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 折角宿をずったので、䞀床チェックむンだけしおおこうずいう事になり。駐車堎を移動する為に、海に向かっおいた足を逆方向ぞむけお、歩き始める。 
 咄嗟に䞀番目立っおいた豪華なホテルを予玄しおしたったが、萜ち着いお通りを歩いおいるずざっず数えるだけでもホテルは五軒以䞊あった。これならば、䞀軒が満宀でも党郚を圓たれば䞀宀ぐらいは䜙裕で予玄できただろう。しかし、䞀番立地の良いホテルが空いおいたずいうのはラッキヌずしかいいようがない。 
 
 駐車堎を移動し、ホテルのカりンタヌでチェックむンを枈たせ怎堂の荷物を半分持぀。ゆるやかにカヌブしおいる朚補の螺旋階段を䞊り、廊䞋を進むず鍵ず同じルヌムナンバヌの郚屋に蟿り着いた。 
 
――ここだな  。 
 
 念の為もう䞀床番号を確認しおカヌドキヌをドアぞず翳すず、ランプが小さな音を立おおグリヌンに倉わりロックが倖れた。 
 怎堂を先に郚屋ぞ通し埌から柪が入るず、怎堂はたっ先にバルコニヌぞ向かっお行き、その景色に驚嘆の声を䞊げた。 
 
「柪 芋お芋お。さっき歩いた通りも海も䞀望できるよ」 
 
 郚屋は遞べなかったのでダブルベッドであり、角郚屋なので窓が倚い。アむボリヌのカヌテンが開かれおいた窓から入る颚に揺れおいお、真っ癜な寝具を陜射しが照らす。党䜓的に癜で統䞀された内装は枅朔感があり、郚屋をより明るく芋せおいた。 
 
「ほんずだ、よく芋えるな」 
 
 怎堂の偎ぞ行き、バルコニヌにある少し退色したモザむクタむルをあしらった怅子に腰掛けるず、怎堂は柪の向かいに腰を䞋ろしおテヌブルに頬杖を぀き郚屋を眺めた。 
 
「この郚屋、新婚さん甚なのかな」 
 䜕故か内緒話でもするような声で怎堂がそう聞いおくる。 
「どうしお」 
「だっお、女性が奜きそうな内装だし。それに、その  ダブルベッドだったよ」 
「ああ  、たぁ、そういう甚途も倚いっお事なんじゃない」 
「こんな玠敵なホテルに泊たるの初めおだよ、僕」 
「良かったな」 
 
 自分はそんなに郚屋にはこだわらない方なので、ある皋床綺麗であればそれでいい。それより、怎堂が嬉しそうな事の方が重芁である。倕方が近づいおきお気枩が少しず぀䞋がり、匷い陜射しも和らいでくる。 
 䞀通り倖を眺めた埌、二人で郚屋ぞ戻っお柔らかな゜ファに腰を沈たせるず、若干疲れからか眠くなっおきた。䜓調は悪くないが、普段ず比べお長い時間の運転、それず遠出は久々だずいうのもある。以前は二日ぐらい培倜のたた店に出おも平気だった䜓力は、今ではすっかり萜ちおしたった。これぐらいで疲劎感に苛たれるのがその蚌拠だ。 
 
「こんなに気持ちいいず、眠くなっお来ちゃうね」 
 
 怎堂がたるで柪の代匁をするようにそう蚀っお、柪の肩に寄りかかる。倚分、怎堂は別に眠くなんかなくお  、柪の䜓調を考慮しお蚀っおいるのかも知れない。 
 柪は怎堂の肩に手を回しお、寄りかかっおくる頭を撫でながらそっず肩の力を抜く。 
 
「少し、䌑んでもいい」 
 
 少し前の自分なら蚀えなかったであろう蚀葉を口にしお、柪は怎堂の耳元に軜く觊れるようなキスをした。 
 怎堂の前で無理をしおでも元気な姿を芋せようずしおいた自分は今はもういない。結局その無駄な努力は䜕も生み出さないどころか、互いの気持ちをすれ違わせただけなのがわかったからだ。くすぐったそうに肩を竊める怎堂の顔を芗き蟌んで、その頬にもう䞀床口付けを萜ずせば、怎堂は照れたようにはにかんで県鏡の奥の長い睫を䌏せた。 
 
「  今日、僕。䞉回も柪にキスされおるね」 
「そうだっけ 嫌なら、やめるけど」 
「嫌じゃないっお、僕が蚀ったら  。もっず沢山、キス  しおくれるの」 
「誠二がしお欲しいなら、するよ 今じゃないけどな」 
「うん。  嫌じゃないよ、  嬉しい」 
 
 怎堂が優しい笑みを浮かべお、「じゃぁ、楜しみにしちゃおうかな」ず小さく呟き、自身の膝をずんずんず軜く叩く。 
 
「膝枕、しおあげる。少ししたらちゃんず起こすから、安心しお䌑んでいいよ」 
「有難う  。じゃぁ、少しだけ」 
 
 自宅ず違っお、柪が暪になっおもだいぶ䜙裕のある゜ファに靎を脱いで足を乗せる。暪になっお目を閉じるず様々な音が耳に届く。 
「窓開けおるからかな  、波の音がする  」 
「うん、  そうだね」 
 
 怎堂の手が自身の頭を静かに撫でるのを感じながら深く息を吐く。酷く心地よい安心感に包たれ、柪は静かに浅い眠りに぀いた。 
 
 
 
                
 
 
 
 それから䞀時間埌、怎堂が起こす前に、柪は目を芚たした。「ちゃんず起こすから安心しお」ず蚀っおいた怎堂が膝枕をしたたた䞀緒に寝おいるのに気付き、思わず苊笑する。 
 このたた二人で寝入っおしたったら、念願の倕日の景色を芋損ねる所だった。柪が目を芚たした事にもただ気付いおいないらしく、無防備に寝顔を芋せる怎堂に柪はそっず手を䌞ばす。起こすのが可哀想な気がするほどその寝顔は穏やかで、もう少し芋おいたい気もするが  、今は時間が無い。 
 たたにコクリず揺れる頭が䞋がっおきた瞬間、怎堂の額を指で぀぀くず怎堂は䞀瞬停止しお「ん  」ず小さく声を挏らした。 
 
「――誠二」 
 柪に小声で名を呌ばれ、怎堂が寝がけたたた目を開ける。 
「  う、ん  、あっ」 
 
 自分が眠っおしたっおいた事に挞く気付いたようで、怎堂は䜕床か瞬きをするずパッず顔を䞊げた。その瞬間、怎堂のポケットに入っおいた携垯がアラヌムを鳎らす。怎堂はずれた県鏡をクむず抌し䞊げながらそれを取り出す。 
 
「良かった、よしよし。ちゃんず起きれた」 
 
 䞀人でそう蚀いながら取り出した携垯のアラヌムをOFFにする。怎堂曰く、もしも自分が寝おしたった堎合に寝過ごさぬよう、予め目芚たしアラヌムをかけおおいたずの事。ずりあえず、柪が起きなくおも寝過ごす事態にはならなかったようである。 
 
「甚意呚到だな」 
 
 柪が笑っおそう蚀いながら䜓を起こす。䞀時間皋䌑んだだけでも、ちゃんず疲劎感は抜けおいおすっきりしおいる。手櫛で髪を敎えながら「膝重かった」ず柪が聞けば、怎堂は「ううん、平気だよ」ず笑顔を芋せた。 
 
「ねぇ、柪」 
 怎堂が立ち䞊がろうずする柪の手を䞡手で掎んで、顔を芋䞊げる。 
「ん」 
「僕、前より膝枕䞊手になったでしょ」 
 
 そう蚀えば、以前䞀床膝枕をしお貰った時に、するのが初めおだず蚀っおいたのを思い出す。膝枕に䞊手も䜕もないずは思うが、柪の答えにちょっず心配そうな怎堂にそんな事を蚀えるはずもなく。柪はそっず怎堂の柔らかな髪の䞊に手を眮いた。 
 
「だいぶ良い感じだった」 
「良かった じゃぁ、もうベテランだね」 
「そうだな」 
 
 膝枕のベテラン称号を認めお貰っお怎堂は少し埗意げである。 
 
「柪が気持ちよさそうに寝おるから、僕も぀い眠くなっちゃったんだよね」 
 
 蚀い蚳っぜくそう蚀いながら怎堂も立ち䞊がり、郚屋をうろうろ歩いおは備品などを眺めおいる。掗面ず䞀䜓になっおいるバスルヌムは䞭でガラスの仕切りが぀いおいおバスタブの他にシャワヌブヌスのような物もある。ひんやりずした足䞋の床は倧理石で、ただ濡れおも居ないのに照明を反射するほど茝いおいた。 
 
「そろそろ日も暮れるし、浜蟺の方ぞ行っおみる」 
 
 柪が声をかけるず、少し離れた堎所から怎堂が「そうだね」ず蚀い぀぀戻っおくる。 
 荷物はそのたた郚屋ぞ眮いお、鞄䞀぀に二人の所持品だけを入れお再びホテルの郚屋を埌にする。 
 
 ロビヌから続くホテルに぀いおいるレストランには、早めの倕飯を始めおいる家族連れ等が芋える。䞭々に排萜たレストランのようなので倕飯は戻っおきおからここで枈たせおもいいかな、柪はそう思いながらロビヌの先の階段を䞋りた。 
 
 ラグヌナビヌチは入り江が现かくわかれおおり、その浜蟺によっお芋える景色が違うずいう。柪達が足を䌞ばしたのはホテルから降りおすぐの浜蟺で、プラむベヌトビヌチではないにせよ䞀般の芳光客は少ないようだった。 
 時刻は六時半、倪陜が埐々に遠くの地平線に近づき、もうすぐその姿を隠すだろう時間である。 
 昌間の倪陜の熱を孕んだ砂浜が心地よいので、靎を脱いで裞足になりその地面を肌で感じる。ちょっずだけ波打ち際に入っおみたいずいう怎堂の垌望で、柪も怎堂の埌を着いお静かに打ち寄せる波の近くに歩み寄った。 
 
 裞足でこうしお海蟺を歩くのなんおい぀ぶりだろう。ずっず遠くにある蚘憶を蟿り぀぀足裏の感觊に懐かしさを感じる。指の間に入り蟌む现かな砂が少しくすぐったく独特の感觊である。 
 芋る限り海は凪いでいお、波の高さもそう高くはない。巊右から時間差で抌し寄せる波が、浅い所で亀わっお癜い泡を立おる。パシャリず音がしお怎堂の方ぞ芖線を向けるず、少し先で怎堂は足䞋を海氎に浞しおいた。 
 
「氎、結構冷たいね、でもちょっず気持ちいいかも」 
 ズボンの裟を少し捲っお、海ぞ浞かる怎堂の背䞭に柪は声をかける。 
「あんたり先たで行くなよ 濡れお颚邪匕くから」 
「倧䞈倫だよ。ちゃんず気を぀けおるし」 
 
 怎堂の倧䞈倫はあたりあおにならない。随分静かだなず思い蟺りを芋枡すず、二組ほどいた呚りの恋人達はい぀のたにかホテルぞ戻ったのかいなくなっおおり、小さな入り江に怎堂ず柪二人だけになっおいた。貞し切りのビヌチずいうのも悪くない。 
 倧きな波が来たずきだけ足䞋を氎が流れる䜍眮に柪は立っおいお、少し先に怎堂が居る。沈んでいく倪陜は芖界の党おを鮮やかな橙に染め䞊げお、その力匷さは別の䞖界ぞ迷い蟌んだ景色のようだった。 
 
 足䞋に力を入れるず、濡れお䞍安定になっおいる砂に指が埋たる。歩きづらいその堎から足を匕きあげ、柪はただ波打ち際で浞かっおいる怎堂に䞀床振り向いた。 
 
「こっちに座っおるから、ほどほどにしお戻っおこいよ」 
「うん」 
 
 柪は、波が届かない堎所たで戻っお、砂浜ぞず腰を䞋ろす。濡れた足先の砂は、也いた砂ず混ざればすぐにパラパラず萜ちおいく。裞足のたた少し砂浜ぞ足を朜らせるず枩もりが残っおいた。 
 砂浜には貝殻も特になく滑らかな状態で、自分が今぀けた足跡ず怎堂の足跡だけがくっきり残っおいる。二人の足跡は波で消される所で終わっおいるが、それがずっず遠く、海の䞭を越えお続いおいるように思えお、柪はその足跡を目で静かに蟿っおいた。 
 怎堂ず出䌚っおから、色々な事があっお今こうしお二人でいる事の意味を考える。 
 倕陜に照らされた怎堂の姿は、その倕陜以䞊に眩しくお  。かけがえのない未来ぞの扉ず重なっお芋えた。 
 
 柪は砂を握りしめお、目の前でそっず掌を開いおみる。 
 指の間からこがれ萜ちおいく真っ癜な砂は、ざら぀いた僅かな感觊だけを残しおあっずいう間に掌から消えおいく。誰もそれを止められないし、いくら握りしめおもきっずそれは氞遠には残っおくれない。たるで時間のようでもあり、倱った日垞のようでもあるずふず思う。 
 
「――柪」 
 
 怎堂の声で我に返った柪が顔を䞊げるず、怎堂が傍ぞきおおり、座る柪を芋䞋ろしお笑みを浮かべおいた。考え蟌んでいるずころを、もしかしたら芋られたかも知れないず思い、咄嗟に柪も笑みを浮かべる。 
 
「もう、満足したの」 
「うん」 
 
 「子䟛の時以来だよ、海になんお入ったの」そう蚀いながら怎堂も柪の隣に腰を䞋ろす。䞊べた玠足は、こうしお改めお芋るず倧きさがだいぶ違う。 
 
「倕陜、ロマンチックだね  。沈んでいくあの地平線の蟺りも、僕たちが今芋おる色ず、同じなのかな  」 
「どうかな  」 
 
 日が沈むのはあっずいう間である。目が痛いほどの鮮やかな橙は、倜の闇ず混ざり぀぀あっお少しず぀その圩床を䞋げおいくのがわかる。 
 柪が砂浜ぞ぀いおいる手に、怎堂はそっず自分の片手を重ねお幟床かその现い指を動かした。 
 
「䞀緒に来れお良かった。ひず぀倢が叶っちゃった」 
 怎堂が嬉しそうにそう蚀っお隣の柪を芋る。 
「うん、そうだな」 
 
 柪が芖線を合わせるず、怎堂の瞳は䜕故か少し最んでいるように芋えた。その理由はわからないし、気のせいなのかも知れないが。元々淡い色の瞳が倕日を受けお染たっおいる。映り蟌むその色に吞い蟌たれるように目が離せなくなる。 
 
「誠二  」 
「うん、なに」 
「今  。俺ず居お、幞せ」 
「  え」 
 
 柪がそう聞いた瞬間、重ねた怎堂の指先がぎくりず動く。 
 
「勿論、凄く幞せだよ。柪は   柪は、そう思っおくれないの」 
「俺も、そう思っおるよ  」 
 
 そう蚀った埌、柪は続く蚀葉を蚀いかけるようにしお口を噀んだ。柪が䜕か考えたいこずがあるず蚀っおいたのを思いだしお、怎堂は先の蚀葉を埅぀ように柪の肩ぞ頬を寄せた。 
 抌しおは匕いおいく波の音だけが蟺りを぀぀み、寄りかかった先の柪の肩から䜓枩が䌝わっおくる。柪は䞀床芖線を自身の足先ぞ萜ずすず、小さく息を吐いお二回ほど空咳をした。䜓が冷えたのではないかず咄嗟に心配になっお顔を芗き蟌むず、その意味に気付いた柪は、「倧䞈倫」ずでもいうように少し埮笑むず銖を振った。 
 
 暫く二人で海を眺める。その間も、波は䌑むこずなく、砂浜を撫でお二人の足跡を少しず぀消し去っおいく。もうほずんど沈んでしたった倪陜が、最埌の灯りを消し去るのず同時に柪が埐に話出した。 
 
「この前  。高朚さんに蚀われた  。抗癌剀治療を続けるかどうか、遞択できるっお」 
「  え  。  この前っお、い぀」 
「先週、だったかな  」 
「そう、なんだ  もう、返事はしたの」 
「いや  。ただ、しおない。ずっず考えおたけど、簡単に決められないし」 
「  うん  」 
「冷静に考えおる぀もりだけど、どうしおも自分の事だず思うず、決断が鈍るっお蚀うか  」 
 
 柪は普段ならばかなり決断力があり、迷うこずの倚い怎堂はその性栌を矚たしく思っおいるくらいだ。そんな柪が、迷っお出した蚀葉。それにどう答えれば良いのか怎堂は躊躇っお口を匕き結んだ。恋人だからず蚀っお口出ししおいいような問題でも無いし、自分が意芋するこずで柪の答えを惑わせる事もしたくないからだ。 
 柪は自嘲するように少し笑うず、芖線を萜ずし静かに続ける。 
 
「正盎  本圓はやめたい。こうしお、䞀緒に出かけたり食事したり、前は普通だった事が出来る今が、凄く嬉しいし、楜しいから  」 
「  、  」 
「再発するか。たぁ、転移かも知れないけど、  そういう「かもしれない」䞍確かな事のために、生掻を犠牲にしお  生きおいく意味はあるのか、わからなくなっおた」 
「  柪」 
「なぁ、誠二」 
 
 柪が暪に居る怎堂ぞず振り向いお、頬にそっず手を添える。怎堂は切なげに眉を寄せるず、䜕も蚀わずに柪の手に自分の手を重ねた。 
――頑匵っお。 
――倧䞈倫だよ。 
 幟぀もの蚀葉が浮かんできおも、それが口を出るこずはなかった。重ねた掌にひたすら想いを乗せる事で粟䞀杯だった。 
 
「  さっき、俺が誠二に「幞せか」っお聞いただろ」 
「  うん」 
「あの時、思ったんだ。俺も今、幞せだっお感じおるけど、この幞せは期限付きなんじゃないかっお」 
「  期限。  っお  」 
「蚀い方は良くないけど、俺がこの先、治療を止めお生きおいられる期限の事。それが䜕十幎も埌なのか、数ヶ月もないのかは誰にもわからないけど。少なくずも、今治療を止めたら、その期限が来る可胜性が高たるだろ」 
「そ、それは、  」 
 
 怎堂の䞭で、吊定の蚀葉が喉元たで出掛かった。「そんな事ない 治療をやめたっお倧䞈倫だよ」ず。だけど、その蚀葉は『そうであっお欲しい』ずいう垌望なだけであり、医者ずしおも恋人ずしおもそんな䞊蟺だけの慰めを蚀えるはずがなかった。 
 柪の蚀っおいるこずは真実で。真実だからこそ認めおしたうのも怖い。人が死んでいくのには職業柄慣れおいるはずなのに、隣に居る柪がいなくなる事を想像しただけで正気では居られそうもない自分が容易く想像できる。背筋がぞくりずし、怎堂は思わず柪のシャツをぎゅっず握りしめた。 
 
「俺は、  期限付きの仮初めの幞せが欲しいわけじゃないんだっお  あの瞬間、そう思った」 
「  」 
「この先も、ずっず二人でこうしお、䞀緒に過ごせるようにしたい。  それしか答えはないはずなのに、目先の幞せに抗えない自分がいお  。情けないよな」 
「  柪、ううん。そんな事ない。僕が柪ず同じ状況だったら、もっずもっず迷っお、答えだっお出せないたただず思う」 
「  そうかな」 
「絶察そうなるよ」 
 
 柪は䞀床髪をかき䞊げお、砂浜で重ねおいる方の手をそっず離した。 
 
「俺は  」 
「  」 
「  治療を続けようず思う。未来が欲しいんだ  。誠二ず、俺の  」 
 
 少しだけ困ったように埮笑んでそう告げた柪の遞択が、どれだけ重い物なのかが痛いほどに䌝わっお、怎堂の胞はぎゅっず苊しくなった。ようやく今副䜜甚の苊しみから䞀時期解攟されおいるのに、たた逆戻りになるかも知れない䞍安は、どんなに怎堂が想像をしおも本人には到底及ばない。 
 
 治療を続けるか止めるか、二択しか無いはずなのにそのどちらを遞んでも乗り越えお行かねばならない時間の䞭には、残酷な珟実がある。 
 すっかり暗くなった砂浜には、い぀のたにか倖灯が灯っおいお、二人の圱を浜蟺に長く映し出しおいる。 
 
「――誠二、  」 
 
 柪が䞀床怎堂の名前を呌び、䜕かをぐっず堪えるように俯いた。 
 
 倖灯の明かりも、柪の俯いた衚情を照らすたでは届かず、その衚情はわからないたただ。サラサラず前にこがれ萜ちる柪の前髪が、海から吹き付ける颚で揺れお乱れる。柪は離しおいた手を再び怎堂の指ず絡めるず、確かにそこに居るのを䜕床も確認するように匷く握りしめた。 
 
「たた暫く、こういう事出来なくなるけど  。ごめん  。いっぱい迷惑も掛けるず思うし、蟛い思いもさせるかもしれない  。本圓に、ごめんな」 
「――柪」 
 
 柪の握った手は僅かに震えおいお、その䞍安や芚悟が突き刺さる。怎堂は思わず柪の䜓に腕を䌞ばし抱き締めた。柪の気持ちを思うず溢れそうになる涙を堪えお、必死で抱く腕に力を蟌めた。 
 
「  誠二が居れば、俺、頑匵れるから、  傍に居お、支えお欲しい  」 
「そんなの  柪が嫌だっお蚀っおも、僕はずっず傍にいるよ」 
 
 もっず沢山励たしたいのに、こんな時に限っおたるで蚀葉を忘れたように次の蚀葉が出おこない。うたい蚀葉が芋぀からないたた、もどかしいぐらいに『奜き』を䌝えたくお  。 
 怎堂は、柪を抱き締める腕をそっず解くず、そのたた柪の唇に自分の唇を重ねた。 
 
「柪、  僕は、柪にお願いされたから傍に居るんじゃないよ。僕の意思で  今、ここに居るんだ」 
「  、  」 
 
 怎堂が優しい笑みを浮かべお、柪の胞元に頭を寄せ目を閉じる。柪の長い腕が背䞭を撫でるのを感じながら、小さく呟く蚀葉は、波の音に混ざっお柪の䞭ぞず浞透しおいった。 
 
「ねぇ、柪。僕ね、柪ず䞀緒に暮らすようになっおからずっず思っおたこずがあるんだ」 
「  なに」 
「どうしお、僕は  神様じゃないんだろうっお  」 
「  え」 
「僕が神様で、柪を助けおあげられたらいいのにっお、ずっず思っおた。でも、  どう頑匵っおも、僕はやっぱりただの人間だから  。でもね、それでも、柪の蚀う蟛い事ずか悲しい事ずか、柪ず䞀緒に感じお生きおいけるなら、それは蟛い事なんかじゃなくお、僕にずっおは幞せでもあるんだっお。  気付いたんだ。神様じゃなくおいい  。柪ず䞀緒に生きおいける人間で良かったっお今は思っおる」 
「    」 
「䜕が幞せで、䜕が幞せじゃないかなんお。過ぎ去ったずヌっず先にしか本圓の事は分からない物なんだず僕は思う。だからね、柪の蚀う仮初めの幞せも、本圓の幞せなんだよ。それがわかる頃には、もっず楜しい事や嬉しい事があっお、その時もたた幞せなの。柪のこれから先の人生で、僕が傍に居られるこず。僕はそれ以䞊は䜕も芁らない。柪が䞀番倧切  」 
「誠二  」 
「  あっ  。えっず。ごめん、重いよね  、こんな事蚀ったら  」 
 
 怎堂は慌おたように柪の胞から頭を離し、「倱敗した」ずでもいうように芖線を泳がせ頬を掻いた。 
 
「ちゃんず嬉しいよ。  有難う」 
 
 柪は怎堂の腕を掎んで、その唇を塞ぐ。倜の闇が静かに二人の姿を芋守っお、時間が停止したかのようだった。 
 気枩も䞋がり、元々日䞭ずの寒暖差が激しい地域ずいうのも盞たっお肌寒いくらいである。半袖で露出した怎堂の腕は冷たくお、柪は口付けながらその腕をさする。砂浜に芖線を移せば、二人が付けた足跡はもうすっかり党郚消えおいた。 
 
「そろそろ、戻るか。冷えおきたし」 
「う、うん  」 
 
 柪の口付けでがヌっずしおいる怎堂を、先に腰を䞊げた柪が手を䌞ばしお起こす。互いにズボンに぀いた砂を手で払っお、そのたた䜕も話さずに手を繋いでホテルぞず来た道を戻る。階段を䞊る先から、楜しげな声が聞こえ、先皋の倕日ずは又別の枩かな明るさが呚囲に充ちおいた。ゆっくり動き出した時蚈の針が時を刻むように。 
 
 
 
 
                
 
 
 
 
 来た時に予定しおいたホテル付きのレストランで倕食を食べ、郚屋に戻った頃には10時を回っおいた。昌ず違い、䞀人ず぀メニュヌをずる事はせず、幟぀かのメニュヌを頌んで二人で取り分けお食べた。どれも味が良くお、ここ最近で䞀番量を食べられたかもしれない。 
 
「お腹いっぱいだね。矎味しかった」 
 
 怎堂が満足そうにそういっお、広いベッドに仰向けに転がる。サむズの広いダブルベッドの䞊では、怎堂が埌二回転ほど寝返りを打っおも倧䞈倫そうな䜙裕がある。埐に倩井ぞ向かっお手を䞊げ、じっず指先を芋おいる怎堂を䞍思議に思い、柪は傍によるず同じように怎堂の指先ぞ芖線を向けた。 
 
「䜕しおんの」 
「んヌ。僕の指は五本だなっお思っお、芋おる」 
「圓たり前だろ」 
「うん、そうなんだけどね。埌䞀本倚かったら、今出来ない事も出来るのかなっお思っお」 
 
 自分はただ酒は飲めないが、それに合わせお怎堂にも我慢させるのは嫌なので、先皋倕食時には䜕杯か怎堂は酒を飲んでいる。だからずいっお突然そんな事を蚀い出す怎堂は、別に酔っおいるわけではない。真面目な顔でじっず指先を芋る怎堂のこういう発蚀はい぀もの事なのだ。 
 
「出来ない事っお 具䜓的に䜕かしたいわけ」 
 怎堂は柪のその問いに、少し考えた埌ベッドぞバタンず腕を䞋ろした。 
「シェフ顔負けの料理が䜜れちゃうずか」 
「それだけかよ」 
「埌は  。PCにカルテ入力するずき、目にもずたらぬ早業でタむピングできるずか」 
「たぁ  。それはいけそうだな」 
「でしょ」 
「でも、料理の腕は数こなせば極められるかもだし、タむピングも緎習すれば早くなるず思うけど。勿論、五本のたたで」 
「うぅ  確かに、そうだね  。じゃぁ、柪は」 
 
 指が倚かった堎合の可胜性に぀いおなんお生たれおから䞀床も考えた事が無いし、急に質問されおも困っおしたう。「うヌん」ず呟いたたた考えおいる柪に、怎堂は寝返りを打ち、暪になっお頬杖を぀く柪の傍に寄っお悪戯に柪にちょっかいを出しおくる。 
 ふざけお銖筋にキスする怎堂が油断しおいる隙に、柪は怎堂の腕を玠早く掎むずベッドぞず抌し぀けた。圢勢を逆転され、再び仰向けにされた怎堂が、少しびっくりしたように目をパチパチさせる。 
 
「䜕かしたいわけじゃないけど、指が倚かったら  」 
 
 怎堂の耳元に近づいお囁く柪の声に、怎堂は顔を赀らめた。 
 
「もっず愛撫がうたくなれるかも」 
「そ、それは  えっず  」 
「冗談。俺は、五本で十分だな」 
「そう、ですか」 
 
 動揺しお急に䞁寧語になった怎堂に思わず吹き出し、抌さえ぀けおいた手銖から手を離す。怎堂はガバッずベッドから起き䞊がるず、「僕、先にシャワヌを济びおくるね」ず蚀い残しお背を向けたたた鞄からバスタオルや着替えを取り出すずシャワヌルヌムぞ入っおいった。 
 
 本圓にからかい甲斐がある。真っ赀になっお慌おおいる怎堂を思いだしお、柪は再び口元を緩め、自身もベッドから起き䞊がっおそのたたバルコニヌぞ向かった。 
 
 倧きな倖開きのガラスドアをあけお倖ぞ出おみるず、通りは倖灯のせいで明るいが、その光も浜蟺たでは届かず海の方はもう真っ暗だった。目をこらすず、波がうっすらず芋えはするが、现かい動きたではよく芋えない。昌間に芋た時ずは党く違った景色だった。 
 時々匷く吹き付ける海颚は冷たくお、長袖のシャツを矜織っおいるにも関わらず寒いくらいだ。朮の匂いのする冷たい空気を、深く吞い蟌んで、柪は手摺りに腕を眮いお顎を乗せ、長く息を吐いた。 
 
 目を閉じるず、倕方に芋た鮮やかな橙色が瞌の裏に浮かんできお、自分の蚀った蚀葉や怎堂の蚀葉が再生される。楜しそうに笑っお、自分に振り向く怎堂はずおも綺麗で  。そんな蚘憶に刻たれた新しい想い出。 
 䞀぀増えたそれが柪の胞の䞭で、今たでの想い出の䞊に静かに重なる。 
 目を開けおフず遠くの空を芋䞊げれば、東京に居た頃ず䜕も倉わらない月がくっきりず浮かんでいるのが芋えた。 
 
 どこに居おも、自分の立っおいる堎所の隣には怎堂が居る今。共に歩む事が出来る、その事の倧切さが身に染みる。䞀日䞀日が終わっおいく事より、終わりの続きに明日がある事を信じたいず今は思う。 
 
 暫くそうした埌、怎堂が䞭々あがっおこないず思い郚屋の方を確認するず、䞁床怎堂がシャワヌルヌムから出お来た所だった。 
 バルコニヌにい぀たでもいたら颚邪を匕きそうなので、柪も郚屋ぞず戻るこずにした。 
 
「お先に䜿わせお貰ったよ。足の指の間にね、砂がただいっぱい぀いおたんだ。掗うの倧倉だったよ」 
 
 だから長颚呂だったずの蚀い蚳なのか、怎堂がそんな事を蚀う。 
 
「柪もシャワヌ济びるでしょ」 
「ああ、うん、俺も济びおくる」 
 
 頭に真っ癜なタオルを被った怎堂が、郚屋に甚意されおいたバスロヌブを手に取り。肩に矜織っお呟く。 
 
「あれ  。僕には  結構倧きいかも  」 
 
 肩から倧分ずり萜ちおいるバスロヌブの銖元をぎゅっず掎んで怎堂が困ったように眉を寄せる。男二人で予玄しおいるのだから、バスロヌブも圓然男物だ。ぶかぶかのそれに怎堂が䞍満そうなのをみお、柪は笑うずそのたたシャワヌルヌムぞず入っおいた。 
 先に怎堂が济びおいるので、鏡はすでに曇っおいお䜕も映さない。 
 痛いほどの氎圧のシャワヌを出し぀぀、壁のフックに掛けお柪は頭からそれを被った。埌ろに流しおいた前髪が、濡れお前ぞず萜ちおくる。掻き䞊げながらシャンプヌを手に取り泡立おるず、自宅の物ずはたた違った柑橘系の銙りがした。 
 
 
 
 党身を掗い終え、柪がバスルヌムを出るず怎堂はベッドに転がっお雑誌を読んでいた。宿泊客甚に甚意されおいる珟地の芳光案内を兌ねおいるそれは、先ほど時間のあるずきにパラパラず少し捲っおみたが、ほが店の宣䌝だった。 
 喉が枇いたので、そのたた冷蔵庫にいれおあったミネラルりォヌタヌを手に取っお柪がベッドの脇ぞず腰掛けるず、怎堂が雑誌を閉じお柪ぞず振り向く。 
 
「昌に芋たお店が䜕軒か茉っおたよ。あずね、行っおみたいお店を発芋したから、明日寄っおから垰ろう」 
「いいけど、堎所わかんの」 
「うん、䜕ずなくだけど。マグカップを買ったお店があったよね。その䞊びだず思う」 
「ぞぇ、それなら近いな」 
「うんうん」 
 
 よく髪の毛を拭いおから、掗面所でドラむダヌをかけようず立ち䞊がった所で怎堂ぞ振り向くず、案の定怎堂の髪はただ濡れたたただった。「僕は、自然也燥掟なんだ」ずは本人の匁だが、倚分也かすのが面倒なだけだず思う。 
 予備にあった也いたタオルを手に取っお、柪は再びベッドぞ戻るず歀方に背を向けおいる怎堂の頭にそれをばさりず被せた。 
 
「うわっ、柪」 
 
 芖界を塞がれお怎堂が慌おお銖を振る。そのたた乱暎に怎堂の頭をガシガシず拭いおタオルを倖すず、半也きの柔らかな髪はパヌマをかけたような状態になっおいた。 
 
「髪の毛、クルクルだな」 
 柪が笑いを堪えおいるず、怎堂は「もう」ず口を尖らせお柪からタオルを奪っお隠すようにそれをかぶった。 
「䜕で隠すんだよ」 
 タオルで隠された怎堂の顔を芗き蟌むず、怎堂に睚たれた。 
 
「だっお柪、僕の癖毛のこず面癜がっおるでしょ  僕だっおね、柪みたいにサラサラが良かったんだ  」 
「ごめんごめん、別にからかったわけじゃないっお」 
 怎堂がタオルをするりず倖しお柪を芋䞊げる。 
「いいじゃん、癖毛でも。俺は奜きだけど」 
「そ、そんな事蚀っお  ごたかそうずしお  」 
「本圓だっお」 
 
 柪が宥めるようにキスをするず、怎堂が握っおいたタオルをぎゅっず掎んだのが芖界の隅にう぀った。 
 サむズの合っおいないバスロヌブは、柪が手を掛けおずらせばすぐにはだけお、怎堂の癜い躯を露出させる。ゆっくりずキスをしながらベッドぞず抌し倒すず、怎堂の髪がその反動で軜やかに舞う。同じシャンプヌの銙りがふわりず錻腔をくすぐった。 
 
「誠二の髪も  、声も、躯も  。党郚、奜きだよ」 
 
 巊右にすっず䌞びた鎖骚のラむンを指でなぞり、怎堂の肌の感觊を確かめるように掌をあおながらそう蚀っお芋぀めるず、怎堂はみるみるうちに赀くなっお、消え入りそうな声で柪の名を呌んだ。優しく撫でる指先ずは裏腹に、今すぐ怎堂の事を抱きたくなる。い぀も途䞭でもやめられるように、理性の箍を倖さないよう抑えおいるのに、今倜はそう出来るのか自信が無い  。 
 
 今すぐ躯を離せば  ただ間に合う。そう思っおいるのに、止められなかった。也いた躯ず、それ以䞊に枇いた心が氎を求めるように。觊れたくお䌞ばした指先が怎堂ぞ蟿り着けばもうそれは、匕き戻せない。 
 
「柪  、えっず、髪が、ただ濡れおるよ  」 
「知っおる  。俺も、自然也燥掟なんだ」 
 
 そんな冗談ずも぀かない事を蚀っお、口付けを続ける。「嘘ばっかり  」少し笑っおそう挏らす怎堂の薄い唇を舌でなぞっお開かせ蚀葉を止める。僅かに開いたその䞭で互いの舌を絡め合う。 
 
「  んっ」 
 
 呌吞を奪うように深く繰り返す口付けに、怎堂は錻から抜けるような吐息を吐いお、ゆっくりず瞌を閉じた。柪は、その瞌ぞも軜くキスをし、寞分なく瞁取られた長い睫を悪戯に唇で食んだ。 
 
「んっ、  くすぐったいよ、柪  」 
 
 瞬きをしお揺れる睫から唇を倖し、柪は怎堂の項を指でなで䞊げお銖筋に噛み぀くようにき぀く口付ける。党身から力が抜けおいくような感芚が怎堂を襲い、そのたた柪の愛撫に身を委ね快感を受け入れおいた。 
 甘くお疌く胞の内が、ただ口付けしかしおいないにも関わらず熱くなっおいく。口付けが埐々に移動し、浮き出た怎堂の喉仏に蟿り着く。片手で噚甚に抜き取られたバスロヌブの玐をベッドの脇ぞず攟っお、柪は怎堂の裞䜓を眺めた埌䞀床長く息を吐いた。 
 感じお小さく尖る怎堂の乳銖を口に含み、柪の熱い口内でねぶられれば熟れた感芚が駆け䞊がり呌吞が匟んで乱れおいく。 
 
「ぁッ、柪、  埅っ、」 
 
 ふず郚屋の明るさに気付き、急に恥ずかしくなっお怎堂は枕元のスむッチに手を䌞ばすず明かりを絞った。それでも、ベッド呚蟺以倖はそのたたなので真っ暗ではない。――間接照明の淡い光が枕元だけを優しく照らす。 
 
「䜕で消すんだよ」 
 
 囁くようにそう問えば、柪が予想しおいた答えが返っおくる。 
 
「  明るいず  恥ずかしいから」 
「折角、綺麗な躯なのに」 
「  そんな事蚀うの、柪だけだよ  」 
「圓たり前だろ 他の奎にこんな事蚀わせる぀もりないけど」 
 
 柪はそう蚀っお、からかうように怎堂の錻先にチュッず音を立おお口付ける。普段あたり焌きもちをやくほうではない柪のそんな蚀葉を聞けば、それだけで嬉しくなる。愛されおいる実感なんお、いくらでも日垞で感じる事が出来おいるのに、もっず柪を独占したくなっお、そんな自分が少し怖い。怎堂は、感じるたたに熱い吐息を挏らすず、腰の蟺りで愛撫を続ける柪の髪の毛に指を絡たせた。 
 
「  柪の髪、  ちょっず、冷たいね  」 
「    ただ、濡れおるからじゃない」 
 
 柪の蚀葉通り、少し湿っおいる柪の髪が、怎堂の指に぀るりず滑っおこがれ萜ちる。柪が腰骚を舌で蟿った埌、足を開かせお柔らかな内腿を吞い䞊げる。日にも晒されないその皮膚は透き通るように癜く敏感で、唇が觊れる床に痺れるような感芚が怎堂を襲う。少し同じ箇所に口付けるだけでも、肌にはその跡がうっすらず残った。 
 
「ぁっ  、  っ」 
 
 咄嗟に挏れおしたった声に、怎堂は慌おお自身の手の甲で口を塞ぐず、堪えるように现く震える息を吐き出した。時間を掛けた䞁寧な柪の愛撫に翻匄されれば、眠っおいた躯䞭の感芚が目芚めおいく。 
 
「――誠二」 
「ん、っ  うん、」 
 
 足を開かされたたた、柪の方に芖線を萜ずすず、淫らな自らの肢䜓の傍で、柪が蟛そうに眉を顰めその動きを止めおいるのが芋えた。柪の抌し殺した息遣いが埮かに耳に届き、怎堂ははっずしお声をかける。 
 
「  っ、み、お」 
「  悪い、䜕でも無い  」 
 
 柪は吐き出せない性欲から少しでも気を玛らわそうず䜕床か深く息を吞っおは吐き出す。 
――倧䞈倫、い぀もしおる事だろ。 
 暗瀺のように䜕床も自分に蚀い聞かせ、挞く少し萜ち着いお顔を䞊げるず、い぀のたにか起き䞊がっおいた怎堂が、柪の銖筋に手を添えお唇を重ねた。そのたた柪の勃ちあがっお硬くなっおいるそれに手を䌞ばし、優しく掌で包む。 
 
「誠二、  今は、マゞでたずいっお  」 
「いいから。僕の奜きにさせお  」 
 
 怎堂は口付けながらも柪の蚀葉を聞き入れず、その手を䞊䞋に動かす。 
 
「  、おい、だめだっお」 
 
 口付けを䞀床倖した怎堂が、柪を芋぀め口を開く。 
 
「ダメじゃないよ。䜕にでも、ね。特別があるんだ。今日だけはその特別、  お願い、柪。僕にもさせお」 
「  、  」 
 
 今倜の怎堂は匷匕で。返事を埅たずしお、柪のペニスを指で支えお口に含むず舌で竿を濡らしおいく。元々我慢をしおいるだけで、嫌なわけではないのだ。「お願い」ずねだられ迫られれば、匷く拒絶する方が難しい。最近自慰をする回数も枛っお堪っおいた欲望は、久々のそれに容易く反応する。怎堂の熱い口内に迎えられ、柔らかな唇で扱かれれば、やはりそれは自慰ずは比べものにならない快感で。 
 
 自分の物を口に含む怎堂の姿が柪の欲情を煜った。少し乱れる呌吞で息を詰める柪が、ふず怎堂の躯ぞ芖線を萜ずす。 
 咥える口元、䌏せた目元、添える指先は怎堂の濡らした唟液で濡れおいお、頬は䞊気しおうっすらず染たっおいた。怎堂の誘うようなその姿を芋おいるだけで硬さが増しおいく。 
 
 のがっおくる射粟感に息を呑んだ瞬間、柪は、い぀もず違う怎堂の倉化に気付いた。 
 
――     
 
 怎堂のペニスがすっかり勃起しおいたからだ。いくら感じおも機胜しなかった怎堂のそれが自分ず同じように勃ちあがっおいる。芋た瞬間、䟋えようのない嬉しさず、安堵がないたぜになっお柪の胞の内をあっずいう間に満たした。驚きにより䞀瞬冷えた欲望が冷静さを取り戻させる。柪はほっずしたように息を吐き、優しい笑みを浮かべお怎堂の頭に手を眮いた。 
 
「誠二、もう  十分だよ。凄く、気持ち良かった  」 
「  柪、でもただ  」 
 
 柪の䞋腹郚に顔を埋める怎堂を起こしお、芖線を怎堂のペニスぞ向ける。倢䞭になっお口淫をしおいた怎堂もそれに気付いお、短く息を吐いた。 
 
「あっ、  っ、み、柪、  僕、  、」 
 
 焊っお䜕かを蚀いかける怎堂に、柪は「しヌっ」っず秘密の合図のように人差し指を立お、怎堂に腕を回しおぎゅっず抱き締め「  良かった」ず䞀蚀だけ呟いた。突然蚪れた䜓の倉化に戞惑う怎堂の唇を塞ぎ、芋䞊げる濡れた瞳を安心させるように頬を撫でお囁く。 
 
「いいから、あたり意識するな。  い぀も通りで」 
「  うん」 
「誠二  愛しおる  」 
 
 愛しそうに目を现め、優しい声で安心させおくれる柪の口付けを受けながら、ただ信じられない思いで怎堂はもう䞀床それを確認するように手探りで觊れおみる。本圓に自らのペニスが勃っおいる。これで、もう柪に蟛い我慢を匷いる事もなくなるのだずいうのが最初に感じた事だった。その事が嬉しくお涙が急に溢れだす。 
 
「  みお、  み、お」 
 
 涙声で柪の名を口にするず、あやすよう抱き締めおその背䞭をポンポンず柪が撫でおくれる。少し汗ばんだ互いの躯が、密着するほどに近くお、䜕かから解攟されたかのように蚀葉にしない思いを䌝え合う。 
 蟛抱匷く䜕床も䜕床も最埌たで出来ないセックスを繰り返し、柪は䞀床だっお嫌な顔をしなかったし諊めたりもしなかった。 
 
 行為の埌、柪が䞀人で凊理をしおいる事に途䞭から気付いた時には、眪悪感で抌し朰されそうになった。だけど、その事を柪からは䞀回も告げられたこずは無い。行為の埌、柪はその眪悪感たでをも受け止めるように優しく䜕床も口づけお匷く抱き締めおくれた。行動で瀺す柪の愛情がずっず自分を支えおきたのだ。 
 怎堂の双眞から溢れ出る涙は䞭々止たらず、滑らかな頬に次々ず流れおは嗚咜が挏れる。 
 
「  み、お」 
「ほら  、そんなに泣くなっお」 
 
 柪が怎堂の涙を指の腹で拭う。涙で濡れた少し塩蟛い唇を舌でなぞっお、重ねた唇。い぀もず同じ口付けのはずなのに、それは党然別の物に感じた。より深く、より熱く、蕩けるような口付けが互いの䜓内の熱をどんどん䞊げる。 
 
「っ、ふ、  ぁ、柪、」 
 
 怎堂のペニスの先からは先走りが溢れ、柪の口付けだけで達しおしたいそうになっおいた。燻っおいた今たでの快感ずは次元の違う感芚。ダむレクトに反映される愉悊は、苊しいほどに匷くおくらりず目眩がした。 
 
「キスだけで、  むきそう  僕、  」 
 
 こんなに早く達しおしたうこずの恥ずかしさから、曖昧な笑みを浮かべおそう告げる怎堂を远い立おるように、柪は倧きな掌で怎堂のペニスを包んだ。緩急を付けたその動きが堪らず思わず腰を匕いお逃げそうになっおしたう。 
 
「ァッ、だ、ダメ、  みぉ、むく、  ホントに、むっちゃう、から」 
「むっおいいよ。䞀回、予行緎習っおこずで  。このたただず、苊しいだろ」 
 
 柪は手を止めるこずもなく、指先で軜く扱く。芪指の腹で先走りの滲む鈎口を匄られ、痛さのギリギリ手前の刺激を䞎えられる。堪えきれない欲望が昂ぶっお小さく震えた。远い詰められるような苊しさず、それ以䞊の快感が䞀気に蚪れる。 
 
「んっ、ん、  っっ、っう、ぁッッ」 
 
 怎堂の躯が䞀瞬硬盎し、癜い喉が僅かに反る。柪の手の䞭でペニスが膚匵する。鈎口から䞀気に攟たれた癜濁が柪の指を濡らしお、こがれ萜ちた。ハァハァず酞玠を求め喘ぐ怎堂の、ぬるぬるずした粟液を絡めたたた、搟り取るようにカリの郚分を抌し䞊げれば、残滓がどっず溢れ、動かす柪の指がくちゅくちゅずずいう卑猥な音を郚屋に響かせた。 
 
「少し、楜になった」 
「っ、は、ぁ。  、  、う、ん、」 
 
 柪が軜く手を拭きながら、い぀も怎堂が䜿っおいるハンドクリヌムの堎所を聞く。前に、手が荒れるからワセリンのクリヌムを塗っおいるず話した事があったのを芚えおいたのだろう。ロヌションを持ち歩いおいるわけもないので、それは適切な遞択肢ずも蚀える。 
 柪がベッド脇ぞず眮いおある鞄から目的の物を取り出しお持っおくる。䞀床ラベルを芋お蓋を倖すずチュヌブから絞り出しおたっぷりず指に絡めた。 
 
「倧䞈倫 埌ろ、觊るよ」 
「う、うん」 
 
 柪が緊匵をほぐすように䜕床か口付けをし、巊手の長い指で優しく髪を幟床か梳く。 
 怎堂の膝を抱え、少し腰を浮かせるず埌ろたでよく芋えるようになる。その䜓勢に矞恥し、「  やっ、」ず短く喘いだ怎堂ず目が合うず、その目元もうっすらず赀く染たっおいお、扇情的なその様子がより䞀局柪の欲望を焚き぀けお誘う。 
 䜕本かの指で固たったワセリンを溶かすず、窄たりぞそっず指を䌞ばした。怎堂は勿論初めおではないが、䜿われおいないそこはやはり硬く締たっおいお柪の指でさえすぐには受け入れそうに無かった。 
 
「痛かったら蚀っお  」 
 
 時間を掛けお襞を開くように揉んでいく柪の指先に、次第に匷ばりが取れお怎堂の䞭が蠢く。その動きだけでゟクゟクする愉悊が背筋を通っお駆け䞊がった。 
 
「っ平、気  」 
 
 痛いかどうかに関しおは蚀葉通り。だけど、これ以䞊の悊さに耐えられるかどうかに関しおはわからなかった。気持ちが通じ合っお、愛する人ずするセックスが初めおである事。経隓の無いそれは、知るこずの出来なかった先を甘く想像させる。 
 
 滑るように䌞ばしたワセリンがいやらしく光っおすべりを良くする頃、柪の指が぀ぷりず差し蟌たれ、䞭をゆっくりずかき混ぜながら広げおいく。柪の指が自分に入っおいるずいうだけで興奮するのを知られたくなくお、怎堂は自身を咎めるように声を殺しお唇を閉じた。 
 目を閉じるず、党神経が柪の指に集䞭する。埐々に増やされた指が内壁をこする床に声が䞊がりそうになる。 
 
「柪、っぅ  、ん、っ  、」 
 
 只管控えめに声を萜ずす怎堂の限界を厩すように、柪の指は快楜の圚り凊を探り圓おるず指の腹で幟床かその郚分を撫でた。思わず腰が跳ねそうになり突き抜ける快感が䞀瞬にしお躯を支配する。 
 
「ァっ   ッッ、  」 
 
 前で揺れる怎堂のペニスは、抑えおいる声を代返するかのように淫らに再び蜜を溢れさせる。 
 すっず抜かれた指先の代わりに、柪が熱い先端を窄たりぞずあおがう。先皋口でした際に、その硬さず倧きさに圧倒されたが、それが䞭ぞ挿入っおくるのだず思うず䟋えようのない気持ちが膚れあがった。 
 
「  いい」 
 
 短く䞀蚀だけ確認を取る柪も、䜙裕が削られおいるのがわかる。その返事に䞀床頷くず、グむず抌し蟌むように柪が䞭ぞず入っおくる。念入りにほぐされた窄たりは、先さえ入りさえすれば、埌はするりず呑み蟌むように柪ぞ絡み぀きながら奥ぞずいざなった。 
 
「  、  。  誠二」 
 
 党おがおさたるず、柪が詰めおいた息を吐き出す。担がれおいる怎堂の䞡足は、その圧迫感に指先をピクリず痙攣させた。 
 
「みお、  柪、っ、  」 
 
 ずっずこうしお抱かれる日を倢芋おいお、今それが珟実の物ずなった事。嬉しくお嬉しくお、心が喜びに震えた。柪も同じように感じおくれおいるのがその衚情からも䌝わっおくる。 
 
「動く、ぞ  」 
 
 最初はゆっくりず、感芚を確かめるように浅い堎所で抜挿され、埐々に柪が突き䞊げる深さが奥たっおいく。角床を倉え、怎堂の快楜のありかを擊り䞊げるようにしお奥ぞたっすぐ届くそれに、苊しさを越えた愉悊が絶え間なく蚪れる。 
 
「んっ  、っ、  ぁっ  、」 
 
 少し荒々しいそのセックスが互いの隅にかろうじお残る理性を抌し出しおいく。匕き抜く寞前で最奥ぞ䞀気に収められる。二人を支えるベッドのスプリングが激しく軋み、絶え間ない荒い息遣いず重なっお生々しい性の䞖界を吊応なしに突き぀ける。貪欲な躯は、柪を受け入れた喜びだけでは満足せず、もっず奥たで揺さぶられたいず求めおくる。 
 
「  誠二、声。我慢しおる」 
「ッ、  んっ、だ、だっお  、倉な声、でちゃ、  ッら」 
「倉じゃないっお  、誠二の声、もっずきかせお。  。すげぇ、興奮する  」 
 
 柪が䞊半身を屈めお、怎堂のペニスを手で握る。埌ろを突かれながら、前も刺激されれば。はしたないず抑えおいた声も、もう柪に蚀われなくおも我慢するのは難しくなっおくる。 
 口元から濡れた熱い吐息ずずもに挏れ出す快楜の色を滲たせた自身の声は、自分でもこんな声が出るのかず思うほど卑猥で耳を塞ぎたくなる。 
 
「ァッ、  あぁっ、  ぅ、  っく、  んん、」 
 
 県鏡がないのでがやける芖界の䞭でも、芖線を䞊げれば柪が眉を寄せお苊悶の衚情で快楜を享受しおいるのがわかった。普段は芋られない、自分だけが芋るこずが出来る柪のその衚情。 
 銖筋に现く光る汗も、若さ故の匵りのある躯も、敎った錻梁や意志の匷そうな瞳も。党お今は自分が独占しおいるのだ。男の色気を攟぀柪の魅力に酔わされお、じわじわず浞食しおくる酩酊感。心音がめちゃくちゃに早鐘を打ち、もう限界が近い。柪に握られおいる怎堂のペニスは、今にも爆ぜそうに脈打っお匵り詰めおいた。 
 時々回されるように揺さぶられ、宙に浮く腰が、柪を捉えお远埓する。 
 
「もう、むく、  。むっちゃ、う、柪ッ、  ぁ、ァッ、ぅッ、っ  」 
「俺も、  むきそう」 
 
 柪が怎堂のペニスを握る手に少し力を蟌めお䞊䞋に扱く。 
 
「ぁッ、ああっ、  ハ、ァ、  っん、み、お  っ」 
 
 目の前がチカチカしお䞀瞬暗くなる。限界を超えた愉悊に震え、勢いよく射粟した飛沫が怎堂の銖筋にたで飛んだ。怎堂がむった瞬間、内壁がぎゅっず締たり柪が䜎く呻く。 
 
「  っう、    」 
 
 き぀く眉根を寄せ息を詰めるず柪もその䞭で欲望の跡を刻んだ。 
 
 射粟した埌も、柪のペニスが䞭でビクビクず痙攣しお動くのが感じられる。ズルリず抜かれ、柪はシヌツに手を突くず、乱れた呌吞を敎えるために忙しなく息を吐き出した。こめかみから流れた汗が、俯いた柪の顎を䌝っおシヌツぞずポタリず萜ちる。 
 
 盎埌ドサッずベッドぞう぀䌏せに倒れ蟌んだ柪が、ただ治たらず激しく䞊䞋する怎堂の胞に頭を乗せた。 
 力を抜いたその柪の重みが愛しくお、怎堂は汗ばんだ柪の髪を撫でた。ちょっずだけ甘えたような柪の行動が珍しくお、思わず抱き締めたくなる。愛しくお倧奜きで、――倧切な人。 
 
 暫く萜ち着くたでの間、郚屋には二人の息遣いだけが響いおいた。 
 
「  柪」 
 
 柪は目を閉じたたた気だるそうに「んヌ」ずだけ返事をしお、怎堂の躯のうえに腕も乗せた。 
 
「倧䞈倫」 
 
 問いかけながら、乗せられた腕の先で指を絡たせる。柪がぎゅっず握り返しおきたのが嬉しくお、もう䞀床力を入れるず柪に小さく笑われた。 
 
「俺は倧䞈倫だけど。っおいうか、それ、俺の台詞。からだ、蟛くない」 
「  うん、倧䞈倫だよ。  凄く嬉しかった  その  、柪ず繋がれたから」 
「そっか  。良かった、  安心した」 
「  柪、」 
「ん」 
「あのね  、有難う。䞀緒に治しおくれお  。柪は、僕の䞻治医だね」 
「  じゃぁ、治療は継続するけど、いい」 
「うん  もちろん  」 
 
 柪は苊笑するず、軜く怎堂に口付けおベッドから起き䞊がった。柪の䜓調を思うず少し心配になったが、それは杞憂で終わりそうである。セックスが終わっお、䞀時の快楜ずは違う穏やかな幞犏感が怎堂を包む。奜きな人に抱かれるこずの喜びが満たしたのは、躯だけではないのだず身をもっお実感する。セックスが気持ちいい物なのだず初めお知った瞬間だった。 
 
 「汗掻いたしシャワヌ济びおくる」ず離れおいく柪に急に寂しくなっお、怎堂は行こうずする柪の腕を、咄嗟に掎んだ。 
 
「埅っお、柪。  僕も  、䞀緒に入っちゃだめ」 
 柪はちょっずだけ困ったような衚情をし、だけれど、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。 
「二人はどう考えおも狭いず思うけど、たぁ  いっか。  んじゃ、入るぞ」 
「うん」 
 
 怎堂は、柪の腕に甘えお䜓重を掛けるず、顔を芋䞊げお幞せそうに埮笑んだ。 
 
 
 
 
                
 
 
 
 
 狭いバスルヌムで䜓を掗いあっお、济宀から出た頃にはすっかり火照った䜓も萜ち着いおいた。 
 今、怎堂の髪は完党に也いおいる。䜕故かずいうず、柪にドラむダヌで髪を也かされたからである。その埌どうでもいいテレビ番組を芋お二人で笑い合う。結構時刻も遅かったので、少ししおテレビも消しお倧きなベッドぞ朜り蟌んだ。 
 自宅では䞀人甚のベッドに二人で寝おいるので、その癖もあっおか少し萜ち着かない気分である。 
 向かい合っお暪になっおいるず、柪が目の前にある怎堂の手銖を掎んで匕き寄せた。薬指に芖線をずめお、先をちょっずだけ觊る。 
 
「ここ、ただ少し赀くなっおる」 
「ああ、うん  。昌食べた時に火傷した所だね」 
「痛い」 
「ううん、そんなには。たいしたこずないよ」 
 
 蚀われるたで気付かないほどだから、本圓にたいした事ではない。だけど、觊られるずほんの少しズキリずした。 
 
「すぐ冷やせば良かったな  」 
 
 柪はちょっず心配そうにそう蚀うず、突然怎堂の指先を口に含んだ。 
 
「っ」 
 
 舌先で䜕床か舐められ、怎堂がびっくりしおそれを芋おいるず、柪が「なに」ず䞍思議そうに指を離す。 
 
「舐めたら、早く治るかもしれないだろ」 
「えっ あ、うん。そ、そうだね」 
 
 自然にそんな事が出来おしたう柪は、やはり凄いず思っおしたう。舐められた指先がたたゞンゞンするのは火傷のせいではなくお、それは倚分柪のせい  。 
 
「誠二」 
 
 ドキドキしおいるず䜓ごず匕き寄せられ、柪の腕の䞭に抱かれた。 
 
「怪我ずか、気を぀けろよ」 
「  うん」 
「ちょっずでも、誠二が傷぀くのが嫌なんだ  、心配  だから  」 
 
 そう蚀っお、すぐに柪は寝おしたったようで埮かな寝息が怎堂の耳に届く。今日は朝から運転をしたり、街を散策したり、海ぞ行ったりず、い぀もよりかなり動いたので柪も盞圓疲れたのだず思う。 
 
 怎堂は、柪の腕に抱かれおその心音を聞きながら目を閉じる。暫くたたこういう事が出来なくなるず蚀っお謝る柪の姿を、倕陜の景色ず共に思いだしおいた。自分が䜕気なく蚀った垌望を叶えおくれお、こんな玠敵な想い出を䜜っおくれた事。䟋えこの先䜕幎も遠出が出来なくなったずしおも、満足だった。 
 
 今日のこずは、䜕幎経っおも、䜕十幎経っおもきっず忘れないず思う。 
 治療を続ける遞択をした柪の芚悟。傍に居お支えおいけるこずの喜び。 
 怎堂は目を閉じたたた、柪の胞にそっず掌を抌し圓おた。 
 
――柪に出䌚えお、僕は本圓に幞せだよ  。 
 
 掌に枩もりを感じたたた、怎堂もゆっくりず眠りに萜ちた。 
 
 
 
 
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