story 3


 

 
 
 
 
     *     *     * 
 
 
 まるで出来事を逆再生したかのようだ。 
 あれから一時間もしないうちに玖珂は自宅のベッドへ強制連行されていた。つい先ほどまで映画館にいたというのが俄に信じられないような気分である。 
 支えが無くとも一人で帰れる程度には回復したものの、それこそ重病人のような扱いをされている始末。 
 
「玖珂さん、ちゃんとパジャマを着てから寝て下さいよ?」 
「ああ、わかってるよ」 
 
 いつも下着のまま寝ていることを知っているからこその注意。思わず苦笑しつつパジャマの上着に袖を通す。 
 あの後、ロビーのベンチで暫く休んだが体調はさほど戻らず。動けるうちに自宅へ戻った方が良いと言う渋谷に連れられての帰宅。ロビーで休んでいる間も、飲み物を買ってきたり背中を摩ったりと、しきりに心配してくる渋谷に玖珂は少し驚いていた。 
 
 渋谷は恥ずかしがりやな部分もあるが、普段はどちらかというと冷静で喜怒哀楽を表に出すことが苦手な性格なのだ。そんな渋谷が見せる動揺や、焦りのような物、それが見てわかるほどなのだからやはりいつもとは違う。 
 一人で自宅へ戻るという事も出来たが、そんな渋谷が少し心配だったというのもあり、一緒に帰ると言い出す渋谷を断らず共に帰ってきた。 
 
 すっかり着替え終わって慣れないパジャマに違和感を抱きつつも、着ていた衣類を手に取ると、渋谷が腕を伸ばしてそれを代わりに手に取った。 
 
「俺がやります。玖珂さんは横になって下さい」 
「……そう? じゃぁ、お願いしようかな」 
 
 渡された玖珂の衣類を洗濯するシャツと分けてきっちりとたたむ渋谷の姿を横目に、ベッドへと身体を横たえる。 
 今は少し良くなったとはいえ、さすがに無理して起きていられる状態でもない。時々思いだしたようにキリキリと痛む胃に僅かに眉を寄せ、玖珂は溜め息をついた。促されてベッドへ横になったまま、口から出るのは苦々しげな独り言だった。 
 
「気は若いつもりだが……、やはり店のホスト達と、同じようにはいかないもんだな……」 
 
 デート日和と言っていいほどの天気が良い昼間に、自宅で療養するはめになったこと。そんな自分に対する自虐を含むその声は、少し悔しげである。 
 ただの徹夜でも次の日には疲れが抜けない物だが……。 
 玖珂は先日新宿店に用があって顔を出した際、彼らと話をした事を思いだしていた。 
 
 
 
 客がはけた後、店に残っていた晶に「折角来たんだから、一杯飲んでいって下さい」と誘われ、その場にいたホスト達と少しの間楽しい時間を過ごしたのだ。 
 話は途中から何日徹夜が出来るかというような話になった。彼らが会話をするのを聞きながら、グラスを傾ける。 
 
「三日寝ないでも全然いけます! さすがに妙なテンションにはなっちゃうんっすけどね、徹夜ハイみたいな」 
 
 信二がそう切り出すと、晶が感心したようにそれに返す。 
 
「さっすが信二。やっぱお前、若いだけあるよな~。俺は二日が限界だな。楠原はどうよ?」 
「そうですね、僕も二日ぐらいでしょうか。頑張れば三日はもつかも知れませんが……。どうなるかは保障できませんね」 
「何言ってんっすか。ダメダメ! 蒼先輩はちゃんと寝ないと! 晶先輩はそういうの丈夫そうだから二日ぐらいはいいっすけど」 
「信二お前、何か俺の扱い適当じゃね? 差別反対~!」 
「違いますって。二日ならって言ったでしょ。ってか日数じゃなくて、晶先輩は店泊やめたほうがいいっすよ。寝るなら布団で」 
 
 じゃぁ、オーナ室に布団買うかと返す晶に信二が「絶対ダメ」と口を尖らせている。晶と信二のやりとりを面白そうに聞いていた楠原がふと笑みをこぼした。 
 
「オーナーもちゃんと寝て下さい。倒れでもしたら、信二君を筆頭に、皆が心配で仕事に身が入らなくなります。それぐらい大切な存在ですから」 
「蒼ちゃんっ、女神かよ!! あれ? 男に女神はねぇか、じゃぁなんだ、神?」 
 
 晶の一言で皆が笑う。 
 若いホスト達の賑やかなやりとりを聞くのは楽しい。そして、聞きながらふと自分に置き換えて考えたりもした。 
 三日は論外。二日も徹夜したら、間違いなく次の日は仕事にならないだろう。そう思うと苦笑するしか無かった。 
 
 
 
渋谷が玖珂の上着をハンガーにかけながら口を開く。 
 
「店のホスト達というと、下は何歳ぐらいの子達ですか?」 
「そうだな、21とか23とか、それぐらいだな」 
「一回り以上下じゃないですか。当たり前ですよ。俺だって、ちゃんと寝ないと仕事中頭回らないですから」 
「そう? ちょっと安心したよ。俺だけじゃないんだな」 
「みんな一緒ですよ。俺は特に睡眠不足に弱くて」 
 
 一通り片付けた渋谷が、そう言いながらベッドサイドへ腰を下ろす。 
 
「熱は測りました? 喉が痛いとか、他にしんどい所はないですか?」 
「熱もないし風邪ではないと思うよ」 
「じゃぁ、やっぱり過労かな……。寝不足とか、あと知らぬ間にストレスがたまっていたりで無理していたんだと思います。玖珂さん、俺より忙しいし生活が不規則だから……」 
「それに関しては、その通り過ぎて、何も言い訳できないね。その上……、」 
「……?」 
「……こんな情けない姿を祐一朗に見られて、ショックで熱が出そうだ」 
「何言ってるんですか」 
 
 玖珂が苦笑いすると、渋谷は整った綺麗な顔を心配げに歪めながら曖昧な笑みを浮かべた。横になる玖珂の胃の辺りをゆっくりとさする細い指。だけど、幾ら細くてもちゃんと男の骨張った手である。それがどういう意味を持つのか、渋谷の指先からゆっくりと視線を移動させる。 
 いつも身長の違いから、上から見下ろす視点で見ることが多いので、渋谷の顔を見上げるのは新鮮だった。 
 
「まだ、吐き気はありますか?」 
 
 渋谷の指が行き来する場所がじんわりと温かくなってくる。長めの前髪で隠された奥にある、レンズ越しの瞳。返事をするのも忘れ、濡れたようなそれを見つめていると、渋谷はそれに気付いて不思議そうに首を傾げた。 
 
「あの……。大丈夫、ですか?」 
「ん? ……ああ、すまない。ちょっと、君に見惚れていた」 
「……また。そんな冗談が言える元気なんてないくせに」 
 
 渋谷が悲哀を滲ませたような苦笑をする。 
 
「でも、本当にだいぶ落ち着いたよ。吐く物ももうないから、これで治まってくれると思うんだが」 
「本当の事、言って下さいよ?」 
「嘘は言ってないよ」 
「玖珂さん……、」 
 
 渋谷の指がゆっくりと止まる。指先をギュッと握り込むと渋谷は長い睫を何度か瞬かせ、玖珂へと視線を戻した。 
 
「俺に、弱った所を見せたくないって気持ち、俺も男なのでよくわかります。でも……ちょっと寂しいです」 
「……、……」 
「……。玖珂さんが、いつも俺を心配してくれたり、甘えさせてくれるように、俺だって玖珂さんに甘えて欲しい。……俺が玖珂さんにしてあげられることなんて、何もないのかもしれないけど、それでも……、何かしてあげたいんです……」 
「……祐一朗」 
 
 渋谷は玖珂の身体から手をそっと離し、掛け布団を玖珂の胸まで引きあげると、じっとみつめる玖珂の視線から逃げるように幾らか目を伏せた。渋谷の黒目がちの瞳が、寂しそうな色を浮かべて揺れているのが見える。 
 
 同じだ。玖珂は言葉を飲みこんだ。 
 渋谷と出会った日から暫く感じていたあの感覚。いつもどこか寂しげだった渋谷からその色を消したくて、彼の笑顔を守るためなら何でもしようと思った。大切に大切に、これまで愛してきたつもりだ。 
 だけど今、渋谷が浮かべている表情はあの頃と同じ。そうさせたのも自分だと思うと情けない。 
 締め付けるような胸の痛みは、体調のせいではないのだろう。もう一度、渋谷の名を呼びかけると、渋谷はそれと被せるように腰を上げた。 
 
「えっと……。すみません、具合が悪いのに、訳のわからない意見を押しつけちゃって。もう休んで下さい。何かあったら呼んで下さいね、リビングへ行っています」 
「祐一朗、看病してくれるのは有難いんだが……。折角の連休なんだから、俺に気を遣う必要はないんだぞ……?」 
「わかってます。だから、ここにいるんですよ。俺は、……貴方の傍にいたいから、それが一番、今したい事なんです」 
 
 俺がいると、迷惑ですか……? そう小さく付け加え、潤んだ瞳で見つめられれば首を縦に振る理由も無くて……。迷惑だなんて思うわけがないのに、そう思うかも知れないと感じさせていると思えば、そこに触れる事さえ躊躇ってしまう。 
 
「……困ったね、どうやら、今日の祐一朗には勝てそうに無いな」 
 
 冗談で返したのは、いつものそれと違い、それ『しか』言えなかったからだ。渋谷が儚げな笑みを浮かべる。 
「おやすみなさい、少ししたら様子を見に来ます……」 
 眠る邪魔をせぬようそっと部屋を出て行く渋谷の後ろ姿を、ドアが閉まるまで黙って目で追った。 
 
 何て様だ。自嘲的な笑みが漏れそうになる。 
 いくらでも取り繕える言葉を知っていた。甘い言葉も慰めも、愛の言葉だって数え切れないほどあっただろう。玖珂は自らに問う。相手が渋谷じゃなければうまく言えていたはずの言葉が、なにひとつ出てこなかった自分に。 
 
――…………。 
 
 一人暮らしもこう長いと、たまには風邪で寝込んだりする事も何回かはあった。よく『体調を崩して寝込んでいる時に一人暮らしの辛さを痛感する』等と聞くが、一度も今までそんな事を感じた事も無かった。 
 昔から、母親も弟も、交際してきた過去の恋愛相手も、自分の周囲には守らなければいけないものが多くあった。最初は必死で、しかし次第にそんな環境に慣れてくると、もうそれが普通になった。寧ろ、自分がその役目を担うことで、自分の存在意義を確かめていたのかも知れない。 
 
 しかし今、渋谷が傍にいてくれるというだけで、どこかほっとしている自分に気付く。こんな気持ちになったのもはじめてである。この気持ちだって『甘えている』という事に他ならないのではないか。だけど、思っている事は言葉にしないと相手には伝わらない。 
 渋谷の様子が少しおかしかったのは、先ほど渋谷自らが言っていた事が積み重なった結果なのだろう。今日のことはただの引き金に過ぎない。 
 
『自分も何かしてあげたい』恋人ならば当然持つだろう感情だ。 
 言われて気付く。渋谷が思い悩んでいることに今まで気付いてやれなかった自分は『与える』事しかしてこなかったことに。 
 
――起きたらちゃんと話さないとな……。 
 
 そう思いながら玖珂は額へ腕を乗せると、静かに目を閉じた。疲れ切った身体が奪われた体力を少しでも補おうとしているのか、すぐに眠りは訪れ、寝室には五分も経たず玖珂の寝息が聞こえていた。 
 
 
     *     *     * 
 
 
 一時間の間、リビングで気もそぞろに読書をして過ごしたが、その間玖珂の寝室からは物音一つしなかった。 
 渋谷は、読みかけの小説をテーブルへと伏せて腰を上げる。 
 足音を忍ばせ廊下を歩き、寝室のドアを開けてみる。隙間から中を覗き込んでみると、玖珂は部屋を出たときと同じ状態で眠っていた。ドアを開けたまま近くまで行ってみると、顔色はまだよくないが、寝ている様子に特に変わった所はない。 
 
――……良かった。 
 
 安心して再び寝室を出てドアを閉め、渋谷は廊下でほっと息を吐いた。 
 玖珂と付き合ってから、こんな事は初めてだった。 
 
 体調が悪い時もあったのかもしれないが、知る限りでは記憶にない。出会った頃と変わらず、自分が仕事で落ち込むことがあると気が済むまで話を聞いてくれ、相談にも乗ってくれる。 
 会っている時に元気が無ければすぐに気付き、何も言わずに自分の好物を出す店へ連れて行ったりと、常にさりげない気遣いで包まれていた。そんな優しさに今までずっと甘えて、いつも支えて貰ってきたのだ。 
 
 先月、飲み過ぎて気分が悪くなった日のことはまだ記憶にも新しい。 
 自宅まで送り届けた後も心配してずっと介抱してくれた玖珂は、次の日が休みだからと朝まで傍にいてくれた。しかし、実際は休みではなかったのだ。 
 前日の礼を言おうと夕方に時間を作って出先から電話すると、休日なはずの玖珂は店に出ていた。急に用事が入ったと言っていたが、多分最初から休みではなかったのだろう。自分が電話をしなければ、気付くことの無いまま過ぎたであろう優しい嘘。 
 
 思い返すと切りが無いほど出てきてしまうそんな想い出。 
 どんな時でも頼りがいがあって、自分の居場所を与えてくれる存在。 
 揺らぎないその場所がある事がどれほど心強いか。それを当然だと思わないように過ごしてきたけれど、やはり心の何処かで麻痺していたのかも知れない。 
 
「……玖珂さん」 
 
 小さく呟き、渋谷は寝室のドアを離れリビングへと戻った。 
 元いた場所へ腰を下ろし所在なげに視線を彷徨わせる。 
 テーブルに伏せてある小説、その横には灰皿があって朝に吸ったのか一本だけ吸い殻が残っていた。それを見つめていると、玖珂の姿が思い浮かんでくる。 
 
 冗談を言う悪戯っぽい笑顔、見守るような優しげな眼差し、渋谷を抱くときの色気を滲ませた瞳。どれも自分に向けられてきた物だ。 
 映画館で蒼ざめた顔でトイレから出て来た玖珂を見た瞬間――足が竦んだ。 
 あんなに辛そうな玖珂を見たのは初めてだったからだ。絶対的な存在が揺らぐ怖さ。 
 心配させないように、笑みを浮かべていつも通りに振る舞う玖珂を前に、何もしてあげられない自分に腹が立ったのと同時に、恐ろしいほどの不安感に震えた。 
 こんな時ぐらいは甘えて頼って欲しいと先程玖珂に言ったものの、玖珂の体調不良に気付くこともできなかった上に、今だって心配して様子を見る事しか出来ていない。 
 
  自分の不甲斐なさを痛いほど思い知ってしまえば、益々自分が玖珂に相応しくないのではと言う気持ちが膨れあがるばかりだ。 
 渋谷は溜め息をつくと、フと部屋の時計を見上げた。徐々に落ちてきた太陽が硝子越しに渋谷の横顔を照らす。 
 
  昼食は摂らずに過ぎてしまったが、自分はともかく玖珂には何か作ってあげた方が良いのではと思う。 
 吐き気があるので食欲も無いだろうが、少しでもよくなったら消化の良い物を用意しておいたら食べてくれるかもしれない。 
 今自分がしてあげられる事と言ったら、それぐらいしか思いつかなかった。 
 膝を払って立ち上がると、渋谷はキッチンへと足を向けた。 
 
 冷蔵庫を開いてみると、予想通り料理の材料になるようなものは少なかった。卵だけはあったので取り出してみると、賞味期限はまだ過ぎていないようだ。 
 渋谷は気を取り直し、自分の鞄から玖珂の家の合い鍵と財布だけをポケットに入れ、カーディガンを羽織って玄関へと向かった。物音を立てないように玄関のドアを出て鍵を閉める。色々悩んでいるぐらいなら、出来る事からやっていこうと思った。 
 
 
 
 
 外は夕方になりつつあって、目に映る景色を橙色に染めあげている。 
 日中いい天気だったので空を見上げれば溶かれた絵の具のような鮮やかな色が広がっていた。 
 玖珂の家によく来るようになった頃から、何度か玖珂と一緒に買い物にも行くようになった。なので、大型スーパーの場所は把握している。 
 
 渋谷は一度も迷うことなく目的の場所へと辿り着くと、カートを引っ張ってスーパーの店内へと足を踏み入れた。 
 思い立って来てみたはいいが、そう言えばメニューを考えていない。夕飯の買い物に来ている客にまじって売り場を歩きながら、脳内でいくつか思い浮かべるがどれもピンとこなかった。いつもなら、和食好きな玖珂の好みもだいたいわかっているので、普通にメニューを考えれば良いだけだが今回はそうもいかない。 
 
 具合が悪い時にでも食べられて、かつ栄養価が高い物……。お粥以外の料理が思い浮かばず、携帯で検索してみるかとポケットに手を入れると、なんと携帯を持ってくるのを忘れている事に気付いた。 
 
――……しまった……。 
 
 渋谷は立ち止まって途方に暮れた。 
 料理だって、ようやくレパートリーが少しずつ増えているくらいで、それも本で見た物しか作れない。 
 携帯を取りに戻っても良いが、留守にしている間に玖珂が目を覚まして自分がいなかったら心配するのではと思うと、なるべく早く買い物は済ませたかった。 
 
――……どうするかな。 
 
 ずっと前にプリンがカロリーが高い上にのどごしが良いので体調が悪くても食べやすいと見た気がするが、甘い物を食べない玖珂にはその選択肢はないし、しかもその前にプリンは料理ではない。 
 
 何も籠に入れないままウロウロしていると、レジ近くを通りかかった際に週刊誌が売られている棚が目に入った。 
 いくつかレシピの本もあって、その中に身体に優しいメニューを特集している本があった。パラパラと眺めてみると、目的別に目次がわかれていて、高血圧の人に向いている料理、美肌効果を狙った料理など、その中に胃腸の調子が悪い時にと書いてある項目があったのだ。 
 
  渡りに船とはこの事だと思いつつ、ひとまずカートをその場においてそれをレジに持っていって会計する。 
 カートに戻って早速本を取り出すと、その中から作れそうな物を見つけて渋谷はかごの前へと本を立てかけた。 
 書いてある通りの材料を探して、籠へと入れていく。一品では足りないので載っているページのメニューを幾つか作れるように……。そうして材料を揃えていくと結構な量になってしまった。 
 
 これだけあれば、作り置きしておくことも出来そうである。まだ作ってもいないというのに、玖珂の為にしてあげられる事が嬉しくて、渋谷は籠の中の沢山の材料を見て安心したように笑みを浮かべた。 
 レジに並んで会計を済ませると袋二つ分になったそれらを手に持って急いで玖珂のマンションへと戻る。 
 
 来た時には橙色に染まっていた街並みはすっかり暗くなっており、外灯の淡い光がアスファルトを照らしていた。