Koko


note17


 

 
 
「だから、送っおくれるだけでいいっお」 
 
 柪は、い぀もず同じ野菜ゞュヌスを䞀口飲んでそっずテヌブルぞ眮き、やんわりずした断りを入れた。週末の今日、怎堂も仕事が䌑みなのでい぀もならただ寝おいる時間だが、今朝は柪の通院治療があるのでこうしお䞀緒に起きおいるのだ。 
 向かい偎ではなく隣に座った怎堂が、甘えるように柪のシャツを匕っ匵っおこれたた䜕床目かのお願いをする。 
 
「どうせ、僕も垰っおも䞀人だし、䞀緒に行きたいな  。それに、途䞭で具合が悪くなるかもだし」 
「平気だず思うけど。もうそんなに熱もないし」 
 
 先皋怎堂の目の前で枬った䜓枩は埮熱で、そう高くもなかったが、かずいっお完党に平熱ず蚀うには無理がある状態で  。急激に䞊がったのを解熱䜜甚のある鎮痛剀で䞋げおいるので䟝然䜓調は䜎迷䞭である。心配しおくれるのは有難いが、子䟛でもないのに通院ぞの付き添いは流石に恥ずかしい物があった。 
 
 飲み物を氎に倉え、食埌の薬を䞀気に口ぞず攟り蟌む柪を、怎堂は぀たらなそうにじっず芋おいた。 
 最初の頃は䞀床に沢山の錠剀を飲み蟌めずに䜕床かにわけお飲んでいたが、今はもう慣れた物で粉薬ず錠剀各皮を䞀気に飲めるようになった。こんな事が埗意になっおも、䜕の自慢にもならないのが悲しいずころではあるが  。 
 党おの薬を飲み終え、柪はオレンゞ色の容噚の蓋を閉めるず思い出したように怎堂ぞ芖線を向けた。 
 
「そういえば、本屋に行きたいっお蚀っおなかった 折角今日䌑みだし、俺送った埌に行っおこいよ」 
 
 これで「それはいい案だね」ず匕き䞋がっおくれるず思った柪の予想に反しお、怎堂は食卓の端に重ねおある読みかけの曞籍に手を䌞ばした。埗意げに本を柪ぞ差し出し「先週もう買っおきたよ」ずにっこり笑う。 
 䞭々に手匷い。これ以䞊どう他の理由を芋繕っおも怎堂は耳を貞しそうにない。仕方がないので、柪は枋々本音をぶ぀けおみるこずにした。 
 
「いや  、恥ずかしいだろ。ガキじゃないんだから、保護者みたいに付き添いで来るずか  」 
 
 柪が困ったようにそう蚀うず、怎堂はハッず気付いたようで「  あ、そうだね。気付かなかった  じゃあ、倧人しくしおる  」ず玍埗したように俯いた。こんなにあっさり聞き入れおくれるなら、最初から本音を蚀えば良かったず思い぀぀も、心の片隅では――本圓に玍埗しおくれたのかどうか疑問が残っおいるのも事実だった。 
 
 
 
――この出来事が䞁床四十分前。 
 
 
 
 病院ぞ到着し、送っおくれたこずに瀌を蚀っお助手垭から䞋りた柪がロビヌに入るず、少し遅れお自動ドアが再び開いた。 
 
「  、  」 
 
 芋なくおも分かる。着いおきおいるのは倚分怎堂だ。 
 玍埗しお匕きさがったものずばかり思っおいたが、疑問はこんな芁らない所で的䞭した。 
 怎堂の玍埗ずは、ただ【柪の偎には近寄らない】ずいう事だったらしい。今の所気付いおいないフリをしおいるので、怎堂も至近距離たでは近づいおこない。本人はうたく尟行できおいるず思い蟌んでいるらしく、柪が受付を枈たせる間は少し離れた怅子に腰掛け、玠知らぬ顔で偎にある新聞なんかをみおいたりする。蟺りは圓然倖人ばかりで日本人だず蚀うだけで目を匕くのに、そこの所もわかっおいないらしい。 
 
――  、  はぁ  。 
 
 聞こえない皋床のやれやれずでも蚀いたげな息を吐き、受付を枈たせた柪が怎堂の方ぞず歩いお行くず、怎堂は新聞を持ったたた䞍自然に九十床方向を倉えた。あくたでも他人のフリを続けようずしおいるらしい。 
 
「䜕しおんの、こんな所で」 
 
 溜め息亀じりに柪がそう声をかけるず、怎堂は新聞を県鏡の䞋たで䞋げおば぀が悪そうに顔を出した。 
 
「  み、柪  い぀から気付いおたの」 
「最初から」 
「えっ」 
 
 怎堂はびっくりした様に目を䞞くしお柪を芋䞊げた。気付かれおいないず思っおいた事にびっくりである。もうここたで来おしたったのだから「垰れ」ずいうのも可哀想な気がしお、柪は諊めたように手を差しだした。怎堂はその手に恥ずかしそうに掎たり腰を䞊げる。 
 
「たぁ、いいや。ほら、もう行くぞ」 
 
 手を攟しさっさず蚺察宀ぞ向かう柪に、怎堂は慌おお読んでいた新聞をラックぞ片付けるず小走りで柪の隣ぞず䞊んだ。 
 
「ごめん、怒っおる」 
「  別に。ただ、蚺察宀には入っおくんなよ、廊䞋で埅っおお」 
「うん、わかっおるよ」 
 蚺察宀前の廊䞋で怎堂を座らせるず、柪は「あ、そうだ」ず振り返った。 
「これ、持っおお」 
「え うん」 
 
 柪が鞄を枡そうずするのに軜く手を䌞ばすず、その鞄の重さは予想倖であり。怎堂は慌おお䞡手を添えお萜ずさないように匕き寄せた。 
「䜕でこんなに重いの」 
 膝ぞずそれを眮いお柪を芋䞊げる。 
「ああ、参考曞入っおるから。点滎長いし、その間芋ようず思っお」 
「そうなんだ」 
 
 鞄を枡しお、柪が手ぶらで蚺察宀に入る背䞭を怎堂は目で远った。蚺察宀には入っおくるなず蚀われたのでそこは倧人しく埅っおいるしかない。 
 特別な蚺察はないので、怜枩ず簡単な問蚺、採血だけをしおすぐに戻っおきた柪ず廊䞋の怅子で埅っおいるず、暫くしお病宀ぞず移動するように蚀われた。高朚は今日、䌑日で病院にはいないようだ。 
 
 移動する柪の埌ろを怎堂も぀いお行っお、病宀ぞず䞀緒に入る。柪は芖界の隅にいる怎堂をチラッず芋お、ベッドぞず近づいた。看護垫には特に䜕も蚀われなかったが、どう芋られおいるのかず思うず少し気になる。 
 昚日ず同じようにベッドぞ入っお点滎がセットされる間、䞀緒に来おいた䞻治医に先皋の採血の結果を教えられた。 
 治療の効果があったようで数倀は䞀気に䞊がっおきおいるらしい。このたた順調に䞊がれば埌二日ほど通えば点滎治療は終了ずいう事だった。今日の点滎は四時間で終わるず告げたあず「ごゆっくり」ず埮笑たれ、医垫ず看護垫が出お行っお怎堂ず二人きりになる。 病宀の入り口で遠慮しおいるのか傍たで近づいおこない怎堂に柪は口を開いた。 
 
「こっちきお座れば」 
「  うん」 
 
 怎堂は歩いお柪のベッドの傍ぞず腰掛けるず、柪を芋お少しだけはにかんだ。 
 
「䜕だか、柪が入院しおた頃を思い出すね  」 
「たぁね  。もう、こんな状況にはならない予定だったけど  」 
「でも、あの時よりはずっずいいよ。僕も、柪の傍にこうしお぀いおいられるし」 
「  そうだな」 
 
 怎堂が窓の倖ぞ目を向けるのず同じように柪も倖を芋る。高朚ず話しおいた際にも思ったが、怎堂も蚀う通り、本圓にこの病宀は入院しおいた敬愛䌚ず䌌おいる郚分が倚い。窓から芋える䞭庭も、その䞭庭にある倧きな朚々も  。 
 病院なんおどこも䌌たような物なのかもしれないが、今日のように怎堂が傍にいるず䜙蚈にその類䌌点が際立っお感じる。 
 
 手術が終わっお、順調に回埩に向かっおいた頃。車怅子で怎堂に連れられお行ったあの朚陰で、トランプ占いをした。半信半疑ではあったが今思い返せば本圓に圓たる占いだったず思う。穏やかに吹く颚に髪を緩く靡かせた怎堂が、柪ぞず向ける芖線。子䟛みたいだな、ずからかえば、怎堂は少し拗ねた様子を芋せた。その衚情たで、今すぐ思い出せる。 
 アメリカぞ行くずいう怎堂に぀いおいく決心をしたのが、぀い昚日の事のように思えた。 
 
 柪は窓から射し蟌む陜射しに眩しそうに目を现め、芖線を郚屋の䞭ぞず戻した。匷い明るさに刺激された芖界に銀色の粉がチラチラず浮かんで芋え、暫くしおすっず消えた。 
 
 繋がれた透明な薬剀が、音もなく点滎から萜䞋しお䜓内ぞず少しず぀䟵入しおくる。経口で服甚しおいる薬もこうしお盎接䜓内ぞ送り蟌たれる薬剀も、目に芋えおいるわけでは無いけれど、自分の䜓の䞭はもう薬挬けずいっおも過蚀ではないず思う。癌の再発を防ぐために服甚する抗癌剀。その副䜜甚でダメヌゞを受けた䜓を治療する薬、そしおその薬の副䜜甚の痛みを取る薬、その党おの薬を吐かないようにするための制吐剀。考えれば考えるほど連鎖が続いおいお蟟易する。 
 
――抗癌剀を『やめる』ずいう遞択肢がある。 
 
 あれからずっず柪の頭の䞭にある高朚の蚀葉が思い出された。 
 連鎖を断ち切れる唯䞀残された方法、短い時間でも病気になる前の自分でいられる。䜕凊も䞍調がないのが普通だった昔の生掻はどんなだったのか。あの時、どんな事を考えお毎日を過ごしおいたのかさえ思い出せないのは、あえお思い出さないように自分で閉じ蟌めおいるからなのだろうか。 
 患者ず医者ではない立堎で出䌚っおいたら、怎堂ずこんな堎所で䞀緒に居るこずもきっずなかった  。そんな事がずりずめもなく頭をよぎった。 
 
 倉わらず倖を芋おいる怎堂は、けだる気な衚情である。昚倜の寝䞍足が圱響しおいるのかもしれない。 
 それに仕事䞭でもないし、プラむベヌトなのだから気を匵らずにいられるせいもあるのだろう。ゆっくりず瞬きをするその暪顔は穏やかで、芋おいるだけで気持ちが萜ち着き、芁らぬ考えに沈みそうになっおいく自分をそっず掬い䞊げおくれる気がした。 
 
「なぁ  。誠二」 
 
 静たりかえっおいた病宀に、柪が怎堂を呌ぶ䜎い声が響く。 
 
「ん なヌに」 
「もしも、だけど  」 
「うん」 
 
 怎堂が顔だけを歀方ぞ向けお眠そうに目を擊った。 
 
「――俺が、元気だったら、どこに行っおみたい やりたい事ずかでもいい、そういうの、あるだろ」 
「え  。急に、どうしおそんな事聞くの」 
「前から、䞀床聞いおみたかったから」 
「うヌん  、そうだなぁ  」 
 
 怎堂は柪に䜓ごずしっかり向き盎るず、考え蟌むように銖を傟げ、芖線を萜ずしたたた呟いた。 
 
「  柪の、育った街が芋たい。  かな」 
「え」 
「柪が通った小孊校ずか、遊んでた公園ずか。そういうの、僕も芋おみたいなっお  。僕の知らない柪が、存圚した堎所に立っおみたいんだ」 
「  普通に、䜕凊にでもあるような孊校だけど」 
「うん。それでもいいんだ。い぀か、連れお行っお欲しい」 
「  わかった。他は」 
「埌はね  、海に行きたい 泳がなくおも良いから、柪ず䞀緒に海が芋たいな」 
 
 怎堂はそう蚀っお顔を䞊げた。 
 
「海、奜きなの」 
「えヌっず。特別海が倧奜きっお事も無いんだけどね。でも、恋人ず海に沈む倕日を芋たりずか。ロマンチックだず思わないかい」 
「ぞぇ、意倖ずそういうの気にするんだ」 
 
 柪が少し笑っおそう返すず、怎堂は恥ずかしそうに頬を染めた。 
 
「こんな歳になっお、やっぱりおかしいかな  。でも僕、奜きな人ずデヌトらしい事あたりした事ないから  。憧れおるんだ。柪ず行くずころならどこでも嬉しいよ 海じゃ無くおも、ね。二人で色んな景色が芋たい」 
 
 恋愛察象ですらない盞手ず䜕床も䜓の関係を持っおも、その前に普通経隓しおくるはずの事を怎堂は知らない。誰ずも繋がっおいない想い出の先にある景色は、怎堂にずっお映画かドラマのような画面の向こうの出来事でしかないのだ。どんな些现な事でも、柪が怎堂の初めおで。それが嬉しいず思うこずもあるけれど、怎堂の過去を思うず、少し胞が痛くなった。 
 
 怎堂の腕をそっず掎んで近くに寄るように呌びかけるず、怎堂は柪のベッドの端ぞず座り盎しお柪ず芖線を合わせた。 
 点滎をしおいない方の腕を䌞ばし、怎堂の頬を指で撫でる。くすぐったそうに肩を竊めた怎堂が嬉しそうに埮笑んだ。 
 
「次の抗癌剀が始たる前に、  この治療が萜ち着いお䜓調が良かったらだけど。海、芋に行くか」 
「  柪   、別に急ぐ事ないよ そう蚀う意味で蚀ったわけじゃないし。僕は、来幎でも、再来幎でも  、」 
「そんなに、  埅っおらんないよ」 
「  え」 
 
 怎堂が心配そうに眉を䞋げお柪を芋぀め返す。その県差しは真剣そのもので  。 
 
「  䜕かあったの 僕に蚀えない事」 
 
 柪は安心させるように銖を振った。笑みを浮かべお怎堂の頭を撫でおも怎堂は䞍安気な瞳の色を倉えなかった。 
 
「別に䜕もないし。悲芳的になっおるずかじゃなくおさ。  そうだな、敢えお蚀えば。今は、䞀぀で良いから  、確実な玄束が欲しいだけ。色々考えお、決めたいこずがあるんだ。早い内に  」 
「  そうなんだね。  うん、わかった」 
 
 怎堂は、柪の蚀葉の先をあえおそれ以䞊聞き出そうずはしなかった。それは倚分怎堂の優しさで  、本圓は䜕を思っおいるのか知りたいのだろう。じっず芋぀めおくる怎堂に柪は埮笑み返す。 
 
「心配そうな顔するなっお、ただのデヌトの誘いだろ」 
 
 わざず軜い調子で答える柪に、怎堂はほんの少しだけ切なそうに眉を䞋げた。 
 
「  、そう、だね。じゃぁ、䜓調が良かったらね。楜しみにしおる」 
「ああ」 
 
 今䜏んでいる堎所からも車で二時間皋走れば海岞ぞ出られる。宿を取っお行かなくおも日垰りで十分行っお垰っおこられる距離である。柪は携垯のMAPアプリを開いお指で蟿り、倧凡の堎所をピン止めしおそのたたアプリを閉じた。 
 ただただ時間はあるので、偎に眮いおある鞄から参考曞を取り出すず、怎堂も持っおきおいた本を手に取る。暖かな陜射しの䞭で互いに本ぞ芖線を萜ずしおいるず、暫くしお柪の携垯が振動しだした。短い時間ですぐに鳎り止んだのでメヌルなのだろうず予想を付ける。 
 先皋眮いた携垯を手に取っお確認するず、玖珂からのメヌルが䞀通届いおいた。 
 
「メヌル」 
「うん。兄貎から」 
 
 柪が画面に指を滑らせるず、メヌル画面が開いた。先日、こちらぞ来るずいう事は聞いおいたが、詳现は決たっおから連絡するずいう事だった。メヌルには来週の月曜日にこちらぞ来る事、䜕か買っおきお欲しい物があれば甚意するので連絡するようにずいう事等が蚘茉されおいる。 
 柪はカレンダヌに連動しおいるメヌル内の日付を確認しお怎堂ぞず口を開いた。来週末は䞉連䌑で月曜日は祝日なのだ。 
 
「来週の月曜日にこっち来るっお」 
「ほんず 日皋決たったんだね じゃぁ、お䌑みだし飛行堎たで二人で迎えに行けるね」 
「ああ」 
 
 本圓ならもう少し元気な時に来お欲しいが、それがい぀になるかもわからない䞊に玖珂も仕事の郜合があるのだろうから、こればかりは仕方がない。だけど、久々に䌚えるのはやはり嬉しかった。到着時刻がわかったらたた連絡しお欲しいずいう旚を曞いおメヌルを返信する。するず入れ違いのように今床は怎堂の携垯が振動を䌝えた。 
 確認しおみるず、怎堂の携垯ぞ届いたメヌルも玖珂からである。内容は、柪ぞ送っおきたのず同じ物だが、口調を倉えお䞁寧な文面で送られおきおいるそれに、柪は「盞倉わらずマメだな」ず思い䞀人苊笑する。 
 怎堂は、郚屋の掃陀をした方がいいかなずか客間のベッドを片付けよう だずか、匟の自分より嬉しそうである。ただ先の話なのにず柪が蚀えば、怎堂は「もう来週だよ」ず慌おおいるようだ。 
 
 柪はそのたたスケゞュヌルを開いお、画面を眺めおいた。先週はたずもに行動できなかったので、先送りにした講矩などが結構詰たっおいる。 
 明日の日曜ず明埌日の月曜たでは通院があるから仕方がない。 
 しかし、火曜日からスクヌルに行くずいえば怎堂からは反察されるのも想像が぀く。反察されなくおも先週の事も反省しおいるので少なくずも氎曜くらいたでは倧人しくしおいた方が良いだろう。 
 
 柪はふず思い立っおもう䞀床メヌル画面を起動させた。 
 クロ゚からメヌルが届いおいたのを思い出したからだ。倜に届いおいたようだが、早くにベッドに入っおしたったのず高熱隒ぎで、クロ゚からのメヌルに気付いたのは朝になっおからだった。先週の様子を知っおいるだけに心配をしおくれたのだろう。少し迷った埌、具䜓的な事は䌏せお䜓調が悪いから来週ももしかしたら倧事を取っお䌑むかも知れないずいう事、倧䞈倫だから心配しないでず最埌にうっおメヌルを送信する。 
 
 その様子を窺っおいた怎堂は、口には出さずずも気になるずいうような顔で芖線を向ける。別に隠すような事でも無いので、柪は自分から口を開いた。 
 
「昚日、クロ゚からメヌル来おたから。返信しずいた」 
 怎堂が慌おたように芖線を逞らした。 
「そ、そうなんだ。僕は別に䜕も気にしおないよ なにも  蚀っおないでしょ」 
「俺も、䜕も蚀っおないけど」 
「  、  う」 
 
 明らかに焌きもちを劬いおいたのを隠そうずし、怎堂は口を匕き結んでわざずそっけない態床を瀺しおそっぜを向いた。 怎堂ず付き合う前は、正盎蚀うず焌きもちを劬かれるのが面倒だず思っおいた時期もあった。自分は別にやたしい気持ちがあるわけでもないのに、疑われおいるような気がしお煩わしかったからだ。 
 
 しかし、怎堂を芋おいるずこういうのも悪くない。寧ろ、劬いお貰えおちょっず嬉しい気分でもある。気にしおいるくせに気にしおいないフリをする怎堂が可愛く思えお、意地悪を蚀いたくなっおしたう。 
 
「時間あるし、他の子にも返信しずくかな  」 
 
 独り蚀のようにそう呟いた柪の台詞に、怎堂は即座に反応した。 
 
「  え、他の  子っお」 
「ああ、パヌティヌで知り合った女の子数人ずたたにメヌルしおる」 
「  ええ  、知らなかった  」 
 
 アンナの誕生パヌティヌで知り合った数人の女性からも時々メヌルが届くのは本圓だ。たた䌚いたいずいうメヌルには、それずなく郜合が぀かないず返しおいるが、そういうメヌルが届くこずを怎堂に蚀ったのは今が初めおだった。 
 怎堂が劬くのが芋たくお軜い気持ちで蚀っおみたわけだが、その効果は柪の想像以䞊だった。 
 怒るか、拗ねるか、そのどちらかだろうず思っおいたが、怎堂はそのどちらでもなく  。がっくりず俯いたたた顔を䞊げなくなっおしたった。真に受けた怎堂がボ゜ッず呟く。 
 
「  僕の事は気にしなくおいいよ  。内容ずか聞かないし  平気だから」 
「そうなんだ」 
「  うん」 
 
 柪は、䞀床小さく笑うず誰にもメヌルをする事も無く携垯を眮いた。腕を䌞ばしお怎堂の耳を悪戯に觊るず、俯いた怎堂がほんの少し芖線を䞊げお柪をちらりず芋぀める。 
 
「メヌル  しないの」 
 
 窓から射す光は、怎堂の県鏡に真っ盎ぐに射し蟌み、レンズの奥にある長い睫を柪以倖に芋せるのを拒むように反射する。 
 
「しないよ。誠二が焌きもち劬くの、芋たかっただけ」 
「柪  、時々  、意地悪だよね」 
「――今曎」 
 
 怎堂がちょっず怒ったように柪の手を匷く握り、その埌安心したように埮笑んだ。 
 ここは病宀で、しかもただ昌間である。病宀のドアは閉められおいないし、すぐそこで人の行き亀う気配もする。――だけど、どうしおも我慢出来なかった。 
 
 寄りかかっおいた背もたれから背を離し、怎堂の唇ぞ顔を寄せる。䜕床も瞬きをしおいる怎堂が「柪、ダメだよ  」ず呚囲を芖線だけで芋枡す。「早くしないず、誰か来るかもな」耳元でそう囁くず、怎堂は緊匵した面持ちでそっず目を閉じた。 
 怎堂の顎を指で持ち䞊げ、柪はその唇に自身の唇を重ねた。柔らかく溶けるような口付けが互いの熱を䞀瞬だけ亀わらせる。 
 
 目を閉じた怎堂を至近距離で眺め、その甘い匂いを吞い蟌みながら肌理の现かい頬を掌で芆う。指先で顎の茪郭を撫でれば、その感觊に指を離せなくなりそうだった。角床を倉えおもう䞀床口付けを萜ずすず、怎堂はほんの少し瞌を䞊げお睫を震わせ、切なげに吐息を挏らした。 
 
「  柪」 
 
 離れた唇の名残に怎堂は指を乗せお耳たでを玅朮させおいる。力が抜けたように息を吐いお、怎堂は自身を宥めるように䜕床か深呌吞をした。 
 
「ただ、慣れないの」 
「  キス  、の事」 
「そう。盞倉わらず新鮮な反応だよな」 
「  だっお、突然だから  。その。  ちゃんず予告しおくれれば僕だっお  」 
 
 しどろもどろになっおそんな蚀い蚳をする怎堂は、その蚀葉でさえ新鮮な反応に含たれおいるこずには気付いおいないらしい。芖界の隅で、廊䞋を歩く看護垫の姿が芋える。埌数分遅れおキスをしおいたら本圓に芋られおしたったかも知れない。 
 
「今床は、予告しようか」 
 
 柪がそう蚀っお小さく笑うず、元の䜍眮ぞず戻った怎堂は恥ずかしそうに頬を掻いお「  突然でも良いよ」ず埮かな声で呟いた。 
 
 
 
           
 
 
 
 点滎治療の副䜜甚で出る高熱も初日ほどではなく、回を重ねるごずにその症状は治たっおきおいた。 
 通院で倖ぞ出る以倖は自宅で只管安静にしお自宅療逊。こんなにずっずパゞャマ姿で過ごすのは入院しお以来で曜日の感芚も鈍っおくる。しかし、その甲斐もあっお他の症状はずもかく吐き気にも苛たれず、先週に比べればだいぶ食事も摂れるようになっおきおいた。 
 それは、治療の成果でもあるし、怎堂のおかげでもある。 
 
 最近怎堂は、時間が出来るず必ずず蚀っおいいほど栄逊管理孊の勉匷を熱心にしおいる。先週欲しいず蚀っおいた曞籍もその関係の物である。 
 アメリカにおけるチヌム医療での栄逊管理孊は非垞に重芁ずされおいる事は柪も知っおいるが、終末医療に関する医垫ずしおの勉匷でも手䞀杯なはずなのに、今そこに手を出すのは理由があるはずだ。 
 
 本人は職堎で必芁だから勉匷しおいるず蚀っおいるけれど  。 
 それが本圓だずしおも倚分半分は柪の䜓調管理のためなのだろう。最近はずっず怎堂が食事の準備をしおいるのだが、その献立が柪の䜓調に合わせお蚈算し尜くされた物ばかりなのが、それを物語っおいる。 
 怎堂の愛情をそういう圢で感じる床に、柪の胞の䞭は感謝の気持ちで枩かくなるず同時に、自分がこうしおいられるのはそういう支えがあっおの事なのだず改めお実感せざるを埗ない。 
 
 QOLを最優先しお難易床の高い術匏で執刀しおくれた䜐䌯、今の䞻治医や芪身になっお治療法や生き方を指南しおくれる高朚、離れおいおも垞に心配をしおくれおいる玖珂、そしおクロ゚やスクヌルの仲間も。 
 その䞭で自分は生きおいるのだずいう事を、病気になっおから痛いほどに感じおいた。誰にも頌らなくおも䞀人で生きおいける、生きおいる、そう思っおいた過去の自分は、ただ虚勢を匵っおいたに過ぎない事も  。 
 
 抗癌剀の再開は来週に決たっおいる。 
 高朚の蚀うずおり、食事が出来るようになっお䜓力は埐々に戻り、倊怠感で暪になる回数も今はほずんどない。しかし、それず同時に自宅ぞ籠もりっきりで居る事ぞの退屈感が増しおいた。 
 
 氎曜の倕食埌、クロ゚からPCのメヌルに送っお貰ったレポヌトのPDFファむルを開いお、柪は画面を眺めおいた。 
 今倜、怎堂はオンコヌルの担圓日で垰っおこないので、自宅に䞀人である。日䞭ず倕方に様子を聞くために電話を掛けおきた時に、倜にも䞀床電話をするからず蚀っおいたが、忙しくしおいるのかただ連絡は無い。鳎らない携垯を手に取っお履歎を確認し、柪は再び携垯を脇ぞず避けた。 
 クロ゚が纏めお送っおくれたレポヌトの最埌には、先週ず来週の蚪問先の日皋が蚘茉されおいる。順番に目を通し、柪は明日の朚曜の欄で芖線を止めた。 
 
――  あ、  。 
 
 そこには先日蚪れた患者の名前があった。次に来た時に花の名前を教えおくれるずいった圌の名前だ。 
 ボランティア研修䞭は、決たった蚪問先ずいうものはなく、䜕床も圓たる事もあれば䞀床きりで終了しおしたうケヌスもある。明日を逃すず、もう圌の自宅ぞの蚪問ケアに参加出来ない可胜性は十分にあった。 
 䜓調もだいぶ萜ち着いおいるし、もう熱もない。ちゃんずマスクをしお䜓調の倉化に気を぀けおいれば、そろそろスクヌルぞ埩垰しおも倧䞈倫そうである。しかし、䞀぀柪を迷わせる芁因がそこには曞いおあった。 
 
 明日の実習の合同チヌム。医垫偎のチヌムはギャレットのチヌムだずいう事だ。怎堂の話では、先週からはギャレットずはチヌムが別れお、怎堂は珟圚別のチヌムず行動しおいるらしい。 
 ギャレットずは出来る事なら䌚いたくないが、今埌も䜕床もそういう機䌚はあるだろうし、その床に回避できるずは思えない。 
 
――どうするかな  。 
 
 柪は党郚のファむルを閉じおPCの電源を萜ずし、長い溜め息を぀いた。 
 
 
 
 
 
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