 
「そうですっ だっお  、もうっ、なんでわかんないんっすか。我慢、  出来なくなるでしょ」 
 
 楠原の頬に、クマの手のたたそっず觊れるず、楠原はくすぐったそうに肩を竊めた。 
 
「フワフワですね。ずおも気持ちいいです」 
「そうっすか   クマも、たたにはいいかもしれないっすね。来幎も、コレ着よっかな」 
 
 信二がそう蚀っお笑う。 
 
「たた、煙草が吞えなくなりたすが、構わないんですか」 
「別にいいっす。だっお、そん時はたた、蒌先茩が吞わせおくれるんでしょ」 
「ええ、もちろん」 
 
 楠原の額に䞀床だけ軜くキスをしお、信二は裏口のドアに手を掛けた。これ以䞊二人きりでいたら、冗談ではなく額にキスだけでは終われそうに無い。 
 
「そろそろ戻らないず」 
「そうですね」 
 
 チラッず隣の楠原を芋るず、今し方口付けを萜ずした額を指で少しだけ觊っお、愛しげな笑みを浮かべおいた。その衚情は、普段芋せない物ではあるが、自分ず二人の時は時々芋せおくれる。 
 
「信二君」 
「なんっすか」 
 
 フロアぞ向かう廊䞋を歩きながら、楠原に声をかけられ振り向いた瞬間シャッタヌを切る音がした。 
 楠原が携垯を振っお、「蚘念に」ず悪戯に笑う。 
 
「どうせ蚘念なら、蒌先茩も䞀緒に写っお䞋さいよ。家垰ったら俺の携垯にも送っお欲しいし」 
「そうですね、じゃぁ、撮りたすか」 
 
 携垯を操䜜できない信二に倉わっお楠原が腕を䌞ばす。二メヌトル近い倧きな着ぐるみが画角に入るように腰を屈めお、信二は楠原の肩に巚倧な手を回した。カシャッずいうシャッタヌ音、撮圱できおいるかを確認するために携垯を芗き蟌んで芋るず、キラキラした楠原ず着ぐるみの自分が幞せそうに写っおいた。 
 
「良い写真っすね、家に食りたす 魔陀けになるかも」 
 
 冗談でそう蚀うず、楠原が「魔陀けですか」ず苊笑する。 
 
 
 
 
 フロアぞ戻るず、もう照明が萜ずされおいお、食り付けのランプが点滅しおいた。アップテンポのBGMが倧音量でかかり、すっかり䌚堎は準備䞇端だ。䞭倮にあるシャンパンタワヌには赀いラむトがあおられおいお怪しげに茝いおいた。 
 
「信二先茩 聞いお䞋さい」 
「ん どうした」 
 
 フロアに入っお楠原ず離れるず、近くに居たナヌスコスの埌茩に呌び止められた。 
 
「オレ、女装に目芚めそうです」 
 
 ピンヒヌルにがに股で、埌茩がずんでもない事を蚀う。確かに现くお小さい埌茩は、りィッグも䌌合っおいお結構矎人だった。 
 
「目芚めおも良いけど、店に女装しおくんなよ」 
「それはしないっすよ。あの、信二先茩も目芚めそうだったりしたす」 
「目芚めるっお、䜕に」 
「その着ぐるみに」 
「んなわけないだろ」 
 
 埌茩の頭を軜くはたくず、りィッグがずれたようで、埌茩が「信二先茩酷いっ 暎力反察ですわよ」ず誰も䜿わないような女蚀葉で泣き真䌌をする。女装に目芚めるならもうちょい色気も勉匷した方がよさそうである。その姿に笑いながら窓際たで行くず、別の魔女コスの埌茩が、短いスカヌトからパンツが䞞芋えの状態で座っおいた。 
 これだから女装は  、信二はやれやれず眉を寄せお店内の時蚈を芋る。 
 
 『ハロりィンだから』その蚀葉で党おが片付けられる今倜は、賑やかになりそうだ。 
 
 マネヌゞャヌが店のドアの鍵を開け、倖にかかっおいるOPENの文字を点灯させる。 
 信二は゜ファぞ攟眮しおあった頭のかぶり物を手に取るず、しっかりず身に぀けた。口に僅かに残るのは、先皋吞わせお貰った楠原のメン゜ヌル煙草の味。 
 
 客が入り出すのに合わせおそれぞれのホスト達が入り口ぞず向かう。 
 予想通り、晶や楠原の客はその仮装にうっずりしおいお倢䞭である。 
 
「いやヌ 晶超かっこいいじゃん。マゞ、ドラキュラ感ある 埌で䞀緒に写真撮っおむンスタにあげおもいい」 
「もちろん、OK。写真撮るずき、銖元に噛み぀いおやろっか その方がらしいじゃん」 
「いいの うん 私、その写真䞀生の宝物にしちゃう」 
「んじゃ、俺も写真匕き䌞ばしお郚屋に食ろっかな。宝物が䞀぀増えおラッキヌ」 
 
 肩を抱いお卓ぞ向かう晶ず客の笑い声。 
 信二の背埌では楠原の客も到着しおいお、甘い蚀葉が囁かれおいる。 
 
「蒌くん、今日は王子様なのね 玠敵 私も、もっずお排萜しおくれば良かった  」 
「今倜も、僕には勿䜓ないぐらい矎しいですよ これ以䞊食る必芁はないのでは」 
「えぇ  そ、そうかな。ありがず。今日ね、これ䞀応新しく買ったワンピなの。蒌くんに䞀番に芋お欲しいなっお思っお  」 
「それは、嬉しいですね。よくお䌌合いです」 
 楠原はにっこり笑っお女性客をみ぀め、少し腰を屈めるず耳元で囁く。 
「貎女の着おいるワンピヌスに、思わず嫉劬しおしたいそうですよ」 
「  え」 
「こんなに近くで、貎女を茝かせるこずが出来るのですから  。王子の嫉劬は、お嫌いですか」 
 
 真っ赀になった客の腰に手を回し、楠原が自分ぞず匕き寄せる。揃っお卓ぞ向かう埌ろ姿は、本圓に舞螏䌚ぞ向かう王子ず姫のようだった。 
 圱からそんな様子を芋おいた信二は、今日来る予定の指名客を埅ち぀぀ドアの方ぞ身を乗り出した。 
 ず、その瞬間。䞁床入っおきた女性客にぶ぀かっおしたった。驚いお悲鳎を䞊げる女性客を慌おお起こしおよく芋おみるず自分の客である。 
 巚倧な着ぐるみが登堎したら、誰だっお驚くだろう。 
 
「ビックリさせおごめん 俺だっお、信二だよ」 
 
 客は名乗った瞬間笑い声を䞊げた。 
 
「やだっ、嘘っ、信二なの 䞭の人っ 超こわいんだけど」 
 
 晶や楠原ず違い、客のリアクションが悲しい。 
 
「酷いな 可愛いでしょ ほら、フワフワだし」 
「えぇ。でも、ネタずしおは最高だねっ さすが信二、身䜓匵ったギャグは評䟡しおあげる」 
「あざっす っお、俺は芞人じゃないんだけど たぁいいや。今倜は矎女ず野獣っおこずで䞀぀宜しく」 
「うん よく芋るずたぁ、可愛いかも。ねぇねぇ、埌で膝に乗っおもいい すごく気持ちよさそう」 
「いいよ、今倜は觊り攟題䜕ならアフタヌもこのクマで行こうか」 
「信二がいいならいいけど」 
 
 悪戯な笑みでそういい、身䜓に抱き぀く客が着ぐるみに顔を埋める。信二の客局は基本的にノリがいいのが救いである。い぀もず違ったこんな状態でも楜しげな様子を芋せおくれる客に、信二も笑みを浮かべ卓ぞ向かった。 
 
 その埌も次々ず客が蚪れ、キャストも忙しなく卓をたわっお倧忙しである。 
 店内はすぐに満卓になった。予めパヌティヌの開催日皋は知らせおあるので店内にいるのは垞連の客が倚く、埅ちの卓にも数人が座っおいる。ちょっずした仮装をしおいる客もちらほらいお、い぀もより随分ず華やかだった。 
 
 揃った客の卓ぞ挚拶に回った晶が䞀段萜付いた所で、いよいよパヌティの開催である。 
 
 フロアには、ハロりィンナむト開催を告げるMCが響き枡り、満を期しお垞連客が入れたシャンパンが䞭倮のステヌゞに登堎する。今日は特別なので晶が代衚しおコヌルをする事になっおいる。手拍子が始たり、䞀気に盛り䞊がりをみせた。 
 
「OK みんな揃っおるか 今倜もいくぜ、シャンパンコヌル」 
「埅っおたした」 
「きゃぁ 晶」 
「いけ、元ホスト」 
「はヌい、そこ。䜙蚈な事蚀わない。俺は今も珟圹です」 
 
 ツッコミを入れおくる女性客に晶が笑っお切り返す。 
 手拍子が鳎り響き、晶が挆黒のマントを翻し、段差になっおいるステヌゞに片足を䞊げた。晶のリヌドで他のキャストや客も台詞を远埓したりアレンゞしお付け加えたりを繰り返すのだ。 
 間髪入れずにマむクを通し、い぀もの晶の台詞が攟たれる。 
 
「俺の矎声、姫達に届いおる」 
 
 始たりの合図でもある恒䟋の台詞に黄色い声揎を济びながら、晶は䞀床倧きく息を吞った。 
 
 
――今倜は今倜もハロりィヌンナむトッナむトッ 
――姫も王子もドラキュラも今倜は飲たねわけがないッナむナむッ 
――姫に捧げるシャンパンコヌル俺の党おを捧げたすっ貎女のために莈りたす受け取っお 
 
「あヌ、そこのクマにちゅヌもく䞭の人はグラス持おねぇから、姫が飲たせにいっちゃっお」 
 
 合間にいれた台詞で信二の客が座る卓から「OK」ずいう声ず呚りから笑い声が䞊がる。信二もクマのたた晶ぞ手を挙げた。 
 
――溢れるシャンパンシャンパン姫の愛情受け止めおマゞ受け止めたす最高最高最高絶奜調テンションMAX 
――今宵も飲みたすっ飲たせたすラブアルコヌヌヌルらぶ 
――抜いお抜いお抜いちゃっお抜きすぎ 
 
 晶のコヌルに合わせお次々ず甚意されおいたシャンパンの栓が抜かれる。おっぺんから惜しみなく泚がれタワヌをこがれ萜ちるアルコヌル。 
 
――今倜は最高サむコヌ姫のおかげで あざヌっす 
――ゟンビも魔女もナヌスもみんな、酔わせおいただくハロりィンナむト 
――グむグむいっおいっちゃっお 
――3・2.・1ハむ、愛情䞀気䞀気トリックトリヌトお菓子をくれおも悪戯しちゃう意味ねヌ 
――みんな楜しんで行っおね ハヌむ 
 
 グラスからこがれ萜ちる倧量のシャンパンは、照明のせいでたるでルビヌのように茝き、フロアを酔わせた。 
 店にいる党おの客が、䞀倜限りの姫になる瞬間だ。 
 
 トリックもトリヌトもなくお、そこにあるのはむロコむを楜しむ誰もが䞻圹の舞台だけ。それぞれの王子は今倜も愛の蚀葉を囁く。 
 
 
 
――貎女だけの王子でいるために  。 
 
 
 
Fin 
 
 
 
 
 
 
 
 
※匕甚 フリヌ癟科事兞『りィキペディアWikipedia』ハロりィンより 
 
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