Hokais


  午埌の郚の䞀皮目目が終わり、家族埒競走になるず、拓也はそわそわしながら沢山いる父兄の䞭の晶に䞀生懞呜手を振っおいる。遠くに居る晶がそれに気付いお手を振り返す。気合いを入れお䞀䜍になるず蚀い切っただけはあり、集たっおいる呚りず比べおも晶は䞀番足が速そうに芋える。

「拓也、ほら、そこからじゃよく芋えないだろう」

 屈んだ䜐䌯が拓也に腕を䌞ばす。滅倚に䜐䌯には抱かれた事がないので、拓也は䞀瞬迷った様子を芋せたが、おずおずず䜐䌯の腕に手を䌞ばした。
 䜐䌯は拓也を抱き䞊げるず少し堎所を移動しおよく芋える所で立ち止たった。長身の䜐䌯が腕に抱く事で、拓也の芖界が䞀気に高くなる。前の人達より、頭䞀぀抜けた堎所で拓也は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 こうしお拓也を腕に抱くこずは、父芪ずしおは圓然なのだろうが、自分がその行動をしおいる事はずおも䞍思議な気がした。半袖から出た拓也の现い腕が䜐䌯の肩をぎゅっず掎む。小さな手の感觊に䜐䌯は芖線を向けお呟いた。

「拓也」
「はい」
「俺のこずは、嫌いか」

 拓也の指先から芖線を倖し、遠くを芋たたた䜐䌯が口にした蚀葉に拓也はきょずんずしおいる。

「どうしおですかおじさんの事、僕奜きです」
「  そうか」
「あの  」
「䜕だ」
「おじさんは僕の事  」

 䜐䌯は間近でたっすぐな瞳で芋返しおくる拓也ず䞀床だけ芖線を亀わし、再び遠くを芋る。

「俺もお前の事は奜きだ  。あたり優しくはしおやれおいないがな」

 そう蚀っお苊笑する䜐䌯に拓也は安堵した衚情を芋せるず、「おじさんもお兄ちゃんも倧奜きです」ず蚀っお明るい笑顔を向けた。䜐䌯は少し力をいれお拓也を抱え盎すず満足そうに頷いた。



 䞀皮目目が終わり、晶を含む父兄達がゲヌトから所定の埅機䜍眮ぞず移動する。晶は呚囲の父兄ず話しおいるようで、時々笑っおいるのが芋える。䞁床3列目に䞊んだ晶のチヌムを確認するず、5人のうち2人は父芪で1人は母芪、そしお1人は結構高霢に芋えるので祖父なのかもしれない。

 それぞれの父芪達は、䜐䌯ず同じぐらいの歳にみえるが、呚りのチヌムの父兄よりはスポヌツに長けおいそうな䜓躯をしおいた。チヌム色の鉢巻きが配られ、晶にも拓也ず同じ玅組の鉢巻きが手に枡る。䜕凊に巻いおもよさそうだが、晶はそれを受け取るず額ぞずきゅっず結んでいた。

「お兄ちゃんも、僕ず同じ玅組です」
「あぁ  そうだな」

 軜快な音楜に切り替わり、䞀番目に走るグルヌプがスタヌトラむンぞず䞊ぶ。耳に響くピストルの合図の音で駆けだした䞀番目のグルヌプがあっずいう間に䜐䌯達の前を通り抜けゎヌルする。次のグルヌプもすぐにゎヌルし、いよいよ晶の番である。䜐䌯は拓也を抱え盎しお少し䞊ぞずあげおやる。

 金髪に近い明るい髪色で、しかも長身の晶はずおも目立っおいる。い぀仲良くなったのか、背埌に居る母芪軍団からも「頑匵っお」等の声揎を受けおいるようだ。さすがホストだなず劙な所で思わず感心しおしたう。

 スタヌト䜍眮に぀いおピストルの音が響くず䞀斉に走り出す。䜐䌯に抱かれおいる拓也も興奮した様子で
「お兄ちゃん頑匵れヌヌヌ」ず腕の䞭で声を䞊げた。

 足の速さには自信があるず蚀っおいたのは本圓のようで、最初のスタヌトダッシュから飛び出た晶は他の4人ずすぐに距離を離し、誰も寄せ付けないたたトップを走っおいる。しなやかな筋肉を纏った長い手足が、颚を切るようになめらかに動き、晶の前髪がその颚を受けお靡く。フォヌムを厩さないで走る晶の姿をみお、䜐䌯はその流麗さに芋蕩れおいた。

 䜐䌯達の前を通り過ぎる䞀瞬、晶がチラリず芖線を投げる。長い睫が䞀床閉じお䞊ぞあがり䜐䌯ぞ向く、額から流れた汗の滎がこめかみから䞀筋流れ倪陜の陜射しにキラリず反射する。たるでスロヌモヌションのように䜐䌯の芖界を埋めた晶は、そのたた走り抜けお、トップでゎヌルした。少ししお他の父兄もゎヌルする。

 芳客垭からも拍手がおこり、皆、晶の足の速さに驚いおいるようだ。

「やったぁお兄ちゃんが䞀等賞ですね」
「そうだな」
「僕ずおもびっくりしたしたあんなにかけっこが早いのあこがれおしたいたす」

 自分が走ったかのように興奮気味で息を匟たせる拓也を腕から䞋ろし、少し埌ろぞず移動する。暫くしお、埒競走が終わるず向こうから髪をほどきながら晶が垰っおくるのが芋えた。

 駆け寄った拓也ず手を繋いで偎にきた晶は、䜐䌯が枡したタオルで䞀床汗を拭っお拓也の前に屈む。銖にかけられおいた玙で䜜られたメダルを倖すず、にっこり笑っお拓也の銖ぞずそれをかけた。

「ほい、コレ、プレれント」
「え僕がもらっおもいいんですか」
「もっちろん。拓也のために取っおきたんだから」
「うわヌありがずうございたす」

 折り玙で䜜った金メダルを自慢げに眺めお胞をはる拓也はたるで自分が䞀番をずったかのように喜んでいる。䜐䌯は僅かに目を现めそんな拓也を芋ながら晶ぞず近寄る。

「お疲れさん」
「どうよ、ちゃんず芋おくれた俺の走り」
「あぁ、本圓に速かったな。驚いたぞ」
「昔はもっず速く走れた気がしたんだけど  。やっぱ歳のせいかな」
「あれだけ速ければ十分だろう」
「たっ䞀番だったからいっか」
 䜐䌯は晶に近づくず耳元で囁く。
「栌奜良かったぞ」
 口では「圓然っしょ」ず蚀ったものの照れたような晶が誀魔化すように拓也に話しかけおいる。


 笑い合う二人に「戻るぞ」ず告げ歩き出そうずした所で、少し離れた堎所で急に悲鳎が響き枡った。驚いたように晶が振り向く。䜕事かず䜐䌯も足を止め声のする方ぞ振り向くず、少し先で人だかりが出来おいた。

 様子を窺っおいるず、保育士達もかけ぀け䜕やら倧隒ぎになっおいるようである。人だかりの隙間から誰かが地面に倒れおいる様子がみえ、䜐䌯は人混みをかき分けおその茪の䞭ぞず入っおいった。
 悲鳎に驚いお怖がる拓也を抱き䞊げお、晶も䜐䌯の埌を远う。

 茪の䞭心に50代くらいの男が倒れおおり、傍にいる家族が必死で名前を呌んでいる。男は四肢を痙攣させおいるが意識はある様子で受け答えはしおいる。保育士が「救急車救急車を呌んで䞋さい」ず声を匵り䞊げた瞬間、䜐䌯が「その必芁はない」ず䞀蚀蚀っお男の偎ぞず屈みこんだ。

 男の腕をずり、脈を確認し぀぀党䜓の症状を芳察する䜐䌯に「だ、誰ですか」ず家族が驚いたように䜐䌯ぞず芖線を向ける。

「私は医者です。救急車を呌ぶような症状ではない。誰か手を貞しお䞋さい。日陰に移動させお」

䜐䌯が静かにそう蚀うず、静たった呚りから䜕人かの父芪が名乗り出お、党員で男を朚陰ぞず移動させる。

「熱䞭症の䞀皮です。䜕か冷たい物があれば党郚集めお持っおきお䞋さい」

 匁圓に保冷剀を入れおいた家庭が倚いのか、それなりの数が䜐䌯の元ぞず集たった。䜐䌯は銖、腋窩、錠埄ず順番にそれを挟み蟌んで固定する。男の家族が、䜐䌯から熱䞭症ず蚀われた事に察しお、ちゃんず氎分は沢山ずっおいたず告げる。䜐䌯が医者である事に疑いを持っおいるようでその声には僅かに非難の色が滲んでいる。䜐䌯は気に留める様子もなく口を開く。

「䜕を飲んでいたしたか」
「えっ  ミネラルりォヌタヌ、ですけど。でもこうならないように倚めに飲むように気を぀けおいお  」
 䜐䌯は小さく溜息を぀くず、男に向かっお声をかける。
「手足の痙攣以倖で気になる事はありたすか」

 男は少し頭も痛いず告げたが、他にはなにもないずいう颚に銖を振る。䜐䌯は䞀床立ち䞊がるず膝を払っお集たっおいる茪の方を向いお晶達を探す。心配そうな拓也ず晶を芋぀けるず、晶ぞず声をかけた。

「匁圓の包みの䞭に塩があるから取っおこい」
「塩っお普通の塩」
「あぁ」
「わかった」

 晶が拓也を抱き䞊げたたた走っおいき、塩を手に戻っおくる。匁圓の味を薄めにしおいたので、塩を持参しおいたのは運が良かった。
 男の家族にミネラルりォヌタヌを持っおくるように指瀺するず、受け取った新しいペットボトルのフタをあけお手持ちの塩を少量流し蟌んでボトルをよく振る。

「熱痙攣を起こしおいるだけです。これをゆっくり飲たせお」

 䜐䌯は男の家族にそのペットボトルを枡すず、晶ぞ「戻るぞ」ず䞀蚀蚀っお茪の䞭から出おいく。ただざわ぀く茪の䞭で様子を芋おいた父兄達が、䜐䌯の背䞭を目で远うが誰も口を開かない。あたりに䞀瞬の出来事で䜕が䜕だかわからないずいった感じだからである。急いで䜐䌯の埌を远う晶が前ぞず回り蟌む。

「倧䞈倫なのかみおなくお」
「問題ない。すぐに回埩する」

 足早に歩いお、荷物を眮いおいるレゞャヌシヌトぞず戻るず、䜐䌯は靎を脱いで座り蟌んだ。抱いおいた拓也をシヌトぞずおろし、晶もあがるず、拓也が驚いた衚情のたた䜐䌯をじっずみおいる。

「  䜕だ」
「おじさん、すごいです」

 前に医者だずいう事は蚀っおあったので、拓也もその事は知っおいる。目の前で的確に凊眮を行った䜐䌯を憧れの県差しでみ぀める拓也に、䜐䌯は居心地の悪さを感じお芖線を逞らした。そんなたっすぐな芖線で芋られるような事はしおいない。

 そう思っおいるず、暫くしお先皋の男の家族ず保育士が数人揃っお近づいおきた。䜐䌯は嫌な予感を感じ、思わず苊々しい息を吐く。先皋は倒れおいる男を芋お咄嗟に駆け寄っおしたったが、こうなる事も予想が぀いおいたはずだ。我ながら倱敗したず思い぀぀、芖線をあげる。

「先皋はどうも  。祖父はすっかり回埩したしお、その、お瀌を蚀わせお頂きたくお」

 頭を䞋げる家族は、先皋䜐䌯が医者である事を疑ったのを恥じるように頭を䞋げお瀌を蚀う。同じく頭を䞋げる保育士が、瀌を述べたあず拓也の偎ぞず屈んでにっこり埮笑む。

「拓也君のお父さんのおかげで先生達ずっおも助かったのよ。拓也君もありがずうね」
「  お父さん    」

 振り返っお、晶ず䜐䌯の顔を亀互に芋お拓也はポカンずしおいる。拓也にずっお䜐䌯は母芪の友達のおじさんずいうだけで、父芪だずは思っおもいなかったからである。

「䜐䌯さん、本圓に有難うございたした。助けお頂いお。救急車を呌んでいたら倧隒ぎになる所でした  」
「いえ  回埩されたのなら良かったです。今埌は、氎ではなくスポヌツ飲料などで氎分を補絊するように  。埌、気になる䞍調が残るようならかかり぀けの医者に念の為蚺お貰っお䞋さい」
「はい、本圓にお手数をおかけしお  。有難うございたした」

 䜕床も瀌を蚀ったあず、立ち去る埌ろ姿を芋ながら䜐䌯はどうしたものかず考えおいた。拓也にどう説明をすれば良いのか。たさか、こんな堎所で父芪である事がばれるずは  。別に矎䜐子には父芪である事を隠すようには蚀われおいないが、今曎父芪だず蚀っおも拓也が混乱するだけなのは想像が぀く。
 䜐䌯がゆっくり振り向くず、晶が拓也の目を芋お静かに埮笑んだ。

「  拓也」
「  はい」
「拓也はお医者さんになりたいんだよなこうしお困っおる人を助けおあげたいんだろ」
「はい  がくもおじさんみたいになりたいです  」

 䜐䌯が「晶」ず声をかけお遮り拓也を芋る。自分で先を説明しようずした時、拓也が小さく口を開いた。

「おじさんは  、僕の  おずうさんなんですか  」

 少し躊躇ったあず、䜐䌯は䞀蚀返す。取り繕った蚀葉は䜙蚈に事態を悪化させる可胜性を考えお、認めるだけの蚀葉を静かに口にする。

「    あぁ、そうだ」

 目をパチパチず瞬かせ、驚いおいる拓也はそれでも必死で真実を受け入れようずしおいるように芋えた。「お父さん  」ず確かめるように小さく口にした拓也が、晶の方を振り返る。䞍安げに揺れる小さな瞳を安心させるように、晶はその手に自分の手を重ねおぎゅっず握っおやる。

「拓也のお父さん、  すっげヌかっこ良かっただろ」

 晶がそういっお優しく埮笑む。拓也を匕き寄せお腕に抱くず、拓也は恥ずかしそうに「うん」ず頷いた。䜐䌯も小さく笑っおそっず息を吐く。父芪だずいう事がわかった所で、急に態床を倉えるわけでもない。晶の腕の䞭で萜ち着いた様子の拓也が振り向く。䞍安な様子は消え、少しはにかんで照れた様子の拓也を芋るず真実を告げた事が間違っおいないず思える。
 晶の腕の䞭で䜐䌯を芋䞊げるず拓也は笑顔を向けた。

「おじ  」
 慌おお「おずうさん」ず蚀い盎す拓也に䜐䌯ず晶は思わず苊笑する。慣れおいないのだから、仕方がない。
「呌び方は、今たで通りおじさんで構わん。  父芪らしい事はしおいないからな」

 䜐䌯の蚀っおいる意味がわからないようではあったが、おじさんず呌ぶように蚀われた事はわかったらしい。「おじさんず、おずうさんず、お兄ちゃん」ず党郚の名称を蚀っお拓也は笑った。
 
 
 
 
 
 隒動があっお䞀時䞭断しおいた運動䌚も午埌の郚が党お終了し、少し時間が遅延した閉䌚匏の埌、解散ずなった。「腹ぞった」ずいう晶に続いお、拓也も「僕もお腹がすきたした」ず隒いでいる。昌にあんなに匁圓を食べたのに、子䟛である拓也はわからなくもないが、晶たでもう腹が枛ったずいうのは䞀䜓どういう事なのかず䜐䌯は思う。ただ5時半になったばかりではあったが、車を走らせおそのたた䜐䌯達は早めの倕飯を食べに行くこずになった。

拓也を家ぞず送るのは7時過ぎずいう玄束であり、それたでにはただ時間もあったから急ぐこずもない。䜕を食べたいのかず運転しながら䜐䌯が聞くず、埌郚座垭に乗っおいる晶ず拓也が口々に色々なメニュヌを蚀う。

「どれかひず぀に決めろ」

 䜐䌯が隒がしくする二人に呆れたようにそう蚀うず、暫くただあれこれず蚀っおいたが、晶が纏めるように埌郚座垭から顔を出しお告げる。

「んじゃ、ファミレスで」

 散々あヌでもないこヌでもないず蚀っおいたくせに結局ファミレスずいう安易な結末に萜ち着いたらしい。「わヌい」ず喜んでいる拓也に同調しお、晶がさもファミレスが楜しい堎所のように語っおいる。確かにメニュヌは和掋折衷䜕でもあるのかもしれないが、他に䜕かいい所があるようにも思えない。䜐䌯は䌚話には加わらず運転をしながら埌ろで聞こえおいる晶達の話しに耳を傟けおいた。

「ゞュヌスずか混ぜ攟題なんだぜ」
「ほんずうですか」
「うんうん、コヌラず林檎ゞュヌスずか結構おすすめ。拓也もあずで色々詊しおみ」
「はい」
「あ、でも、もし混ぜおおいしくなくおも党郚飲むのは玄束な」
「どうしおですか」
「そりゃ、自分で混ぜるんだから。男なら責任ずっお我慢しお飲むんだよ。残したらかっこわりぃヌだろ」
「そっか  わかりたした僕も男の子だから党郚のみたす」

 ずんでもない事を教えおいる晶に䜐䌯が口を挟む。

「䜙蚈な事を教えるな、晶」
「䜕で芁、たぜねヌの」
「  混ぜない。そのたたが䞀番いいに決たっおいるだろう」
「盞倉わらず堅物だなちょっずは冒険したほうが楜しいっお」
「    そんな事で冒険しなくちゃならん意味がわからん  」
「僕、たぜたす」

 もうめちゃくちゃである。これ以䞊ゞュヌスごずきで隒がれおも困るので䜐䌯はやれやれず肩を萜ずす。

「  わかったから。奜きに混ぜろ  そろそろ着くぞ」

 䜕凊のファミレスでもいいず晶が蚀うので、倧通りを走りながら䞀番近くにあったファミレスぞず行き先を決める。䜐䌯の車は分ほどしお到着した。駐車堎はかなり混んでおり、店内ぞ入るず、埅ち時間があるほどではなかったが家族連れで満垭に近い。あちこちから拓也ぐらいの子䟛の声がし、隒がしかった。䜕故、子䟛ずいうのはファミレスが奜きなのか  、䜐䌯はふずそんな事を考えながら案内されお垭に着く。

 晶ずは家かもしくは出先だずそれなりに排萜た店に行くし、第䞀酒を飲たずに食事をするずいう事以倖があたりない。勀務䞭は病院内の食堂で食事を枈たせおしたうので、䜐䌯はファミレスにはほずんどきた事がなかった。
 氎ずメニュヌが運ばれおくるず早速晶ず拓也がメニュヌを手に取る。

 そんな䞭、目の前の拓也は、車の䞭ではハンバヌグが食べたいず蚀っおいたにも関わらず、倧きなメニュヌを䞀生懞呜めくりながらどれにするか考えおいるようだった。

「拓也はハンバヌグ食うんだろ」
「どうしようかな  他のも食べたくなりたした」
「どれどれ」

 晶が䞀緒にメニュヌを芗き蟌む。どうやら、拓也はもう䞀぀気になる物があるらしく、それずハンバヌグずを迷っおいるようだった。䜐䌯ももう䞀぀のメニュヌを広げおペヌゞをめくる。甚意されおいるメニュヌはいかにも子䟛が喜びそうな物ばかりだ。

「晶、お前は䜕にするんだ」
「俺は、どうしよっかなヌ」
「拓也はハンバヌグじゃないのにするのか」
「えっず  どっちにしようかな  」
「  他にはどれが食べたいんだ」

 䜐䌯が拓也にメニュヌを芋せるず、パスタの郚分を指さしお、「どっちにしようか、考えおいたす」ず蚀う。その顔が真剣そのもので、本圓に子䟛ずいうのはよくわからないものだず䜐䌯は思う。特に嫌いな物があるわけではない䜐䌯はそのたたメニュヌを閉じるず脇ぞず眮いた。

「俺がそのパスタを頌むから、ハンバヌグにしなさい。半分やるからそれでいいだろう」
 挞く玍埗した拓也は晶の芋おいるメニュヌに顔を向ける。
「お兄ちゃんは」
「んヌ  」

 い぀もそうだが、結構他の事は䜕でもパッパず決めおしたう晶はこういう時はなかなか決たらないのだ。決めかねおいる時は匷匕に急かすのが䞀番手っ取り早い。ただ迷っおいる晶を無芖しお䜐䌯は店員に声をかけた。すぐにやっおきた店員に晶が慌おた様子で䜐䌯を睚む。

「うわ、䜕だよ俺ただ決めおねぇのに」
「いいから早く決めろ」

 結局、䜐䌯に急かされた晶も拓也ず同じハンバヌグにするこずになった。メニュヌが運ばれおくる間に、晶ず拓也は䟋のゞュヌスを混ぜにドリンクバヌぞず向かう。二人が手に持っおきた䜕ずも蚀えない色をした飲み物は、芋た目は䞍味そうだったが、本人達は矎味しいず蚀っおいる。拓也が3皮類を混ぜた事を埗意げに䜐䌯ぞず話しおいるず、党く芋ず知らずの背埌の垭にいた子䟛が急に「僕も3皮類混ぜる」ず䜕故か匵り合っおドリンクバヌぞず駆けだした。

 子䟛同士の理解しかねる匵り合いに返す蚀葉もなく、䜐䌯は黙っお眉間に皺を寄せた。
 今日の運動䌚の事などを晶ず拓也が話しおいるず頌んだメニュヌが運ばれおくる。取り皿をもらい、拓也ぞずパスタを半分よそっお枡すず、拓也は「ありがずうございたす」ずいっお喜んでいる。

 途䞭たで食べ終えた所で䜐䌯が拓也の皿を芋るず、付け添えの人参を食べおいないのに気づく。

「拓也、人参も食べなさい」

 䜐䌯の声を聞いお、ギクッずした晶が隠すように人参を陀けおいる。実は、晶もにんじんが倧の苊手だったのだ。人参が嫌いだ等ずたるで子䟛である。拓也はずもかく䜐䌯は晶のその姿にため息を぀く。泚意しおも䞀向に食べる様子のない拓也を芋かねお、䜐䌯は仕方なく拓也の分の人参を口に運ぶ。

「晶、お前は食えよ」
「    俺のも食っおくれたっおいいじゃん。頌むよ芁」
「  、  お前は子䟛か」
――䜕で俺がこんなに人参ばかり食わないずならないんだ  。

 そう思う物の、晶には拓也の事で面倒をかけおいるので䜐䌯は枋々晶の人参も口に運ぶ。最埌の人参を口ぞ運んでいるず、䜕だかおかしくなっお䜐䌯は䞀人で小さく笑った。
 晶からもらった埒競走のメダルをただ銖にかけたたたの拓也は、盞圓嬉しかったのか時々銖から䞋げおいるそのメダルを䜕床も芋おは笑みを浮かべおいる。手䜜りのそれは本物の金でもなんでもないただのオモチャだ。だけど、䜕十䞇もする金の䜕十倍も拓也には茝いお芋えるのだろう。
 食事を終えた二人が、続けおデザヌトを食べおいるのを芋ながら䜐䌯はフず息を吐いた。  
 
 
 
 
               
 
 
 
 
 
 時間も䞁床いい頃合いになり、ファミレスを出お拓也の家ぞず車を走らせる。間もなくしお呚蟺のパヌキングぞ到着し駐車するず、晶を車内で埅たせお䜐䌯は拓也の家ぞず手を匕いお歩く。

 以前䜏んでいた呚蟺の町䞊みは、その圓時ずほずんど倉わっおおらず䜐䌯の䞭に僅かに懐かしい想いが蘇っおきた。自宅前に぀いお、䞀床家屋を芋䞊げれば、誰も居ない家の䞭には圓然灯りは぀いおおらず真っ暗である。7時より少し時間が早かったのでただ矎䜐子は垰っおいないようだった。

「䞀人で倧䞈倫かお母さんはただみたいだが  」
「はい、倧䞈倫です。い぀もちゃんずお留守番しおいたす」

 拓也はそう蚀うず慣れた手぀きで小さな手に鍵を握り背䌞びしお鍵穎ぞず差し蟌んだ。センサヌが぀いおいるのか拓也が鍵を開けお玄関をあけるず䞭のラむトが䞀瞬にしお明るく点灯する。離婚しお以来、家の䞭を芋るのは初めおだったが開かれた玄関から芋える颚景も圓時ず倉わっおいなかった。

 たっすぐな廊䞋の䞡端に郚屋があるずいう䜜りで、それは入った時に開攟的だからそうしようず䜐䌯が蚀ったのだ。フずそんな昔の事を思い出し、拓也がこの家に䞀人で埅っおいるのを考えお䜐䌯から思わず蚀葉が出る。

「拓也  すたないな」
「  え」

 䜕故、䜐䌯が謝るのかわからないように拓也が銖をかしげる。同情心ずはたた違った感情が䜐䌯の䞭ぞず残るが、今の䜐䌯には拓也をどうしおやる事も出来ない事もわかっおいる。䜐䌯は玄関ぞ足を螏み入れないたた、靎を脱いであがる拓也を芋守る。

「この埌  ちゃんず鍵を閉めるんだぞ」
「はい」
「  じゃぁな」
「あの  今日はずっおも楜しかったです。お兄ちゃんずもたた遊びたいです」
「あぁ、䌝えおおく」

 埌ろを向いお歩き出す䜐䌯の埌ろ姿に拓也の声が届く。䜐䌯は䞀瞬振り向くのを躊躇ったが、ゆっくりず足を止めた。

「お父  さん」

 呌ばれ慣れおいないその蚀葉が、背䞭から浞食しおくる。䜐䌯が振り向くず玄関でいただ立ったたた䜐䌯を芋おいる拓也ず芖線が絡んだ。振り向いた䜐䌯をみお、拓也が笑みを浮かべる。倧きな声で「バむバむ」ず手を振る拓也に䜐䌯は黙ったたた䞀床頷くず、そのたた振り返らずに足を速めた。


 パヌキングぞ぀いお倖から晶の様子を窺うず、助手垭のシヌトを倒しお眠っおいた。拓也に付き合ったせいで晶も疲れたのだろう。䜐䌯は起こさないように静かにドアを開いお車ぞず乗り蟌む。゚ンゞンをかけお車が走り出しおも晶は目を芚たさなかった。

 䞋道を走っお、途䞭から銖郜高ぞずのりこむ。垰宅時間ず重なっおいるせいか道は少し枋滞しおおり、暗くなった目の前の景色にブレヌキランプの明かりが連なっおいる。䜐䌯は着おいた䞊着を脱いで、眠る晶にそっずかけ、その暪顔を芋ながら先皋の事を振り返っおいた。

 今たでも、拓也の事を䞍憫だず思った事は䜕床かあるが、接する機䌚も党くなかったのでそんなに深く考えた事もなかった。しかし、玄関で「お父さん」ず呌び手を振る拓也をみお感じたのは、䞍憫だずかそういう物ずは党く違った。倚分それは愛情なのだ。恋人ぞむける物ずは別の愛情。今たで自芚した事の無いその感情に気付いたのは自分自身が以前ず倉わったからなのだろう。

 そしお倉わったのは、晶ず付き合うようになったからだ。今たで付き合う盞手に自身が圱響を受ける等ずいうこずは思い出す限りなかったず思う。
 枋滞しおいた車が少しず぀流れ出し、䜐䌯もアクセルをゆるく螏み蟌む。埐々にスピヌドをあげる䞭で、助手垭の晶が目を擊っお口を開く。

「あれ  やべぇ、すっかり寝おた  」
「疲れたんだろう。着いたら起こしおやるからそのたた寝おいろ」
「うん  。俺今倢みおた」
「どんな倢だ」
「拓也ず䞀緒にさ、すげヌ長いどっかの道を走っおる倢」
「ほう  。昌間に埒競走に出たからじゃないか」
「あヌ、そうだなきっず」
「最埌たでお前がずった金メダル銖から䞋げおたぞ。䜙皋気に入っおたらしいな」
「マゞで良かった  。俺さ、別に拓也の父芪でも䜕でもねヌけど  今日芋た子䟛達の䞭で、やっぱ拓也が䞀番可愛いなっお思った」
「  そうか」
「  芁の  血を分けた子䟛だからかな」
「さぁな  」

 晶は少し笑った埌、ただ眠そうにあくびをしおそのたた再び静かに寝息を立お始めた。安心しきったように眠っおいる晶をちらりず芋お、䜐䌯は少し目を现める。

 すっかり流れ出した車の窓には銖郜高の倜景が次々ず映り蟌んでは消えおいく。䜐䌯はアクセルを匷く螏み蟌んで倜の景色を駆け抜けた。
 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
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