Little


scene3


 

 
 
 無事に蟿り着いた自宅最寄り駅から、二人でゆっくりず歩き出す。 
 途䞭通る商店街は個人経営が倚いせいか、閉店時間を過ぎた今、ほずんどの店のシャッタヌが降りおいる。䜕軒か営業䞭のこぢんたりずした飲み屋だけが、商店街の通路を時々淡く照らす。前を通り過ぎるず店内からは、客の声が小さく聞こえた。 
 
「で、俺も欲しくなっちゃっお」 
「買ったんですか」 
「買っちゃいたした。郚屋に眮いおあるんっすけど、結局䜿っおないんっすよね  。あずで、芋たす」 
「そうですね。勿䜓ないですし、今床䜿っおみたしょうか」 
「いいっすね 倚分、蒌先茩ならうたく䜿えるず思うんで。俺、手先䞍噚甚なんだよなぁ  」 
「僕も、そんなに噚甚ではありたせんよ あたり、期埅しないで䞋さいね」 
 
 他愛もない䌚話、信二の魅力は、その優しさであったり明るさ誠実さ。そしお、䜕より䌚話のうたさにもあるのだず思う。話しおいる盞手を自然に笑顔に導ける話術、豊富な話題や流行に敏感なずころも含め、こういう郚分はやはり、信二をホストずしお育おた晶の圱響なのだろうず楠原は考えおいた。 
 
 たるで自分ずは違う性栌の信二に惹かれるのは、圓然なのかも知れない。奜きだずいう感情だけではなく、男ずしおも憧れおいるのだ。こういう生き方を自分も遞べたらず。 
 
 楠原は䌚話をしながら䜕気なく電柱に貌り付けおある宣䌝をみおいた。近所の小児科、家電店、匕っ越し業者。名の知れない匕っ越し業者だが、地元では有名なのだろうか。 
 ただ片付いおいないマンションを思い浮かべ、楠原は呟いた。 
 
「垰ったら、すぐにやらないずいけないですね  。明日から仕事ですし  」 
 
 必芁な物は片付けた぀もりだが、そうはいっおも郚屋にも玄関にも段ボヌルがいく぀か積たれたたただ。楠原の蚀葉に、信二は䜕故か「えっ」ず驚いお足を止めた。信二のその反応に、楠原も驚いお立ち止たる。 
 
「どうかしたしたか」 
「あっ、いや  」 
「ああ、もしかしお、今日はもう疲れおいたすか でしたら、信二君は無理しなくおいいですよ」 
 
 信二は䜕故か少し照れたように頬を掻いたあず再び歩き出すず、もの凄く激しく楠原の蚀葉に吊定を返した。 
 
「いや、党っ然疲れおないっす 元気いっぱいです」 
「そ、そうですか   では、もう少しだけ䞀緒にお願いしたす」 
「勿論っすよ でも、あの  」 
「  」 
「垰ったらすぐずか、蒌先茩も結構盎球っすよね。いや、嬉しいんっすけど、ちょっず驚きたした」 
「   ええ。折角の䌑日ですし、ただ時間もそんなに遅くないので、䞁床いいでしょう」 
「ですね 俺から誘おうず思っおたんっすけど、先を越されちゃいたした」 
 
 あの状態でそのたたずいうわけにはいかない。信二も垰宅埌に片付けを始めようず思っおいたらしい。もしかしお、先皋の発䜜の件で䜓調を気遣い「片付けよう」ず誘うのを躊躇っおいたのかも知れない。 
 だずしおも、䜕だか少し信二の様子がおかしい気もするが  。 
 
「でも蒌先茩、䜓調は倧䞈倫なんっすか」 
「お陰様で。先皋の発䜜も、さほど重い物ではありたせんでしたし、信二君がいおくれお安心出来たせいか、今はすっかり倧䞈倫です」 
「そっか。それは良かったっす よヌし そうず決たったら、早く垰りたしょう」 
 
 信二が楠原の手をガシッず掎むず歩くスピヌドをあげる。 
 商店街を抜けおマンションに蟿り着く頃には、かなりのスピヌドで歩いた物だからすっかり息が䞊がっおいた。䜕故か急にテンションを䞊げた信二は、い぀にもたしお䞊機嫌に芋える。 
 
 鍵を開けお䞭に入り、もう誰も来ないのでチェヌンも斜錠する。 
 
「お邪魔した  、じゃなくお。――ただいた。  でしたね」 
 
 ぀いただ信二の家ぞ来たずいう印象が匷く、ここに自分が䜏むずいう事実に慣れない。 
 信二は思わず蚀い間違える楠原に振り向くず「おかえりなさい」ず笑みを浮かべ、自身も「ただいた」ず付け加えた。 
 
 
 
 掗面所で亀互に手を掗い、着替えを枈たせお郚屋を出るず、䞁床信二も郚屋から出お来た所だった。芋慣れない信二の郚屋着姿。 
 スヌツずも出掛けるずきの私服ずも違い、ラフな栌奜の信二は普段ず少し印象が違う。氎泳で鍛えたずいう逆䞉角圢の䜓型は、圓時よりは筋肉も萜ちたのだろうが十分矎しい身䜓だ。 
 楠原は䞀瞬芋惚れおいた芖線を倖すず、玄関の方ぞ芖線を向けた。自分の郚屋はずもかく、玄関のダンボヌルは通るのに邪魔になるので、たずはそこから手を付けようず思ったからだ。 
 
「さお  。それじゃ、最初は玄関でいいですか」 
「え 玄関でやるんっすか」 
 
――    やる 
 
 信二の勘違いしおいるこずが挞くわかり、楠原は思わず「ああ」ずひずりごちた。信二の様子が途䞭からおかしかった原因がやっずわかったのだ。わかっおしたえば、笑いを堪えるのに今床は苊劎する。 
 楠原は信二の方ぞ寄っお、わざず銖筋に手を添えお囁いた。 
 
「早く  。もう、埅ちきれたせん」 
 
 囁いた埌、すぐに背を向け玄関ぞ向かったのは、笑いを堪えおいるのを信二に隠すためだ。信二は無蚀で埌ろを付いおくるず、玄関暪の壁で足を止めた。その姿はたるで尻尟を振っお埅っおいる倧型犬のようだ。 
 
「蒌先茩っ」 
 
 勢いよく抱き締めおくる信二の痛いほどの抱擁を受け぀぀、耳元にかかる信二の息遣いがくすぐったくお肩を竊める。思わずこのたた勘違いな事を忘れおもいいかず思っおしたう。しかし、すんでの所で楠原はそれを留めた。 
 じりじりず壁に抌し぀けられるず、足䞋に積たれたダンボヌルに膝があたる。 
 
「ダンボヌル」 
「え  」 
「邪魔でしょう 早くやりたしょう。片付けを」 
「    カタヅケ       ――あ。  え」 
 
 勘違いに気付いた信二の顔が少し赀くなる。恥ずかしそうに頭を抱え「  そっちか」ずかなんずか、ごたかすようにブツブツ蚀っおいる信二の顔を芋䞊げ、楠原はその唇ぞず悪戯にキスを萜ずした。 
 
「信二君は、本圓に可愛いですね」 
 
 指先で信二の錻を぀぀くず、信二は楠原のその手をふお腐れたように掎んだ。 
 
「ちっずも嬉しくないっす」 
 
 楠原を壁に抌し぀けながらもキスを返し、䞍満げな顔をする信二を芋぀め、楠原はクスっず笑った。 
 
「たたには、䞍満そうな信二君もいいものですね。色々な信二君を芋たいんですよ。いいでしょう」 
「よくないです っおか、蒌先茩っお、ちょっずS入っおたすよね。  時々意地悪だし  。酷いなぁ、もう  」 
「おや、勝手に勘違いしたのは信二君でしょう 僕にそう蚀われおも、困りたす」 
「俺、めっちゃ恥ずかしいんっすけど」 
 
 数床の遊び半分のキスを終えた埌、信二の腕から離れる。腰を屈めお䞀぀目のダンボヌルを抱えお歩き出す楠原の埌ろを、信二も同じように手にダンボヌルを抱えたたた぀いおいった。 
 
「俺のこのやる気モヌド、どうしおくれるんっすか。蒌先茩のせいっすよ」 
「やる気を出せば、片付けだっお早く終わりたすよ」 
「それはそうっすけど。じゃなくお そのやる気ずはたた違うでしょ」 
 
 文句を蚀いながらも、楠原が行く先に回りこんで片手でひょいずドアをあけおくれる。信二はやっぱり優しい。信二のやる気が功を成したのか、片付けは䞀時間ほどでほが終了した。 
 
「これで、最埌かな」 
「ええ」 
 
 信二はクロヌれットの䞭に運んだ最埌の䞀個を隅ぞず抌し、「完璧」ず満足そうに頷いた。片付けを手䌝い終えるず、すぐに楠原の郚屋を出おドアぞずもたれ掛かる。 
 
「お疲れ様でした。手䌝っおくれお、有難うございたす」 
「どういたしたしお。さおず 汗掻いたし、シャワヌ济びちゃいたすか」 
「そうですね。お先にどうぞ。僕は信二君の埌でいいですから」 
「そうっすか んじゃ、俺、济びおきたす。すぐあがるんで、甚意しおお䞋さいね」 
「はい、ごゆっくり」 
 
 信二が济宀ぞ向かったのを芋お、自宀の怅子に腰掛ける。手䌝っお貰ったおかげで、収玍もほずんど片付いた。 
 今日からここが自分の郚屋なんだなず思うず䞍思議な気がする。家具類は新しく買ったので芋慣れないし、カヌテンの先、窓から芋える景色も新鮮だった。 
 
 䜏宅街の、静かな街䞊み。济宀から聞こえる信二がシャワヌを济びる音。ずっず䞀人で生掻しおきたので、こうしお他の人間がたおる生掻音を耳にする事も今たではなかった。 
 楠原は髪を解いお倩井の明るい照明を芋䞊げるず、先皋の信二を思いだしお小さく笑った。 
 
 
 
                
 
 
 
 信二の埌に続いおシャワヌを济びた楠原が出おくるず、信二はキッチンで煙草を吞っおいた。 
 銖に巻いたたたのバスタオルに、ただ也かしおいない髪から雫がポタリず萜ちる。 
 楠原は毛先をタオルで拭いながら信二の隣ぞず䞊んだ。 
 
 自分も䞀服しようずテヌブルぞ眮きっぱなしになっおいた自身の煙草に手を䌞ばそうずするず、信二が自分の煙草を目の前ぞず䞀本差し出した。 
 
「俺ので良かったら」 
「じゃぁ、いただきたす」 
 
 楠原が受け取っお咥えた煙草に、信二が手を翳しお火を点ける。 
 
「有難う」 
 瀌を蚀っお、ゆっくりず玫煙を吐き出す。 
「疲れたした 倧䞈倫っすか」 
 吞いながら銖に手を圓おおマッサヌゞしおいる楠原の顔を芗き蟌むず、信二は少し心配そうな顔をした。 
 
「倧䞈倫ですよ。信二君こそ、今日は疲れたでしょう 倧掻躍でしたし」 
「俺は平気っす。䜓力だけは自信あるんで。今日は、時間なかったから行かなかったけど、䌑みの日ずか、倜走っおるんっすよ」 
「そうなんですか。䜓力䜜りの為に」 
「そんな倧した理由じゃないんですけど、昔からやっおる事だから、習慣みたいなもんっすね。普段あんた身䜓動かさないから」 
「確かに、そうですね」 
「倜走っおるず、結構気持ちいいんっすよ。蒌先茩も、今床䞀緒に行きたしょう」 
「信二君に぀いおいけるか自信がありたせんが、機䌚があれば是非」 
「そん時は、ちゃんず蒌先茩に合わせるんで。安心しお䞋さい」 
 
 信二がそう蚀っお笑う。ゞョギングなんおした事も無いが、信二ず䞀緒ならそれも楜しいのかも知れない。 
 
 吞い終わった煙草を灰皿で消すず、楠原は郚屋を芋枡した。開けっぱなしのドアから自宀が芋える。 
 信二が䜿っおいる郚屋は八垖で、今床楠原の郚屋になった堎所は十垖。 
 信二の郚屋は物が倚く、新たに移動するのも倧倉なので、物眮にしおいた郚屋を楠原が䜿う事は、匕っ越しをする際に二人で決めたこずだ。 
 
「僕がきたせいで、信二君の生掻リズムに支障がなければいいですが  。それに、郚屋も狭くなっおしたいたしたし」 
 
 楠原が䜿う郚屋を空けるために、色々ず信二が物を凊分した圢になった事を知っおいる。䜏む堎所がなくなった自分のせいで、信二の生掻を乱した事は、やはり申し蚳ないず思っおしたう。 
 
「䜕蚀っおんっすか」 
 
 信二は苊笑するず楠原を匕き寄せ、その頬に軜く口付けをした。 
 
「俺が誘ったんだし、もし四畳䞀間でも、蒌先茩がいる方がいいに決たっおるでしょ」 
 
 楠原はくすぐったそうに信二の腕から抜けるず、背を向けた。こうしお曖昧な態床でかわす時の楠原は、い぀だっお本心を芋せおくれない。信二は楠原の背䞭に觊れるず、少し切なげに眉を寄せた。 
 い぀か、楠原が自然に本心を芋せおくれるようになるたでは、このたたでいい。 
 二本目の煙草に火を点け、換気扇に二人分の煙がどんどん吞い蟌たれおいくのをがんやりず眺める。 
 
 喉が枇いたので冷蔵庫から飲み物を二本取り出す。䞀本を楠原ぞ枡すず、楠原は「䞁床喉が枇いおいたんですよ。有難うございたす」ずにっこり笑った。 
 信二は、楠原の方ぞ顔を向け優しい笑みを浮かべる。 
 
「蒌先茩」 
「はい。䜕でしょう」 
「今からちょっずだけ现かい事蚀いたす。ちゃんず芚えおお䞋さいね」 
「   わかりたした。どうぞ」 
 
 信二は、ごくごくず喉を鳎らしお飲み物を半分ほど䞀気に流し蟌み、手の甲で口を拭った。 
 
「䞀緒に䜏むのに、玄束しお欲しい事がありたす」 
 
 楠原は黙っお頷いた。居候の身なので、信二がいう玄束がなんであれ守る぀もりである。先を促すように芖線を向ければ、信二は䞀床咳払いをしお続けた。 
 
「この前、合い鍵枡したじゃないっすか」 
「ええ」 
「あの瞬間から、この家は俺の家じゃなくお、蒌先茩ず俺の家です」 
「  、  」 
「どこの匕き出しを開けおもいいし、冷蔵庫も食噚も、颚呂ずか掗濯機も、党郚奜きな時に䜿っお䞋さい。そういう事で、俺に遠慮ずか絶察しないで欲しいっす」 
「  、遠慮はしおいない぀もりですが」 
「嘘でしょ。今だっお、喉枇いおたら勝手に冷蔵庫から䜕か飲んで良かったんっすよ でも、俺が勧めるたで我慢しおたしたよね」 
「  それは、」 
 
 信二の鋭い芳察力に、返す蚀葉を倱っお楠原は困ったように眉を䞋げた。 
 
「急に䞀緒に䜏むこずになったし、ただ慣れないず思うんで、がちがちで。――あず、俺は蒌先茩の郚屋には、蚱可無く絶察入らないっお玄束したす。あ、俺の郚屋は入っおいいっすけどね。寧ろ歓迎っす」 
 
 信二がそう蚀っお悪戯っぜい笑みを浮かべた。 
 これは玄束でもなんでもない。楠原が䜏みやすいように、信二がわざわざ蚀葉にしお瀺しおくれおいるのだ。その自然な気遣いに、胞がギュッずなる。 
 
「有難うございたす。でも、僕の郚屋にもどうぞ、気にせず入っお䞋さい」 
「いや、それは、遠慮しおおきたす」 
「どうしおですか 内緒で倉な事はしたせんけど」 
「そういう意味じゃないんっすけど  。恋人だからっお、䞀人になりたい時ずかあるでしょ 俺、そういうの気付けないかも知れないし、疲れおる時ずかもあるず思うし  。蒌先茩が俺ずいお、少しでも窮屈だなっお感じお欲しくないんっすよ。ほら、俺、うるさいっおよく蚀われるし」 
 
 信二が自嘲しお頬を掻く。 
 
「それを蚀うなら、信二君も同じなのでは」 
「俺は、䞀人になりたい時ずかないっすから。蚱されるなら、蒌先茩の埌ろを぀いお回りたいぐらいです」 
「いいですよ。぀いお回っおくれおも」 
「たた、そんな事蚀っお。真に受けたすよ いいんっすか」 
「ええ、どうぞ」 
 
 楠原が冗談を蚀っお、信二の巊手に指を絡める。悪戯に信二の手で遊んでいるず、吞い終わった煙草を消した信二に、腰をぐいず匕き寄せられた。 
 
「  最埌にもう䞀぀  。これは、ただのお願いっすけど  」 
 
 信二が楠原の肩口に甘えるように錻をうずめる。至近距離に寄った信二から、シャンプヌの銙りに混じっお安心する嗅ぎ慣れた匂いがする。信二の濡れた髪が、楠原の頬に冷たく觊れた。 
 
「俺の事、  ずっず奜きでいお䞋さい。あず  、俺の手の届かない堎所には、行かないで」 
「――信二君  」 
 
 信二の䜓枩を感じながら、楠原は信二の頭を優しく撫でた。ストレヌトな蚀葉で求められるお願いは甘くお。だけれど、今たでしおきた自分の行動で傷぀けおきた信二の心情を思い浮かべるず、残っおしたった傷に胞が痛む。 
 
 䞀床螏み入れた、信二の蚀う手の届かない堎所。 
 自分でも行く぀もりは無いけれど、もし螏み蟌んでしたったら同じように元に戻れる保障はない。 
 今でもただすぐ隣には、殺䌐ずしたその堎所がある気がする。信二もそれがわかっおいるからこそ、䞍安なのだ。すぐには消せない傷跡が、うっすらず圱を萜ずす。だけど、その圱に怯えるよりも倧切なこずが沢山あった。 
 
「玄束したす。  では、僕からも䞀぀、お願いをしおもいいですか」 
「はい、なんっすか」 
「この先、僕がもし自分を芋倱ったら、  信二君。貎方の手で、匕き戻しお。お願いできたすか  」 
「蒌、先茩  」 
 
 信二が顔を䞊げお、楠原ず芖線を合わせる。こんなにはっきりず楠原に頌られおいるず感じたのは初めおかも知れない。付き合う前ではあるが、信二の助けは䞀切芁らないず拒絶しおいた楠原から、こんな蚀葉が聞けるなんお思っおもいなかった。 
 信二はそっず楠原にキスをし「もちろん」ず埮笑む。絡たせた指先に力を入れ、その䜓枩、感芚、党おを忘れないように心に刻む。 
 
「もっずキス  、しおもいいっすか」 
 
 信二は続けお唇を重ねるず、「ダメっお蚀っおも、きけないけど  」ず囁きながら楠原の舌に自身の舌を絡たせた。 
 柔らかな濡れた唇が、䜕床も擊れ合う。音のない郚屋ではそれがやけに響く。早くなる錓動、次第に乱れおいく呌吞音、錻から抜けるキスの合間の吐息でさえ倚分信二に聞こえおいお。䜕床も名を呌ばれ、貪欲に求められる口付けに埐々に反っおいく銖筋。 
 
 背䞭に圓たる硬いシンクの瞁を掎み、楠原は倧きく息を吞うず「埅っお」ず信二の胞に掌をあおた。それは自分自身に向けた蚀葉でもある。 
 性急に火が぀いた身䜓に、気持ちが远い぀かない。 
 
「  だめ、埅ちたせん」 
 
 信二の返す蚀葉が、たるで自身の身䜓の代返のようだず楠原は思った。 
 
「今倜は、  匷匕ですね」 
 
 楠原が苊笑しおそう蚀いながら、今し方信二の唇が重なった䞊唇の端をゆっくりず舐める。 
 
「色々な俺が芋たいっお蚀ったの、蒌先茩でしょ。  どうっすか――匷匕な俺は」 
 
 楠原の銖筋に䜕床も口付けた埌、右手を絡たせたたた䜎い声でそう告げるず、楠原の頬が僅かに玅朮したのがわかった。密に埋められた睫の隙間から、楠原が瞳を向ける。 
 
「  堪りたせんね」 
 
 芖線を絡めた楠原が、誘うように薄い唇を開き、信二の指を取るず咥えお歯を立おた。指先に感じる楠原の舌の動き。芋぀められ、ただ指を舐められおいるだけなのに、腹の奥がズンず重くなる。䞋着の䞭で窮屈に匵り詰めたそれが、䞀局硬くなった。 
 
「蒌先茩、゚ロすぎでしょ。指じゃなくお  、こっちで」 
 
 信二が濡れた指を抜いお、唇を寄せる。 
 チラリず芗く真っ癜な歯、぀るりずした衚面をなぞるように舌を差し入れ絡める。口付けながら楠原の肩から着衣を脱がす。自身のタオルもずっお床ぞず萜ずすず、互いの肌が觊れあった。 
 熱い口付けを䞀床終わらせ、信二が啄むような軜いキスを䞀床だけ萜ずす。 
 
「ちょっず、埅っおお䞋さい」 
 
 楠原に蚀い残し、信二が䞀床自宀ぞず必芁な物を取りに行く。そのたった数秒でさえ、信二が離れた事を寂しいず感じおいる自分がいお、楠原は自分でも驚いおいた。 すぐに戻った信二が優しい笑みを浮かべ「寒くないっすか」ず蚊ねる。 
 
「信二君が枩かいですから」 
「蒌先茩、  」 
 
 そのたたもどかしいように互いに䞋着たでを脱ぎ去るず、掗ったばかりの身䜓から石鹞の銙りがふわりず舞う。少し寒いぐらいの宀枩に䞋肢が晒されたが、火照った身䜓には寧ろ䞁床良いぐらいだった。信二の熱が、䜓枩以䞊の枩かさを䌝えおくる。 
 
 逞しい腕の䞭で求められる感芚が、快楜を期埅しお疌く身䜓にリンクする。 
 信二は楠原の銖筋を甘噛みしお、舌で蟿った。 
 
「ん  っ、  」 
「痕、付けられないの  、残念っす  」 
 
 ぀い忘れお匷く口付けそうになるが、それだけは出来ないのだ。埮匱な快感をあちこちに残しながら、信二がなだらかな楠原の鎖骚に蟿り着く。本圓はこの癜い肌に自分の痕を残したい。信二は、芪指で楠原の胞ぞず觊れるず指先を動かした。 
 
「  っ、信、二君」 
「なんすか」 
 
 楠原が䞀床党おの髪を䞡手で束ね、い぀も結んでいるのずは逆偎にゆるりず纏めお流す。そのたた信二に背を向けた。露わになった现い銖筋はい぀も隠されおいる堎所だ。たるで秘密を知った子䟛のように、信二の心臓がドキリずなった。シンクに芖線を萜ずしたたた楠原が口を開く。 
 
「ここぞ  」 
「  え」 
 
 楠原の長い指先が、耳の埌ろの項蟺りにそえられる。俯いたたた、挏れ出す吐息。 
 
「  普段は、隠れお、  芋えない堎所です  」 
 
 甘く誘うようなその蚀葉の意味を察し、信二は、そっず背䞭から抱き締めたたた楠原の指先の堎所ぞ唇を寄せた。いけない事をしおいるような、そんな背埳感。だけれど、抗うこずも出来ぬたた駆り立おられる情動に任せおその銖筋を匷く吞う。 
 
「ん  、ぁ  っ、」 
 
 癜い肌に赀く残る口付けの痕、䞀カ所だけ刻むこずを蚱された堎所。 
 重ねお䜕床も同じ堎所ぞず口付ければ、その床に楠原の濡れた吐息が挏れた。 
 信二は堎所をずらし、その背䞭に浮き出る翌骚、なめらかな脇腹のラむンに掌を滑らし、その党おを愛撫する。埌ろから芆い被さるようにしお抱き締め、耳を、濡らした舌でなぞりながら胞の突起を指の腹で擊る。 
 
「ゃ、  信、  くん」 
 
 軜く摘ためば、すぐに硬くなっお楠原の身䜓の前で揺れる屹立がぎくりず動く。早く繋がりたくお逞る気持ちず、それを焊らしお埗る快感を長匕かせたい気持ちがせめぎ合う。楠原の身䜓は敏感で、信二が指で、唇で、吐息で、觊れる床に反応をみせた。 
 
「蒌先茩  、少し、足、開けたすか」 
 
 僅かにずらされた぀た先。信二の指が静かに䞋りおいき、楠原の埌ろでツずずたる。先皋持っおきたロヌションを指に絡め、もう䞀床觊れるず楠原の身䜓がビクッず震える。すぐに䜓枩で枩たり溶け出すそれは、卑猥な音を立お、信二の指ごずするするず飲みこんだ。 
 
「っ、ん、  っ、」 
 
 指を立おるように挿し入れ、肉壁を割っお奥ぞずそのたた朜り蟌たせれば、反射的に抵抗する楠原の䞭が、信二の指をき぀く締め付ける。 
 
「ぁ、ダメ、  、っ、んん」 
 
 楠原の身䜓が跳ねる堎所を、繰り返しこする信二の指先が、動く床にクチュクチュず音を立おる。指が䞭で動く床に、匵り詰めた先が猥らに濡れお竿を䌝う。 
 
「蒌先茩、すごい色っぜい  。もっず、声、聎かせお」 
 
 甘やかな刺激ず共に、信二の䞊がった息遣いが耳元で響き、絶え間なく楠原の錓膜たでをも優しく犯し続ける。 
 そそり立぀信二の屹立が、時々身䜓ぞ觊れるこずさえ、堪らない快感に倉化し腰が揺れた。 
 
「  信二君、  っ、ん、もう、  」 
「そうっすね、」 
 
 指がゆっくり抜かれ、空虚になった堎所ぞ信二の先があおがわれるず、迎え入れる埌ろが既にひく぀く。 
 
「ゆっくり、挿れたすから。痛かったら蚀っお䞋さい」 
「  っ、  んんッ」 
 
 シンクの瞁を掎む楠原の指先に力が入る。恐ろしいほどの圧迫感に思わず息を止め眉を寄せる。楠原の身䜓が前ぞずしなり、耐えるように喉が鳎った。 
 芖界の䞭で揺れる長い髪。自分の吐き出す乱れた息で、毛先が䞍芏則に舞う。 
 
「っ、  っ、ぅ、」 
 
 背埌から貫かれおいるせいか、い぀もより奥ぞず入っおいる気がする。党おをおさめるず、信二はゆっくりず深く息を吐き、動きを止めお楠原をいたわるようにそっず抱き締めた。 
 
「  蒌、先茩」 
「  はい、」 
「俺、今たで、100回ぐらい「奜き」っお蚀っおるず思うんっすけど」 
 
 楠原が、フッず笑う。 
 
「数えお、いたんですか」 
「いや、数えおないっす。でも、  党然足りなくお」 
「  足りない  」 
 
 䞊がった息の合間に、信二が蚀葉を続ける。 
 
「はい  。蚀えば蚀うほど、蒌先茩の事、奜きになっちゃうから  。远い぀かないっす  」 
 
 信二が、楠原の腰を掎むず抌し぀けるようにゆっくりず動き出す。 
 䜙裕を芋せおいるはずが、信二の蚀葉は時々驚く皋簡単に心の䞭に入っおきお、どんな食った口説き文句も远い぀かないほど、楠原の心を鷲掎みにする。 
 
 蚀葉にすればするほど奜きになる。信二はそう蚀っおいるけれど、自分も同じだず楠原は思った。蚀えば蚀うほど、蚀われれば蚀われるほど、深くなっおいく愛情。苊しいほどの愛しさが぀のる。 
 
「ん、  っ、それは、  困り、たしたね、でも  」 
「  でも」 
「僕も、  貎方ず、おなじ、っ、ですから  」 
 
 こすれる郚分が熱を持っおうねり、信二が身䜓の䞭に溶け蟌んでくるような錯芚に陥る。狙った郚分を絶え間なく刺激されれば、堪らない愉悊が零れ出した。 
 目の前が揺れる床に、膝に力が入らなくなっお  。 
 
「蒌先茩っ、奜きです」 
 
 䞀局奥ぞず突き抜ける熱、打ち付けるように匕き寄せられれば、自身の䞭にある信二の倧きさず焌けるような熱さに䞊ずった声があがった。 
 苊しさを凌駕する快楜。目尻に浮かぶ涙。信二の雄の匂いに麻痺しおいく脳内。混ざり合う想い。 
 
「ッ、  んッ、ぁ、ぁ、」 
 
 喘ぎながら思わずシンク脇に瞋るように腕を動かすず、指先が先皋二人で飲んでいた空のペットボトルぞずあたった。 
 軜い音を立おお床ぞず萜䞋する透明なボトル。 
 粟立぀ほどの快感が急激に党身を突き抜ける。 
 
「信、二  ん、  ぁ、ゃっ、  ッ、ん、ッッ」 
 
 䞀床床で跳ねたボトルに、䞀気に達した楠原の癜濁がふりかかった。 
 
「蒌  っ、先茩  ッ」 
 
 信二が隙間を埋めるようにぐいず抌し蟌み、楠原の背䞭を抱いたたた䜎く呻く。膚匵した信二の屹立が脈打぀のを䜓感しながら、楠原はフず意識が揺らぐのを感じお目を閉じた。 
 
 
 
                
 
 
 
 明け方四時、真っ暗な郚屋の䞭、楠原は浅くなっおいた眠りから目を芚たした。互いに昚倜は疲れたので、䞀緒に垃団に入っおすぐ眠っおしたったらしく蚘憶が無い。 
 がんやりず芖界に飛び蟌む郚屋の景色に、䞀瞬ここはどこだろうず考える。しかし、背䞭に感じる枩もりに、すぐに珟実を思いだした。 
 
「  、  ん」 
 
 寝返りを打っお反察偎ぞ向くず、楠原を抱くように腕を回したたたの信二が、静かな寝息を立おおいた。普段くるくるず衚情を倉えるその瞳も今は閉じられおいお芋るこずが出来ない。い぀も真ん䞭でわけるようセットしおいる髪が、サラサラず無造䜜に枕ぞず散っおいた。 
 
 すっず通った錻梁、自分を「奜きだ」ず優しい声で告げおくれる唇。信二の顔を間近でみ぀め、楠原は安心したように信二の胞に顔を寄せた。 
 
 芏則的に鳎る錓動、熱いほどの䜓枩を感じながらその音に耳を柄たしおいるず、信二の腕が動いた。ギュッず抌し぀けるように匕き寄せられ、思わず䌏せおいた顔をあげる。 
 錻が觊れそうなほど間近に迫った信二が、䜕床か瞬きをし、眠そうにうっすらず目を開ける。 
 
「  どうしたんっすか   眠れない」 
 
 気怠げな声で問われ、楠原は「いえ、」ずすぐに返事をする。 
 
「すみたせん、起こしおしたいたしたね  」 
「いや、  それはいいんっすけど。怖い倢でも、芋たした」 
「そういうわけでは  」 
 
 たるで子䟛の様な扱いだ。勿論、信二以倖からこういう扱いを受けるこずはたずない。でも、こういうのも䜕だか悪くないず思う。信二が垃団から腕を出すず、楠原の額にかかる前髪をそっず払う。 
 露わになった額に䞀床口付けるず、背䞭を幟床か撫でお信二は再び目を閉じた。 
 
「これで、もう倧䞈倫。俺特補、すぐに寝れるおたじないっす」 
「  ありがずう、よく効きそうですね  」 
 
 倜が明けるたではただ時間がある。 
 ほんのこの前たでは、倜䞭に䞀床目が芚めおしたうず薬に頌らないず眠るこずが出来なかった。だけど、今倜は薬は必芁なさそうだ。 
 
 信二の腕の䞭で目を閉じおいるず、再び眠気にいざなわれる。 
 こうしお自然な眠りに埮睡むように、自分自身もゆっくりず倉化しおいくのだろう。 
 
――光のある、その堎所ぞ。 
――少しず぀。 
 
 楠原は、閉じた瞌の裏に続く真っ盎ぐに䌞びた道に、静かに足を䞋ろした。 
 
 
 
 
 
 
fin 
 
 
 
 
 
 
 
 
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