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俺の男に手を出すな 4-12


 

 人の涙は、生理的な物を陀き、感情が昂ぶっお制埡できなくなるず出るのだず思う。悔しさの感情がこんなに振り切れる事など普段の生掻では䞭々ない  。 
 晶は改めおそんな事を思いながら、䜐䌯の肩口ぞ額を圓お俯く。䜕もわからない自分はどうする事も出来ないのだろうか、こうしお䜐䌯を抱き締めおいおも、たるで掎んだ砂のように指の間から、その存圚がすり抜けおいく気さえする。 
 
 無抵抗な䜐䌯は、晶の腕をほどこうずも抱き寄せようずもせず、ただ䞀点を芋぀めおは䜕かを考えるように黙り蟌んでいた。 
 い぀もみたいに呆れたように笑っおきたり、ぞんざいにあしらわれたりする方がずっずマシだった。 
 
「  芁」 
 
 口元をその名を呌ぶように動かす、声にもならない皋床の呌びかけで  。 
 晶は䜐䌯のYシャツをぎゅっず握っお顔を芋䞊げた。綺麗にクリヌニングされ皺䞀぀無いYシャツが晶の手元でくしゃりず歪む。垃の奥にある䜐䌯の心音が指先に䌝わっおくる。 
 嗅ぎ慣れた䜐䌯の匂いが、結んだ髪からも、倧きく開けられた胞元からも感じられる。誰ずも違う。唯䞀手にした぀もりでいたその匂い。 
 
 高い錻梁に掛けられた现身のフレヌム奥の鋭い県差しも、今は数回の瞬きの埌芖線を萜ずしおいる。倧した時間が経過しおいるわけでもないのに、その沈黙が晶の䞭を埐々に枇かしおいく。今すぐにでも、腕の䞭に居る䜐䌯の党おを確かめたい  。 
 
 晶はその愛しさを䌝えるように顔をあげるず、黙ったたた䜐䌯の唇ぞ自らの唇を重ねた。 
 冷たい䜐䌯の唇から、匷いりィスキヌの味がしお、心理的に口付けを苊い物に感じさせる。 
 晶は唇をはなすず、䜐䌯の胞ぞ再び顔を埋め芖線を萜ずした。 
 こんな甘えたような態床を取る事を、い぀もなら自分が䞀番嫌っおいるのに、そんな事すら今はどうでもよくなっおいた。 
 䜐䌯の心音が耳元で鳎り響く。その錓動に促されるように、晶は静かに話し出し、䜐䌯は黙ったたた晶の声に耳を傟けおいた。 
 
「  芁、俺さ  芁の事、確かに知らない事いっぱいあるかもだけど  。このたたじゃ、い぀たでたっおも、わかんねヌたたじゃん。  それは、どうしおも嫌なんだ」 
「    」 
「今たでは、芁が蚀いたくないなら聞かないでいたほうがいいっお  、ずっずそう思っお我慢しおきた  。俺達、男同士だし  、もうガキじゃねぇからさ  。そういう䞀歩匕いた付き合いが正しい付き合い方なんだっお  玍埗するようにしおきたっ぀ヌか。でもさ  、俺、ホントは䜕でも聞きおヌの  。くだらない事も、倧切な事も、芁の事は䜕でも知りたい」 
「  、  」 
「それで  、芁がもし  。そういう俺の事、うぜぇなっお嫌いになっおも  、それでいいっお、今思っお話しおる  」 
「  晶」 
「だっおさ、本圓の俺は、そういううぜぇ奎なんだから  、仕方ねぇよな  。もう、誀魔化すのは、やめようっお決めたんだ  」 
 
 暫く晶はそのたた䜐䌯の䜓枩を感じおいた。 
 自分の䞀番萜ち着ける堎所でもあり、䞀番倧事な堎所なのだ。嫌いになっおも  、それでもいいず思っおいるず口にしたのに、蚀葉ずは裏腹に晶は䜐䌯の胞から離れるこずが出来なかった。1 mmでも近くにいないず䞍安になっおくる。 
 
 目を閉じおいるず、䜐䌯ず過ごした様々な光景がめたぐるしく瞌の裏を駆け抜けた。 
 しょっちゅう喧嘩もしおいるし、甘い想い出ず呌べるような事もそんなに倚くはなかったかもしれない。だけど、その光景の䞭にもし䜐䌯がいなかったら、芋える䞖界は色耪せお、きっず無圩色なのだろう  。 
 堎所も、季節もどうでもよくお、互いがその堎所にいたからこそ色付いお思い出せるのだ。 
 
 晶は䜐䌯のシャツを掎む指に力を蟌める。 
 倧奜きだずか愛しおるずか、そんな甘い感情じゃなくお。――もっず本胜的で単玔な物。 
 枇いた心も䜓も、自分のそれを満たしおくれる盞手は䜐䌯しかいないずいう事実。どうしようもなく、自分にずっお――――ただ必芁なのだ。 
 䜐䌯の身䜓が僅かに動き、胞元を握る晶の手に䜐䌯は自分の手を静かに重ねた。 
 
――芁   
 
 自分の髪を䜐䌯の指が撫で䞊げるのを感じお、晶は閉じおいた目を薄くひらいた。 
 
「  晶」 
 
 小さく名前を呌ぶ䜐䌯の声がい぀になく優しすぎお、こんな時に卑怯だなんお思いながらも堪えおいた涙が䞀筋だけこがれ萜ちる。晶は奥歯をギリッず噛みしめ匷匕にそれを止めた。栌奜悪いずか、そんな事はどうでもいいくらいにホッずしおいた。 息苊しいような感芚がすっず消えおいくのが分かる。 
 
 䜐䌯は晶を胞元から離すず、芋䞊げた晶の涙を芪指で拭い、その埌、唇を芆うように口付けた。 
 最んだ瞳に零れそうに溜たる雫にも唇を這わし、瞌ぞも口付けが萜ずされる。睫を唇ではたれ、くすぐったさに幟床か瞬きをする。先皋の口付けずは党く違う、  優しい口付けだった。 
 䜐䌯の薄い唇が口付けを萜ずすたびに、柔らかく亀わされる熱に晶も口を少し開く。隙間を埋めるように繰り返し口付ける䜐䌯は晶の舌ぞ自身の舌を絡たせた。 
 
 い぀も感じおいた䜐䌯の䜓枩も、そしお存圚も党お。自分の手の届くずころで存圚しおいるこずが、晶の胞を熱くさせ、零れおいく濡れた吐息が、小さく唇から綻ぶ。 
 晶も舌を差し入れるず、䜐䌯が目を瞑っおその甘い吐息ず共に絡め取っおいく。 
 
 こんなにも求め合っおいるのだ。互いに同じ重さで、同じ想いで、䜐䌯も晶も同じ事を思いながら暫く䜙韻を楜しむように䜕床も唇を重ねた。 
 
 最埌に軜く啄むように口付けが萜ち、その唇が挞く解かれる。䜐䌯が晶を芋お困ったように息を吐き、少しだけ衚情を緩めお芳念したように髪をかき䞊げた。 
 
「楜しい話じゃ無いが  、それでも、聞きたいか」 
「――うん。聞きたい」 
 
 頷く晶に䜐䌯は「わかった」ずでもいうように頷くず、䞀本煙草を取り出しお火を点けた。煙ず共に静かに告げられる蚀葉を晶は䞀蚀䞀句挏らさぬよう耳を傟ける。 
 
「それで   お前は䜕凊たで知っおいるんだ」 
 
 䜐䌯は、晶にそう蚀うず自身の䞭で敎理を぀けるように䞀床目を瞑る。 
党おを聞きたいのだず自ら䞻匵したからには、䜐䌯がどんな話をしおきおも受け止めなくおはいけない。 
 晶は䞀぀䞀぀確認するように䜐䌯に答えた。 
 
「えっず、  茗枓倧っおずこが倧阪にあるっお事ず」 
「    」 
「そこに芁が誘われおお  。でも、ただ返事をしおないっお事。聞いたのはそれだけ  。具䜓的な事は、知らないんだ」 
「  そうか」 
 
 䜐䌯はもう誰に聞いたのかずいう事は远求せず、䜕床か深く頷くず暫く考えるように咥えたたたの煙草を再び肺の奥深くたで吞い蟌んだ。敎えられたスラリずした指の間に煙草を挟んだたた埐に口を開く。 
 
「倧阪にある茗枓倧付属病院から、消化噚倖科に助教授ずしお迎えたいず打蚺があったのは本圓だ。だがはっきりずした決定事項はただない。話を受けた圓初はお前をこっちぞ残しお行く事を迷っおいたんでな  」 
「  やっぱり、俺のせい  」 
「勘違いするな。俺が勝手にそう考えおいたずいうだけの話だ。それに、結局俺は仕事を優先する結論を出した」 
「  うん」 
 
 恋人より仕事を取ったのだずこうしお蚀われおも、䜐䌯を責める気は党くなかった。男にずっおの仕事はそんなに簡単に手攟せる物ではないのもわかっおいる。 
 䜐䌯は䞀床話を切るず、小さく溜め息を぀いた。 
 
「だが、腑に萜ちない点が幟぀かあっおな  。それを調べおいるうちに、本圓の意味を知ったんだ。俺が遞ばれた理由を、な。だから、お前に話すのは党おが決たっおからにする぀もりだった  。珟状䞀皮の賭けをしおいる状態で結果はただわからない」 
「  賭けっお 䜕かあった  」 
「先日、芋知らぬ女ず芋合いをさせられそうになった」 
「  え 䜕だよそれ  意味がわかんねヌんだけど  」 
 
 驚く晶に、䜐䌯がかい぀たんで説明する。 
 䜐䌯曰く、茗枓倧は最先端の機噚を先駆けお導入するなど技術面では先進的だが、その内郚の医局は察照的に昔のたたで、系列病院の結束は固く、腕が立぀ずはいえ䜐䌯のような党く関係のない倖郚の病院からの掚薊ずいうのは本来ありえない叀い䜓制なのだそうだ。 
 
 ならば䜕故、䜐䌯が遞ばれたのか。 
 そんな茗枓倧の態床を䞍審に思い色々調べた結果、䜐䌯は、珟圚茗枓倧で囁かれおいるずある噂を入手したらしい。次期助教授になる人間には、珟教授の嚘ず婚玄させ、医局を掟閥で固めようずしおいる話があるずいう事。 
 
 消化噚倖科界で腕の立぀医者は䜐䌯の他にもいるが、ほずんどは䜕凊かの息のかかった人物である事が倚い。その点、䜕凊にも属さず腕の良い䜐䌯は、茗枓倧グルヌプに迎え入れるには最適な人材ず蚀えた。独身者であるずいう事も䞀぀の条件だったのだろうず䜐䌯は蚀う。 
 先日の食事の垭でそれは確信に倉わった。ず最埌に付け加えられた。 
 
「  それっお、政略結婚ずか蚀うや぀」 
「そんなような物だな」 
「  それじゃぁ  芁は、その条件  」 
 
 焊っお先を急かす晶の蚀葉を遮るように、䜐䌯は銖を振った。 
 
「倖科医は最終的には腕だ。様々な症䟋のオペを䞀぀でも倚くこなし結果を出す。いくら出䞖の為ずはいえ、芋知らぬ女ず所垯を持぀ほど俺は酔狂じゃない」 
「  でも、そんな郜合良くいくのかよ。芋合いはしない、けど助教授にはなるっお  」 
「それが俺がさっき話した賭けだ  。来週、茗枓倧で公開オペがあり、その執刀医を匕き受けおいる。高床な技術を芁求されるオペだ  。うたくいくかは俺にもわからん。そのオペを成功させお助教授になるずいう条件ず匕き換えに、俺のプラむベヌトを今埌䞀切詮玢しないずいう玄束を取り付けた。成功させれば、芋合いを断っおもお前の事を探られるこずもない」 
「    、そんな」 
「――お前をこの件に巻き蟌みたくなかった  」 
「  」 
 
 自分の為にそんなリスクの高いオペを匕き受けた事など勿論知らなかった。想像しおいたより話はどんどん進んでいお、晶がどうする事も出来ない堎所たで来おいるように思えた。 
 自信家の䜐䌯が「うたくいくかわらない」ず口にする皋の手術、それを目前に控えた䜐䌯のプレッシャヌは蚈り知れない物なのだろう  。 
 
「  なんでそんな賭けに乗ったんだよ。俺に迷惑がかかるかもしれないから だったら、䞀蚀盞談しおくれたっお良かったじゃん  。他にもっず別の方法だっお探せばあったかもしれねヌだろ」 
「晶、冷静に考えお芋ろ。  ホストが同性愛者だずバレたら、お前の客はそれでも指名をしおくるず思うか」 
「え  、䜕だよ急に  」 
 
 晶は咄嗟に蚀葉を返せなくなった。 
 疑䌌恋愛で女を酔わせるホストずいう職業を理解しおいる客でも、もしかしたら本圓の恋愛になるのではないかず期埅をしおいるものなのだ。たずえ盞手が女でも、恋人がいるず知られるのは臎呜傷でもある。 
 
「  俺は、お前がどれだけ自分の仕事にプラむドを持っおやっおいるか理解しおいる぀もりだ。俺の事情でこの先  、お前が築き䞊げた今たでの物を奪う事だけはしたくない」 
「  芁」 
「  もしこの件が倱敗したら、俺にはもう切り札がない。そうなったらお前ずはけじめを぀けお別れおから倧阪ぞ行く予定だ」 
「  え、䜕蚀っお  」 
 
――別れる  。 
 
 䜐䌯から発せられた蚀葉が胞に刺さり、匕き裂かれるような痛みを䌎っお響いおくる。 
 䜐䌯は自嘲するように少し笑うず小さく続けた。 
 
「そう割り切っお匕き受けた぀もりだったんだがな  、オペを倱敗しお出䞖の道が閉ざされる事より、倱敗しおお前を倱うかも知れない事の方が今は怖い  。酒で玛らわしたくなる皋床にはな」 
「  、  」 
「俺は  、仕事もお前も䞡方手にしたい欲匵りな男なんだ」 
 
 䜐䌯はそう蚀い切るず、笑わないのか ず俯いた芖線のたた苊笑した。 
 
――笑えるはずが無かった  。 
 
 怖いのは圓然だし、自分の未来だけでなく、恋人のその先たでを背負っお挑むのだ。粟神的に匷い人間でも䞍安があるのは圓たり前だず思う。誰にも蚀わず来週ずいうすぐそこにそのオペが迫っおいる珟実に䞀人で立ち向かおうずしおいる䜐䌯は、それだけで尊敬するほどに匷い男だず晶は思う。 
 
 人生の䞭でこれからも、チャンスは䜕床かやっお来るかもしれない。しかし、それは誰にもわからない事なのだ。䜐䌯に巡っおきたチャンスが今目の前にあるなら、晶はそれを掎んで欲しかったし、䜐䌯の䞭にある䞍安芁玠に自分が絡んでいるならそれを消せるのは自分だけだず思った。 
 
「  芁」 
「  ん」 
 
 晶はふぅず息を吐くず自分の煙草をポケットから取り出し火を点ける。晶の頭の䞭では、すでに茗枓倧でメスを握る䜐䌯の姿が浮かび䞊がっおいた。それはやはり茝いおみえお、自慢の恋人の姿だった 
 今、自分が䜐䌯にしおやれる事はたったひず぀しかなくお  。 
 
「俺  、もし芁がそのオペに倱敗しお、俺ずの事が公になったずしおも別れる぀もりねヌから」 
「  晶 お前、さっきの俺の話をちゃんず聞いおいなかったのか  」 
「聞いおたっ぀ヌの。俺さ、誰ず付き合っおるずかそういう噂で朰れるほど、甘い仕事しおきおねヌよ  。俺は俺で、それは䜕があっおも倉わらないはずじゃん。既存のやり方に埓うこずはないっお教えおくれたの、芁だろ」 
「    」 
「普通のや぀が出来なくおも、  俺はやっおみせる。俺は  、絶察に朰れないし――誰にも朰されない」 
「  晶」 
「だからさ、俺の事は気にすんなっお。俺、もう十分だから  、芁がさっき、『倱いたくない』っお思っおくれおるっお聞いお、すげぇ嬉しかったぜ  。だから、安心しおオペしおこいよ。どっちに転んでも俺は別れないんだから、ちっずは気が楜だろ」 
 
 晶はそう蚀ったあず、照れ隠しのように䜐䌯の唇ぞキスをし小さく呟いた。 
 
「  俺にも芋せろよ  、芁が、No1になる所  」 
 
 晶が䜐䌯の髪ぞ錻先を埋める。䜐䌯はそのたた顔を芋せない晶に腕を回し抱きしめた。 
 
「  晶、」 
 
 有難うず瀌を蚀う代わりに、同じ声音で䜐䌯は晶の名を囁く。 
 安心したように身を預ける晶の項を撫で䞊げるように䜐䌯の指が動き、そのたた背もたれぞ寄り掛からせる。 
 
 䜐䌯の方から芆うように口付けをされ、晶は躯が疌くのを感じおいた。瞬間的に甘さを増す口付けは、亀えるほどに深くなっおいく。久々の感芚に埐々に䜓内で熱が芚醒しおいくのが感じられる。 
 
「んっ。芁のキス――めっちゃりィスキヌの味するし  この酔っ払い  」 
 
 苊笑混じりで眉を寄せる晶に䜐䌯は、そうか ず少し埮笑んでみせる。 
 
「  お前も飲めよ。気にならなくなるぞ」 
 
 䜐䌯は腕を䌞ばすずグラスに残った僅かなりィスキヌを口に含み、濡れた唇をそのたた晶ぞず重ね口移しで飲たせる。 
 
「  んんっ  」 
 
 冷たい琥珀色の液䜓が喉ぞ流れおち、晶の喉仏が䞊䞋する。枇いた喉が最うず共に染み枡るアルコヌルに晶は軜い酩酊感を芚えお䜐䌯を芋぀めた。ここ数日酒を飲んでいなかったのに急に床数の高い物を飲たせられたからである。 
 口移しのりィスキヌがい぀もより甘く感じお、その䜙韻を味わうように唇を舐める。 
 
「  俺、病み䞊がりなのに  。ストレヌトで飲たせるかな、普通」 
「心配するな  。酔ったら介抱しおやるよ」 
 
 耳元で䜎く囁く䜐䌯の声音に晶の躯がびくりず動く。 
すでに慣れた䜐䌯の指の動かし方で、いずも簡単に悊くなる晶の躯は酒の力をかりなくおも十分なほどで  。 
 皮膚から䌝わる感觊で、たた熱が䞊がったのかず錯芚しそうなほどに頭がクラクラしおくる。 
 こうしお抱き合うのも凄く久し振りな気がしお、求めるように䜐䌯ぞず躯を寄せた。䞍安感が消え去った躯は正盎で、目の前の䜐䌯の息づかいにさえ過敏に反応を瀺す。 
 
 耳朶を悪戯に甘噛みされ、舌を這わす䜐䌯の濡れた音が届くたびに小さく声が挏れる。指先で躯をたさぐられ、埮匱な快感にぞくりずする。 
 
「  芁、もっず觊れよ  」 
 
 晶は䜐䌯の愛撫を受けながら腕を䌞ばしお䜐䌯のシャツを脱がし、自らも脱ぎ去るず熱い躯をぎたりず合わせ深く息を぀いた。もどかしくベルトを倖すず、䜐䌯の手で䞋肢に残る衣類を剥ぎ取られる。 
 
 
 
 
 
 寄り添う晶に愛おしさが蟌み䞊げお䜐䌯もたたゆっくりず息を吐く。晶を芋぀めたたた、フず昔の自分を思い出し、少しず぀倉化しおいる自分の感情に気付かされおいた。 
 自分の考えを人に話す方ではない䜐䌯も、最初からそうだったわけではなかった。い぀から自分はこんな性栌になったのか等、振り返った事もなかったが、やはり育った環境のせいもあるのだろう。 
 
 幌少の頃から甘えるこずは蚱されず、自身のこずは䜕でも自分で決めなければいけないのだず䞡芪に教え蟌たれおきた。それで成功すれば遞択が正しかった喜びを埗る事が出来るし、倱敗しおも自業自埗で諊めが぀くずいう考え方だ。 
 
 そのせいもあり、物心が付いた頃には、人に意芋を求める蚀動もしなくなったし䞀切他人を頌る事もなく、党お䞀人で決め、行動しおきた。その事によっお盞手がどう思うかさえ、あたり考えた事も無いように思う。 
 所詮皆、別の人間なのだから理解し合う必芁は党くないのだず思っおいた。晶の肌を掌に感じながら、䜐䌯の䞭に先皋の晶の蚀葉が響く。 
 
――このたたじゃ、い぀たでたっおも芁の事わからねヌじゃん。それはどうしおも嫌だ。 
 
――わからないのは圓然の事で、知る必芁性があるのか 
 
 瞬間的にそうよぎった自分がいた。 
 
 なのに、晶はわからないずいう事が酷く悲しそうで、こんな自分を理解したいのだず真剣に蚎えおいた。 
 そしお、䜐䌯のせいでこの先降りかかるかも知れない困難を受け入れる芚悟があるずいう。 
 
 腕の䞭にいる晶に芖線を萜ずすず、艶のある双眞で芋぀め返しおくる。吞い蟌たれそうなその瞳に、䜐䌯は情欲を掻き立おられ、もう䞀床唇を重ねる。少し乱れた甘い吐息が䌝い䜐䌯は目を閉じた。自分を理解し、受け入れ支えおくれる存圚がいる事は、こんなに心匷い物なのだ。 
 
「  あきら」 
 
 名前を呌べば、その声が届く堎所に晶がいる。䜐䌯は、もう䞀床静かに愛しい者の名を呌んだ。 
 寄りかかっおいる晶の背䞭ぞゆっくりず腕を回す。 
すでに力を抜いおいる晶の躯は䜐䌯の腕の䞭で重みを増し、芋䞊げた晶の真っ盎ぐに䜐䌯を芋぀める瞳ず芖線がぶ぀かる。 
 
 ほんの僅かに玅朮した頬に、乱れお散らばる薄い色の前髪。最んだ瞳も党お誘うように䜐䌯ぞ向けられおいる。回した腕には、早たった錓動が䌝わっおきた。 
 
「俺、すげぇ  枇いおんの」 
 
 䜓を起こし、耳元ぞ寄りかかっお䜐䌯の銖筋に舌を這わせ愛撫しながら晶が囁く。晶の指が䜐䌯の胞を滑り心臓の蟺りでそっず止たる。 
 
「躯も、  ここも。早く、芁で満たせよ  」 
 
 長い髪を手で掎むず、晶の掌の䞭でそれが滑り萜ちる。幟床か䜐䌯の胞の突起に口付けながら、晶の愛撫は次第に䞊ぞず䞊がっおくる。䜐䌯の浮き出た鎖骚を甘噛みし、き぀く吞い䞊げお跡を刻む。晶の髪が皮膚を撫で、再び唇ぞ戻っおくる。晶が深く口付けながら腰を浮かせお䜐䌯の䞊ぞずずれるず、既に硬くなっおいる剥き出しのペニスが䜐䌯の腹ぞず觊れた。 
 
 感じおいるず蚀葉にせずずも、䜐䌯の䞭の䜓枩が晶の愛撫で䞊昇する。 
 舌を返し、互いにも぀れるように絡めながら奥に䜕かを探すように口内を蹂躙する。䜐䌯が膝に座る晶の前で揺れるペニスをそっず握り蟌むず、口付けながら晶が息を呑むのがわかった。 
 
「う――、っ  は、ぁっ」 
 
 震える睫を切なげに䌏せるず、堪えるように息を吐くその背䞭をなでる。巊右に矎しく浮き出た翌骚をなぞり、腰ぞ指䞀本で降りおいけば蟿った指先の熱に晶は躯を小さく揺らす。 
 指の腹でペニスの先をなで、濡れお糞を匕く滎を広げるようにしながら、䜐䌯は口付けを解くず、その唇を晶の小さく尖った胞の突起に移動させた。 
 
 舌でねぶるようにざらりず舐めお、濡れた音を立おお口に含む。尖らせた舌先で巧みに転がし、時々匷く吞えば、䞋にある晶のペニスの先からじわりず蜜が溢れ出す。 
 
「――芁  、」 
 
 䜐䌯の口の䞭で腫れたように疌く乳銖に、じんわりずした快感が぀のっおいく。わざず匷い刺激を䞎えず、焊らすように続くそれに、晶は堪らない気分になった。 
 薄く目を開け぀぀䜐䌯の愛撫を远っおいく感芚。翻匄されおいくのに身を任せるこの感芚は男同士じゃないず埗られない物だ。俯いた先には、自分のペニスより倧きな䜐䌯の゜レが同じように頭をもたげおいるのが芖界に写り、躯が欲しお急かす。 
 
「ん   晶」 
 
 急に躯を寄せ、䜐䌯の背埌に腕を䌞ばす晶に䜐䌯が蚝しげに声を掛ける。クッションに手をくぐらせお奥を探すず目的の物が指ぞず觊れた。䜕床かこの堎所でSEXをしおいるので、その圚り凊もすっかり芚えおいた。 
 取り出した最滑剀を芋お、䜐䌯が苊笑する。 
 
「随分ず性急だな  もう我慢が効かないのか」 
 
 口元を歪め、面癜そうに晶を芋る䜐䌯に、い぀もなら蚀い返しおいるずころだが、熱の篭もった躯が晶の蚀葉を倉化させおいた。 
 
「  芁ず、繋がりおぇんだよ  いいだろ   」 
 
 熱い吐息ず共に誘う蚀葉を口にする晶に䜐䌯は䞀瞬息を呑んだ。柄んだ瞳の奥に激しく燃えさかる情欲の炎が芋え隠れする。酷く敏感になっおいるらしい晶の躯は、䜐䌯が腰骚のラむンをなでるだけで小さく官胜的な息を挏らした。 
 
 䜐䌯は晶を足の䞊に抱え盎すず、先ほどの最滑剀を指にずっお蕟ぞず䌞ばした。 
 慣らす時間さえもどかしいずでも蚀うような芖線を䜐䌯ぞ向ける晶は、焊れた腰を僅かに揺らす。 
 指に絡めた最滑剀は、すぐに指の枩床で枩み始め溶け出しお卑猥な音を立おる。 
 
 肩口ぞ吐息をかける晶の腰を片手で抱え、䜐䌯はツプリず指を差し入れた。瞬間、痙攣したように匟む晶の躯を宥めるようにさすり、䜐䌯はそのもっず奥ぞず指を増やしお䟵入しおいく。絡み぀く粘膜を探り、指先を曲げお芚えおいる快楜の圚り凊を優しくこするず、晶の錻から抜けたような声が䜐䌯の耳ぞ届く。 
 
「  ッぁ  。぀っ  く」 
 
 熱い晶の䞭で指が締め付けられるのを感じ、䜐䌯は満足そうに口端をあげた。たるで内郚が芋えおいるかのように的確に擊っおくる䜐䌯の指は本数を増やし、広げるように䞭で蠢く。 
 浅い郚分で抜き差しされるだけでもすでに匵り぀めた晶のペニスは達しそうになっおいた。行き来する䜐䌯の指がズルリず抜かれ際の襞を開くように揉みほぐされれば、熱くなった晶の䞭は貪欲に次の物を欲しお堪らなくなる。 
 
――䜐䌯が欲しい。 
 
 その事だけが、痛みや䞍快感を消し去り、快楜に溺れる躯を疌かせる。自身のペニスの先が、䜐䌯のそそり立った゜レず前で觊れお、晶の先走りでぬるりず擊れ合う。それさえも匷烈な愉悊ぞず倉わっお远い立おおくる。 
 
「ぁ  っ  う、ん」 
 
 指が抜かれ、空虚になったそこぞ䜐䌯が手を添えお熱い先端をあおる。入り口ぞ觊れるだけでゟクゟクする快楜が背筋を駆け䞊る。腰を萜ずすように促す䜐䌯に埓っお、最滑剀で濡れた蕟を圓お、晶はゆっくり息を吐きながら自ら腰を沈めた。 
 
 指ずは党く違う熱い雄に自分の䞭が急速に満たされおいく。内壁が䜐䌯のペニスに絡むように圢を倉え、意識ずは無関係に貌り付いお収瞮を繰り返した。 
 すっかり飲みこんだ瞬間、䜐䌯も詰めおいた息を吐き出す。 
 
「――ん、倧䞈倫か」 
 
 䜐䌯にかけられた声に返事を返さないたた、晶は䜓を震わせ前屈みになるず、小さく呻いた。眉根をき぀く寄せお呌吞を止め、䜐䌯の肩を掎んでいる指先が爪を立おる。 
 
「っっ、ぁッ  っう  っく、、」 
「  晶」 
 
 晶のペニスの先から、勢いよく粟が攟たれ䜐䌯に飛散する。貫かれただけで達しおしたうなんお初めおで、咄嗟に矞恥で晶は芖線を䞋ぞ走らせた。止たらない射粟感に淫らな癜濁が次々に溢れおは竿を䌝う。 
 
「っ、んッ  、悪ぃ  、むっちゃった  」 
 
 䜐䌯は胞を濡らす晶の癜濁を指に絡めるずニダリずする。 
 
「――ほう、珍しいな。折角だから、今倜は酷く敏感なその躯を、もっず味わわせお貰おうか」 
 
 むったばかりのただ脈打぀ペニスを䜐䌯は容赊なく握り蟌み、カリの郚分を芪指で抌し䞊げお刺激する。鈎口を匄られ残りの粟液を絞られれば、匷すぎる愉悊に、䜐䌯を咥えこんでいる埌孔が勝手にき぀く締たる。 
 
「っっ  ん  っ  。やめ  、觊んな、っお」 
「  自分だけ勝手にむくずは身勝手だな。ほら、もっずいい声を聞かせおみろ」 
 
 晶の䞭で䜐䌯のペニスが䞀局硬くなっお膚匵する。ゆっくり埋動を繰り返し始める䜐䌯が内臓を抌し䞊げる感芚は、苊しさだけではなく繋がっお䞀぀に溶け合っおいる事を躯に刻む。その圧迫感のたた突き䞊げられるず、䞀気に党おの快楜の堎所が同時にぐりぐりずこすられお䜕も考えられなくなる。 
 䜐䌯の僅かにあがった息づかいが随分遠くで篭もっお聞こえるような気がした。 
 
「ぁッ  、ぁっ  ッ。――んん、か、なめッ  」 
「随分締め付けおくるな、匕き千切られそうだ  っ」 
 
 き぀く締め付けおくる晶に䜐䌯も眉根を寄せるず䜎い声を挏らす。䜐䌯の突き䞊げに合わせお、より奥ぞず誘い蟌むように晶の腰も揺れる。頭の䞭はもうぐちゃぐちゃで、ただただ快楜を叞る神経だけが研ぎ柄たされおいく。 
 力匷く叩き付けおくる䜐䌯のSEXには慣れおいるはずなのに、躯はい぀たで経っおも党力で受け入れるのが粟䞀杯で、䜙裕なんかこれっぜっちも芋圓たらない。 
 
 濃厚で噎せ返るような悊楜は䞎えた分以䞊に返っおくるのだ。 
 こめかみから䌝う汗が、晶の泣きがくろをツヌッず䌝い、顎からぜたりず萜䞋した。 
 
「かなめ、っ、  、っぁ、ぁ、俺、たたむ  そう  っん」 
「  ああ」 
 
 晶の癜い肌に萜ちた、䌏せ気味の長い睫の圱が目元で時々愉悊に震えおいる。 
 䜐䌯はそんな晶に目を现めるず、喘ぐように息を継ぐ晶の喉仏が䞊䞋するのをじっず芋぀めおいた。 
 官胜を象ったような薄い唇から、吐き出される呌吞。矎しい流線型を描く顎から銖筋のラむン。晶を造るその造圢のひず぀ひず぀が䜐䌯を掻き立おる。 
 
 溶け合う感芚に堪らない快楜を感じながら、たたむきそうだずいう蚀葉通り匵り詰めた晶のペニスを同時に片手で扱く。蜜を絶え間なく溢れさせ、それは䜐䌯の指を濡らした。 
 浅く息継ぎをし、絶え間なく喘ぎながら晶が眉をき぀く寄せる。䜐䌯が晶のペニスを巧みな指䜿いでぎゅっず䞊ぞ導く。 
 
「は、ぁっ  っぁ  うッ  ぁ  芁 っ」 
 
 長匕く愉悊に躯が震え、うわずりそうになる声を殺すように晶は目を閉じる。 
 䜐䌯の指先が鈎口を割った瞬間最奥を貫かれ、躯を匷匵らせお二床目の粟を攟った。匷すぎる快感に䞀瞬意識が飛びそうになり、ずろけるような快感を孕んだ幞犏感に躯が痺れおいく。 
 
「――晶」 
 
䞀床晶の名を呌んだあず、䜐䌯も远埓するように肉を割っお抌し入るず、欲望を散らせた。 
 抱いおいるのは自分なのに、晶に抱かれおいるような䞍思議な感芚が䜐䌯を䞀瞬包み蟌む。 
 䜐䌯は、深く息を吐き出した。 
 
 
 
 
 未だ繋がったたた寄りかかっおくる晶の䜓枩が愛しさず比䟋する。ゆっくりずペニスを抜くず晶の躯が脱力したように重さを増した。 
 
 もう暖房は消した方がいいのではないかず思うほどに互いに䜓枩があがっおいる。じわりず滲んでくる汗をぬぐい、䜐䌯は晶の前髪を掻き分けお額ぞず口付ける。 
 晶が腕の䞭で芖線だけをあげ、未だ乱れお匟む呌吞の合間に口を開く。 
 
「なぁ、  満足、できた」 
「出来おないっお、蚀った堎合は、  どうするんだ」 
 
 たさか、質問に質問で返されるずは思っおもおらず返事に躊躇っおいるず、䜐䌯がそれをみお苊笑する。 
 
「それは  、えっず  、もう䞀回ダる、ずか」 
「なるほど 明日、起きれなくなっおも知らんぞ」 
「え  、違うっお、聞いただけ。マゞで」 
「お前が誘ったんだ。責任を取れよ」 
「そういう意味で蚀ったんじゃねヌよ  、ちょ、埅おっお。俺、もう結構、䜓力やばいんだけど」 
 
 䜐䌯は䞍敵な笑みを浮かべお、晶を゜ファぞず抌し倒した。芋䞋ろしたたた掌で晶の頬を撫でる。 
 
「仕方がないな。䜓䜍を倉えおやる、埌ろを向け」 
 
――そういう意味でもない。 
 
 喉元たでそう出掛かったが、背䞭から抱き締めおくる䜐䌯がやはり愛しくお、觊れられれば満曎でもない自分がいる。ただ自分も欲しおいるのだず貪欲さに呆れもするが、本胜のたたに気が枈むたでするのも悪くない、ず思った。 
 
 埌ろから愛撫され䜐䌯の息が銖筋をなでお、宙に浮く双袋を倧きな掌で悪戯に揉たれれば、自分でも驚く皋にペニスは簡単に圢を倉えお立ち䞊がる。 
 繊现な指先が繰り返す愛撫は心地悊くお、あっずいう間に䜓内に熱がほずばしった。 
 
「  かな、め」 
「䜕だ  」 
「  、ううん、䜕でもない  」 
 
――愛しおる。 
 
 きっずそれは蚀葉にしなくおも届いおいるはずだから  。 
 
――䜕床でも。感じおいたい。䜐䌯の党おをこの躯で、心で。 
 
 晶は再び揺れ出す芖界に満たされるのを感じお、二床目の快楜の扉ぞ手を掛けた。 
 
 
 
 
 
 
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