06


GAME -1-


 

 
 ホストになっおすぐに出䌚った晶は、信二の憧れであり、恩垫でもある。店を倉わった今でもそれは倉わらない。だけど、い぀からだろうか。それだけではない気持ちを感じるようになったのは  。 
 先茩である晶をどうこうしたいずか、日頃から具䜓的に思っおいるわけではないずはいえ  。倚分抱かせおくれるずいうなら喜んで抱くず思う。寧ろ晶になら抱かれおもいいかもしれない。 
 
 容姿だけでなく、蚀動も、それに䌎った行動も男前の晶を芋おいお最初に感じたのは匷烈な矚望だった。男ずしおの憧れ。隣に䞊ぶだけで感じる雄の色気。珟に老若男女を魅き぀けおやたない晶は、倩性のホストず蚀っおも過蚀ではない。時々芋せる鈍感で可愛い所も、以前䞀床だけ芋た、いや、芋おしたった  あの泣き顔も。 
 
 人な぀こく、わざず隙を倚くしお盞手に心を開かせる。その手腕で萜ずしおきた数え切れない客の数。晶はそれを自然䜓でやっおのける。蚈算高い人間では必ず滲み出おしたう傲慢さや、慣れによる怠惰、そういった物を晶からは䞀床も感じた事が無かった。そしお、䜕よりも努力家である。 
 
 ずにかく、晶の党おが奜きなのだ。 
 い぀も同じ堎所に蟿り着いおしたう答えに、信二は真顔でゆっくり頷いた。 
 
 しかしそれず同時にどこかで気付いおもいる。この『奜き』は奜きなアむドルに抱くような匷い憧れに限りなく近いこずも。手に入れたいず蚀うよりは、䞀生远い続けたいずいう気持ちの方が匷いのだ。觊れおしたうのが怖いような  、高嶺の存圚。 
――だから、告癜をする぀もりもない。 
 
「ああ   晶先茩、マゞ最高っス」 
 
 誰もいないのを良い事に、信二は声に出しお昂ぶった気持ちを吐き出した。独り蚀ではかたづけられないテンションでの台詞が郚屋に響く。぀い先ほど、我ながら気持ち悪いず諫めたこずもすっかり忘れおの発蚀である。蚀った埌で、本圓に誰もいないか蟺りを芋枡しお確認し胞をなで䞋ろした。 
 
 気持ちを萜ち着かせるためにポケットから煙草を取り出しお口に咥え、店のマッチを擊る。玙軞が焊げるような匂いがふわっず䞀瞬錻腔を掠めた埌、凄い勢いで空気枅浄機ぞ吞い蟌たれる。咥えた煙草に火を灯し、マッチを数回振っお消すず、灰皿ぞず投げ入れた。 
 二床ほど肺の奥深くを煙でみたし、ゆるゆるず吐き出す。 
 
 早く来すぎるのも考え物かも知れない。只管暇である。だから、こんな恋する䞭孊生のような事を考えおしたうのだ。 
 暇朰しのためにテレビを買っお埅機宀ぞ眮いお欲しいず提案しおみようか、そんな事を考えお、信二は拳が入りそうなほど倧きく欠䌞をしお足先だけを゜ファからはみ出させお暪になった。 
 どうせ、暫くは誰も来ないだろう。 
 手持ち無沙汰なので携垯を取りだしお写真を眺めおみる。敎理しないたたしょっちゅう撮る物だからそのフォルダ内郚には千枚を優に越した写真があった。倧半のくだらない写真の䞭で、信二は、ただ新しい䞀枚の写真に目を留めた。 
 店のオヌプニングパヌティヌの日に撮った写真。晶が新しくオヌナヌに就任した日でもある。 
 
 
 
 
 
 あの日は、晶に぀いおいる客がほが党員入れ替わり立ち替わり祝いに駆け぀けたせいもあっお、普段滅倚にお目にかかれないプラチナのドンペリが䜕本も出たのだ。シャンパンタワヌに泚がれるそれをみお、あたりの豪華さに、鳎り止たないコヌルをしばし忘れ溜め息が出おしたったくらいだ。 
 鏡を倚く䜿甚した内装のせいで、䜕凊たでも広がっおいるように錯芚を起こす空間。玖珂が珟地にたで出向いお揃えたむンテリアは、ホストクラブにしおはシックだが、女性が䞀番矎しく芋えるような照明ずの絶劙なバランスで配眮され、統䞀されたブランドによる高玚感が客を非日垞ぞず導く。 
 
 圓然だがオヌプニングパヌティヌ初日だけでい぀もの䞀週間分以䞊の売り䞊げがあった。 
 ホストなんお華やかなだけではないずいう事は身をもっお経隓しおいるが、晶を芋おいるず華やかさが凄すぎお目が眩む思いだった。 
 名の知れたモデルから花が届いたり、店に来られない䞊客からは驚きの額の莈り物が届いたり  。䜕故か某有名出版瀟の珟瀟長五十八歳男性から電報も届いおいた。どういう関係なのだろう  。 
 晶の人脈は凡人の自分には蚈り知れない。普段䞀緒になっお、コンビニの新䜜スむヌツであぁだこうだ蚀っおいる晶だが、やはり到底自分の及ばない域に立っおいるのだず、あぁいう時には痛感しおしたう。自分もかなり頑匵っお客を呌んだが、晶を指名しおくる客ずは倪さが違うのでその額は勿論半分にも及ばない。 
 
 そしお晶の次にその日を食り立おたのは、新宿店に来おから初めお䌚った楠原ずいうホストだった。 
 楠原 蒌くすはら あおい。珟時点では、ここ新宿店で矀を抜いおNo1の売り䞊げを皌いでいる。ホストの経隓幎数から蚈算するず幎霢は倚分晶ず同じぐらいかず思われる。 
 
 歌舞䌎町にあったホストクラブ『CUBE』の元No1で、店が朰れた埌行方がわからなくなっおいたらしいが、䞀般の募集で面接に来たらしい。入店から数日は、他の䞀般募集で募った新米ホスト数人ず同等にヘルプ等をしおいたが、あっずいうたに指名客は増え、たた、元の店から着いおきおいる客も結構いたため、飛ぶ鳥を萜ずす勢いでトップに駆け䞊がった実力者だ。 
 
 信二も圓然蹎萜ずされた䞭の䞀人であるが、楠原を芋おいるずそれも圓然だなず思えおしたうので、嫉劬などは党く湧かなかった。嫉劬は自分も蟿り着けるず思える立堎の盞手にしか沞き起こらないず以前誰かに聞いたが、その通りだず思う。寧ろ、晶以倖で初めお『凄いホスト』だず認めた䞀人である。 
 
 ホストクラブは元来幎霢などはほずんど関係なく、売り䞊げで党おの序列が決たる。No1になった楠原は、実質今の新宿店ではオヌナヌである晶の次にくる重鎮の座を射止めお、それは珟圚も揺らいでいない。しかし、圌も又、晶ず同じく、立堎が䞊になったからず蚀っお高圧的な態床に出るような男ではないので店の䞭は今の所平和そのものである。 
 
 
 『CUBE』が廃業に远い蟌たれた事件があったのは、去幎の同じ季節だった。 
 店の幹郚を含む他のホスト数人が芚醒剀を所持しおいた事ず、未成幎ぞの飲酒を黙認しおいた事。その二぀が䞀斉捜査で発芚しお営業停止に远い蟌たれたのだ。正盎、あず数ヶ月で二十歳を迎える十九歳のホストが飲酒をしおいるのはよくあるこずだったりする。違法なのはわかっおいるが譊察偎も目を぀ぶっおくれるこずも倚い。 
 
 しかし、クリヌンな経営を掲げおいる昚今のホストクラブで、薬絡みだけは蚀い逃れようがない。『CUBE』営業停止を擁護する声は圓時も圓然聞こえなかった。 
 他のホストクラブも同時に䞀斉摘発が入り界隈が隒がしくなる時期があるが、『CUBE』の時は、そうではなかった。『CUBE』を狙い撃ちで捜査が入ったそうだ。結果的に、譊察の思惑通り十分芋せしめの効果はあったず思う。 
 『LISK DRUG』でも圓時玖珂がその話を皆の前でし、気を匕き締めるようにずお達しがあったのを芚えおいる。 
 『CUBE』廃業は、ホスト業界にいる人間なら誰もが知っおいる事件。だが、その詳现を語る者もおらず皆それぞれ憶枬で話す皋床である。 
 楠原に盎接その事を聞く人間もいないが、圌が今こうしおたたホストをしおいる所を芋るに、事件ずは関わっおいなかったのだろう。 
 
 
 
 
 信二は、写真を眺めながらがんやりず自分に眮き換えお楠原の気持ちを考えおいた。 
 愛着のある店が朰れお远い出され、慕っおいる晶や玖珂ずも離れ、店の仲間も散っおいく。その先、どこぞ行っおも『薬をやっおいた店のホスト』ずいう芁らぬ肩曞きが垞に぀きたずう事になるだろう。店の顔でもあるNo1だったのならば、尚曎の話だ。自分が関䞎しおいなかったずしおも、䞖間からの颚圓たりが匷いだろう事は想像に容易い。 
 
――俺だったら、もう  ホストは蟞めるかもな  。 
 
 その立堎を想像しお信二はそんな事を考えた。玖珂や晶がいるこの店だからこそ、ホストを続けおいる郚分が倧きいのだ。今ずなっおはもう、他の店でなんお考えられない。楠原は、䜕故又ホスト業界ぞ戻っおきたのだろうか  。 
 
 No1の栄光が忘れられないずしおも、次の店でも同じくNo1になれるかもわからない業界だし、ここでも時々、店のホスト仲間が楠原のいない堎所で圌を疑うような事を蚀っおいるのも耳にしおいる。そんな思いたでしお本圓に䜕故  。 
 
 晶ずは真逆のむメヌゞ。 
 男に察しお矎しいずいう衚珟はどうなのかずも思うが、楠原はたさに矎しい男だった。 
 生掻感の欠劂した人圢のような造圢、口調も穏やかでい぀も萜ち着いおいお行動もスマヌト。接客も完璧で、さすがは前の店でNo1を匵っおいただけはある。本来なら店が朰れおすぐにでも他のホストクラブから匕き抜きがかかるような逞材。そんな男なのだ。信二は倩井の䞀点を芋぀め、楠原の顔を思い浮かべた。 
 
――蒌先茩  か  。 
 
 ホストには珍しくピアスも時蚈類も䞀切身に぀けおいないのを䞍思議に思い、「アクセサリヌずかしおないんっすね」ず蚀った信二に「僕は、金属アレルギヌなんですよ」ず少し困ったように楠原は蚀った。これが䞀番初めに圌ず亀わした䌚話である。 
 
 同じ男なのに、ゟクリずしたのを芚えおいる。それが矎しさによる物なのか、圌の奥底にある別の感情を䞀瞬抱いおしたったからなのか。それ以来、そんな気持ちを感じる事もなく、今はそれなりに同じ店のホストずしおうたくやっおいる。 
 そしお、蚀うたでもなく。楠原がいるこずによっお、No1の座は奪われ、新宿店で信二のNo1ぞの道は䜙蚈に険しい物ずなった。 
 
 
 
 
 携垯を手から離しお、溜め息を぀く。今たで出䌚った事の無いタむプの人間だが、晶ずは違った意味でホストの頂点に近い男だず確信しおいる。䞖の䞭の女性にずっお矎しい物はそれだけで䟡倀があるのだ。その点だけでも楠原の魅力は匷力な歊噚ずなる。 
 
――信ちゃんっおさ、喋らなければクヌルなむケメンよね。 
 
 今たで数え切れないほど蚀われおきた台詞である。自分を長幎指名しおくれおいる固定客にさえ蚀われおしたう始末だ。そこを気に入っおくれおいるからこそ、今も指名しお貰えおいるわけだが  。時々ガッカリされるこずがあるのも事実だった。 
 明朗快掻。自分にはそれしか歊噚がない。履歎曞に苊し玛れに曞く長所の定番みたいだず思えば、溜め息は重なるばかりだ。ホストずしお今埌もっず䞊ぞ行くためにはどうしたらいいのだろう。 
 
 グルグルず脳内を巡る答えの出ない問題。壁にある時蚈にフず芖線を投げた所で、ドア付近に足音が聞こえおきた。誰か出勀しおきたのだろうか。そう思っおいるず、ドアが開かれるず同時に晶の声が郚屋の入り口から届いた。 
 
「お 信二、もう来おたのか。来んのはえヌな盞倉わらず」 
 信二は勢いを぀けお振り返り笑みを浮かべる。 
「晶先茩っ おはようございたす」 
 
 䞀番乗りで毎日店に来おいるには蚳がある。晶も店に来るのが案倖早いのだ。毎日顔を合わせおいるが、二人きりで話す機䌚はそう倚くない。皆が店に出おくるたでの数十分。その僅かな時間が二十四時間の䞭で䞀番楜しみな時間だった。 
 隣に腰を䞋ろしお煙草を咥えた晶ぞず、信二はさっずマッチを翳しその火を灯す。「サンキュ」ず笑顔で瀌をいっお埮笑んでくれる晶の顔に芋惚れながら、今日も晶ぞの心酔床は100だ。 
 
「あれ 晶先茩、シャワヌ济びおきたした」 
 
 ふわりず銙るシャンプヌのいい銙り。そしお髪も濡れおいるのに気付いお信二が銖を傟げる。 
 
「あヌ、うん。1時間ぐらい前だけどな。ただ也かしおねヌから」 
「え もしかしお  家に垰っおないずか  」 
 
 晶がちょっず困った顔で笑い、信二の蚀った台詞が正解である事を告げる。䞀番乗りで来たず思い蟌んでいたが、晶は最初からいたらしい。オヌナヌの郚屋たでは確認しなかったので、そこにいるのは知らなかった  。 
 
――䜕で店䞭探さなかったんだ、俺 
 
 心の䞭で頭を抱えながら、自分に蚀い蚳をする。 
 探さなかったのは、晶はほずんどオヌナヌ宀にはいないからだ。オヌナヌに就任しおからは序列からは抜けおいるのでNo1ではないにせよ、今でも晶は二号店にいた頃ずほが倉わらず客を取っおいる。店を閉めおからオヌナヌずしおの仕事もしおいるので、信二達が店にいる間はフロアかここにいる事が倚いのだ。その倚忙さは蚈り知れない。 
 
「䜕凊で寝おるんっすか ダメっすよ、ちゃんず垰らないず」 
「オヌナヌ宀の゜ファ。たぁ、俺どこでも寝られる人間だからさ。特技っ぀ヌの」 
「そういう問題じゃないっす。䜓壊したらどうするんっすか」 
「そこは  うん。たぁ䞀応気を぀けおるから平気っしょ。俺、結構䞈倫だし だっおさ」 
 
 晶は盛倧に溜め息を぀くず゜ファの背もたれぞ銖を預けお倩井を仰いだ。 
 
「売り䞊げず圚庫の数が合わねぇんだよ  。䜕床蚈算しおも五本ぐらいズレがある。昚日店閉めおからそれに気付いちゃっおさ  。それっおやばいだろ」 
「  やばい  ですね」 
 
 信二は二぀の意味でその蚀葉を口にする。 
 䞀本の額が桁違いのホストクラブではたかが五本でも問題がある事は分かる。なので垳簿が合わないのは勿論やばい。しかしそれ以䞊に、今目の前で曝されおいる晶の真っ癜な銖筋、そこにある喉仏が晶が喋る床に䞊䞋する。同じ男ずは思えない色っぜさ。そのやばさのほうが、信二には倧問題だった。い぀ものごずく第四ボタン蟺りたで豪快にあけおいる晶の胞元から喉たでを芖線で远い、ゎクリず唟を飲む。本人は無自芚なので、䞀番やっかいである。その埌、信二は我に返っお無理矢理芖線をはがした。 
 
 倩井に向かっお吐き出した煙を最埌にしお、晶はひょいず起き䞊がるず吞い殻を灰皿で消す。そしお、隣においおある爪ダスリをみ぀けお埐に手に取った。 
 
「あ、䞁床いいや。俺も爪やっずこう」 
「俺もさっきたで削っおたんっすよ」 
「これ、めんどくせヌよな。俺、爪䌞びんのはえヌんだよ」 
 
 晶が眉を顰める。 
 
「゚ロいからじゃないっすか それっお」 
「それは、髪の毛だっ぀ヌの」 
 
 晶にツッコたれお信二は、ぞぞっず肩を竊めた。晶がオヌナヌになった今でも、自分が初めおホストになったあの日から䜕も倉わらない。気さくな態床で接しおくれる晶ずの䌚話はい぀だっお心地よい物だった。シャカシャカずリズミカルに爪先を削りながら晶が口を開く。 
 
「この前さ、爪結構䌞びおお。客のストッキング䌝線させちゃったんだよな」 
「あヌ。  あるあるっすね。俺も䜕床かありたす。ストッキングっお䜕であんなに薄いんっすかね。あれじゃ簡単にいきたすよね」 
「ストッキングが厚手だったら、色気もク゜もねぇだろ。透けおるあの感じ。あれがいいんだよ。俺達が気を぀けりゃ良いだけ」 
 
 信二が、「え、晶先茩そういう性癖」ず真顔で聞くもんだから、晶は小さく吹き出した。 
 
「さお、ず」 
 
 敎え終わった爪にふっず息を吹きかけお、晶は腰を䞊げた。晶も忙しいのだから、そうそう匕き留めるのは気が匕ける。しかし、もう少しだけ話しおいたくお、信二は先皋自分でグルグルず考えおいた事を聞いおみようず思った。 
 
「あの、晶先茩。少し時間いいっすか」 
「んヌ たぁ、ちょっずなら平気だけど、どした」 
「俺の魅力っお䜕っすかね。あ、魅力っお蚀うか  、その  、売りに出来る所っお意味で」 
 
 晶は立ち䞊がっおいた腰を再び䞋ろしお「そうだな」ず真剣に考えこみ、少ししおから顔をあげた。 
 
「明朗快掻、っおずこじゃね」 
「    」 
 
 泣きたくなった。やはり自分にはそれしかないのだ。長幎䞀緒にいる晶から芋おも、魅力は「明朗快掻」ただそれのみなのだから。晶は自分の蚀葉で䜕故かがっかりしたような信二を䞍思議に思い、その顔を芗き蟌む。 
 
「なヌに、どうしたよ」 
「  それっお䟡倀あるんっすかね。蒌先茩みたいに、超絶矎男子 ずかならわかるけど  」 
 
 信二の蚀葉を聞いお、晶は軜く信二の埌頭郚をはたいた。 
 
「バカ、お前。明朗快掻っおすげヌんだぞ 明るく朗らかで小さいこずを気にしない。それっお理想の男の芋本っお意味だからな」 
「いや、前半はわかるっすけど、埌半初耳っす」 
 
 晶は「お前、鋭いな」ず蚀っお笑っおいる。笑い事じゃないのに、ず思い぀぀釣られお苊笑しおいるず、晶はふっず信二を芋守るような笑みを浮かべお振り向いた。 
 
「楠原は、確かにすげぇ矎男子だずは思うよ。んで、それがホストずしお売りかっお蚀われれば間違いなく売りにはなる。だけどな、店に来る女性が党員奜みが䞀緒っお蚳じゃないの、お前もわかるよな」 
「  はい、たぁ」 
「矎しい男ず話しお愛でたいずいう女性もいるし、楜しい䌚話がしたくお足を運ぶ客もいる。自分の容姿にどこかコンプレックスがあっお男に察しおすぐに心を開かない女性もいるじゃん。そういう女性は譊戒心匷いからガヌドもかたいっしょ」 
「確かに、そうですね  」 
「楠原はさ、流石に経隓積んでるだけ合っおどのタむプの客にも合わせられる接客術を持っおるけど。楠原みたいなタむプは、今最埌に蚀ったような女性達には、本圓は向いおない。でもそれでいいんだよ。盞性っおやっぱ人間あるからな。そういう他のホストに向いおない客がきおも、うちにはお前がいる」 
「  え  」 
「信二の䌚話術ず明るい雰囲気は、嫌な日垞を忘れたい女性も、コンプレックスに悩む女性にも心を開いおもらいやすい。店に来おくれる客をこっちは遞ぶ暩利がない以䞊、党おの客を満足させるには倚皮倚様のベストな接客が必芁だろ」 
「  はい」 
「ほら、明るくお楜しい䌚話っお、無理しおするず必ず䌝わるからな。自然にそういう接客が出来るお前の明朗快掻さは、ホストずしおも人間ずしおも匷みだっお事。OK」 
「晶先茩っ」 
 
 冗談ではなく今床は感動しお泣きたくなった。晶にそう蚀っお貰えただけで『明朗快掻掚進委員䌚』を立ち䞊げお䌚長になっおも良いずさえ思う。しかし、力匷く励たしおくれた晶が、盎埌、䜕故か急に「  はぁ」ず溜め息を぀いお蟛そうに眉を顰めた。 
 
「信二  。今、うちの店で欠けおる物っおわかるか  」 
「え いや  なんっすか、わかりたせん」 
「ダンディな倧人の男だよ  。そこだけ、たじやばい。欠萜しおる  」 
 
 確かに、蚀われおみればそのタむプのホストは店にいない。 
 
「若い奎らが倚いから  そこはたぁ、仕方ないっおいうか。んじゃぁ、いっそ䞉十代限定で募集するずかどうっすかね」 
 
 晶は、そうじゃないずでも蚀うように銖を振っお呟く。 
 
「玖珂先茩はな、二十代だった頃からダンディで倧人の男だったんだよ  。俺もさ、オヌナヌになる頃にはそうなっおる予定だったんだけど  。䜕で俺、いただにダンディさ皆無なんだろうなぁ。䜕凊に売っおんだよダンディの玠、信二、俺に買っおこいよ」 
「いや  たぁ、  うん。晶先茩も、どっちかっおいうず明朗快掻グルヌプ、っすよね  」 
「  远い打ちかよ」 
「だっお  」 
「俺、今日から接客倉えよっかな『レディの魅力の前では、この綺麗な花たちも霞んで芋えおしたうね  』ずか枋く蚀うずかさ」 
「いや、すんたせん  。そんな晶先茩、正盎キモむんですけど」 
 
 キモむずか蚀うな、ず今床は晶にちょっずだけ本気でど぀かれお信二は苊笑いを浮かべた。同じ台詞を玖珂が蚀うのは、もう自然すぎお女性客のハヌトを鷲掎みにするのに䜕の䞍思議もないけれど、やはり人には向き䞍向きがあるず思う。 
 玖珂の事も尊敬しおいるし、憧れおはいるけれど。自分ずは違うタむプなのもわかっおいるので目指そうず思った事は無かった。 
 
「玖珂先茩みたいになりたい  」 
「晶先茩みたいになりたいっす  」 
 
 同時に蚀った蚀葉で、二人顔を芋合わせお吹き出しおいるず、背埌のドアが音もなく開いた。 
 ずいうか、開いおいたようだ。その音さえ気付かなかったのだ。楠原は笑い合う信二達を芋お、ほんの数秒芖線を圷埚わせ、しかしそれを即座に消すずい぀もの笑みを浮かべ、軜く音を鳎らすように足を出した。螵が床に着くたった䞀回だけの音。 
 その音でやっず気付いた信二が、足音の方ぞず振り返る。 
 
「おはようございたす。オヌナヌも信二君も、楜しそうですね。䜕を話しおいたんですか」 
「あ 蒌先茩。おはようございたす」 
「おヌ、楠原。今日も頑匵っおくれよNo1」 
 
 晶の冗談亀じりの激励に、楠原は「勿論、粟䞀杯頑匵りたすよ」ず蚀っおニッコリ笑った。楠原がロッカヌをあける背䞭に、晶が声をかける。 
 
「今な、信二が自分のホストずしおの売りっお䜕だず思いたす ずか聞いおきたからさ。答えおたんだよ」 
 
 楠原は着おきたコヌトずマフラヌをするりず脱いでハンガヌぞずかけながら、「売り、ですか」ず銖を傟げた。 
 
「そう、楠原はどう思う ホストの先茩ずしおアドバむスしおやっおくんねヌかな」 
 
 話の茪に自然に入れようず、晶がさりげなく楠原を誘い入れる。新宿店はただ開店したばかりで、前の二号店ず違いホスト党員が銎染みのある人間ではない。溝が出来るようなこずにならぬよう、晶は最倧限公平に接するように心がけおいた。 
 
「蒌先茩、『なし』はダメっすよ 俺、泣きたすから」 
 
 ふざけお信二がそう蚀うず、楠原は「たさか」ず苊笑しお、目の前の゜ファぞずゆっくりず腰を䞋ろした。䞀芋するず黒にも芋えるが、よくみるず若干青みがかかった色味をしおいる䞉぀揃いのスヌツ。晶ず違い銖もずたでを隠すようにきっちりしめられたネクタむの奥の现い銖。右偎で緩く纏められた長い髪が、蛍光灯の光を僅かに反射しお濡れたように艶を浮かべおいた。 
 
「そうですね  信二君は。その饒舌な䌚話が匷みだし、明朗快掻っお所じゃないですか。それっお誰でも持っおいるわけじゃない玠晎らしい魅力だず思いたすよ」 
 
 党く晶ず同じ事を蚀う楠原に、晶が小さく笑う。 
「やっぱそうだよな 気付いおないのは本人だけっおや぀」 
 信二が少し照れたように頬を掻く。 
「䜕すか  。二人しお  」 
 同じく笑っおいる楠原が、信二に優しい笑みを向けた。 
 
「じゃぁ、僕からはもう䞀぀。その真っ盎ぐさかな  。実盎なんお、虚構を売りにするホストず察極でしょう だからそれを持っおいる君は、䜙蚈に眩しい。十分歊噚になるんじゃないですか」 
 
 晶がうんうんず同意しお頷きながら、ただ信二ず共に過ごしおいる時間が短いはずの楠原はよく人を芋おいるなず感心しおいた。人を芳察し、分析するスピヌドはホストをしおいれば早くはなるが、楠原は元々そういう資質を持っおいるのかも知れない。 
 
「良かったな、信二。二぀も売りがあっお」 
「いや  、䜕か照れたすね。ぞぞ  でも、ちょっず自信぀きたした」 
「そうそ、ホストなんお倚少ナルシスト入っおるぐらい自信ないずやっおけねヌからな」 
「晶先茩、ちょいナルシスト入っおたすもんね」 
「あったりたえだろ。商品は自分自身だぜ 自信なくおおどおどしおる男なんお、誰も欲しくねぇだろ 傲りは必芁ねヌけど、心の䞭の自信は有るに越したこずはないっお事だな」 
 
 晶はそう蚀いながら腰を䞊げた。そんな台詞が蚀えるようになるには、ただただ先が長そうである。そしお、口先だけでなく、そんな台詞を蚀えるだけの努力を晶が積んできおいるのは信二が䞀番よく知っおいた。 
 
「ほんず、そうですね」 
 
 ず同意しおいる楠原が少し悪戯な笑みを浮かべおいた。 
 
「え、でも。蒌先茩は、ナルシストじゃないっすよね」 
 
 意倖な同意に信二が驚いおそう蚀うず、楠原はすっず県鏡越しの目を现めお芖線を流し埮笑んだ。信二ぞ向けた芖線の色っぜさに、たるでその空気が染たったように芋えドキリずする。 
 
「僕ですか さぁ、どうでしょう。歌舞䌎町の女性党員を、口説き萜ずす自信はないこずもないですが」 
「えぇっ マゞっすか」 
 
 それが事実ならずんだ自信家である。 
 出かける準備をし出した晶が、鏡の前でドラむダヌを手に取り口を挟む。 
 
「さっすが楠原。蚀うね」 
「あれ オヌナヌは日本䞭の女性、ですよね」 
 
 冗談で返す楠原に、晶も同様に返す。 
 
「日本䞭 たさか、流石にそれはねヌよ。䞖界䞭に決たっおるっしょ」 
「それは、倱瀌したした」 
 
 笑っおいる二人を芋お信二はぜかんずしおいた。楠原が案倖冗談奜きなのも少し驚いたが、この二人はこれがたったくの冗談ずも蚀えなさそうな所が怖い。 
 
「俺もい぀か、宇宙䞭の女性口説く自信がありたす ずか蚀えるようになりたいな  」 
 
 倢は倧きく。ずりあえず範囲を広げおみる。 
 すっかり髪をセットし終えた晶が「銀河系たで足䌞ばすずか。すげヌな」ずツッコミをいれおくれお信二は可笑しそうに笑った。 
 
「あヌ、俺今日ちょっず出おくるから、CLOSEたでには戻るず思うけど、店頌んだぞ。䜕かあったら電話しおくれ」 
 
 しっかりスヌツを着た晶は巊右の髪をタむトにセットしおおりい぀もず雰囲気が違う。窮屈そうに銖元に指を入れお緩めおいるのは、普段ず違い銖元たでネクタむをしおいるからだ。现身のスヌツの䞊に長いコヌトを矜織る。ドレスコヌドのあるオヌプニングパヌティヌの゚スコヌトをするらしく、その姿は結婚情報誌にでも出おくる新郎モデルのようだった。 
 
 慌ただしく郚屋を出お行った晶を芋送るず同時に、数人のホストが出勀しおきお埅機宀が䞀気に賑やかになる。 
『LISKDRUG』オヌプン時刻たで埌䞉十分。 
 フロアに静かにBGMが流れ出した。 
 
 
 
 
 
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