戀燈籠 最終幕
戀燈籠 最終幕 一週間の時が過ぎた その日は朝から雲一つない青空で、まるで藍色を淡くとゐたやうな色が一面に廣がつてゐた 御樹はあけ放しになつてゐる襖の内側から空を眺めてゐた もう、自分一人では起きあがることもままなら […]
戀燈籠 第十九幕
戀燈籠 第十九幕 旅から歸り着いた御樹は緊張の絲が解けたのかそのまま何日か床に伏せつてしまつてゐた わづかに小康状態を保つてゐたかに見えた體調は 最後になる旅を天が贈つてくれただけだつたのかもしれない しかし、咲坂 […]
戀燈籠 第十八幕
戀燈籠 第十八幕 旅館へと戻つた御樹逹は部屋へと入るとふうと一息息をつく 態度には出してゐないつもりでも、やはり久しく長い時間を歩いたりしてゐないので 疲勞が少し現れてしまふ御樹を氣遣ふやうに咲坂が提案したのは こ […]
戀燈籠 第十七幕
戀燈籠 第十七幕 次の日の朝は、昨夜月に傘が被つてゐた事もあり 曇り空の少し肌寒い天候となつた 旅館で朝餉を濟ませた御樹逹は旅館の接客婦に近場の櫻の名所を訪ね そこへと足を運んでみることに決めてゐた 少し寒いとは思 […]
戀燈籠 第十六幕
戀燈籠 第十六幕 衣擦れの音が靜かな部屋に幾度となく響き 粟立つやうな愉悦が二人を絶え間なく苛んでゐる 「青人さん……」 名を呼ばれるたびに籠もつた熱が解放を求めて疼き わづかな御樹の吐息でさへ咲坂に快樂を與へた […]
戀燈籠 第十五幕
戀燈籠 第十五幕 まるで、病が休憩をしてゐるやうに 御樹の體はここ數週間、惡化もせず普通の生活を送れてゐた 相變はらず咳は出たが、是と言つても喀血するわけでもなく 落ちてゐた體重もこれ以上は減つてゐないやうに見えた […]
戀燈籠 第十四幕
戀燈籠 第十四幕 それから二月ほど過ぎた頃から御樹は時々、高熱を出しては床につく事が多くなつた 伏せつてゐない時でも微熱は續き やはり病には勝てないのかと今日も苦い藥を口に含んでは天井を見上げてゐた まだ幼かつた頃 […]
戀燈籠 第十三幕
戀燈籠 第十三幕 血を吐いたあの日から御樹は醫者を變えて別の病院へ行つて診て貰はうと何度も考へてゐたが なかなか實行に移せないでゐた 眞實を聞くのはさすがに勇氣がいつたし あれからは一度も痰に血が混じることもなかつ […]
戀燈籠 第十二幕
戀燈籠 第十二幕 その晩、二人は初めての交はりの餘韻に名殘を殘して寢所をともにした 咲坂は情交で疲れたのかしばらくすると靜かに寢息をたてはじめた 御樹は自分も眠らうかと目を閉ぢてはみたが 何となく昂奮が冷めきつてな […]
戀燈籠 第十一幕
戀燈籠 第十一幕 咲坂は店番をしながら御樹の歸りを待つてゐた 今日は少し用事があるので出てくるといふ御樹の變わりにかうして店番をしてゐるのだ 毎日少しづつではあつたが骨董のことを御樹から教はり 今ではかうして一人で […]